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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第六章 ギルド対抗戦
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とりあえず久々のモンスターと新たなスキル

 私は何となく湖都に来ていた。

 というのも、昨日色々あったせいか、なんだか一人だと心細いのでフレンドに、つまりは白亜さんが居ないかなと思っていた。

 が、そもそも連絡が取れない時点で会える訳が無い。

 伯爵さんも居らず、モジュレさんも忙しいみたいだし。


 事後処理とかなんか色々用事が残っているみたいで、私も手伝う事は無いかなと思ったけれど、やんわりと断られてしまった。

 まあ、元々私にはあんまり関係なかったんだけど、それでも少しは関わった仲なんだから……とも思っちゃう。

 この辺はエースが心配とか負担とか云々言ってるんだろうけど。


 青薔薇さんともあれから会えていない。昨日の今日だけど。

 元々手段が無い、訳じゃないようで、ミツルギが連絡先を知ってると言っていたので、本当に会えない訳ではないんだろう。

 けれど多分、会ってはくれないんだろうなぁ。


 ミツルギはフレンドに会いに行くと言っていた。多分、例の雇い主。付いて行っても特にやる事も話す事も無いだろうから、と同じく断られている。

 なので私は絶賛ぼっちなのだ。久々の一人なのでとても寂しい。

 こういう寂しい人をソロと呼ぶらしい。

 ソロプレイヤーのユイ参上!……うん、エースが居ないとボケも虚しいだけだなぁ。

 エースは部活の人に捕まってるらしい。今日は遅くなりそう。



 という訳で、レベル的にもちょうどいい湖都周辺でレベル上げに勤しんでいる。他にもプレイヤーは複数居るが、その中でも私だけ少し浮いている。それは何故かって?


 皆が装備している武器は、よくお店で売っているような装飾も無い地味なものに対し、私のは明らかに強そうなのを身に付けているからだ。


 ミツルギにも言われた事だけど、低レベルのプレイヤーが強い装備を身に付けると、まるで自分の力でも無いのに強くなった気になり、己を磨く行為をサボってしまうんだそうだ。

 しかも、寄生──パーティーを組んで誰かに任せてレベルを上げたりアイテムをもらう行為──で育ったプレイヤーは、装備の割に技術や立ち回り、知識などが不足して、全く使えない人になるという。

 現実で言うところの、実家住みのニートが社会に出ると何も出来ない、みたいな(ミツルギ談)


 なので、ある程度の立ち回りを身に付ける為にも、普段から戦闘はそこそこでいいからこなしておけ、との事だ。これにはエースも同意している。物凄く不本意な顔してたけど。抱きしめたら治ったから、今はそうでも無い。


 あと、レベル上げをしばらくしたらギルドに戻ってこい、帰ったら戦闘を見てやると言ってた。

 伯爵さんみたいに指導してくれるのかな?

 ともかく今はレベル上げだ。


 次のイベント……というよりは、イベントはエンドコンテスト? とかいうものらしい。なんか違う気がする。エンド……、エンドコントラスト? うん、またちゃんと聞いとこう。

 要はレベル上げも装備集めも全て終わった人がやる遊びみたいなもので、目的はプレイヤーを飽きさせない為、強い装備などの目玉商品で気を引く為など様々あるようだ。

 なのでそれに参加する人は、どちらかと言えば高レベルの人が多い。勿論、運営さんは初心者でも参加出来るようにと、あれこれ調整はしているらしいが、やはり大半は……という事だ。悲しいなぁ。


 エースはお祭り気分で参加すると思うけど、でもどうせなら勝ちたい。

 優勝は無理でも一回ぐらいは、と思う訳だ。


 JACKと戦闘した時、青薔薇さんの助けがあったとはいえ、私は私が思っていたよりも動く事が出来た。もっと足が竦んで動けないとか、殴るのを躊躇ってしまうんじゃとか思っていた。……私、危ない人なのかな?

 そんな話を現実で一華に相談したら、これがゲームと思っている内は問題ないらしい。でも稀に現実とゲームの区別が出来なくなる病気もあるから気を付けて! とも言われた。

 笑い話で終わったが、よくよく調べてみると、『現実世界でもゲームと同じような動きをしてしまう』や『傷を負った時、回復アイテムがあるから大丈夫と思っていた』とかの記事が出てくる。いずれもゲーム慣れしている人に起こりやすい、VR特有の症状らしい。

 そう言えば……前にも一華がショッピング中に「あの食材は120palぐらいか」とか言っていたのも多分これだろう。

 VR性現実混同症候群、みたいな名前だった気がする……合ってるかは定かではない。

 まあともかく、ゲームもやり過ぎると良くないって事だ。そこまでの症状が出る人も、感情移入しやすい人とか長時間やり続けた場合とからしいし。


 とか思いながら、何処か適当なモンスターは居ないかと見渡していると、森の近くに二足歩行している緑色の何かを発見した!


