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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第五章 vsゲリラ豪雨
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とりあえずユイの戦いⅡ

 ユイの攻撃により触手が弾け飛んだ直後。

 全ての触手を一度、自分の元へと集める✝︎フォース✝︎はユイのスキルを考察していた。


(なんだ、あのスキルは)





 ✝︎フォース✝︎は慎重な男である。

 見た目と言動で突発的な行動をすると思われがちだが、その戦闘スタイルは実にねちっこくいやらしく堅実である。


 ユニークスキル【憑装】は、厳密に言えば従えたモンスターのみを自身と融合させるスキルである。ステータスは【憑装】したモンスターに依存し、更にその特性やスキルも多少使える。

 ベースは人間の形に【憑装】したモンスターの特徴が追加される為、極端に身体が大きくなったりなどはしない。

 今回の場合、ヘドロヒグロというスライムの特性である『四つの核を破壊されない限りHPが減らない』のと、『触手による遠距離多重攻撃』が追加された状態となっている。


 ヘドロヒグロの触手には常時酸攻撃が発動している。これは触れるだけでダメージを与え、容易に防御を貫く。触手や身体は、例え攻撃を受けても『四つの核』のどれか一つでもある限り、元通りに再生する。また、触手を広範囲にまで伸ばし、周りを囲い、逃げ場と戦闘領域を制限し、相手のペースを作らせない。更にスキル【突爆刃(とっぱじん)】には麻痺を付与し、追撃の触手で確実なトドメを刺す。

 他の幹部のようなド派手な戦闘では無いものの、確実な成果を挙げる。そして不可視の状況に置かれたその時、彼はまず考察を開始する。


(あのスキルはなんだ?)


 ✝︎フォース✝︎は考える。モジュレや”悪食”のギルドメンバー達のスキルはおおよそ把握している。

 モジュレの持つユニークスキル【絶対音感】は、本来二つ以上ある効果がランダムで発動するスキルに対して、任意の効果を選択出来るようになるというもの。

 普段よく使っている【即興強化(トッカータ)】も、攻撃力か防御力を上げるというランダム効果だが、彼女は任意の効果を状況に合わせ選択出来る。常にルーレットを好きな数字で止められる、と言えばその強さが分かるだろうか。彼女の前では博打スキルであっても、リスク無しの強スキルへと変わる。

 ただデメリットもあり、そもそも音に関連のあるスキルにしか使えず、更に音によるダメージが増幅する。与える方だけでなく、受ける方も。

 また、本来ダメージ判定が無い”地面を攻撃して爆発した時の衝撃音”などでも微量のダメージを負ってしまうようになる。まあ、この程度のデメリットでこの効果なのだから、少々不釣り合いに感じる気もするが。


 故に彼女のギルドメンバーは主に『音』に関連したスキルを保有しており、ギルドマスターの補助を得て多大な威力を発揮している。逆を言えば、そこへ攻撃を収束させればいいが、弱点を知っていてわざわざ晒す訳も無く、円陣を組むように配置した彼等はモジュレを中心として戦闘を始めた。


 厄介だったのはkuraraというプレイヤー。以前戦った時に比べ、こちらの挙動を(つぶさ)に観察し、触手攻撃の尽くを弓矢という弱小武器で叩き落としてみせた。

 弓矢は遠距離の代表格として、β版から愛用されてきたが、近年スキルの強化やユニークスキルの登場により、影を落とした悲しい武器の一つである。それ故に情報が少なく、こうして相対するまでその強さに気付きもしなかった。


【歪曲射】、だったか。【曲射】は見た事は幾度もあったが、まさか真後ろから矢が飛んでくるとは思いもしなかった。【憑装】していなければ、今頃頭に矢が刺さっていた事だろう。


 だが反対に、”悪食”の元ギルドメンバーの一人、翡翠という奴は情報通り口ほどにもない。

 この女の得意分野は足止めと腐食攻撃。足止めによく使うのはバレンタインイベント時に配布された【相性バツグン(ラブ・マグネット)】。ふざけた名前通りのふざけた効果で、発動すると近くのプレイヤーを恋人繋ぎで抱き合わせる、という拘束系の一種。この『近くのプレイヤー』だが、例えば男と女が居る場合、その二人がフレンドかギルドメンバーで無い限り効果は無効化される。

