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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第六章 ギルド対抗戦
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とりあえずギルド対抗戦 本選第一試合 Ⅲ

 前線にて熱い攻防が繰り広げられる中、両ギルドの最後衛にして最終目的地であるタワー。その内部では密かに、しかしある作業が粛々と行われていた。



 ──ギルド【唯一無二】タワー内


 見た目からすれば幾階層にもなるであろうタワー。だが実際にはハリボテで、中身の無い大広間が一部屋、それが二階層あるだけで、それより上は吹き抜けになっている。

 開始前、一階の扉から入場してきたが、スタートの合図と同時に今は普通の扉として機能していた。


 そんなタワーの二階の広間の地面に触れながら、プレイヤーが使うメニューとは少し形が違うスクリーンを操作するエース。


「ふっふっふー! やっぱりJKは可愛くオシャレをしないとね!」


 およそ普段の行動、言動から想像されないであろう内容であるが、幸いなのか、それにツッコミを入れる者はいない。

 逆に言えば止める者もまた居ない。

 意味深なその言葉をルンルン気分で吐き出しながらも、手は高速で動かし続ける。


 本来ならば前線に出てユイと共に肩を並べるところだが、しかしエースは良くも悪くも本気で優勝を狙うつもりでいた。

 それを聞いた時のユイの反応は正直、「一緒に行かないの?」みたいな悲しそうな顔(エース目線)だったが、けれどそれを振り切ってでも私は見せたかったのだ。軍団戦(ギルド)としての戦い方を。


 自身も前戦に立ちたい思いから、生産特化装備だけでなく、ソロ用、素材集め用、遊び用……などと色々作るうちに、いつしか攻撃にガン振りした装備を愛用し始めた。元々、後衛よりも性に合っていたのだろう。

 しかし彼女の本質、生産特化のステータスを生かした後方からの回復、つまり本来のバトルスタイルはヒーラーなのである。

 装備も白衣姿は変わらないが、丈が膝上ほどだったものが踵辺りまでのものになり、それはさながらローブのよう。

 中は蒼が映えるノースリーブの上着で、胸元が少しはだけ、首に掛けられた銀のネックレスが淡く蒼く光る。短いスカートから時折見えるガーターが妖艶さを演出し、髪飾りの白いリボンも女の子らしさを際立たせる。

 手には愛用の長い針ではなく、木製でありながら先端が歪な形をした自身の背丈よりも長い杖を携え、重そうに肩に掛けている。

【導き手の朱宝杖】、【導き手の輝白飾】、【導き手の聖衣】、【導き手の神聖領域】、【導き手の妖踏】、【導き手の聖霊器】。

 生産に携わる者ならば誰もが知る、超高難易度素材ばかりを素材にして造られる装備であり、ランカーに相応しき者が着けるものとされるほどの品々。

 加えて生産者でしか扱えないという特徴があり、正に専用装備とも言える代物だ。


 そんな生産に特化した装備を着こなす彼女は、タワーの中でけたたましく笑っていた。他の者がこの場に居たならば、それはもう間違いなく気味が悪いとドン引きされていただろう。

 彼女は心底楽しそうにスクリーンを操作する。彼女を知る者ならば『戦闘と生産中だけは近づくな』と即座に思い至った事だろうが、タワーに到達した者が未だ居ないのは幸いだったかもしれない。どちらにとっても……。



 一方で、敵側に悪魔か何かと噂されているミツルギは、防御一辺倒の十鉄に不信感を抱く。

 陣形はもはや崩れ、十鉄ただ一人。何人かは奇跡的に抜けた者も居たようだが、敵前で振り返り確認するという事はしない。

 普通なら挟み撃ちを警戒するところだが、ミツルギの持つパッシブスキル【周囲感知】で、自身を起点に半径15mほどの範囲ならば、例え目を瞑っていようとも感覚で反応出来る。

