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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第五章 vsゲリラ豪雨
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とりあえず再会

 光の粒が虚空に溶けていくのを見つめる。ようやく一段落ついたと思うと同時に、自分が相手を倒したという実感が湧いてくる。


 本当に、上手く行くとは思っていなかった。


 伯爵直伝(?)の空中からの急降下攻撃。相手が地上に目を向けている隙に、死角から攻撃するという単純な策だったけれど、どうやら私の賭けは成功したらしい。

 掲げた拳を胸元まで持ってくると、ふーっと一息つく。少し落ち着いた私は、よく見れば両手両足ガクブルだった事に気付く。急に力が抜け、後ろに倒れると背中を支えてくれる翡翠さんとモジュレさんの姿。


「いやー、まさか成功するなんてね。お姉さんびっくらぽんだぁ」

「お疲れ様。お見事、と言う他無いわ。今は回復に努めなさい。その間は私達が安全を約束するわ」


 遅れて続々と集まるkuraraさんとギルドメンバーの皆。最初に比べると残りは半数どころか十数人しか居ない。それだけ相手が手強かったという事だ。

 空を見上げゲージを見ると、互いの人数はようやく半数を切ったというところ。こちらがやや劣勢だけど、相手もかなりの数を減らしている。


(こんな戦いがまだ続くのかぁ……)


 脱力しながらもこの先に待っている戦いにウンザリしながら、私は少しの間だけ安息を得た。





「ハァハァ、kuraraたんカワユスなぁ」

「翡翠、暑い、どいて」


 HPとMPが満タンになった頃、割と近くから翡翠さんとkuraraさんの声がする。何処から出したのか、いつの間にか木製の椅子に腰掛ける翡翠さんと、その膝の上に座らされて後ろから抱きつかれているkuraraさん。私が「なにこの状況?」と首を傾げていると、翡翠さんがこちらに気付く。


「お〜ユイちゃん、お目覚めか〜い」

「あ、はい。だいぶ回復出来ました。ありがとうございます」

「どいたま〜」

「ところでこの状況は?」

「翡翠のスキルの反動」

「そうなんだよね〜いや〜参った参った」


 なんだかフニャついてる翡翠さんに代わってkuraraさんから話を聞くと、さっき私に掛けてくれた【限定解放リミット・リベレイション】というスキルが原因らしい。何でも、他人に掛けると【弱体化】という状態異常になり、更にスキルの効果終了後、【吐き気】と【眩暈】になるとの事。

 で、何故こんな状況になっているのかと言えば、翡翠さんは何かに抱きついていると【吐き気】が治まる(リアルの話)らしく、ちょうど抱えやすいkuraraさんを取っ捕まえて休息中なのだとか。

 ちなみに【吐き気】はアイテムの一部使用制限、【眩暈】はクラクラしてバランス感覚が曖昧になる、【弱体化】は全ステータスの低下。どれもほっとけば勝手に治るものなので、心配は要らなそうだ。

 そこへモジュレさんがやってくる。


「あら、もういいの?」

「はい。色々ありがとうございました」

「ふふっ、お礼を言うのはこちらの方よ」

「ふぇ?」

「私ではそもそもダメージソースが殆ど無いし、kuraraさんじゃ火力不足、翡翠さんも有効打になるスキルを持っていなかった。けれど、貴女の攻撃は的確に核を潰していた。正直びっくりしたわ。一体どんなスキルを使ったのかしら?」

