とりあえずまた巻き込まれた気がしないでもない
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申し訳ございません。
「ゼェゼェ……」
「はぁん、あぁっ」
動く事に疲れたのか、精神的に疲れたのか、あまり顔色の良くないエース。
それに対してロゼさんは恍惚としていて、最初よりもむしろ顔色はいい。なぜ……。
「全く……人の話を聞きなさいってば!」
普段なら伯爵さんから「いや、エースもじゃろ」とか突っ込むところだけど、今は絶賛放心中である。ミツルギさんが出した触ると消える不思議なチョウチョで遊んでいる。それこそ猫みたいに。私もあれ欲しいなー。
「はい! お姉様のお言葉なら是非!」
「だからね? 今は立て込んでいるからまた別の機会に、ね?」
「ならば私がそのお手伝いを致します。お姉様をお守りし、支えるのは得意分野ですわ。ですから私もギルドに」
意見を変えるつもりは無いようで、譲る気配を見せないロゼさん。
もはや何を言っても無駄かと思ったのか、エースがしょうがないなという顔をした瞬間、私の顔の方へバッと振り向く。
何かと思ってたら次第にエースの顔が笑顔に変わる。
わっるい顔してるなー。嫌な予感がする。
それが的中するのはすぐの事だった。
「あら、あなたがギルマスだったのね」
「はい……」
私を含めた全員が、ギルド内の【修練所】に来ている。
伯爵さんは完全に庭先で遊ぶ猫と化していたけど、ミツルギさんの方が早く復活した為、無理矢理担いで連れてきてもらっている。
それで、大体何故こうなったかと言えば……
「分かった。じゃあこうしよ。もしギルマスのスキルを受け切ってそれでも立っていられたなら、私の権限で加入させたげる」
「お姉様……!」
「但し! 負けたら大人しく帰って。それと私にベタベタしない!」
そう言ってる傍から、もう既に下敷きになってるロゼさん。
本人も満更ではなく、むしろ「動く椅子ですわ〜!」とシャカシャカと手足を動かして、背中に座るエースを呆れさせている。ちなみに別にエースから好んで乗っかった訳では無い。
そういう訳で、私とロゼさんが相対するように構えていた。
(はぁ、お姉様……素敵。まさか私の為を思ってギルマスに認める機会を与えてくださるなんて。
そうよね、人間関係は大事だもの。お姉様は良くてもギルマスのご機嫌くらいは取らなくちゃ。
けれど、まさか……ねぇ。こんな明らかに初心者みたいな子がギルマスなんて。傀儡政権みたいなものかしら)
「とでも思っているんだろうけど、そうは問屋が卸さない」
「…………」
ある意味良く理解している辺り、エースも心の底から嫌ってる訳じゃなさそう。言わないけど。
ロゼさんは私の攻撃を受けるだけなので、棒立ちになったままエースをじっと見つめている。
エースは鳥肌を立たせながらこっちに来る。
一応、私にアドバイスをするという事で、近寄って来ている訳だ。
「それでどうしたらいいの?」
私は思わず不安になって聞く。
ルールは簡単で、私のスキル一つを受けてHPが残っていたらロゼさんの勝ち。出来なければ負け。
フェアプレイだという事で、レベルだけは最初に伝えられた。
ロゼさんは言わずもがな、ってやつだけど、まあ普通に50だった。私の周りの人達、レベル高くないかな?!
でもレベルだけ高い人はいっぱい居るらしいので、別に珍しい事じゃない……はず。
逆に私のレベルを聞いたロゼさんは、心配そうな表情をしていたが、同時に余裕の笑みを浮かべていたのは見逃さなかった。
「ロゼは心底油断してるからね。思い切りやっちゃえばいいよ」
「でも、スキル一つだけなんだよね? レベルも高いのに大丈夫かな?」
「大丈夫大丈夫。あれは伯爵と同じ壁ステだから。自信持って!」
なんて言われても……。
でも確かに伯爵さんと同じならば行ける気がする。
前のイベントの時も、普通に伯爵さんを倒す事が出来ていたからだ。
全く同じって事は無いんだろうけど、これでも私も成長した方だ。
スキルだって比べ物にならない、とまでは行かないけど、結構強くなってると思う。
装備も……これは私の力じゃないからなぁ。いつになったらお金返せるんだろ。
ともかく、だ。また巻き込まれた気がしないでもないけど、私を頼ってくれているんだ。全力で応えないと!