 ユイの【気配感知】に似ているが、こちらは範囲に制限がある代わりにより鮮明に攻撃の軌道を読む事が出来る為、無駄な動きはしない。

 もはや三桁近い連撃になるだろうか、攻撃を弾いた十鉄を見て口端を上げて笑みを零す。


 反撃する気配は無く、しかしここは抜かせまいと防御に徹する彼のHPは、他のメンバー達とは違い、まだ三割をようやく削れたといったところだ。

 戦闘狂と呼ばれるミツルギを前にして、これだけ長く生き残れるというのはとても珍しい。

 それというのも、ミツルギは一撃必殺でないにしろ、幾重にも放たれる超速の連撃によって、相手のHPはバターのように溶けていくからである。

 更には自身のユニークスキルによって、凶悪なまでに攻撃力と速度を加速させるのだ。もはや通常攻撃とは名ばかりの即死攻撃に近い。

 だがそれを避ける訳でも流す訳でも無く、受けていながら未だに削れないでいる。その事実にミツルギは面白さを感じると共に、このカラクリにも気付いていた。


 いくらVITに振り、装備を固めようとも、ダメージとしては必ず1入るようになっている。なのでどんな相手でも、攻撃を受け続ければいずれ倒れる。

 けれどそんな常識を覆す事が出来る存在がある。

 スキルの中にはダメージを与える、減らすなどの他に完全に無効化させてしまうものが幾つも見つかっていた。

 それは発動条件や効果時間が極めて難しく、取得難易度も合わせて超上級クラス向けのもの。

 おそらくそれらを複数、こちらの攻撃に合わせて使っているのだろう。

 流石に連続使用にはMPが足りないはずだが、完全無効化系スキルの特性なのか、割合消費するものが殆どだったと記憶している。

 それと自動回復系のスキルを組み合わせる事で、MPが少ない者の方が回数的には優位を得る事が出来ていた。


 しかし幾百に及ぶ斬撃を凌ぐ戦いは、突然終止符を打たれる事となる。


「なんだ?」


 瞬時に警戒体勢を取るミツルギ。それによって連撃を中断し、数歩後ろへと跳ぶ。

 息もつかせぬ攻撃に疲れを見せる十鉄だが、その顔には今まで以上の眼光が宿っていた。俺達の勝利だと言わんばかりに。





「む」

「ふふん。ようやく組み上がったようね」


 ところ変わってゴロ・ニャーゴ伯爵と1238 10(ヒフミヤ トオ)との戦い。

 こちらは速さで撹乱し、攻撃を最小限に抑える伯爵と、一撃の破壊力にものを言わせ、防御の上からダメージを与える10(トオ)

 しかし攻撃力があると言っても速さには勝てず、翻弄されながらチクチクとダメージを受けていた10(トオ)だったが、地鳴りを感じると途端に笑顔に戻っていた。


「アンタのとことやり合った事は、そういえば無かったわね」


 10(トオ)の言う『やり合った事は無い』は、伯爵の前居たギルドの事である。

 確かに対戦に当たった事は無いが、伯爵は相手の謎の自信には心当たりがあった。

 生産系ギルドでは有名どころかトップギルドである彼らなのだ。逆に知らない方がおかしい。


「じゃな。これは少し長引くかもしれんの」


 伯爵は軽口を叩くが本心で言ってる訳ではない。それを感じ取ったのか、それとも強がりなのかは分からない。

 だが、再び構え直す伯爵に合わせるように、10(トオ)もまた巨剣を大きく振り上げるのだった。





 地鳴りがだんだん収まっていき、一体何だったのかと疑問に思ったその時、ソレは姿を現した!……というより生えてきた。


「なんだあれ」


 ミツルギは思わず呟く。目の前の光景に思わず突っ込まずにはいられないのだろう。何せタワーから腕と脚が生えてきたのだから。


「ふふふ、これで俺達の勝利は揺るがない。少数精鋭かは知らないが、その人数で挑んだ事を後悔するがいい!」


 十鉄、ノリノリだった。自信満々に宣言する姿は、余程あのヘンテコなタワーに期待しているのだろうと。


 相手のタワーからは手足が生えており、胴体部分が既存のものである。材質は石造り、一部鉄のような輝きも見える。

 手は二本だが脚は四本あり、バランスよく直立している。脚が生えた影響か、高さは元の三倍近くになっており、相当な威圧感を放っていた。


 だがそんなものは関係ない様子のミツルギ。

 目の前の敵を放っておくのは矜恃に反するが、それよりもあのタワーに攻撃してみたい欲求から、十鉄を一旦放置する事を決意する。


 そこからの行動は早かった。

 アイテムを取り出し、何かを口に含んだ後、ミツルギはもうそこには居なかった。

 十鉄が気付き、振り返った時には、既にタワーの足下に到着し、勢いよくジャンプする間際だった。

 残像すら見える動きだが、それは真横から飛んできた巨大な剣によって阻まれる。


「させるかぁぁぁぁあああ!」


 そう、副マス10(トオ)による巨剣の投擲である。

 特にスキルを使用した訳でもない、ただただ膂力に任せたものだが、空中に居た事もあってかミツルギは直撃を食らってしまう。

 しかし驚いた事に、攻撃を受けてなお体勢を立て直し、受け流しながら剣に乗り、足場代わりにして跳躍する離れ業を見せた。

 これには投げた本人も十鉄も顎が外れる勢いだ。伯爵らにとっては出来て当然、といった様子だが。


 脚が石造りの為か、僅かにある出っ張りを足場にして登る。その間も短剣を振るい、強度やダメージの通りを確かめるが、如何せんHPゲージがタワー上部に表示される為、この位置からは効いているのか確認出来ない。

 なのでとりあえずはタワー本体を目指して登る中、ふと暗くなる。

 何事だと見上げればタワーが少し屈んでいる。よく見れば先程放たれた巨剣をタワーが拾っていた。

 そしてタワーが見つめるその先には自陣のタワー。流石にあれを壊される訳にはいかない。

 だがタワー本体は目と鼻の先。防御なら伯爵と変態(ロゼ)がどうにかするだろう、と。

 しかし人でいう股関節辺りまで到達した時、ガチャリ、重厚な機械音が聞こえてきた。


「おいおい、嘘だろ」


 何と股間部には巨大な大砲が姿を見せていた。砲口をこちらに向けて。

 思わず壁を蹴り飛び退いたミツルギは、先程までいた小さな足場を眺めた。少し遅れてその足場は熱風と紅蓮の炎と共に爆ぜた。

 ギリギリのタイミングで助かったミツルギは、体を上向きに直すと短剣を弓へと切り替え、忌々しい大砲の砲口へ狙いを寸分違わず撃ち抜く。

 しかし見たところ大したダメージは入っておらず、またあれほどの爆撃を受けたにも関わらず、多少の焦げ跡があるだけでタワーの脚も無傷だった。


「こりゃあ少し策が必要か」


 ミツルギは落下しつつ、タワーが振り下ろす巨剣の行方を見届ける。

投稿、大変遅くなり申し訳ございません。

もう少しだけ続けますので、今年もよろしくお願いします。

誤字脱字等ありましたら、報告機能にてお願いします。

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[一言] 大砲が生えてる位置がアレ過ぎるwww
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