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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第六章 ギルド対抗戦
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とりあえずギルド対抗戦 本選第一試合 IV

「なるほどの。これはちと厄介じゃな」


 相手タワーに手足が生えた事で思わずボヤく伯爵。相手ギルドとイベントでかち合う事はそこそこあったが、このイベントでの対戦経験は無い。

 しかし伯爵は知っていた。ギルド対抗戦の肝である『タワー改造』と、彼等がどういう戦い方をするのかを。



『タワー改造』。タワー内部二階に設置されている魔法陣。その上では既存のメニューに加え、ギルド対抗戦中でのみ開く事の出来る項目がそれである。

 内容は、自身の生産レベルに合わせて数百からなるパーツを選び、レシピに沿って生産出来るというもの。

 また、素材を自ら選び、完全オリジナルのパーツを生み出す事も出来る。

 素材にはそれぞれ専用のポイントが振られており、使用出来るポイントの上限も決まっている。

 各生産系のレベルで改造速度は上がり、また特殊な効果や上昇値も発生しやすい。


 それがこのイベントの醍醐味であり、戦闘系のみならず生産系など、幅広い種類のギルドが参加する理由である。


 戦闘では低レベルでも生産は一流という者は、ここ赤鯖ではとても多い。

 しかしもちろんの事だが、戦闘までも高レベルな者ももっと居る。


 その代表格が彼等、鍛治ギルド【鋼鉄の誓い】である。


 そんな有名ギルドの彼等だからこそ、伯爵は情報を知り得ていたのだった。



 落下後、着地地点での待ち伏せ攻撃も難なく躱し、顔を足蹴にしながら後退を始めたミツルギ。

 後ろから何やら怒号が飛んで来ている気がしないでもないが、まあ追い付けるはずもないかと無視を決め込む。

 そして伯爵と1238との戦闘に、割り込む形で強襲した。


「よっ」

「ぁあっ? って、ちょ……!」


 横目で伯爵に合図を送りながら横薙ぎに短剣を振るうも、寸でのところで背を無理矢理仰け反らせて回避される。

 しかしその隙に伯爵は離脱に成功し、二人して自陣へと後退する。


 途中で爆心地になっているロゼリー(変態)を、サッカーの如く蹴り飛ばしながら、伯爵との情報交換と戦略を練る。


「お前、知ってたのかよ」

「有名じゃしのう。むしろミツルギの方が知らんのは……ギルド戦も少しは見ておくべきじゃぞ」

「攻略サイトは見るタイプか? そんなもん楽しみが減ってつまんねえだろ。

 だが知ってるなら何で最初に言わねえんだよ!」


 最もな言い分に「そういえば言うのを忘れておった、歳じゃな」みたいな軽口を叩いた後、「あまり色々言い過ぎるのは逆に行動を狭めるものだ」と達観した顔で言われると、どこか納得してしまう雰囲気に……


「なるか! ボケてんじゃねえぞ毛玉ジジイ!」


 タワーに戻るまで怒られた伯爵は、ちょっぴり尻尾と耳が垂れ下がっていた。





「お嬢様ぁぁぁぁ」


 皆の攻撃を掻い潜り抜けてきた人を、頑張って逃げ回りながら戦っていた時、相手が背後から飛んできた何かにぶつかってエビ反り状態で飛んでいった。

 今まで戦っていた相手が、腰を痛め悲鳴をあげながら光に変わる。一体何が……よく見なくてもロゼさんだった。


「ロゼさん、どうして帰ってきて……えっ!?」


 自分の戦いに集中していたせいで周りがよく見えてなかったけど、ロゼさんに頬擦りされながら現状を把握すべく辺りを見回す。

 ミツルギさんと伯爵さんがこちらに走ってきていて、その後ろから巨大な剣を振り回す1238って人が追ってきている。

 更にその遥か後ろから、1238さんが持ってる剣と同じ剣を持つ巨大なタワーが、地響きを起こしながら向かってきていた。


「ユイ、しゃがめ!」

「ふぇっ?」


 ミツルギさんの声に従って反射的に屈むと、1238さんが巨大な剣を持った腕を思い切り後ろに伸ばす姿を見る。そうやって振りかぶったかと思えば、高速の勢いで投げ付けた。

 頭上に風がバビュンて感じで通り過ぎる。巨大な剣が突き抜けた風圧を理解すると、心臓がバクバクと脈打つ。あのままだったら間違いなく顔面が大変な事になってただろう。

 それにもう少し位置がズレていたら、私達の『タワー』にダメージが……あれ? 目の錯覚かな? あの位置に確かに……?