「んー……まあ言っても問題無いのかな? えっと、【幻視】ってスキルなんですけど」

「えっと……んん?」


 モジュレさんが何故か首を傾げる。膝の上に座らされているkuraraさんも、ジト目になりながら「?」を浮かべている。


「あれ? もしかして知らないスキルでしたか?!」

「あー、いえ、効果は知っているのよ。けれどあれはゴーストとかを見る為のスキルでしょう?」

「あと、透明になる奴とか」

「そうよね。どちらも序盤では厄介だけれど、面攻撃が出来るようになれば、そもそも見る前に倒せるものね」

「音でも判断出来る」

「わざわざスキル枠を一つ潰してまで取るようなスキルじゃない事は確かね。でもそれが……まさか」

「多分、そのまさか、かと」


 何か思っていた反応と違う。もっとこう、そういう使い方かぁ〜的な感じかと思っていたら、二人して議論を始めだした。


「確かに『四つの核』は”見えないもの”に該当する事になるわね。ユイさんのレベルから考えると、スキルレベル自体は低いはず。それで見えるって事はユイさんが──」

「いや、決め付けるのは時期尚早。何回も試行を重ねても実験すべき」

「そうね。もしかしたら新しいスキルのコンボも見つけられるかも知れな──」

「あー、お二人さん? 白熱するのはいいけど、【吐き気】状態の私の近くで議論しないでおくれー。ナイアガラしちゃうぞー」

「止めて」


 唐突に始まった議論を制した翡翠さん。このままどこまで行くんだろうと思っていただけに、ちょっと安心するギルドメンバーの皆と私。


「さて、そろそろ皆も回復した事だし、次の場所にカチコミだー!」

「皆翡翠待ちだったと思うけど」

「細かい事は気にするな、それワカチ……ゲフォ」


 Kuraraさんの零距離射撃が翡翠さんのお腹にクリーンヒット。膝から崩れ落ちる。


「モジュレ、次はどこ行く?」


 そして何事も無かったかのように、モジュレさんに行く先を問う。うつ伏せで倒れた翡翠さんは、地面に「そんなドSなところも好き」とダイイングメッセージを書いている。

 モジュレさんは見ないふりをするらしい。


「そうね……さっきユイさんが回復している間、伊達さんから報告が送られて来ていたわ。最初から言われていた事だけど、この川に沿った先に奴が居るとの事よ」

「ん、ならそこへ向かおう。きっと皆もそこに向かってるはず」

「ええ、私達も行きましょう」


 そうしてモジュレさんを筆頭に、川沿いを歩く事にした私達。「一応壁には使える」と言って、翡翠さんに何発も弓矢を放ち吹き飛ばしながら歩くkuraraさん。何度か吹き飛ばされた後、急に起き上がり、「くっ、kuraraたんの冷たさがマッハ」と呟くと、私を盾にする翡翠さん。でもあの物凄く曲がる弓矢で攻撃を続ける。当たりそうで怖いんだけどなぁと抗議すると、「FF(フレンドリーファイア)設定されてないみたいだから、当たってもダメージは食らわないさ! 痛いけどね!」と爽やかな顔で言われた。やっぱり痛いんだ……。


 そんな攻防を続けながら川沿いを歩き、道中いい加減にしなさいとモジュレさんに怒られながら、ひたすら歩いていくと、ギルドメンバーの一人が大量の虫の死骸を見つける。

 警戒しながらも、死骸が散乱している方へと向かう。もしかしたら誰かが戦闘しているかも知れないからと注意され、再び緊張にさらされながら怠らないで進む。

 すると前方に開けた場所があり、枯山水みたいな模様が、中央の方から水の波紋のように描かれている。……よく見ると蜂とか蛇の死骸なんだけど、気にしたらいけない。

 鳥肌を抑えながら皆に着いていくと、先頭のモジュレさんが片手を上げ制止を促す。


「中央に誰か居るわ。貴方達はここに居なさい。様子を見て……ってユイさん!?」


 モジュレさんの話を聞く前に走り出していた。あの姿……、間違いない。私は無我夢中で近付いた。





「あー、流石に【勝者はただ一人(蠱毒)】はやりすぎたなぁ。MPもすっからかんだし。早くユイと合流したいのに」


 ──!


「そろそろヤバイなぁ私。なんか幻聴まで聴こえてきたよ」


 ──……ス!


「なんか向こうから見覚えのある顔が」


「エース! エース!!」

「あ〜、遂に私も天国に来てしまったのか。マイエンジェルが私の名前を必死に呼ぶ姿がとても愛らし──げふっ」

「エース! エ゛ェズゥゥゥ!」

「ちょっ、まだ回復中だからタックルはッ……」

「エース、私頑張ったよ! 相手、倒す事が出来たよ! でも凄く、すっごく怖かった。怖かったよぉ……」

「ユイ……。うん、よしよし。頑張ったね。ごめんね。大事な時にいつも側に居てあげられなくて」

「ホントだよ……もう、離れたりしないでね」

「うん、約束するよ」


 頭を撫でられる感触が心地よくて。抱きついた温もりが優しくて。

 私は人目も気にせず大泣きした。

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