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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第五章 vsゲリラ豪雨
53/87

とりあえず斥候は爆煙と共に

大変、大変遅くなりました。

 時は少し遡り、湿原を駆ける二つの影。一つはまるで侍の如く、されど軽量化を極限までつぎ込んだ甲冑に身を纏う者。一つは顔がヤンキーっぽいのに何故か司祭服を着た者。そう、混乱を抜け出して斥候に出た二人はフィールド内をひたすら走っていた。


「思っていたよりも狭いな、もっと広大かと思っていたが」

「この霧雨のせいもある。見通しが悪いせいで距離感が掴めずにいる。オマケに足場も不安定ときている。だが──」

「ああ。【地形効果無効】と【索敵V】を持つ俺らにはこの程度屁でも無ぇな」



【地形効果無効】

 地形によるバフデバフを無効化する。


【索敵V】

 敵の位置が分かるようになる。範囲はⅠ上がる毎に50m拡大。



【地形効果無効】は名前の通りで、この湿原でも足が沈む事無く移動出来る。【索敵】は敵の動向を探るのにうってつけのスキルだ。脳内にマップのようなものが表示され、俯瞰的に位置を確認出来る。ただしユイの持つ【気配察知】とは違い、屋内に居る場合、同じ場所に入らなければならない。ただ距離はとても広く、また敵味方の区別が付くので、どちらが良いかと言うのは意見が分かれるところではある。ALLと伊達は互いにこのスキルを持っているが、索敵は伊達が行い、ALLは戦闘を主体に動いている。

 二人ともステータスは【AGI】に振っているが、ALLは【STR】にも振った火力型、伊達は【DEX】を振った回避型である為だ。更に──


「ALL、そこで少し幅跳び」

「おけ」


 何も無い場所で幅跳びをするよう命じる伊達だが、それが当たり前の事だと言うように従うALL。それというのも、伊達の持つスキル【罠回避】のお陰である。


【罠回避】

 設置されている罠、スキルを可視化する。罠を踏んでも発動しなくなる。


 この【罠回避】のお陰で、元々回避率の高い伊達は殆どの設置型の罠を踏む事は無く、また指示する事で味方にもその恩恵を与えている。案の定、湿原の至る所に罠が仕掛けられており、前回戦った際にも【落とし穴】などを大量に設置されていた経験から取得したスキルだが、思っていた以上に効果を発揮している。あやかのように、特定の誰かを対象としたスキル構成では無いものの、伊達もまた相手に合わせたスタイルを研究した結果だった。


 そうして湿地帯を抜け、川沿いから少し距離を保ちながら姿を隠すようにして中流まで進んだ辺りで、その先に敵の包囲網があるのを察知する。


「ここから少し進んだ場所で敵が扇状に配置されているな」

「回り込む道は……うーん」


 ALLは周りを見渡すと、少し困ったように唸り声をあげる。川の両端は高い崖になっていて、登る事自体はスキルを駆使すればそう難しいものでは無いものの、罠の危険性は極めて高く、また迂回路を進むにしても一度戻る必要がある。今回の【デュエル】ではバトルロイヤル方式な為、時間制限がある訳では無い。一応設定すれば出来ない訳では無いが。だが、時間を気にする必要は無いが、情報を得るのは早い方がいい。ここまで歩を進めてきた道にも罠が大量に仕掛けられている事から、おそらく残してきた者達にも被害が既に及んでいる事だろう。実際、幹部には罠を得意とするレギオンVの他にも、詐欺師のUmbrellaや恐喝常習犯のBIT印など騙し討ちや奇襲を得意とする者が多い。敵味方の判別がつくとは言っても、実際に顔が見える訳でも名前が見える訳でも無く、赤が敵、青が味方と表示されるだけである。迂闊な行動は取れない。


「前は敵、横は崖、迂回路はずっと戻った先、か。どうする?」

「どうするも何も無いだろ。俺達の使命はJACKの居場所を割る事だ。なら進むしか無いだろ」

「やっぱりそうなりますか……」


 手のひらを上にヤレヤレとため息を吐く伊達。「まあ分かってましたけどね」と零すと、二人は足並みを揃えて川沿いを直進する。索敵範囲に入った時点で向こうの陣形が変わるのを確認していた伊達は、既にこちらがバレている事を悟っており、ALLにもそれは伝えてある。なので隠れるのを止め、速さ重視で敵へと接近する。

