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佐倉坂最強伝説  作者: 江城 春人
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5章 決戦 健斗VS大吾(8)

『真っ先に脱落したのは、生徒会チームの真田さんだー!』


 司会の声を聞いて、とりあえず夏希は無事どころか元気だとの確認がとれ、健斗はふぅ、と息をつく。これで向こうはあと二名。数でいえばこちらが有利である。夏希とも合流して一気に押せば勝てるかもしれないが……


 健斗は眼下の中庭にいる大吾を見やる。休憩中なのか、さっきからずっと動く様子を見せていない。しかし健斗が彼の元へ辿り着く頃には校舎内に消えているかもしれないし、校庭へ出ているかもしれない。そうなったら探すのは一苦労だ。自分がどう行動すべきか考えて、健斗は窓を開けて身を乗り出そうと


「なにする気ですか、危ないですよ!」

「なにって飛び降りるんだよ、前見ただろ」


 大吾に聞こえないように小声で諌めてきた春香に言い返す。ちょうど前と同じくここも三階だ。この高さから飛び降りても怪我ひとつ負わないことは既に実証済みのはずである。


「高さのことじゃありません。それもできるならやめてほしいんですが、そうじゃなくて。さっきからずっと中庭にいて、どう見ても怪しいですよ、罠に決まってます」


 春香は慎重さを求めてくる。有利に戦っていたつもりが誘い込まれており、逆に追い込まれたという話は聞いた。彼女がそう考えるのも無理はない。やらなくてもいい勝負なら、健斗もそう考えていたかもしれない。

 しかし、今は違う。健斗は貶された友達の姿を浮かべ、春香に告げる。


「冬宮。ひとつ教えておいてやる。目ン玉ひん剥いて見てろ」

「なにを――」


 彼女の言葉を全て聞かずに、健斗は手を振り払った。


「男にはなぁ、不安だったとしてもやんなくちゃいけねーときだってあるんだ!」


 窓枠に足をかけ、一気に蹴る。


「瀬戸海ぃいいいいいいいいいい!」


 出せる限りの声を出して、健斗は相手の名を呼ぶ。大吾は反応して、顔を向けた。まるで待っていたおもちゃが到着したかのような表情だ。


「北野くん! やっと来たか!」


 大吾の声に迎えられ、健斗は足から着地する。ピリピリと全身に痺れが回るのを感じながら、まっすぐと大吾に向かっていく。

 大きく腕を振り上げた健斗を、大吾は避けようとしなかった。代わりに両手でそれぞれ刀の端を持ち、防御に徹しようとしている。水平に構えれば受けきれると思っているようだ。その自信を刀ごと打ち砕いてやろうと思い、力の限り振り抜く。


「うおぉおおおおっ!」


 バシィィン! と強い音が鳴った。衝撃で大吾の腕が少々下がるが、持ちこたえる。


「へえ、マジで丈夫だな! この長い棒すげえや!」

「誰が作ったと思っている、この俺が設計したものだ! 簡単に壊れはしないさ!」

「へえそうかい! お前の腕とこの刀、どっちが先に壊れんのか楽しみだぜ!」


 腕に力を込め、無理矢理押し込みにいく。刀と刀が擦れあってミシミシと音を立て、ゆっくりとではあるが、徐々に大吾の腕が下がり始めた。


「ぐっ……思ったよりも、馬鹿力だな君は!」

「褒めてくれてありがとよ! そのまま倒れろ!」


 いつも涼しいような表情が苦悶に近いものへと変わる。健斗の力に大吾の腕が耐えきれていないようだ。大吾は仕方なさそうに刀を傾け、健斗の刀を斜めへと滑らせた。


『今度は瀬戸海会長と北野健斗がぶつかり合っているー! これぞまさしく男同士の真剣勝負といったところか! 待ちに待った対戦カードに体育館も沸いております!』


 大吾は刀の持ち方を通常のものへと戻し、その場から下がる。


「やはりデカイのは口や態度だけではないようだな、見込み通り……いや、それ以上だ!」

「へっ、お前もなかなかやるじゃねえか。まあやっぱり俺の方が強いみたいだがな」

「抜かせ。君が力なら、俺は技だ。俺とて鍛錬を怠っているわけじゃない」


 北野くんくらいには、勝ってみせるさ――と大吾は健斗を鋭い眼差しで見つめ、言い放った。健斗が何かを言い返す前に、大吾は左足で地面を蹴り、踏み込んでくる。


 彼の打突は速かった。最小限の労力で最大限の効果を生み出そうとしている、いかにも効率的な太刀筋だ。次々と打ち出される素早い技を健斗は持ち前の動体視力で見切り、刀で弾いていく。そして反撃しようと腕に力を入れた、その時だ。


