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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第六章 ギルド対抗戦
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とりあえずギルド対抗戦 本選第一試合 Ⅱ

「ロゼさん!?」


 ロゼさんが普通に歩いて行き、相手の攻撃を回避もせずに棒立ちになるのを見て心配になる私。

 ロゼさんのスキルは、ミツルギさんとの訓練中に教えてもらっていたけれど、それでもHPが大きく減るのを見るとハラハラしてしまう。

 ロゼさんのユニークスキルは、HPが減るほど攻撃力が上がるという効果のようで、必然的に壁寄りのステータスになっているそうだ。

 けれど、同じ壁型である伯爵さんと比べるとかなりの違いがあるようで……。


 まず伯爵さんは、直接的な攻撃の全てに【魅力】の状態異常が付いていて、ヘイト率だっけ? を上げて自分に注意を向ける事が出来る。

 これを応用して、素早さを活かして周りの注意を集め、撹乱させる戦法を得意としてる。


 反対にロゼさんにはそれが無く、注意を向けるようなスキルも無いらしい。

 理由としては二つあって、一つは壁ステータスではあるが分類としては火力である点。

 ミツルギさん曰く『壁火力』と呼ばれる珍しい型なんだとか。

 もう一つは、そもそも注意を向けさせる必然性が無いから。

 自分のHPを減らす行為を『自爆』と呼ぶらしいが、そういう類いのスキルは他よりもダメージや効果が大きく設定されている。

 今使われたのも、HPとMPを消費するもので、代わりに再使用可能時間(リキャストタイム)も無く連続で発動出来、しかも範囲も広いんだって。確かに見れば分かるけど。


 対人戦では【魅力】などでしか視線を固定出来ないけれど、モンスター相手だと攻撃の度合いやダメージ量でヘイト率は上がっていく。

 なので、そういうスキルを持たないロゼさんでも十分に壁として機能出来るようだ。

 でも結局、人には効果無いはずなんだけど……やっぱり放置出来ないのかな、あれ。


「人の心配する余裕があるなら少しは集中しろ。ほら、前」

「ふぇっ?」


 ロゼさんの事で頭がいっぱいになっていると、前方から爆発をかいくぐって来た人達が走ってきていた。

 かなりHPは減っていて足元もかなり覚束無い様子。

 けれど反応に遅れた私は、咄嗟に防御姿勢に移ったがその必要は無かった。


「ぐあああああああああああ!」


 私に迫る相手の側面に瞬時に移動したかと思えば、脇腹へ深々と短剣をめり込ませるミツルギさん。物凄く痛そうに見えるけど、あれって静電気が流れ続ける程度の痛みなんだよね。

 なのにあんなに大声で叫ぶのは、伯爵さんが言うには悪い伝統らしい。しかもレッドサーバー限定。まあ色々あったんだろう。


「ふむ。手応えねえな」


 光になって消えていく相手を見ながら、器用に短剣を回転させて鞘に仕舞う。その所作だけで慣れた動きだと感じさせる。


「所詮は新人。本丸もどうやら腰を上げおるようだし、くれぐれも自由行動は控えるんじゃぞ?」

「はははっ、善処する」


 伯爵さんの言葉通り、向こうのタワー前に居た人達が動き出した。

 王冠マークが付いた人がギルドマスターだよね? なんか心無しか、やつれたように見えるのはなんでだろ?

 そんな人がギルドメンバー達に指示を出しているのが見てとれる。

 半数は隊列を組んでこちらに向かってきていて、四分の一がタワー前で防衛かな。もう四分の一がタワーの中に入って行ったけど、回復とか支援とかかな。



 こっちは人数が少ない上、仕方ない事だけどほとんどが初参加だ。向こうの方が圧倒的に有利だと思う。

 伯爵さんとエースが経験者なので、どう立ち回ればいいか教えてくれたけど、結論を言えば相手によると言われた。

 でもあえて言うのなら、私はとりあえず適当に殴っとけば勝てるよと、物凄い雑な指示を受けた。私が初心者だからって適当な事言って……もー!



