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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第六章 ギルド対抗戦
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とりあえずギルド対抗戦 予選Ⅲ

短め。

「「ふぁっ!?」」


 エースと私の声が綺麗にハモる。

 私達が揉めてる間に何があったのか。いや、誰が何をしたかなんてハッキリしているんだけど。


 景色が変わり、ギルドの酒場と同じぐらいの大きさの部屋に移動した時、隣から声が掛かる。


「お姉様、お嬢様〜」


 言外に褒めて褒めてオーラを纏っているが、エースに物理的に釘を刺されて床に縫い付けられる。


「おっほ」

「ロゼ、一体全体何してくれちゃってるのかな?」

「勿論、お姉様とお嬢様の負担を少しでも軽減すべく、全身全霊を掛けて──あふぅ、……ありがとうございますわっ!」


 話の途中でロゼさんのお腹に刺さる釘(二メートルぐらい)を抜き差ししている。何故あれで反応が喜びに満ちているのか。


「はぁ。確かに私達は楽出来るからいいし、予選を通るのは重要だよ? けどユイは初めての参加なんだから、もう少し経験を大切にしてあげたいなと思ってたのに。折角対人戦の危険も無い機会だったのに」


 エースが珍しくまともな事を言っている。明日は毒でも降るのかな。

 そう思ったのは私だけじゃなかったようで、後ろ側で伯爵さんが見た事も無い表情で固まっている。

 ミツルギさんに至っては「お前、何か毒物でも食べたのか」と顔が引き攣っている。

 ロゼさんは感銘を受けて涙を流しながら、ブリッジで円を描くように走り回っている。

「敬愛なるお姉様のお嬢様愛。私の心は今、宇宙の法則に従い、廻り廻っていますわ〜」

 周りの人が距離置いてるからね?


「ちょっと、なんか皆して失礼な事思ってない?」


 ツッコミが入ったが素知らぬ顔をして辺りを見回す。

 部屋にはソファが幾つかあり、それで囲むような位置の真ん中に大きなスクリーンがある。

 スクリーンには『只今予選中です。暫くお待ち下さい』の文字が。

 他にもテレビのようにチャンネルがあるようで、スクリーンをタッチして数字を選択していくと本選の細かいルール説明が書いてある。


【ギルド対抗戦】 本選

 形式 タワーディフェンス


 タワーディフェンスとは?

 互いに『タワー』と呼ばれる建物を所持しており、それには耐久値(HP)が存在します。

 今回はその耐久値を全て削り、破顔するといった趣旨です。


 レベル補正について

 今回の【ギルド対抗戦】中では、レベルによる補正はありません。


『タワー』について……


「ユイ、何見てるの?」


 私が説明を読んでいるとエースが覗き込んできた。

 伯爵さんはソファで寛ぎ、ミツルギさんは素振りと動きの確認かな。ロゼさん? ああ、うん……。


「ちょっと今のうちに読んでおこうと思って」

「そっか」

「でもこの『タワー』について、のところ、どういう意味?」

「ああ、これね。多分見た方が早いんじゃない?」


 理解出来ずにいるとミツルギさんからも、「大まかなルールさえ頭に入れときゃどうとでもなる」と助言をくれる。本当に同じ初参加とは思えない、肝の座った姿に憧れを持つ。


 その後はやる事も無かったのでチャンネルを弄っていると、現在の予選会場の様子が映ったので皆で鑑賞会をしている。

 航空写真みたいに真上からのものもあれば、斜めからのものなどがダイジェスト風に切り替わっていく。

 時折知らない人の名前を呟いては、「楽しくなってきやがったぜ」と意気込むエースとミツルギさん。本当は仲良い?

 伯爵さんは、この映像からもある程度スキルは絞れると言う。

 音声は「わーわー」としか聞こえないけど、スキル発動時の効果音や光の加減で見分けがつくらしい。

 けれどエース達が呼んでいた人達の殆どは、スキルをほぼ使わないようにしているみたい。



 程なくして続々と予選を通過していき、そして──


『おめでとうございます! ギルド【友は金なり】、本選出場だぜベイベー! そしてそこまでだぜ若人諸君! また参加してくれると嬉しいぜセンキュー!』


 あの語尾と話し方はどうにかならなかったのかな。聞けばイベント毎に担当する運営の人が変わっていて、あれは『ファンキー塩釜』という企画担当なんだって。皆も何故そんなすぐ名前が出てくるのか……。


