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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第六章 ギルド対抗戦
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とりあえずギルド対抗戦 予選Ⅱ

「ええっ?! もう?!」


 まだ十分そこらで既に本選通過を果たしたギルドが出た事に戸惑う私。

 けれど皆は平然としている。むしろこれが当たり前だと言わんばかりに。


「エ、エース! どうしよ! ウカウカしてられないんじゃっ」

「まあまあ落ち着きたまえよマイエンジェゥ〜」

「でもっ」

「あそこは毎回鬼ってるレベルで早いからね。多分次は──」


『おめでとうございます! ギルド【Holic works】本選出場だぜベイベー!』


 あの語尾は何なんだと突っ込む事も忘れ、空の表示を見上げる私。

 けれどそれは、エースが同時に言ったギルドの名前と全く同じところだった。


「あの二つは常連で、どっちもトップランカーが率いてるからな。尋常じゃなく早いがあれは異常の類いだ。そんな焦らなくても大丈夫だよ」


 ミツルギさんは短剣を鞘から引き抜いて素振りしながら笑う。それが真実だと証明するように、続けて名前が表示されるという事は無かった。


「だがそろそろ真面目に稼がなきゃな。どうする? 固まってやるか?」

「そうじゃな。ユイさんも居る事だし、多少はターゲットも寄って来やすく……む?」


 伯爵さんの視線には一羽の小鳥がパタパタと飛んでいる。可愛い。

 しかし伯爵さんの眼が怪しく光る。


「ニャー! シャシャシャー!」


 鳴き声と共に木をスルスルと登ったかと思えば、空中に飛び小鳥を十字に切り裂いた。

 ゲームだと分かっていても結構グロいんですけど。返り血を前足? 手? で拭い落としながら戻ってくる。


「ターゲットかと思ったが違ったようじゃ」

「ありゃどう見ても召喚獣の類いだろ。……ほら見ろ、飼い主が来たみたいだぞ」


 ミツルギさんが指摘する方向へ顔を向けると、クルクルとバレエのような動きで近付いてきた一人の男性。

 周りには先程の小鳥と同じような大きさの鳥達が、周囲を旋回しながら着いて来ている。


「テバサキ〜、お〜い、テバサキ〜。おかしいな、この辺りで反応が途絶えた気がするんだけど。あっ、そこのレディ&ハニー達ィ! この辺で白く可愛い小鳥さんを見なかっ……テバサキィィィ!?」


 私やエースが居る方を見ながら声を掛ける変な男性。距離的には伯爵さんとミツルギさんの方が近いのに。

 そして伯爵さん付近に落ちている引き裂かれた小鳥を拾い上げ、その子の名前を叫び号泣している。……テバサキって。


「ノー! ノー! 君達まさかボクの可愛いテバサキを亡き者にしたんじゃないだろうね?」

「だったらなんだってんだ?」

「HAHAHA! ボクを現ランカー29位、”鳥教師(バードトレーナー)”ヒヨドリ・ツグミと知っての狼藉かい? 可愛い小鳥さんの敵、ここで晴らさせてもらおう!」


 なんか変な人が絡んできた。しかもランカーって……。

 ミツルギさんも「面白い、受けて立ってやるぜ」とか自信満々に言っちゃってるし。あれこれ予選だよね? こんな殺伐としているものなの?! 


「ミツルギ、そこまでにせい」

「ぁあ?」

「ユイさんが動揺してしまっているじゃろうが」

「……ッ。まあ楽しみは後に取っておいてもいいか。こんな雑魚に構ってる暇も無いし」

「おやおや、逃げようって腹かい? 捕食される側は何時だって弱い生き物。怯える気持ちも分かる。けれどそれは皆同じさ。ならばボクが天国へ羽ばたかせてあげ──」


「【毒玉】」


「わぉつ?!」


 話の腰を折る形で、エースのスキルが放たれる。変な人は奇声をあげ、そして何かに気付いたようにハッとしている。


「この攻撃、白衣にボイン。まさか君、」

「ちょっとさー、二人とも長ったらしい話は後にしてくれる? 今回はプレイヤー倒してもポイント奪えたりしないんだから、時間の無駄になるじゃない!」


 プンスコと怒るエース。ただでさえメンバー少ないんだから手を動かせ、と伯爵さんとミツルギさんを急かしている。

 そのあまりの無視っぷりに、毒気をすっかり抜かれて大人しくなった変な人は、自主的に撤退を始めた。


「まさかここまでボクを無視する奴等が居るなんて! ボクのビューティフルな鳥頭が烏骨鶏だよ! 今日のところは引き上げてやろう。さあ行くよ、スナギモ、ササミ! 弱き者達を見つけておくれ〜!」