 そうして見えてきたのは、川を分断するように建てられた土壁が広がっていた。土壁は崖と一体化するように建てられており、その上に何人もの敵が弓や投げナイフなどの投擲武器を持って構えている。土壁の向こう側にも人が居る反応があるが、それはひとまず置いておく。

 程なくして敵の動きが活発化する。どうやらこちらが真っ直ぐ突っ込んでいるのを察知して、臨戦態勢に変えてきたらしい。だが、先程見せた陣形からわざわざ変えて……。


「うおおおお! てめえらそこをどけええええ!」


 考えを巡らせる間に、一人特攻を仕掛けるALL。ギルド内でギルマスのたくやを上回るほどの火力を持つ彼。ぶっちゃけて言えば脳筋この上ないのだが、それはゴリ押しの四文字で貫き通せる程の火力であるという意味でもある。だから何も心配は無い。そういつもなら思うはずなのに、背中に冷たいものが這うこの感覚はなんだ?

 伊達は一旦ALLから視線を外すと、辺りを見回した。そこには、変わる事の無い断崖絶壁が存在するだけで、何の変哲も無い、…………?


「あれは──ッ! ALL、下がれ!」

「ぁあ?」

「くっ、どのみち間に合わないかっ!」


 崖の上部、出っ張りが突き出た辺りに発光する何かが見えた伊達は【遠視】を発動させた。効果は名前の通り、視覚に望遠鏡のような役割を追加するというもの。そうして見えたのは、光輝く魔法陣の発動寸前の姿だった。



「【二重呪文(ダブルスペル)】、【超加速(アクセラレータ)】」


 急速に飛び出した伊達は目にも留まらぬ速さを持ってALLの首根っこを掴むと、勢いは殺さずそのまま土壁を飛び越えんとする。だが──


「がっ!?」

「げふっ。オイ伊達やん、急に引けっつったり掴んだり止まったり、こっちの都合をだな」


 ALLの文句を聞く余裕も無い。土壁上部には結界が張られており、そこに勢いよく激突した衝撃でHPが少し減る。幸いその程度で済んだものの、どうやらこの結界は攻撃したダメージの一割ほどを相手に返すスキルのようで、迂闊に攻撃していようものなら大ダメージは避けられなかっただろう。


(つまりこれを仕掛けたのはレギオンV。我々が斥候になると見越してのものか。この先にヤツが居るのは間違いなさそうですね)


 痛手は負ったが確信は得た。あとはこの情報を皆へと報告するだけ。しかしそれをさせるほど、敵も馬鹿では無い。


「オイ、伊達!」

「分かっている。飛ぶぞ!」

「飛ぶって……ぐへっ、ちょっ」


 結界に張り付く二人を待ち受けていたかのように、両側の崖で爆発が幾重にも起こる。伊達が確認していた魔法陣は一つだけだが、先程自身も発動していた【二重呪文(ダブルスペル)】を用いているのだと確信する。


二重呪文(ダブルスペル)

 このスキルを使用した後に発動させたスキルの効果を、もう一度発動させる。


 伊達は速度を更に高める為に用いたが、敵はこれを何度も発動させる為に使ったのだろう。【二重呪文(ダブルスペル)】の後に【二重呪文(ダブルスペル)】を使い続けると、『もう一度発動させる』回数が増えていく。ただし効果はどんどん弱くなっていく為、最大五回が限度だろう。【二重呪文(ダブルスペル)】は効果が高い割にはMP消費が少なく、最大値の5%しか使わない。あの爆発も知っている限りでは消費がかなり高いはず。また、起点となるスキルを一つだけにする事で、発見を遅らせ対処しづらく出来る。なるほど、流石幹部と言われるだけはある。

 崩れゆく岩塊の中、伊達は独りごちた。



 ガラガラと音を立て、地面を激しく揺らしながら、大小様々な岩が頭上へと降り注ぐ中、伊達はその中をするりと風が吹き抜けるか如く回避していた。時に落ちてきた岩を足場にしながら、空中へと駆け上がるその姿に、敵は見惚れて攻撃の手を緩める……なんて事は無い。落ちる岩塊に気を配りながら、放たれるスキルの数々を対象出来るほどの器用さは無い。だが、奴はただ背負われて本当のお荷物になるような男では無かった。