 エースとのやり取りを思い出していると、何故か急に辺りが暗くなる。一体何がと思って空を見た私は思わず驚く。

 銀色に輝く巨大な何かが、私達が立つ場所に落ちてきていたのだ。

 判断に迷っている私を他所に、横から飛び出た伯爵さんが大楯を構え、落ちてきたものを受け止めた。


「ぐ、ううむ」


 しっかりと防いだはずなのにHPが少し減る。伯爵さんがあんなにダメージを受けているのを見たのは、JACKとの戦い以来になる。

 それほど凄い攻撃なのかと観察していると、落ちてきた謎の物体が巨大過ぎる剣だと解る。

 何十メートルあるんだって大きさで、本当にこれが剣なのかすら怪しい。

 だがそれも、聞こえてきた声によってそれが武器だった事を証明される。


「うっそ……止められるとは思ってたけど、本当にあたしの巨剣を止める人が居るなんて……って、猫タンク!? 十鉄(あいつ)、あたしに嫌な役押し付けやがったわね?!」

「そう思うなら引いてくれてもいいんじゃがな」

「っ、それは出来ない相談だね」

「ふむ、残念じゃな」


「あれってやっぱり武器なんだ」


 思わず無意識に言葉が出る。普通、あれが武器とも思わなければ、扱う事が出来るなどとも思わない。というか、どうやって振ったの?

 要注意人物は戦況を左右するから、気になる人は覚えておけと事前に言われたけど、名前を見ると1238 10と表示されている。なんて読むの?


「”巨双流”1238 10(ヒフミヤ トオ)だな。副マスをしていて主に大剣の生産が得意ってぐらいしか知らなかったが……なるほど、通り名はこれの事か」


 ミツルギさんが冷静に話す。もはや私の表情を完璧に読んでいるのではと疑いたくなるレベルだ。ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。


「あれは伯爵が受け持つから問題ない。ユイはゆっくりでいいから攻撃に参加してくれ」


 それだけ言い残すとミツルギさんも相手のタワーへと駆けていく。

 主に攻撃は私、ミツルギさん、ロゼさんが。タワー防衛は伯爵さん。エースは相手同様、何故かタワー内に待機している。

 多分、ルール説明のあれだと思うけど、私もよく理解してないんだよね。


 まあいいや。考えても始まらない。

 ともかく私は、ミツルギさんとロゼさんの攻撃を抜けてきた人に注意しながらタワーを目指す事にした。









 ユイに助言を残し、一人本丸へと乗り込みに向かうミツルギ。

 ロゼとは違い、敵を出来るだけ避けながら進む。

 個人的には戦闘したい気持ちは山々だが、爆発が思っていたよりも範囲が大きく、FF(フレンドリーファイア)でダメージを受けないにしても余波で飛ばされはする。

 なので渋々、本当に渋々本丸へと向かうのだった。



 よし、ユイは適当に判断して動くだろ。

 全く、新人ギルマスの面倒を見るのもなかなか大変だな。

 だがユイのユニークと対人戦慣れしていないにも関わらず、あの洞察力と勘。それにここぞという時の行動力。

 元々エース(あれ)の奇行に付き合っているせいなのか、驚きはするし震えもするが、新人らしからぬ行動を見せる瞬間がある。

 上手く育てれば、もしかすれば俺と同格以上の存在になるかも知れない。

 そうなればまた楽しみが増える。

 攻撃を絶対に食らってはいけない戦闘とか、何それ超ワクワクするんだけど。ああ、早く殺り合いたいぜ……。


「って、今思ってもしゃーないか」


 ポツリと呟いた声は誰に聞かれる事も無い。

 そもそも前方でロゼ(変態)がテロを起こしているのだ。静かな方がおかしい。

 どうやら新人共はあらかた片付いたようだな。後方で十鉄が変顔を決めているのが見える。


 鍛冶師ギルドや商人ギルドなど、プレイヤーが日々遊ぶ中で必ずと言っていいほど利用する存在。

 もちろん会った事もあるし、構成スキルやステータスも概ね把握している。まあ相手方も同じだろうがな。

 全体的なレベルはそこそこだが厄介なのはギルマスぐらいで、そこまで強い相手じゃない、と思ってたんだがな。意外と粒は揃ってるな。

 ま、あの変顔を見るに、ランカーが出てくるとはー!? とか思ってんじゃねえかな。実際に俺が相手の立場だったらワクワクが止まらないんだけどな。


 陣形には詳しく無いが、蜂矢の陣みたいなもんか?

