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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第六章 ギルド対抗戦
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とりあえず通常攻撃とショートカット

 あれから少し時間が経ち、私とエース、ミツルギさんが【修練所】に来ていた。


 伯爵さんはイベントに向けてスキル調整に出掛け、ロゼさんはリアルで用事があるからと少しログアウトしている。

 嵐が去ったように静かになったわけだけど、居ないとそれはそれで何か寂しい。


 で、その間、戦闘を見てもらう約束だったので折角だから今やろうか、という事になった。

 ちなみにエースは保護者兼見張りである。

 てっきり、「戦闘なら私が教える」とか言うのかと思ったけれど、エースは本来戦闘よりも生産を得意とするステータスなので、その道の人に見てもらった方がいいと案外積極的だったり。

 ただ、やっぱり心配なのか、こうして見張ってる辺り、まだミツルギさんへの警戒を解いてはいないらしい。


「じゃあユイ、まずは本気で攻撃してきてくれ。別に遠慮は要らないぞ。アイテムも使っていい」


 避けはするが反撃はしないからな、とも付け加えるミツルギさん。

 伯爵さんの時も同じような事をやったけど、あの時は初歩の初歩、みたいな動作確認をしたぐらいで、実戦形式でやるのは初めてなので緊張する。

 対人戦闘はなんだかんだ言って濃厚な体験をしてきたので、今はそんなに恐怖はしない。けれど例外があって、称号【恐怖を知る者】の元凶が相手というのは、どうにも落ち着かない。

 今はもう悪い人とかそういうのとは違う事を知った訳だけど、恐怖やトラウマは別である。決して戦えない訳じゃないんだけど。


 そう言えば、あの時のミツルギさんと今とでは何だか性格が違うような?

 戦ってる時は、何か変なスイッチでも入るのかな。


 閑話休題。


 私は頭の中でどこから攻めるか考える。

 先程、避けはすると言っているので躱す前提なのだろうけど、それなら一発ぐらい当ててやりたい。

 とはいえ、ミツルギさんのステータスって未だによく分からないんだよね。

 多分スピードが速いタイプだと思っているが、そうなると当たる気がしない。ううむ。


「何考えているのかは顔に出てるぞ。まあ初心者だし当たりに行ってもいいが、ロゼリー(あれ)との戦いを見るに、ありゃユニークだよな? 攻撃力が異様に上がる系か貫通系だと思うが。もしくは防具破壊か……いや、それだとロゼリー(あれ)を蒸発させるのはおかしいな。割合攻撃か?」


 ちょいちょい分からない単語が出てくるが、少し見ただけである程度推測出来るのは素直に凄い。というかユニークスキルだと何故バレたのか。


「ん? なんでユニーク持ってる事がバレたって辺りか? 能面になる必要は無いが、せめてポーカーフェイスぐらいは作れるようになっとけ。

 既存のスキルってのは攻略サイトに纏められてたりして、昔からやってるプレイヤーなら大方把握してるもんだ。勿論、有志によるものだから全てでは無いが、俺の知る限りロゼリー(あれ)を一撃死させるようなスキルはユニークだけだって事だな。そもそもさっきのは【トリプルアタック】か……あとは【ワンツーフィニッシュ】辺りだな。どちらも攻撃スキルだがダメージ倍率は弱いしな。それに…………」


 ミツルギさんから怒涛の解説が入るが、半分も理解出来ない。

 けれど知識を多く持ってる、というのはそれだけ相手のスキルやステータスを推測しやすい、って事なんだろう。


「……あー、話難しかったか? 割と噛み砕いた方なんだが。まあいい。雑談はこのぐらいにしてそろそろ始めよう」


 私の表情を正確に読み取ったのか、話を早々に切り上げ、一本の短剣を構えるミツルギさん。

 手のひらを上に向け、指をちょいちょい。掛かってこいと言っているようだ。

 うん、考えていても動かなきゃ何も始まらないよね。よーし……。


「【ダッシュ】!」


 まずは高速で拳を構えて肉薄する。ミツルギさんは棒立ちのまま、短剣を持つ手をゆらゆらとさせている。

 まずは素直に正面から攻撃してみる。


「【ダッシュインパクト】!」


 車で轢くようなイメージで体当たりを仕掛ける。腕をクロスして突っ込み、衝撃に備えたのだけど……。


「きゃっ!」


 何故か一瞬身体が浮いたと思ったら、いつの間にか地面に衝突していた。

 キョロキョロと辺りを見回すと、背後にはミツルギさんが。


「ええい、もっかい! 【ダッシュ】! 【ダッシュ】!」


 今度はジグザグに動き回って撹乱を試みる。私も【エアジャンプ】で遊んでいた時に試したんだけど、モンスター相手では意外と効果があったりする。

 勿論ミツルギさんに効くとは思えないけど、まあ物は試しだ。

 実際私を見失っているのか、視線が追い付いてない時がある。これはもしかして……?