そこで私は考える。
エースの”スキル一つ”の意味を。
数を決めるのは分かるけど、それでも一つというのはどうなんだろ。
ロゼさんにはもう、私が初心者だって分かっているはずだし、それならもう少し使ってもいい気はするけれど。威厳の問題? いやぁ無いかな。
でも伯爵さんと同じなら……。
「さて、考えは纏まったかしら」
「……はい、いつでも」
「レベルの若い方っていいわよね。無垢で、純真で、そして世間知らずで」
先程のエースを見る敬愛の眼差しは鳴りを潜め、今は私を突き刺すような鋭い視線へと変わっている。
雰囲気もほんわかしたものから一変し、ピリピリと肌が逆立つような威圧感がある。
「”レベルの差は関係ない”はどこのブロガーの言葉だったかしらね。確かにそれは関係はありませんわ。低レベルでも装備と経験を持つサブ垢に負ける事もある。
しかしあなた……。先程から見るにギルドを背負う者としての誇り、自信、所作に至る全てが、まるで初心者のそれですわ。
あなたのような方がお姉様を副マスに置いておくなんて暴挙はお辞めなさいな。
力量も判断出来ず、かと言ってギルメン同士のいざこざを鎮める事もしない。お姉様の方がよほどギルマスに向いていますわ」
めっちゃ正論言われてる。それに煽られてる。
ギルマスなんてやりたくなかったけど、確かに実力とか云々で言えばエースの方がいいと私は思う。……纏まらなさそうだけど。
でもこの中だと伯爵さんが一番いいと思うけど、そこはお姉様推しなんだね。
でも、ここまで言われる筋合いは無いので、私のほんのちょっぴりだけ言い返す。
「……口が達者なんですね。でも、それは勝負で勝ってから……に……ひぃっ」
めっちゃ怒ってる。めっちゃ睨んでる。めっちゃ雰囲気がビリビリしてる。
で、でも負けないもん。エースは渡さないんだから!
緊張で微妙にズレる私の思考。
対してロゼさんは涼しい顔をしている。絶対耐え切る自信があるんだろう。普通に考えれば。
ロゼさんから【デュエル】の申し込みが届く。
内容はエースが先程言った内容の通り、勝てばギルド加入、負ければ大人しく帰るというもの。アイテムは禁止。他の人が介入するのも禁止。途中でリタイアするのも禁止。
ただ、ベタベタするくだりは認めないらしい。エース的にはそっちのが重要だと思うけど。
まあいいや。困ってるエースは割と新鮮なので、たまにはいいだろう。
私が『はい』を押すと【デュエル】が開始された。
「どうぞ、掛かってらっしゃいな」
「じゃあ……遠慮なくっ!」
地面を思い切り蹴ってロゼさんへ向かう。
動かない相手にやる必要は無さそうな動作だけど、一応勢いがあるほどダメージにも補正が掛かるんだとか。
そうして射程距離まで到達した辺りで、拳を引いて構える。
放つスキルは……
「【トリプルアタック】!」
拳が命中する直前、ふんっと鼻を鳴らしたのが見えた。明らかに嘗めている様子だけど、さっき自分が言った事を覚えていなさそうだ。……あまり強く人の事は言えないけれど。
一撃目が腹部にメリメリと入る。
この時点でロゼさんから余裕の表情が消える。
そりゃそうだろう。何せ服が一撃で灰色に変わったのだから。
伯爵さんに教えられた事だけど、どんなに耐久力を削るスキルを使っても、満タンの状態からゼロにまで持っていくのは存在しないらしい。
高レベルのプレイヤーは勿論、耐久力を削るスキルの存在を知ってるので、ある程度の戦闘を終えた後は鍛冶屋や【鍛冶師】の称号を持つ人のところへ行き、必ずメンテしているそうだ。
私の【シンプルシリーズ】一式も、なんだかんだで耐久値が減ってきている。
序盤はそれほど気にせず、完全に壊れたら直しに行けばいいとの事だ。
そして二撃目。
耐久力を失った箇所へ再度拳を入れる。
これが実戦なら、相手はそうそう同じ箇所に攻撃を入れさせてくれないんだろうけど、今回はそうじゃない。
エースがロゼさんに「ハンデなんだから動かないでよね」と言ったせいか、律儀にそれを守っている。
別に【デュエル】内容にそんな事書いてないんだから動けばいいのに、とも思うけどそれがロゼさんなりの矜恃なのかな。
でもそれを証明するかのように、ロゼさんはこれも耐えてしまった。
イベントの時の伯爵さんと同じような状態なのに。まさか私みたいに【忍耐】を持っているのかな?