 十鉄が一番後ろに陣取って指示を出していやがるな。

 統制の取れた動きを見るに、向こうには経験者が多いようだ。

 いいねぇ、とてもいい。これだけでもギルドに参加した価値があったっていうものだ。

 特に入る気は無かったが、食わず嫌いならぬ入らず嫌いだったか。ユイには感謝しないとな。もちろん、武勲を立てる事で返す事としよう。


「さて、せいぜい楽しませてくれよ」





「ギルマス! 前方よりミツルギが!」

「分かっている! 前衛は衝突に備え、中衛は補助を掛けろ! 後衛は援護射撃だ! いつも通り行くぞ!」

「「「了解!」」」


 ある意味予想通りなのが向かってきた。

 ”自爆姫”は中央辺りでアイテムを使っていて、おそらくMPを回復しているのだろう。まだこちらに来る気配は無い。

 普通なら喜ばしい事だが、出来れば今は近付いて来て、爆発の一つでも起こしてもらいたいところではある。

 いくらFF(フレンドリーファイア)が無効といっても、ダメージが無いだけで爆風などの影響は普通に受ける。

 なので、出来れば本当に”戦闘狂(あれ)”をどこか遠くに追いやってほしい。切に願うが思いは届かず、遂に前衛達との戦闘が始まってしまう。


 これがまだ他ギルドならば、撹乱させた隙に物量で攻め、一気にタワーを落とす戦法もあったが、向かって来た相手は”戦闘狂(あれ)”でギルメンも猛者ばかりである。本当にどうやったらあんなメンバーが揃うんだ。商売上手かっ。ウチに迎え入れたいわっ。


「【ヘビースタンプ】!」

「【筋力増加】、【身体強化】。うおらああああああ!」

「【鋼鉄穹】! 【矢時雨】!」


 前衛と中衛は上手く連携が取れた動きをしている。後衛も合間合間を縫って攻撃が止まらないようにして、休む暇を与えない。

 毎回、イベント前にはギルメンを集め50時間近い練習をしたかいがあるというものだ。

 普通の相手ならば回避も難しいが、予想通りの想定内な現実に帰りたくなる。


「ぎゃあああ!」

「くそっ、くそぉっ! なんで当たらない!」


 前衛達が次々に殺られている。

 攻撃に隙は無く、陣形や配置、タイミングも完璧にしているはずなのに。

 いや分かってる。相手が何なのかを。

 殺られていく仲間達に見兼ねて、本来はもう少しダメージを与えてから出る予定だったが、仕方無く前に出る事にする。


「よお。てっきりビビって震えてたのかと思ってたわ」

「そうかい、そりゃ悪い事したなッ!」


 嫌味に嫌味を返しながら殴りつけた拳は、しかし奴に届く事はなく、短剣の柄で弾かれ、腕を天に突き上げる形になる。

 その瞬間、体がガラ空きになったところを見逃さず、奴は攻撃を一瞬のうちに数発叩き込んでくる。

 これがスキルならMP切れを狙えばいいもんだが、しかしこの戦闘狂の真に恐ろしいところは、攻撃系スキルをほぼ使わない、通常攻撃による連撃というところだ。


「【鋼体・防御鉄甲】」


 防御力を上げるスキルを使い、何とかダメージを相殺したのも束の間、直ぐに別の角度から攻撃が飛んでくる。

 目の前に居るはずの戦闘狂では、スキル無しでは確実に攻撃出来ない位置からの攻撃が幾度と無く降り注ぐ。

 一体なんだと視線をやれば、前から強打の嵐に襲われる。

 ギルメンからの支援があるはずなのに、何故こんなにも……。


 いや待ておかしい。

 そうだ、ギルメンからの回復や強化スキルがさっきから飛んできていない。

 装備が放つジャラジャラとした金属音や足音、呼吸音がまるで無い。

 嫌な汗が背中を伝い、滲んだ装備が蒸れて熱いはずなのに、何故かとても悪寒がする。

 静寂の中、笑う戦闘狂が、まるで悪魔のように思えた。

放置期間が長くなり、本当に申し訳ございませんでした。

気付けば二月半ば……。

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