「健斗ッ! 助けに来たわよ!」


 中庭に面した廊下の窓から女子生徒が飛び出してくる。誰が来たのかは見る必要もない。


「でぇりゃぁ!」

「おっと、これは少々ヤバいかもな!」


 夏希が放つ大振りの一閃を大吾は跳んで躱すが、着地地点には健斗がいる。タイミングを見計らって抜き身の胴を打つも、それは大吾に叩き落とされた。


『校舎の窓から秋篠夏希が文字通りに飛んできたー! すごい迫力です! 絶対に勝ち抜くぞという意気込みが感じられます!』


「迫力ならばさっきの北野くんのほうが凄かったがな! 三階から勢いをつけて飛んでくる様は、さながら鬼神のようだったとも言えよう!」

「はぁ? やけに気合い入ってると思ったらそんなことしてたの? いくら丈夫とはいえ何かあったらどうすんのよ!」

「俺の体でなにしようが勝手だろ! それより来るぞ、気を付けろ!」

「分かってるわよ、舐めないでよね!」


 飛びかかってくる大吾の剣筋を夏希は防ぎ、そこに健斗が斬りかかるも大吾は足さばきで躱す。躱した先を夏希が攻めにかかるが、それも大吾はスッと避けた。バラバラに掛かっていっても意味がない。健斗は夏希に指示を出す。


「俺がメインで攻める! お前はサポートに回ってくれ!」

「了解!」


 自分と夏希に剣を用いた戦いの経験差はないはずである。それならばより力のある自分が主体となった方が勝ち目の高いはずだと判断して、健斗は前に出た。


「そこだっ!」

「甘いな、まだ遅い!」


 打ち込んだ健斗の剣先を大吾は弾く。返す刀で頭に向かって斜めに斬りかかられたが、健斗は屈んで避ける。頭の上数センチ先を硬い棒が通り抜ける感覚に震えながら、叫んだ。


「行け!」

「はいよっ!」


 幼なじみが視界の端から飛び出た。大吾は慌てて刀を引き戻すが、間に合わない。これはイケるか! と思われたその時、大吾が体勢を崩した。わざと後ろ向きに転ぶことで回避したのだ。受け身を取ってから地面の上を転がり、バランスを直して立ち上がる。


「これはキツいな……」


 大吾は呟く。口ではそう言っているが、息も上がっておらず体力的には余裕そうだ。しかしこのまま二人で攻め続けていれば押し切れるだろう。健斗は確信する。


「気を付けなさいよ、どこからもう一人やってくるか分かんないんだからね」


 夏希に忠告され、風子の存在を思い出す。誰かが近くに隠れているような気配はないが、夏希のように一階の窓からやってくるかもしれない。一応周囲も警戒していると、


「その心配はないさ、風子くんは今ここにいない。……ここには、だがな」


 語りかけるように大吾が言った。その口端はつり上がっている。その意味を考えるより先に、それは聞こえてきた。


「きゃあっ!」


 思わず自分が飛んできた三階の教室を見上げる。今の叫びは間違いなく彼女のものだ。


「お前、あのチビを冬宮のトコに向かわせたのか!」

「その通りだ! まあ本当は真田くんと合流してもらい、女子と女子の二対二をやり合っていてほしかったのだがな、想像通りにいかないものだ」


『わるかったわねー! どうせイイトコなしですよー!』

『ちょっと、司会席にまで乗り込むのは……はいどけてどけて! えっと、副会長の元で何かがあったようです! ワイプで映し……え? そんな機能はない? でもこっちの戦いも見たいし……すみません、画面はこのままで!』


 スピーカーの向こうでひと波乱あるようだったが、それはどうでもいい。


「このっ、あたしが助けに」

「行かせるか! それに健斗くんを一人残すと、恐らく俺が勝つぞ!」


 昇降口へ向かおうとする夏希の前に大吾が立ちふさがる。一理あると思ったのか、夏希の足が止まった。このまま押し切ってから夏希と二人で風子を狙った方がいいと判断して健斗も動かない。


「ところで秋篠くん」

「なによ」


 自分のヘッドギアを弄りながら、大吾は夏希へにじり寄る。


「汗でブラが透けているぞ」

「嘘っ!」

「なんだと!」


 夏希が自らの体を見下ろし、健斗の視線もそこへ行く。あっと気付いたときには、大吾の刀は正確に夏希の頭を叩いていた。ヘッドギアが光り、無情にも音が鳴る。


「嘘だ、防具で見えないからな」

「サイテー! 今のはずるいわよ! しかも向こうにも聞こえちゃってるじゃない!」

「心配するな、スイッチは切ってある。君らがオンにしていたらどうかは知らないがな!」


 そう言いながら大吾は飛びかかる健斗の剣を下がって躱す。そしてそのまま後ろの昇降口へと駆けていった。校舎内で相手をしようという気のようだ。


「もー! こんなしょーもないことで負けるなんて恥ずかし……あ、健斗! マイクのスイッチは入ってないでしょうね! てかあんたも反応してんじゃないわよ!」

「切ってあるはずだ! 反応すんのはしゃーねーだろ!」


 夏希を抜かし、大吾を追いかけながら健斗は振り向かずに答える。ついでに本当のことを告げた。


「でも後ろからはしっかり見えたぞ! 今日は水色か!」

「なっ……バカー! 死んでしまえこの変態どもー!」


 自分の大声に匹敵するような怒号を背に受けながら、健斗は校舎内に突入する。

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