 遠目じゃ分からないので、気付かれないよう細心の注意を払いながら近付くと、ミニゴブリンと表示される。

 ミニゴブリン……確かメモに書いてあったような……というか、大体の事は書かれているんだけど。

 でも、メモばっかり見るのは何かなぁ……。


 よし! と意気込んだ私は、まずは最初は何も見ずに戦ってみる事にする。

 メモに頼るのは別に後でもいい。本当に行き詰まったら見よう!


 そうして小さく、えいっえいっおーっとガッツポーズをした後、ミニゴブリンを観察する事にした。



「えっとー、武器はナイフ? と、あと背中に弓もある。防具は何も着けてない、よね?」


 モンスターによっては装備を身に付けている事がある、というのはエースのメモを読んで知った事だ。

 なんでも、ドロップするアイテムの中に装備がある場合、モンスター自身が身に付けている場合がある、との事だった。勿論、違う場合も。


 そして装備から、ある程度相手の攻撃範囲を読む事が出来る、と伯爵さんから教えられている。

 ナイフなら接近戦になるとか、弓なら遠距離から攻撃出来るとか、その程度の知識なんだけど。


 だけど今持っているのはナイフの方であり、弓は背中にある。

 つまり少なくとも、今は接近戦しかしてこないはずだ。


 とそこまで考えて、ミニゴブリンの方を見る。

 行動は一定して、少し動いてはキョロキョロ、少し動いてはキョロキョロ、を永遠と繰り返している。

 これなら何とか気付かれずに、後ろから攻撃出来るな、と私はコソコソとミニゴブリンの背後へ回る。……私、傍から見たら怪しい人だなぁ。


 そして私は、【トリプルアタック】を発動した!


「やああぁぁぁ!」


 一撃目がミニゴブリンの後頭部を直撃するも、二発目、三発目は素早く避けられてしまった!

 勿論の事だけど、ユニークスキルはオフにしてある。経験値入らないしね。

 ミニゴブリンは私の攻撃一発でHPが半分を切っていた。あと一発当てられれば倒せる。そう思って気持ちが焦っていたのか、急いでミニゴブリンに近付く。

 しかしミニゴブリンは私よりも素早く、かつ距離を少しずつ離していく。

 このままでは不味い! と【ダッシュインパクト】を使った直後、私の肩に衝撃が走る。

 ちらりと右肩を見ると、そこには深く突き刺さった弓矢があった。


「ううっ」


 遅れて痛みが少し走る。弓矢を引き抜いたがHPが徐々に減る。

 ステータスを確認すると、どうやら【毒】に掛かっていた。

 そんな効果もあったのか、と驚きとしてやられた感で悔しくなっていると、何処かから弓矢が何発も飛んできた。


 慌ててゴロゴロと転がりながら避けると、弓矢がさっきまで居た場所にプスプスと突き刺さる。

 危なかったぁと思うと同時に、前にユニークスキルの検証中に受けた伯爵さんの教えを思い出す。



『弓を使う相手が攻撃してきた時、その刺さった弓矢の方向を見れば、相手の位置がおおよそですが把握出来ますよ』



 私の記憶力もたまには役に立つなと思うけれど、こんなギリギリのタイミングじゃなくてもいいんじゃないか。

 そんな誰にツッコミを入れているのか分からない思いを今は押し殺し、弓矢を見る。

 弓矢は全て同じ方向を向いていて、角度的に上から飛んで来ているような……。


 そう思って上を見た瞬間、木から飛び降りたのか、空中でナイフを構えるミニゴブリンの姿が。

 だけどこんな事では臆さない。だって、つい昨日までの出来事の方が、私には衝撃の連続だったんだから。


 私は静かに、しかし確実にミニゴブリンを視界に捉えながら拳を構える。

 そしてある高さになったところで、私は【ハイジャンプ】を発動する。

 ミニゴブリンが急接近する……が少し早かったようで、私の攻撃が届かない位置で止まってしまう。

 このまま落下したら、きっとあのナイフを突き立てられて……。嫌な想像が私の頭に流れる。


 もっと高く、もっと! そうして足をばたつかせていると、何か地面のような固い感触が伝わってきた。

 地面まではまだ遠い、なのにこれは一体……?

 そう思ったけれど、私は迷わず踏み切った。


「はあああああ! 食らえええええ!」


 ミニゴブリンの頬を思い切り殴りつける。

 するとミニゴブリンは、車に轢かれたかのように吹き飛び、そして木に激突すると淡い光となって消えていった。


 そして私は背中から華麗に着地した。痛い。


 けれどその痛みも束の間で忘れる事となる。何故なら──


『【スキル:エアジャンプ】を取得しました』


 私はまた、新しいスキルを得た事で喜びに満ちたからだ。



エンドコンテンツ。

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