 考えているとミツルギさんが近くまで来ていた。


「ありがとう、ミツルギさん。助かったよ……」

「当たり前だろ、ただでさえ人数少ないってのに。あとさん付け!」

「あ」

「直ぐには慣れないか」

「慣れなくてごめんね」


 コツンと頭に手の甲を置いて、「ま、今は少しずつでいい」というミツルギさん。

 何だかんだ言って優しいんだよなぁ、とクスッと笑うと「何がおかしい」と怪訝な顔を浮かべる。

 そこへロゼさんがこちらへ駆けてきて。


「ところで、後ろのアレは止めなくてよろしいの?」


 何が、とロゼさんが指差す方を見ると、巨大な剣が頭上から落ちようとしている光景が見えた。

 どうして? 確か剣は私の斜め後ろに飛んで行ったはず……と思考停止状態になりそうだったけど、剣を持つ相手が物凄く巨大な……タワーである事に気付く。


 ヤバい、このままだとっ!


 けど危ないと思ったのは一瞬で、一気に距離を詰めて来た伯爵さんの物凄い高速ジャンプから、振り下ろされる剣の横側に攻撃を入れる。すると軌道が変わり、大分横にズレた位置の地面に大きな亀裂を作った。


「ははっ、危ないところじゃったな」

「何が危ないところだボケ。あんな事になるなら最初から言えよ」


 ミツルギさんが何か怒ってるみたいだったので話を聴いていると、どうやら伯爵さんは相手のギルドがどういう戦略で行くのか知ってたようだ。


「すまんすまん」

「ったく、それはもういい。それよりもアレをどうするかだな」


 ミツルギさんの言ってる『アレ』とは、もちろん相手の『タワー』の事だ。

 足が生えた事でタワー自体が移動出来て、しかも本体部分がかなりの高所にある為、直接攻撃しにくい。手足にもHPが設定されているみたいで、先程ミツルギさんが攻撃した時は硬すぎて全然削れなかったと、落下中に確認した事を話す。


「更に問題は復活位置がタワー内部にあるって点だ」


 復活は必ず『タワー』内で起こる。これは初期段階でのリスポーンキルを防ぐ為なんだって。


 リスポーンキル。復活する地点に待機して、復活した人を即座に攻撃して倒す行為。

 これをやられると勝負にならないので、普通のゲームでは禁止されている事が多いそう。

 一応OOOでは禁止されてはいないが、マナーとしてプレイヤー間では暗黙のルールとして定着している……が、絶対無い訳じゃないみたい。難しいなぁ。


 それよりも、『タワー』内で復活する事が問題ってどうしてだろ?


「相手が立てこもって『タワー』で攻撃してくる。こちらからはプレイヤーを攻撃出来ないから、頭数も減らせない。安全性と合理性を兼ねたいい策だな」


 首を傾げる私にミツルギさんは丁寧に教えてくれる。やっぱり優しい人だなぁ。


 つまり、たとえ相手を倒したとしても、復活する『タワー』の位置は遥か上。追撃は難しく、籠城しながら『タワー』を護る戦い方をしてくるようだ。

 しかも手足を破壊したとしても、『タワー』本体とは別扱い。

 更にその『タワー』で攻撃が行えると。


「反則じゃないかなぁ」


 思わず呟いてしまった。


「生産系に特化、しかもその最前線のギルドとなるとのう。まあやりようはある」

「どうする気だ」

「何も本体をすぐさま攻撃しなければならない訳じゃないじゃろ? 手足全てを破壊しなければいけない訳でも無い」

「……ああ、そういう事か。だがあの硬さと……いや、そういやユイが居るか。どう持ってく?」

「まずは吾輩が……」


 なんだか伯爵さんとミツルギさんが、物凄く悪い顔をしながらこちらを睨んでくる。嫌な予感しかしない。

 その間にも『タワー』からの攻撃は続くが、全てロゼさんが爆発によって逸らし弾いている。


「ああっ、このズシリと響く重さと振動。いい、いいですわっ!」


 ……うん、大丈夫そうだ。



 作戦会議をしていると、近くの地面に亀裂が入り、徐々に亀裂が大きくなって、ついにはボコッと何かが出てきた。

 見ればスライムのような巨大な球状のゼリーみたいなもので、若干紫がかっている。何これ、と思ったけど上部にHPゲージがある。やっぱりこれって……


「いやー、さっきの攻撃はまじでヤバかったよね! 何とか地面掘って回避したけれど、見た限り問題無かったかぁ」

「エース!」


 そのゼリーっぽい何かからエースがひょっこり顔を出す。

 高さ的に二階ぐらいのところから。


「おい……これって」

「じゃろうな」

「なんだ? 対抗戦は『タワー』を動かすのが主流なのか?」

「いや、そんなはずは無いんじゃがな」


「どうよ! このビューティフォーな出来は!」

「うん! とってもキモカワだね!」

「「は?」」


 伯爵さんとミツルギさんの声がハモった。そしてこちらをまたしても睨んでいる。何か変な事を言っただろうか?


