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佐倉坂最強伝説  作者: 江城 春人
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1章 バカとバカ(3)

「それにしても今日も助かりました。ありがとうございます」

「え? なに、宿題の話? 何回目だっけ、今日で」

「五回目です」

「あー、そうそう。前から忘れっぽかったもんねー、春香って」

「そんなに忘れっぽいわけじゃありません。間抜けなだけです」

「余計ひどくなってないかなあ、それ。……まあでも、そんな春香も今や生徒会副会長サマだしねえ、何が起こるか分かったもんじゃないよ」

(バカにされている気がする)


 実際にされてるのだろうが、気の知れた友人の軽口だ。春香は気にしないことにした。


「五回目かあ。五回も見せてるのか……そろそろあたしも対価要求していい頃じゃない?」

「まあ私に出来ることならなんでもしますけど」

「ん? 今なんでもって」

「出来ることなら、って言いましたが!」

「冗談だって。そーだなー、朝に言ってたすごい人の話でも聞きたいかなー、なんて」


 にへらーっと笑って里美は言った。すごい人、というのは登校中に春香を助けてくれた彼のことだ。


「それなら今朝話したじゃないですか。不良さんが逃げてくれて助かった、って」

「そうじゃなくて、その後の話よ。名前とか聞かなかったの?」

「名前ですか」


 春香は彼の顔を思い出しながら、あの後に教えてくれた名前を口に出す。


「北野健斗、です。学年やクラスとかは聞く前に行っちゃいました……」

「北野さんねえ。んー、記憶に無いなぁ」


 向かいの友人も知らない様子だ。春香も彼のことは名前と顔しか知らないため、探す手段が聞き込みくらいしか浮かばない。当然連絡もとれないので、お礼もできていなかった。


「で、春香はそんな彼のどこに惚れたの?」

「男らしくてかっこいい……って違いますよ! 別にそそんなんじゃ、私はそんな軽い女じゃありませんよ!」

「くくくっ……ははっ! 超図星じゃん……」


 里美は口元を抑えて肩を震わせ、思いっ切り笑っている。全く堪えきれてない。

(惚れたなんて、そんなこと……。ま、まあ確かに助けてくれましたし、心配してくれましたし、高身長ですし、思い返せばちょっと素敵かな、なんて)


「顔赤いよー。そんなに彼のこと考えて楽しい?」

「こ、これはあの人たちにクリーニング代くらい渡せばよかったかなーなんて思っただけで、別に北野さんのことなんて考えてませんから! からかわないでください!」

「はは、ごめんごめん。で、お礼はできたの?」

「まだです。明日探そうかな、って」

「ふーん。見つかればいいねー。で、その後は春香自慢の女の武器で……」


 里美はまじまじと、背丈の割に大きい春香の胸を見ながらひとり頷く。


「な、なに言ってるんですか、女同士でもセクハラですよ!」

「あははー、冗談だってー。まっ、良い報せ期待してるよー」

「あまり期待しない方がいいと思いますよ。そもそも学年も分からないんですから」


 もうちょっとだけ情報を、いや、いっそのこと連絡先を聞いておけばよかったか。でもそれはちょっと馴れ馴れしいか? どうすればよかったのか春香が悩んでいると。


「なあ、冬宮くん」


 ポン、と肩に手が置かれた。一瞬ビクッと驚いたが、声で会長と判別できる。


「な、なんですか会長。いきなり驚かせないでくださいよ。っていうかいつの間にそこに」

「その話詳しく」

「えっ?」

「詳しく」

「は、はぁ……」


 いつになく真剣な会長の表情に春香はたじろぐ。ただし、口元は笑っていた。


「っていうか会長まで私をからかう気ですか?」

「それもある」

「そんなキリッとした表情で言われても! だったら教えたくなんてないですよ」

「春香が今朝ガラの悪い人に絡まれてしまってですね、それを助けてくれた人がいまして」

「って里美!?」

「ほうほう、ほーう」


 友人に勝手にバラされ、春香は愕然とした。予想通りというか当然というか、会長はニヤニヤ笑い始める。


(私の味方はいないんですかね)

「さしずめその男は白馬の王子様というわけか」

「ちがいま「そうだと思いますよ」里美!」


 ダメだ、この友人、使えない。春香は確信した。


「さっきの会話によると、どうやらこの学校の生徒のようだな。して、その男の名は?」

「はぁ……北野健斗っていうらしいですよ。それしか知らないです」


 もう隠しても無駄だと悟り、自分から喋る。会長はひとしきり頷いたあと、クルリと春香に背を向けた。


「この世の中でそんな男気を持った逸材がいるとはなぁ……うーむ素晴らしい、一度くらいこの目で……そうだ」


 なにかブツブツ呟きながら歩き始め、会長は近くの席に腰を下ろす。


「……? あの、会長。それは校内放送の……」

「生徒会より連絡です。北野健斗さん、北野健斗さん。至急、生徒会室まで……」

「会長!? あの、なにしてるんですか!? ってちょ、里美、離して!」

「やーよ、だって面白そうじゃない」

「里美ぃいいいい!」


 思わず急いで放送を止めようとするも、友人に腕を抑えられ、どうすることもできないまま会長の放送が終わってしまう。


「ちょ、なんで放送したんですか! なんでここに呼んだんですか!?」

「冬宮くんが北野くんとやらに会いたそうにしていたからだ。どうだ親切だろう」

「本音は」

「彼の顔を見たかった!」

「こ、の、会長は……仕事始めるのは遅いくせにこういうことだけ早いんですから!」

「もっと愛情たっぷりに言ってはくれないか? 『大吾さんったら早いのね……』と!」

「愛情なんてないですよ」

「奇遇だな、俺もだ! はっはっは!」


 高らかに笑う会長を見て思わず呆れてしまう。が、内心は結構焦っていた。


(え、今ここに来ちゃうんですか? こんなことで呼びつけて失礼じゃないですかね……明日探そうと思ってたのに、せ、せめてどこのクラスか聞けたらいいんですけど……)


 そんな春香の心中など察することなく刻々と時間は過ぎていく。会長と里美はわくわくしながら扉を見つめ、春香はぎゅっと胸を抑えた。風子は、まだ寝ていた。

 コンコン、とノックの音が響く。会長はどうぞ、と扉の向こうの人物に呼びかけた。


(来た……まだこ、心の準備が!)


「失礼しまーす、北野健斗でーす」


 ガラッと扉を開け、男の人が入室してくる。それは聞き覚えのある声で、見覚えのある外見で、間違いなく北野健斗その人だった。

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