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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第五章 vsゲリラ豪雨
55/87

とりあえずvs幹部Ⅲ

更新遅れました。本当にごめんなさい。

「ふむ、不可解ですが了解しました。こちらの戦闘が終わり次第、ええ、では」

「連絡は済んだ?」

「ええ。わざわざお待ちして頂いて申し訳ない」


【通話】を切ると、深々と頭を下げる赤装束を身にまとった男。他には目立った装飾は無く、銀製の杖だけが異様に際立つ。スキンヘッドで細目だが、奥に輝く眼光は鋭くエースを捕らえている。



 湿地帯と岩場の真ん中ぐらいの位置にある盆地のような場所。ような、と表現しているのは地面が明らかに人工物そのものであり、まるでわざわざここに穴を掘った痕跡が見られるからだ。そのせいで周りの地形が小高い丘に変わっている。

 エースは周りを確認したが、どうやらここに飛ばされたのは自分だけらしい。設置型のスキル、おそらく敵がレギオンVな事から【孤高の戦場】に掛かったと思われる。作戦会議でも回避は難しいスキルとして上がっていたが、どうやらまんまとハマってしまったようだ。飛ばされる瞬間、そして今し方届いた情報によれば、各々分断されたようだ。伯爵と【軒下の集会】の面々がUmbrellaなる人物と。たくやさんとあやかさんが虚と。ユイとモジュレさん、Kurara、翡翠さんが✝︎フォース✝︎と、それぞれ戦闘になっている。モジュレさんからは、ユイを絶対守ると言ってくれているが、相手が悪い。伯爵のとこの人はよく知らないし、会議でも名前の上がらなかったから問題は無さそうだ。斥候組は連絡がまだ無いけれど、空のゲージを見る限り未だ脱落者は出ていない。向こうも何か不手際があったようだけど、とりあえず私は目の前の敵に集中する。ユイのところへ直ぐに向かいたい気持ちはあるけれど、背中を見せていい相手では無い。私はそっと懐に仕込んだ試験管に手を伸ばす。


 パキンッ。


 効果を発動させる前に音を立てて砕け散る試験管。瞬間、直ぐにその場を離れ後ろに飛び退き剣を構える。何をされたのか考える前に、上下左右後ろを確認して罠を踏んでいないかを確認する。その姿を見て、目の前の男─レギオンV─は拍手を贈った。


「流石トップランカー様。このレベルになると判断力も素晴らしいですね」


 称えてはいるが明らかにこちらを馬鹿にしたような言い草にイラッとするも、構えを崩さない私にやれやれといった態度を見せる。


「全く…不意打ちしなかった私を褒めてほしいものですが、スキルが分からなければその反応も仕方無しですね。良いでしょう、種明かしです。【正々堂々(フェアプレイ)】」


 レギオンVがスキル名を口にすると、地面に大きな魔法陣が浮かび上がる。


正々堂々(フェアプレイ)

 特定の範囲に魔法陣を形成。その範囲内ではアイテムの使用が禁じられる。


 このスキルは発動者を中心に起動し続ける為、相手もアイテムは使えない。

 だが先に発動させていれば勝手に地面と同化するので、アイテムを実際に使ってからで無ければ、スキルの有無を確認出来ない点。

 そして私が生産に特化したアイテムを多用するスキルが多い点。

 なるほど、初めから私が狙いかと奥歯を噛みしめる。


 私はユニークスキルのお陰で戦闘も出来るけれど、元々は生産に比重を置いたステータスをしている。勿論、自分で素材を集めたりするのだから、雑魚相手は問題無い。むしろそれに特化する範囲攻撃が多い。ボス相手ではパターンを覚えている。

 だが──


「何処へ行くのです?」


 私は敵との距離を取るように岩場へと走っていく。相手も追尾してくるが、【マナ・エンチャント・ブースト】を掛けた私には追いつけない。

 しかし、逃げたところで何も解決しない。その原因は【孤高の戦場】というスキルにある。設置型のスキルで、発動した場所に相手が踏み入る事で効果が起動されるタイプのもので、【正々堂々(フェアプレイ)】同様回避が難しい。【罠感知】などのスキルが有れば大抵の設置型スキルは視認出来るのだが、スタート地点にかなり近い位置に仕掛けられていた点や、足場や濁流に気を取られていた点。また、ギルド同士の連携が不十分だったのも災いしたか。

 場所指定をさせた訳なのだから、何かあるのは分かっていたけれど。私や伯爵は何が来ても掛かった上でねじ伏せちゃる! みたいな感じだけど、全員が全員そういう訳じゃない。ギルド同士の連携も、本来ならパーティーを細かく組んで役割を決めて動く方が良かったのだけど、期間の短さとギルド毎に動いた方がいいとの案で採用には至らなかった。

 まあ、今更な話だし悪い話ばっかり持ち出すのも気持ちで負けてるみたいで何か嫌だな。うん、切り替えていこう!