 つまり大体の場合、男同士か女同士が抱き合う形になる訳だ。しかも効果は10秒。回避可能。

 こんなクソスキルを採用している時点で、脳みそ腐っているんじゃないかと思うところだが、更に腐食攻撃が得意という。

 だが生憎、スライムの身体にはほとんど効かず核にも届かない。故に彼女は、後衛でアイテムによる回復に努めているようだった。


 そしてこの戦闘の中で、唯一✝︎フォース✝︎が危険視していなかったプレイヤー──それがユイだった。


 OOOに置いて、レベルはそれほど重要視されていない。

 確かにレベルやステータスによるスキルはあれど、殆どは汎用性に特化した平凡なスキルでしかない。

 このゲームはスキル至上主義と言っても過言では無い、✝︎フォース✝︎個人で言えばそう思っている。たった一つのスキルで戦場を無双する事が出来るほどである。これは別に例えでも何でもなく、事実、それが可能な者が存在するからである。


 ここまでスキルが重要だと言ってきたが、ならば何故ユイを危険視していないのか。それは✝︎フォース✝︎の持つスキル【鑑定】によるところが大きい。



【鑑定】

 対象の情報を読み取る。アイテムに使った場合は効果を、素材に使った場合は生産や製造先を、プレイヤーに使った場合はスキルの幾つかを見る事が出来る。

 自分に使うと今の機嫌、体重、お腹のすき具合、将来ハゲになる可能性、etc……



 自身に使う時だけ要らない情報を多量にテロされるので、視点を固定されるスキルには注意しなければならない。それ以外は実に有能なスキルだ。そうだ、ハゲるなんてこのアバターのせいに決まって……。



【鑑定】で覗き見たスキルは相手と自分のレベル差によって開示される数が違う。よりレベルの低い相手ならば、ほぼ全てを覗き見る事が可能である。それによれば──



 ユイ Lv.20

 スキル:

【ダブルアタック】【トリプルアタック】【ダッシュ】【ハイジャンプ】【ツッコミ】【くすぐり】【極稀な奇跡(クリティカ・ラッキー)】【忍耐】【根性】



 ちなみに個数までは把握出来ない為、実際にはこれが最大なのかは検討がつかない。また、レベル差によって見れる数は変わるもののランダム性があり、見る度に変わる。一度見たプレイヤーは12時間間隔を空けなければ、再度使用出来ないなど、割と厳しめの条件も存在する。

 しかし、初見である程度のスキルを知り得るだけでもかなりのアドバンテージであり、戦闘スタイルやアイテムなどでも対応しやすい。

 そしてユイのスキルを見た瞬間、✝︎フォース✝︎は『相手にならない』と評価を下していた。


 覚えているスキルにも取得場所やステータス依存のものがあるのだ。ユイの場合、その殆どがステータスに由来する物である。つまりレベル相応のスキルしか持っていない。

 これまでの戦闘スタイルや青薔薇や部下からの報告でも、ガチガチの初心者であり、プレイ歴も少ないのは知っている為尚更である。なので一応記憶しておく、程度だったのだが……。



 常套手段である【突爆刃(とっぱじん)】を、自身が盾となり身代わりとなった時は特に何とも思っていなかった。HPが擦り切れるも耐えきった時も、【鑑定】で知り得た【忍耐】の効果だろうと思ったし、麻痺が効かないのも白炎と装備を見て理解していた。しかし、だ。幾らレベルはあまり重要でないと言っても、触手を弾くほどの【STR】は無いはず。ましてや弾け飛ばすなど。

 ここで✝︎フォース✝︎の意識下にユイの存在が現れる。


 おそらく【STR】に振った、もしくは振り切ったステータスなのだろう。装備的には黒炎の発生率を上げる為、【AGI】にも振るものでそう思っていたが、振り抜いた腕を見てそれは無いなと別の疑問へと移る。


 確かに【STR】に振り切ったステータスならば触手を弾くのは可能だ。しかしスライムの特性上、拳撃や斬撃はダメージが半減される。初期の森に居るスライムには、まだこの特性は無いが、本来有効打になり得ない攻撃だ。爆撃や貫通ならばまだしも。



 ふとユイの方を見やる。翡翠がアイテムを使って回復をさせている最中のようだ。流石に考え無しに突っ込む馬鹿では無い分、ある程度戦闘の手ほどきを受けていると見るべきか。

 スキルは結局何なのかは分からないままだ。装備から言っても、見知った効果の範疇では無いのは明らかだし、【極稀な奇跡(クリティカ・ラッキー)】のように確率で発生するものかも知れない。

 青薔薇の情報では『ただの初心者であり、警戒すべき点は無い』などと報告してきたが、アイツはどうも信用ならない。兄貴に反抗的で、そのクセ自分の意見を持っているのにも関わらず、付き従う事しか出来ない。