 周りで飛んでいた小鳥のうち、二羽が言葉に反応すると、先導するように変な人の前を飛び始めた。

 そして来た時と同様にクルクルと回りながら去っていく。

 なんだろう、何とも言えない。



「あれは【愛鳥研究室囀り部】の副マスじゃな。確か探知に優れたスキルを保有しとったはず」

「へー、あの変なのが」

「確かに変な人でしたわね」

「変な奴はどこにでも居るんだな」


 伯爵さんの言葉に、エース、ロゼさん、ミツルギさんがそれぞれ返している。いやいや、皆もあんな感じだよ?! ベクトルが少しズレてるだけで。

 けれど伯爵さんやミツルギさんを知らなくてエースは知ってたのはなんでだろう? そんな疑問に伯爵さんは、


「吾輩が活躍していたのは昔じゃからな、新参は噂ぐらいでしか知らん者も多い。ミツルギは逆に新参には名前も顔も通ってはいるが、元々ソロプレイヤーというのは表に出にくい。イベントでも強い奴を求めて激戦区に飛び込むぐらいじゃ。あのヒヨドリ・ツグミは偵察向きで直接戦闘はあまりしない……はずなんだがのう。エースは戦闘以外でも露出があるからそのせいじゃな」


 と的確に答えてくれた。

 つまりは専門分野が皆違っていたり、OBだったりで活躍している場所がバラバラなせいで、顔見知りとそうじゃないのが居るって事だ。

 でも気になるのは、ミツルギさんが「あんな奴ランカーに居たか?」と首を傾げている点。伯爵さんも「前は載ってなかった気がするがのう」と同じく顎に手を当てている。

 でもランキングってコロコロと変化するもんじゃないのかな? 知らないけど。


「まあいいか。んじゃ、まずは各々適当に散開してやるか。どうせ団体行動っつっても、な?」

「そだね。あんたと行動するよか、ユイと楽しくランデブーした方が数億倍マシだねー」

「あぁ? お前に振り回されるぐらいなら俺と特訓してた方が数兆倍有意義になるぞ?」

「女心を分かってないね。むさい男と居るよりは大事に思ってる私の方が数京倍幸せなのさ!」

「お前に女心があるとはな。思い込みの押し付けをやったところで迷惑なだけだ。俺と居る方が数垓倍嬉しいだろうな!」

「はぁぁ? あんたの脳筋なのに裏があるところが嫌いなのよ! ユイは私に不可思議倍ラブなのよ!」

「てめぇにだけは言われたくセリフだな害悪女! お前のテンションに合わせるぐらいなら無量大数倍俺の方が楽だろ!」


 やんややんや。あの二人は何故あんな感じになってしまうのかな。

 あと途中からそうがらま? びばてい? 何語なのかな、あれ。怪しい呪文を唱えだした二人は置いといて伯爵さんへ話し掛けようとすると、周囲をキョロキョロと見渡している。何かあったのかな?


「伯爵さんどうしたの?」

「む? ああいや。ロゼさんがどこに行ったかと思ってな」

「あれ、そう言えば……」


 確かあの変な人が帰った辺りまでは、ずっと私達(主にエース)の椅子になってスタンバイしていたはず。なのに今はどこにも居ない。


「ユイさん、すまんがギルドリストからロゼさんを選択してパーティーの申請をお願いしていいかの?」

「了解ですっ」


 これはギルドメンバーなら誰でも出来る機能で、ギルドリストからパーティー申請を送れる。例え距離があっても、ログインさえしていれば、どこでもいつでもだ。


「ついでに吾輩らも入れてくれ。ギルドチャットを使えば会話は出来るが、パーティーの方が色々と恩恵が得られる。ああ、こんな事なら先にやっとくんじゃったな」


 伯爵さんが頭を抱え、たまにバシバシと叩いている。あの子、行動読めないからなぁ、そんな気負わなくてもいいのに。

 全員をパーティーに入れると、事態を察したエースとミツルギさんも、喧嘩を止めて駆け寄ってきた。


「あれ? ロゼは?」

「それが、勝手に何処か行っちゃったみたいで」

「自由かっ! いや、むしろそれが普通か。あれのステだとそう遠くには行ってないだろうし、探せばすぐ見つかるだろ」


 なんなら俺がひとっ走り、と言いかけたところで、かなり近いところで爆発でも起こったかのような、衝撃と遅れて砂埃を含んだ爆風が押し寄せる。

 しかもそれは一回に収まらず、一定間隔で何度も何度も巻き起こる。


「ぺっ、ぺっ。うう、目が〜」

「ふはは! 目に入ったのはゴミのようだ!」

「また古いネタを……」


 目がしょぼしょぼしている時にもぶっ込んでくる知らないネタに、ミツルギさんが呆れたように突っ込む。


「ひとまず吾輩の背に隠れい!」


 直後、私を抱えてエースが飛び、続けてミツルギさんも伯爵さんの背中に避難する。

 伯爵さんは盾を爆風と砂埃が押し寄せる方向へと向け、地面に突き刺すように固定する。

 先程まで少し油断しただけで、足元が滑りコケそうだったのに、伯爵さんはビクともしない。凄い安心感。


 大地震にも匹敵する衝撃の中には、阿鼻叫喚が混ざっているのが分かる。結構距離は遠いが、かなりの人数が被害にあってるようだ。もしかして抗争? ポイントは奪えないんじゃなかったの?!



 やがてその衝撃は収まっていき、暫しの静寂が……訪れる事は無かった。



 何故なら──



『おめでとうございます! ギルド【唯一無二】、本選出場だぜベイベー!』


 そんな表示と共に、私達の身体は光となったから。

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