よく見ればHPがギリギリ残っている。加えてそのHPが何故か回復していってもいる。
だけど【忍耐】は、一度使えばHPを全て回復させなきゃ発動しなかったはず。
ロゼさんの顔は驚愕に彩られており、多分理解が追い付いてないようだ。
そして、三撃目。
もはや余裕の欠片も無く、更に顔色が悪くなってるロゼさん。
若干、私を見る表情が先程までと違う気がする。頬がちょっと紅潮しているのは気のせいか。
けれどスキルは一度発動させると途中で解除出来ない。
心の中で「これも勝負だから、ごめんなさい」と謝りながら、私の拳は腹部へと吸い込まれていく。
そして攻撃がヒットしたと同時に、今までとても重く感じられていたロゼさんの身体が、凄く軽くなってる事に気付く。
地に足つけていたのが、最後の攻撃で少し浮いてるみたいだ。
踏ん張りも虚しく、端の方まで吹っ飛んでいくロゼさんに追い討ちとばかりに、いつもはなかなか発動しない【黒炎招来】が、ロゼさんの元へ五発飛んでいく。
完全にやりすぎである。
ロゼさんが倒れた場所で爆炎が発生し、舞い上がった石がパラパラと落ちてくる。
しばらくすると【デュエル】終了を報せるスクリーンが表示される。
ロゼさんの方を見ると、既に砂煙も収まり、倒れてピクピクする姿が目に映る。
HPがもう完全に回復しているのは【修練所】の効果で、HPがゼロになっても瞬間的に元に戻る。
けれど勝負には特に影響無く、一度ゼロにしてしまえれば問題無い。
私の不安とは裏腹に、何事も無く勝ててしまった。
未だ起き上がらないロゼさんを心配した私は、恐る恐る近寄ってみる。
エースは「危ないよっ!」と、まるで爆弾に触るのを注意するような真に迫るものがある。
ミツルギさんも「ほっとけほっとけ」と手を振るが、やっぱり気になるものは仕方ないので、様子を見る事にした。
近づくにつれて、その様相が顕になっていく。
目を瞑り短く吐く息に、成長期のような膨らみが普段より少し早く上下している。
顔色は全体的に赤みがかっていて、元々が白い肌なのも相まって酷く官能的だ。
近寄っているのが男だったら、間違いなく犯罪臭のする光景になっていただろう。
私の妄想力が謎の回転を発揮していると、少女がようやく身体を起こす。
改めて見ても、お人形さんのような整った顔立ちに可愛い服装で、相当なこだわりを持っている事が窺える。
黙っていれば可愛いのに、と思うが、親友も同類なので何とも言えない気持ちになる。
「大丈夫かな? どこか具合悪い?」
普通なら怪我を心配するところだけど、ゲームだしそういうのは無いから、何か立ち上がれないバグ? でも起きているのかと前屈みで手を差し出す。
その手をゆっくり両手で掴むロゼさん。私はなるべく力を入れないようにして立たせる。
STRに振った影響なのか、現実の私よりも遥かに膂力が優れている。
その為、こういう場面では一応気を付けている。エースとか伯爵さんには何も配慮とかしないんだけど。
立ち上がったロゼさんだが、何故か手を離してくれない。それにずっと私の顔を見つめている。なになに? どうしたの?
困惑してエースの方を向けた瞬間、首に妙な温もりを感じた。
一体何が……そう思って顔を戻す私の目と鼻の先にロゼさんの顔。
どうやら首に両手を掛けているようで、咄嗟に後ろに下がろうとしたが離れる事が出来ない。
焦燥感に駆られる私にロゼさんは囁く。
「お慕い申しております、ご主人様ァ」
甘く優しい声と共に、その唇が私へと迫るのだった。
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