 確か【孤高の戦場】は、九つに区切られた結界を展開するというスキルだったはず。イメージはおせちを詰める重箱のような仕切り、みたいな。

 発動者のMPを半分使って発動、更にMPが半減した状態で固定される代わりに、発動者を倒さない限りスキルは消えない。

 必ず発動者は中心部に居て、そこに自分以外の敵一人を必ず留めなければスキルは解除される。

 設置された魔法陣から離れていれば効果の対象にはならないはずだから、斥候組は多分結界を素通り出来てるのかな? 多分細かく結界は張られているとは思うけど。

 そして効果範囲に居たプレイヤーを、各区切り内に転送させる。これは確か発動時に振り分けが出来るから、きっと皆対策された相手と戦闘しているはず。ユイ……大丈夫だよね……。


 考えを巡らせる間にも、敵の攻撃が飛んでくる。


「【捕縛結界弾】、【拘束結界】」


 白い帯を引き連れた弾を、足元に転がった石を踏み付けるように弾いてそれに被弾させると、頭上で石が白い帯にぐるぐる巻きにされる。思わず屈んだ私の足元がうっすら光る。慌てて飛び退くと青く透き通った四角い箱が出現する。


 相手は【孤高の戦場】を維持する為に私を無力化した上で、この中心部に閉じ込めておく必要がある。だからダメージを与えるスキルは極力避け、足止めか捕縛で時間を稼ごうとしているのだろう。状態異常系を使わないのは、私のユニークをよく知っているという事でもある。時間を掛け過ぎれば他の場所へ救援に行っても、倒されている可能性が高い。私がここで戦闘を長引かせるだけ、合流も連携も取る事が出来ない。折角斥候組が情報を持って帰っても、そこにたどり着く事すら出来ない。


 私は逃げるのを止め、相手の方へと向き直る。

 そうだ、時間を掛けていても状況は悪くなる一方だ。なら──


「おや? 鬼ごっこはお終いですか?」


 レギオンVはエースが逃げないのを見て、より一層弾幕を濃くする。そうだ、それでいい。

 的確にして最小の動きで敵の攻撃を紙一重で躱していく。MPが半減しているならあまり強いスキルは使えないだろうし、アイテムによる回復も出来ない。一度解除すれば再使用可能時間(リキャストタイム)の関係上、直ぐには発動出来ないはず。必ずチャンスは訪れるはず。


 敵の攻撃を回避していくと、弾幕がどんどん薄くなっていく。止まって撃っている為、MPは自動で回復しているだろうが、消費する速度の方が圧倒的に早い。みるみる間に弾幕が薄くなったのを見て、今だ! と接近戦を仕掛ける。


「【状態異常付与】、特性麻痺」


 ユニークスキルはスキルに影響を与える。それは私のスキルにも幾つかあって、例えばユイに見せた【リーフストーム】だと敵が弱過ぎて一撃で倒していたが、あの葉っぱに触れると状態異常に複数掛かる。そしてその特性を任意で選べる訳だけど、実は状態異常の種類によっては反映時間や効果時間が変わってくる。

 私の場合、主に毒と麻痺を多用する。毒は解毒しない限り永久にダメージを与え、麻痺はしばらくすると解けるが行動を制限出来る。他にも盲目や嘔吐など色々あるが、咄嗟に使うにはその二つを用いている。

 なので私はいつもの(・・・・)ように、剣に麻痺を付与させて相手の脇腹目掛けて振り抜いた。相手に深々と突き刺さる剣はHPをガリガリと削り、体力の半分を切る。そこで違和感に気付いたが、私が飛び退くよりも相手の掌底の方が速かった。