『じゃあ本選出場を獲得したギルド達は、ルール説明や装備、アイテムやスキルの最終確認時間として十五分与えるぜベイベー! その後、通過時間が早い順でA、Bブロックに分けていく。そこからはランダムだから天に祈れよベイベー!』


 ブロックは二つに分かれていて、通過時間の早いギルドが片方だけ極端に寄るのを防ぐ為らしい。

 とは言っても、通過時間が早い=強い、という訳でも無い。

 この予選では低レベル層の方が多くポイントが稼げるらしいのだが、人数が多ければ多いほど有利になる。

 それでも予選通過をするギルドというのは、大体どこも三十人程度は居るそうで、よっぽど参加人数が少ない限りはそこまで差は出ないという。……えっ?

 そこで差が出来る要因というのが、ギルドの連携と経験者の有無、ランカーの数が関わる。

 ギルドの連携は文字通り、経験者というのはイベント参加に慣れた者がどれだけいるか。ランカーは総合ばかり目立っては居るが、イベント毎にランキングは違う。


 例えばミツルギさんは今回初参加と言っていたが、【ギルド対抗戦】のランキングには全く載っていない。けれど、個人戦のイベントには必ず名前が載る。

 そんな感じで逆も必ず居て、総合ランキングの中には居ないけれど【ギルド対抗戦】においてはランカー、なんてのがある。

 なのでランカーの数は予想よりも結構居るんだそう。

 待ち時間が長すぎて皆から聞いて覚えちゃったよ。

 やだなー。それに全くイベントしてないのに総合載ってるって……あれ? エースもじゃない? なんかよくわかんなくなってきたなぁ。



 暫くするとどうやらその時が来たようだ。


『ベイベー達、待たせたなッ! これより【ギルド対抗戦】本選を始めるぜ! んトーナメンッ、カモンベイベー!』


 スクリーンにトーナメント表が映し出される。ここで通過したギルドの全てが確認出来るようだが、何がどうなのかよく分からない。

 その辺りは伯爵さん達に丸投げしとこう。

 あ、でも私が知ってるギルドもあるようで……。


「【軒下の集会】……、それと【義憤(ネメシス)ファミリア】って」

「なんじゃ、アイツら通過したのか」

「おー。皆強いもんね」

「ふんっ。これぐらい当然じゃ」


 反応を見るにどうやらそのようだ。ただどちらもBブロックに居るようで、もし当たるとしても最終戦になるだろう。そこまで行ける気がしないけど。


 私達はAブロックで最初の対戦相手は【鋼鉄の誓い】。皆が言うには最大手【鍛冶師】ギルドらしい。いきなり凄そう。


「そんなに気を張るな。ユイはギルマスなんだからドッシリ構えとけ」

「むむ、あんたにしてはいい事言うね」

「上の奴が緊張すれば部下も釣られる。ギルマスなんて余裕ぶっこいててなんぼだ。まあ緊張しているってのは、裏を返せば油断してないって事だ。そのぐらいが丁度いいのかもな」

「お嬢様は私が御守り致しますわっ」

「守る事に関してなら吾輩も負けはせん」

「皆……ありがとう。そうだよね、私頑張ってみるよ!」


 皆の性格も相性もバラバラだけど、今は同じ方向に進んでいる気がする。このまま仲良くやってくれたらいいんだけどなぁ。


 トーナメント表が出て数分、いよいよ本番が始まる。

 部屋には扉がついていたんだけど、ドアノブが固くて開ける事が出来なかったそれが、ガチャリと音を立てた。


『さあ、第一回戦を始まるぜベイベー! 各ギルド諸君は扉をくぐってみてくれ! そこがキミ達の戦場だぜヘイヨー!』


 アナウンスが終わり部屋に静寂が戻る。

 でも私にはもう恐れは無い。当たって砕けろだ。

 もしピンチになったとしても、この仲間達なら不安は無い。……いや、別の意味ではあるんだけど。


 エースがそっと手を握り、ミツルギさんの手は肩に、伯爵さんの肉球が背中に当たる。ロゼさんは……足元で這いつくばって……。


「よし、行こう! 皆!」

「その意気だぜベイベー!」

「口調を真似するんじゃないわい」

「ククク。さぁて楽しむとするかな」

「はぁ、はぁ。お嬢様のかほりが、すぅ〜、はぁ〜」


 私達は扉をくぐる。その先に何が待ち受けているのか、期待に胸を躍らせながら。

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