「ごめんごめん。やっぱり一人だとこんなのしか造れなくってさ」

「素敵ですわよぉぉぉぉお姉様ぁぁぁぁ!」


 ロゼさんは器用に回し蹴りを決めながら、あんな巨大な剣を弾きつつエースを褒めてる。……結構爆発音が激しいけど、よく聞こえるね。いつかまともに攻撃受けそう。


「ロゼー! もう少し粘っといてー!」

「────!」


 声にならない奇声と共に爆発が大きくなっている。あっちはなんか大丈夫そう。



「で」

「で?」

「俺らの『タワー』はどんな性能があるんだ?」

「んー……。穴掘れる。形が流動的。酸も出せる。そして可愛い!」

「……他は?」

「無い!」

「だけ?」

「だけ!」


 ミツルギさんとエースが喧嘩を始めた。伯爵さんはほっとこうと言ってる。

 一応、二人とも接近してきた1238さんを相手『タワー』側に追いやったりしてるから、周りは見えているよう。


 エースの話では、生産に使うポイントは充分過ぎるほど余ったけど、何分人手が足りず、得意分野で強化していった結果がこのゼリー状の『タワー』という訳だ。


 例えばエースの場合、『調合』、『合成』、『錬金術』が得意分野。他もまあまあ出来るらしいけど、レベルがあんまり高くないそう。その辺はまた暇な時に教えてくれるみたい。

 そして生産の種類によって『タワー』に対して様々な効果や恩恵を受けられる。


『調合』なら『タワー』の時間経過による回復、『タワー』から一定距離内で回復アイテムの効果増大など。

『合成』なら『タワー』本体に付属品を付けられる、『タワー』の素材を変質させられるなど。

『錬金術』なら『タワー』内でのMP回復速度上昇、『タワー』の形を変化させられるなど。


 あくまで系統が偏っているだけで、『調合』でもMP回復出来るパーツもあれば、『錬金術』で『タワー』を回数制限付きで回復出来るパーツもある。

 そしてパーツ毎に制作時間が変わり、個々のレベルで短縮される。

 うん、私には少し難しい話だ。


 ただ、相手は『鍛冶』の達人集団だそうで、主に『タワー』のダメージ減少効果や防御力、HPゲージの増加を重点的に選んで組み立てている。

 ゲージは見た目変わってないけれど、どのパーツもガチガチに固められてダメージが通りそうにないみたい。


 と、『ゼリータワー(エース命名)』を巧みに操ってミツルギさんを下敷きにしたエースが、ドヤドヤしながら語ってくれた。


「いい加減どけ」

「だが断る!」


 いい加減、ことある事に喧嘩しないでほしいんだけど……。



「ともかく、だ。要は耐久値がある相手なら、問答無用でユイに触れさせればいい」

「まあ……それが手っ取り早いじゃろうが……見たところ難しくはないかの?」


 先程から相手の『巨人タワー(エース命名)』は、主に巨大な剣を振り回して戦っている。その威力は伯爵さんが盾で防いでいるにも関わらず、少しHPが減ってしまうぐらい強い。


 ロゼさんの防御も凄いみたいで、私達が作戦会議している間、一人で攻撃を凌いでいてくれてた。けれどそれも限界が近いようで、HPが四分の一以下になってしまっている。

 曰くこの二人以外は、HP的には一撃持つかどうか。ミツルギさんは変則で耐えられるみたいな事言ってるが、私はどう足掻いても即死らしい。


 そして『巨人タワー』の攻撃方法は剣だけじゃない。

 腕や足、繋ぎ目や肩に刃や砲台が隠されていて、こっちが反撃しようと近付くと集中砲火で狙われる。

 先程遠くから見えた火花は、『巨人タワー』の脚を駆け上がっていた際にミツルギさんが砲撃を受けたもののようだ。

 幸いなのはシステム的に連射のパーツは理論上は出来ると言われるだけのもので、過去の試合で使用された例は無いって話。

 けどいくら単発だからって、私には防御力も回避能力も全然無いから、皆難しいと言ってる訳だ。

 うぅ……私、あんまり役に立ってない……。エースが慰めてくれるのが逆に辛い。


「そう気落ちするな。要は役割分担、パーティーの基本だ。皆が皆、全部の役割をやれる訳じゃねえ。ユイの長所は何だ?」

「えっと……耐久値のあるものを一瞬で0に出来る……?」

「そうだ。そしてそれはユイが思ってるよりも遥かに強い能力だ」

「うんうん」

「まあの」

「そして今から言う作戦は、ユイ。お前が要になる。お前が居なけりゃ、おそらく俺らは負ける。責任重大だ、やれるか?」


 ミツルギさんが真剣な表情で私を見つめる。


 失敗したらどうしよう。私に出来るのかな。

 そんな凍えて縮こまってしまいそうな思いは、背中に置かれた手のひらから伝わる温かい熱が、一瞬にして溶かしてくれる。

 エースと目が合い、何も言わずに頷きあった。


「私、やるよ!」

「ふっ、そう来なくっちゃ面白くねえよな!」


『巨人タワー』が迫る中、私達は急いで作戦を確認していく……。

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