「警戒すべき点は無い、か。今思えばその時点で疑うべきだったな。少しスタイルを変えるとしよう。どのみち、必要なのはモジュレだけだからな」


 ✝︎フォース✝︎は狙いをモジュレでは無く、ユイへと変える。無数の触手が襲いかかったのは、ユイが回復を終えた直後の事だった。





 相手の触手が何故か私目掛けて一斉に飛んでくる。モジュレさんを庇った時より明らかに多い。


「きゃっ!」


 私は思わず腕をクロスさせる形で、咄嗟に【ダッシュインパクト】を発動させる。それに合わせ、翡翠さんのスキルも飛んでくる。


「【腐付符(ふふふ)】」


 翡翠さんが腕を伸ばすと、私の腕にお札のようなものがピタッと貼り付けられる。けれど確認する余裕は無いので、そのまま相手の懐目掛けて突進する。伯爵さんとの訓練で教わった事だけど、物量でしかも遠距離で攻めてくる相手とは、なるべく距離を開けない方が良いらしい。

 だけどあの攻撃に当たったら……いや、考えるな。前に……、前に進むんだ。


 触手の壁に一度当たったけど、思っていたほどのダメージも衝撃も無い。相手は何か顔を顰めてるみたいだけど、一体……って、わわっ!? 横からさっきの刃が左右から飛んできてる!


「【遁走曲(フーガ)】」


 その時、モジュレさんの声と共に、なんだか中学校で聞いた事のある曲が耳鳴りのように聴こえてくる。微妙にアレンジされているけど。……髪の毛?

 でも何故か途端に体重が軽くなったような気がする。私は勢いよく踏み込むと、まるで重力が無くなったんじゃないかって思うほどのスピードで、目にした景色が変わっていく。そのまま直進する先に人が居るが、身体が軽くなったせいなのか、上手く止まる事が出来ない。

 そしてその先に居たギルドメンバーの人達に激突。クラクラしながら「大丈夫?」の声に、「ひゃい」と気の抜けた返事を返す。

 ようやく冴えてきた頭で相手を見つめると、何か怒ったような表情で困惑している姿があった。





 触手を束ねた攻撃『【収束砲】』。普段なら四方八方に散らして、じわじわと追い詰めていくものだが、それらを一まとめに放つ事で威力と貫通力を得る事が出来る。先程は『モジュレを捕獲、それが無理でも行動不能』に陥らせる為、わざと手を抜いた攻撃をしていた。

 しかし狙いを定めた彼は、一撃必殺で倒すと意気込み攻撃を仕掛けた。結果は言わずもがな。しかもこの時、核の一つを潰されたのだ。

 ヘドロヒグロの特性である『四つの核』。これは普通、スライムの身体であれば半透明の為、目視で確認出来るものなのだが、【憑装】している状態では視認するのは不可能に近い。

 だが全くの手掛かりが無い訳でも無い。見分けるのは不可能だが、実はスライムの身体にしては『四つの核』の周りだけ異様に硬くなっている。これは単純に防御の為であるが、【憑装】の場合、攻撃する際にも威力を高める為、攻撃する触手の中心核としても使用される。

 核は固定の場所には無く、自在に動かせる。相手の攻撃に合わせ移動させているので、容易に当てるのは困難である。尤も、動かす方もコツと練度を必要とするが。


 つまり攻撃時、特に威力の高いスキルを使う場合だけ、核への攻撃チャンスが生まれる訳である。これだけはゲーム上の仕様なので動かす事が出来ない。

 それを分かった上で✝︎フォース✝︎は、纏わせられる限界値まで束ね攻撃に臨んだのに、まさかピンポイント(・・・・・・)で破壊されるとは思いもしない。

 疑問が確信へと変わる。この初心者(ユイ)には何か得体の知れない何かがある、と。可能性としては、何らかのユニークスキルを持っているという事。

 既存スキルでは有り得ない威力を持っているところを見るに、攻撃力増加系か栗率(クリティカルりつ)を高めるものか。【極稀な奇跡(クリティカ・ラッキー)】を確定発動させられれば、初心者と言えど攻撃を食らう訳にはいかなくなる。

 そうだ、そうに違いない。この身体を弾けさせるほどの威力。何らかの確率補助、もしくは強化系と睨んだ。そして✝︎フォース✝︎は、残り少なくなっていたMPをアイテムで回復させると、新たに【召喚(サモン)】を発動させた。

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