「ぐっ」


 二転三転、景色が目まぐるしく変わる。吹き飛ばされ、地面をバウンドしながらようやく止まると、私の視界には状態異常の文字が映し出されていた。


「【封印】……か。してやられた訳だ」

「貴女と戦うのは必然でしたので。勿論、対策と耐性は付けてきていますとも」


 普段の雑魚相手だと、状態異常は色々使っている。火傷や眩暈、気絶…。だが咄嗟の判断で使う、しかもアイテムを使えない状態でのこの場面。私が普段から何をどの場面で使用しているか、研究されているのだろう。普通に動けているって事は、麻痺、いや毒もかな? 耐性スキルを取得しているね。【状態異常無効】スキルを取られていれば天敵だけど、あれを取るのは至難の業だし。


 私の視界に映っているのは【封印】と【猛毒】の文字。

【封印】は特定のスキルを使えなくする状態の事で、【猛毒】が掛かっているって事は──


「確認は済みましたでしょうか?」


 細目を更に糸目にして微笑むレギオンV。動こうにも転がる間に放たれたであろう【捕縛結界弾】の白い帯が、右足を微動だにさせない。そこへ追い討ちを掛けるように、私を青く透明な箱へと閉じ込める。


「自害するのでしたらオススメしませんよ」

「誰がっ」


 吐き捨てるように呟いたけれど、選択肢の一つにはあったそれを、意識の外へと追いやる。【猛毒】は毒よりも強力で普通の解毒スキルやアイテムでは治す事が出来ない。ダメージも高く、治すのが遅れれば高レベルであっても、伯爵のように【VIT】を多く振っていなければ、直ぐに墓場行き確定なほどだ。それなのに忠告してきたとなると……。

 そこで私のHPが全く減っていない事に気が付く。


「なるほど、このスキルのせいか」


【拘束結界】

 対象を結界内に閉じ込める。範囲と射程が短い。結界内の相手はHPが回復し、MPが減少していく。


 青く透明な結界は、【猛毒】で侵された私ですらも全快させるほど急速にHPを回復させていく。しかし反面、MPは動いていないにも関わらずどんどん失われていく。


「自害、出来るといいですねえ。まあ、強スキルでも使わない限り、そこで自害するのは難しいでしょうが」


 なおも微笑むレギオンV。だが、杖の先が光っているのを見ると、何かのスキルを待機状態にしているのが分かる。なるほどなるほど。私は追い詰められている訳か。


 天を見上げ、独り言のように呟く私。相手は諦めたと思ったのだろうか、それとも警戒しているのだろうか。だがその顔には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。


 ユイの手前、カッコつけて色々言っちゃったけれど、まさかここまで対策されているとはなぁ。いやあ、困った困った。


 けれど、うん、そうだな……。このまま終わるのは癪だなあ。


 ユイには、カッコイイ私で居たいな。



 ブツブツと呟くエースに、レギオンVが嫌味の言葉でも投げ掛けてやろうと口を開いた瞬間、鼓膜に響くような爆音。それが止んだ後、まるで貫かれたような痛みが左肩へと走る。


「ぐうっ! 一体、何が……ッ」


 結界内を凝視したレギオンVは、すかさずその場を離脱し物陰に身を隠す。

 レギオンVが見たもの、それは蜘蛛の巣状にひび割れた結界の中で二丁拳銃を構えるエースの姿だった。


「馬鹿なっ、それはっ」


 悪態をついたその時、物陰の向こうから銃声と共に、結界が崩れ去るようなパリンという音が聞こえる。


 不味い、あれだけは、本当に。


 脂汗を額にかきながらも、杖を握りしめる。

 MPは無く、HPが延々と回復するあの結界内。スキルは殆ど使えず、例え剣を頭に突き刺さしたとしても自害に至る事は出来ない回復量。そしてその結界自体も、柔な攻撃では破壊する事は出来ないはず。そう、”はず”だった。

 あの二丁拳銃には見覚えがある。高レベルプレイヤーならば一度は見た事があるほど有名なものだ。しかし使おうと思う者はほぼ皆無と言っていい。


 ザッザッ、と足音が近づく。このままでは駄目だと、MP回復を待たずに物陰から飛び退くと、今まで居た場所が焼け跡に変わる。

 間違い無い、【破壊こそ生き甲斐(デストロイヤー)】だ。


 生産は主に鍛治、裁縫、錬金術、料理、採掘、付与、栽培などが存在するが、その中で鍛治と錬金術、そして付与を必要とするレシピがある。その名を【破壊こそ生き甲斐(デストロイヤー)】。見た目、水鉄砲かと思うようなちゃっちいフォルムに似合わぬ、貫通性と破壊力。作成コストが廃人のそれだが造れないほどでは無いその武器を、使用者が皆無と言わしめるほどの理由が”弾”にある。

