3章 中庭の攻防(5)
『おまたせ致しました、紳士淑女および老若男女の諸君! 生徒会長こと瀬戸海大吾と、次期会長候補こと北野健斗の決戦の時間が今! まさに! やって参りましたー!』
健斗が中庭に姿を表した瞬間、照らされるスポットライトと響く男性の声。そして、目の前には今朝よりもずっと多く生徒たちがいて、周りを見渡せばやはり窓から顔を覗かせる者も多い。中には教師らしき成人男性の姿もあり、見世物じゃねーぞと言いたかった。
「一日にして有名人ね、あんたも」
「うるせー、望んでねーっつーの」
普段はよく通る夏希の声も、この観衆の「はやくしろー!」「会長、頑張ってー!」という野次のなかだと若干聞き取りづらい。そういえばバレー部の活動はないのかと聞くと、「今日は遅れて行くわ、あんたが一番大事に決まってるでしょ」との返答があった。まったく、頼もしい幼なじみである。
「待ちかねたぞ北野くん! 少し遅くはないか?」
「働き者の生徒会長様が変なこと企画しやがるせいでクラスメイトにとっ捕まって面倒だったんだよ。ってかなんだこのスポットライト。さっそく予算の無駄遣いか?」
「学校の予算ではない、その生徒会長様が快くお金を出してくれたのだ。どうやら足長おじさんというものは実在するようだな」
「自分で言ってりゃ世話ねーぜ」
相変わらずの態度と、その内容に健斗は眉根を寄せた。自分と勝負するということだけで簡単にスポットライトを用意できるほどであるとは、庶民の健斗とえらい違いである。
『おーっとぉ、さっそく臨戦態勢かぁ! 闘気がムンムンと漏れているゥ! しかしまだ勝負は始まってすらいないぞー!』
「うるせー! 外野は黙ってろ!」
『外野ではありません! 今回の勝負の司会を務めさせていただく、新聞部部長の小野寺正晴です! 皆さんよろしくお願いしまーす!』
スピーカーから聞こえるうるさい声の主を探して見れば、端の方の「実況席」と書かれた場所でマイクを持ちながら叫んでいた。よく見てみれば今朝の校門前で新聞を配っており、取材を申し込んできた生徒だ。新聞部の部長だったらしい。
(なんで新聞部が司会して……まあ、勝負には関係ねーな……)
『さあさあお二方、所定の位置に付いてください。えー、瀬戸海会長以外の生徒会役員や、北野健斗の、付き人? の幼なじみさんはこちらの関係者席の方へお集まりください』
付き人? とは夏希のことを指してるようだ。「頑張んなさいよ」との声に「分かってるって」と返しながら、新聞部らしき男子生徒に案内されて歩く。
中庭にはいつの間にか横長の足場ができており、大きい布で直方体らしき物体が隠されていた。上には大きいモニターがあり、健斗や大吾の姿が大きく映し出されている。まるで文化祭で有志がダンスや歌を披露するときのステージのようだ。健斗はその足場の上に立たされ、ステージの反対側にいる大吾を一瞥する。
「随分と大掛かりな舞台だな……いつの間にこんな仕掛けしてたんだ」
「一晩もあれば十分さ。世の中には特急料金というものがあってな、払うものを払えばできないことはない。ああ、心配するな。中庭の使用許可は取れている」
「だろうな」
今更そんなことを気にすることもない。この生徒会長はふざけてはいるが、やることはしっかりやっているという評価は聞いている。気になるのは勝負の内容だけである。
「健斗! 絶対勝つのよ! 絶対だからね!」
「なにおう! 大吾先輩は強いんだぞ! 顔とかいいし!」
「風子ちゃん、そこは今、関係ないです……」
「いちおーかいちょーに賭けたんだけど、どうなるかなー」
(ちょっと向こうでの会話も気になる)
関係者席で騒ぐのが二人、宥めるのが一人、何やら財布を握りしめているのが一人。よく分からない状況である。
『何やら応援も盛り上がっている様子です! どうやら瀬戸海会長のファンが多いようだ! 北野健斗のファンの皆様も、もっと声を張り上げてください!』
そんなもんいねーよ! と言おうとした健斗だったが、上の方から「北野頑張れー!」と聞こえてきてつい見上げる。クラスメイトの顔見知りたちが何人かこちらを見て、Vサインを向けてきていた。他にも「お前に賭けたんだからな! 絶対負けんじゃねーぞ二年生!」と煽る声や、夏希経由で知っている女子バレー部の生徒から「北野くんファイトー!」との声援もあった。どうやら自分を支持する者も意外といるらしい。
『さあ、それでは勝負内容の発表……の前に、北野健斗から意気込みの方をどうぞ!』
目の前にマイクが差し出される。またこのジャーナリストどもは、と思ったが言いたいことがあったのでちょうどいい。健斗はそのマイクを掴み取り、大吾に指先を突きつける。
「ぜってえ俺に喧嘩売ったこと後悔させてやるからな! あとで泣いても知らねーぞ!」
「それは三下が吐くセリフだ! 君も生徒会に入る者ならもっと精進したまえ!」
「そんな予定はねーっつーの!」
「それはどうかな! 既に決まったも同じじゃないか!」
「っかしーな、俺の予定表には泣いて土下座するクソ野郎が見えるんだが」
『はい、言い争いはそこまで! どちらも気合は十分なようで、まったく司会冥利に尽きます! それでは勝負内容の発表です! どうぞ!』
新聞部員が四角いものにかかっていた布を取り払う。現れたのは――