 そうしてちょうどミツルギさんの背後に陣取り、まだこちらに気付いてはいない。チャンス! そう思って【エアジャンプ】も駆使しながら奇襲を仕掛ける。


「【トリプルアタック】!」


 私の拳が背中に当たろうという寸前のところで、頭を下げて回避される。

 私は慌てて二撃目で追いかけるが、今度は身体を90度捻って躱される。

 最後の攻撃は振り下ろすように撃ち込んだのに、何と短剣で拳を受け止め、勢いをそのままに少し軌道をずらされた。


 結果、地面に拳を埋める事になったが、短剣はグレーに変色している。

 武器が使えないならば今みたいな回避は取れないだろうと、拳を即座に引き抜いて、脇腹目掛けて【ツッコミ】を発動した。


 だけど予想は常に思っていた外側へと飛んでいく。


 使えないはずの短剣で受け止めると、さっきと全く同じ流れで背中方面へと流されてしまい、勢い余って盛大にコケてしまった。


「痛い……なんでぇ」


 コケた拍子で地味に顔面を打ち、涙目になる私に悪気を感じたようで、「ほら泣くな」とハンカチを差し出してくれた。

 頭をポリポリと掻きながらも、私が攻撃を当てられない理由と戦い方を指摘する。


「まずユイの攻撃は単調過ぎる。スキルはまあ、初心者だなって感じの内容だが、汎用性が高いもんでもある。回り込んで奇襲するところまでは良かったが、もう少しスキルの癖を覚えといた方がいいかもな。

 例えば一番始めの【ダッシュ】は、最大移動距離は約八メートル程度で、それを過ぎれば失速する。【ダッシュインパクト】は移動が直線的で動きもさほど速くない。剣の腹で投げ飛ばせるぐらいにな」


 これは前に伯爵さんが言ってた内容と同じ話かな。

 スキルの動作はある程度決まっていて、それをちゃんと把握しておくといい、みたいに言われた気がする。

 どんなものでも理解が不十分だと上手く扱えないって事かぁ……結構使ってると思ってたんだけど、まだまだ足りないようだ。


「あと、スキルに頼り過ぎているのも問題だな。ユイ、通常攻撃は普段もしないのか?」

「通常攻撃?」

「通常攻撃ってのはスキルを使わない、普通の攻撃の事だな。今の反応だとあんまりって感じか」

「はい……それって何か違いがあるの?」

「全然違うな。例えばだが、ユイはMPを使い切った経験ってあるか?」


 この問いに首を横に振る。

 今までも何度も戦闘をしてはいるが、未だに使い切るような場面に遭遇していない。


「MPが枯渇した状態だと【疲労】って状態異常に掛かる。単に動きが鈍くなるってだけのもんだが、満タン時と比べると約三割程度、移動速度が減少する事が分かってる。

 それでだ、スキルってのは多かれ少なかれMPを消費するもんだが、当然使用回数には限りがある。

 止まっていれば徐々に回復していくっつっても、戦闘中にそんな事出来ないだろ?」


 確かに。JACKと戦った時なんか止まるどころか、呼吸すら忘れそうになったぐらいだ。ああいう戦闘中にMPは回復出来ないって事だね。


「そこで重要なのが通常攻撃ってわけだ。通常攻撃はステータス完全依存だが、同時にPS(プレイヤースキル)の見せどころでもある。

 今戦ったから何となく分かると思うが、幾ら攻撃力が高くても当たらなければどうということはないし、ユニークが強力だと言っても使えなければ意味は無い。

 まあ尤も、ユイは俺と同じでスキルに影響するってよりも、自分自身に効果が及ぶタイプなんだろうな」


 ユニークスキルの中にも派閥みたいなものあるみたいで、一つは私みたいに自身に効果があるタイプ、一つはスキルやアイテムに作用するタイプ、など数種類に及ぶ。

 ただ明確な分類は無いらしいので、本当にこれがそうだ! とは言えないとの話だ。


「それに勘違いしているみたいだが、耐久値が無くなった装備でも攻撃を受けられないって事は無い。実体が消える訳じゃないしな。ただダメージが出なくなるし、効果も当然無い。

 だがスキルの発動に『剣を装備時』とかの条件達成には使えるし、灰色のままでもダメージを出す方法もあるから、これも一概には言えないな。

 そんな稀有なスキル持ってる奴も見ないだろうし、まっ、参考までにな」


 そんな人居るんだ、世界は広いなぁ。

 自分の装備が灰色になった経験はまだ無いけれど、一番身近に起こる事だからこれは覚えておこう。

 でも普通はそうそう壊れるまではいかないらしいし……うーん、最近本当に『普通』が分かんないな。基準値を知りたい。



「こんなぐらいか? ……そういや結局アイテムは使ってなかったみたいだが、ショートカットには何セットしてあるんだ? 流石にMP管理はしてるんだろ?」

「ショート、カット?」

「……おい、エース」


 今まで静観していた(たまに薬が入ったフラスコっぽい瓶は投げてた)エースの方を睨むミツルギさん。

 対して上手くもない口笛を「ぷひゅーぷひゅー」と吹かせながら、明後日の方向を見つめているエース。

 一体どうしたのか分からずにいる私に、頭を抱え考え込むミツルギさん。


「さっきからアイテム使ってないと思っていたら……普段はあれか? わざわざメニュー開いていたのか?」


 この言葉に素直に頷くと、両手で頭を支えるミツルギさん。

 何か不味い事言ったのかな?


「いや、ユイが悪い訳じゃない。教わってないようだし。

 メニューから設定開いてくれるか?」


 言われるがままスクリーンを開き選択する。そう言えばあんまり弄っちゃいけないのかな、と思って設定辺りは触らないようにしていたっけ。


「ショートカットってところを押すと、枠が三つ出てくるだろ?」


 操作すると、確かに『空き』と書かれた枠が三つと『課金で使用出来るようになります』と書かれた枠が二つ。


「その枠にアイテムをセットしておけば、スキルみたいに名前を言うだけで使えるようになる、ってのがショートカットだな。

 普通は最初に教えとくもんだが」

「うるさいなー! 忘れてたんだよ!」

「どうだか」


 ほへー、こんな便利な機能があったんだー。

 私が感動している間にも口論が続いていたが、スルースキルも大分上がってきてるのか気にならない。


 その後口論が激化して【修練所】が毒水浸しになったが、新しい技術を見に付けた私には、それほど関係のない話だった。

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