破壊こそ生き甲斐(デストロイヤー)】以外にも銃は存在するが、この武器には専用の銃弾が必要になる。本来、消費するものであるはずの銃弾はコストが安く設定されているのだが、この銃では全てがコストが高い。耐久性も悪く、修理も付与と鍛治がかなりのレベル必要になる。店で直そうものなら廃人の資産が吹っ飛ぶだろうと言われるほど。

 故に使用者皆無のインテリアとして有名だ。だが逆にそれは技術力の高さの象徴にもなる為、鍛冶屋で目にする機会も多い。そのあまりのネタ的要素と、作成難易度が高い故の技術力の誇示の為、高レベルプレイヤーになるまでには一度は目にすると言われるネタ武器である。


 だがその威力は本物で、検証班が散財覚悟で公開検証した結果、VIT極振りでも無い限り、即死に至らしめるという報告が上がっている。勿論、これはダメージ軽減などのスキルや装備、物などを貫通した弾の威力を想定して無い前提の話だ。しかし、その貫通力は建物や岩、更には鋼鉄すら撃ち抜くとされる。実際その目で目撃した訳では無かったが、あんなもの喰らっていいはずが無い。


 さっきまで優勢だったのが嘘のように、物陰に身を隠しながら逃げるレギオンV。突風で舞う木の葉を振り払い、よろけながらも逃げ惑う。まさか鳥籠に捕らえたつもりが、自身の首を締めるとは思いもしない。スキル構成からも分かる通り、レギオンVは動かずの戦闘を得意とする。その為、回避や逃げるといったスキルがとても少ない。少ないだけで無い訳では無いが。


「とりあえず距離を稼がねば……【超加──」


【超加速】を使い逃げようとするレギオンVの視界が暗くなる。盲目を疑ったが……違う。結界の内側に真っ黒い何かが、這うようにして覆っていく。やがてそれはドーム状に、【孤高の戦場】の中心部だけを侵食した。


 これは一体、何が起こっているのか。額からつぅーと汗が伝う。背中に這う嫌悪感にも似た寒気。耳鳴りの如く、遠くからカサカサとした音が響いている。だがそれは幻聴でも思い違いでもなく、遠くから地面を黒く染めんと多くの生き物が姿を現す。


「ひっ、なんだこれは。はっ、離れろッ!」


 いつの間にか自分の足元にも夥しく群がる、サソリや蛇、蜂や蜘蛛を払っていると、背中に一際大きな気配が近付いてくる。


「うん、本当はこんなものを使うつもりも無かったし、まさかユニークスキルを封じてくるとは思っても見なかったんだ」


 近づく声と共に、カサカサキチキチと生き物の羽音や足音はどんどん増していく。


「でもね、状態異常無効化の私が状態異常に掛かって、そして相手も状態異常になった時に初めて使えるスキルってのも、あったりするんだよね」


 その声にレギオンVは初めて、自分が【毒】を負っている事に気づく。銃での攻撃では確かに負っていなかったはず。何処で? いつ?


 考えようと必死に思考を巡らせるが、耳鳴りのように響く音に遮られ、【恐怖】と【混乱】から考えが纏まらない。

 そんな状況の中、エースの声だけがやけに明瞭に響いた。


「鬼ごっこはお終い?」


 もはや振り向く事すら出来ない。自分は何を間違えたのか。

 覚束無い思考の中、最期に見えたのは、自分を取り囲む毒を持つ生き物達に群がられる、そんな最悪の光景。





 レギオンVを倒した事により、分断していた原因の結界が消える。

 ふぅ、と一息つきその場に座り込むエース。その周りには、夥しい数の生き物が横たわっている。


「【勝者はただ一人(蠱毒)】、か。あーあ、こんなスキル使う気じゃなかったんだけどなあ。我ながらまだまだ修行が足らないぜ」


 背中からドサッと倒れると、空を見上げながら独り言ちる。

 本来ならば銃を使わずとも、このスキルを使っていれば勝てたのだが、きっと自分でも気付かない内に怒りが溜まっていたのだろう。ユイの前ではおちゃらけていても、やはり思うところはあったのだろう。


「あー、こんな姿見せられないよぉー」


 黒い屍の海にぽかんと空いた地面の上で、ゴロゴロと頭を抱えながら叫ぶエース。MPが復活し、気力も復活する間、努めて冷静さを取り戻すのに必死になるのだった。


久々過ぎて……書き方が……

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