「そいそいそいそいそいそいそいそい!」


 敵のスキルをあろう事か落ちてくる岩を掴んで相殺、それが出来なくとも逸らすという離れ業をして見せたのだ。降り注がれる岩を避けるのは、実はそれ程難しい事では無い。【AGI】に多く振った者には分かる事なのだが、窮地の場面で周りの速度が遅く見える、走馬灯のような現象が発動する。窮地で無くとも動体視力の向上など、目に見える変化はあるが、回避にも影響する所以はこのスキル外能力の恩恵が故である。

 だがそれにも個人差が存在する。例えば伊達が同じステ振りをしてこの場面に遭遇したとしても、アドリブでこの方法で回避出来るかと言われればそうでは無い。それは技術的な話でも同じで、スキルの発動位置、到達時間、威力、効果は勿論、岩塊の大きさ、落ちる位置などを細かく見分けなければ、スキルとの相殺など出来る訳では無い。


 だが、先で述べた通り、彼は脳筋である。

 無駄に熱く、二次元大好き、短気で愚直に猛進するごく普通の変態である。


 ではそんな彼がどうして凌げているかと言えば、なんという事は無い。それは『直感』である。一見、考え無しの無鉄砲のようにも思えるそれは、実はランカーになる上でもとても大事な要素となる。

 一般人が二つの選択肢を迫られる局面、大抵は選ばないか間違いを選んでしまう。しかし彼はそれを『直感』によって正解を導き出せる。これは一つのゲームセンスと呼ばれるものだ。策略も戦略も無い、ただ『運』と『行動力』によって引き起こされる奇跡。伊達に中堅と呼ばれているだけでは無い。どちらの意味でも。



 しかし状況はよく無い。結構な数、岩塊が降り注いでいるはずなのに、頭上を見上げれば次々に落ちてくる影。この時、伊達の中では判断を誤ったと少し後悔していた。

 最初の爆発で魔法陣は一つしか無かった為、彼はてっきり『スキルは一種類だけ』だと思っていた。しかしこの状況を見てそれが間違いだと気付く。


「なるほど。重ねて配置したのか、やってくれる」


 出っ張りが邪魔をして全体が把握出来なかった事、ALLが突っ込み気を取られた事、そして何より敵のスキルを知っていながら二度も同じ罠に掛かった事。その後悔の波に押し潰されんとする伊達は、回避するのを止め、もう少しで空へ抜けられそうになっていたのにも関わらず、岩塊と一緒に落下を始める。


「ちょっ!? 伊達やん!? このままだと俺がスプラッタになるんだけどぉ? 嫌だー死ぬならアリアちゃんに抱かれて死にたいー!」

「落ち着け」

「なんでこの状況で落ち着ける馬鹿が居るんだ、この馬鹿!」

「安心しろ、お前よりも馬鹿な奴はそうは居ない」

「そっか〜、だよねー、ワカルワカルー……じゃないわっ! 伊達やんがそう言うなら俺は信じるからな?」

「ああ、存分に」


 落下し地面へと叩き付けられる未来しか見えない二人に、敵から攻撃の手が止む。もしレギオンV()が居るなら、この格好の獲物になった二人にトドメを刺さんと追撃してくるはず。だがいつまで経ってもそれは無かった。


(となれば金で雇った半端者だけか。拙者(・・)の技の錆にでもしてやろうかと思うにござったが、ふふふ)


 落下する二人を見た者達はきっとこう思ったのだろう。『MPが尽きて余力を失い絶望したのだ』と。その爪の甘さこそが自身らを絞め殺すとは思いもせずに。


「まずは道を開かせてもらおう。【苦無投げ】」


 見た目甲冑装備な伊達から放たれる、苦無とスキル名に付いてるにも関わらず飛来する刀剣を見て、敵がギョッとするも直ぐに結界に弾かれ落ちたのを見て、汚らしい笑い声をあげる。

 それに動じず、伊達は次々に結界へと刀剣を投げ込んでいく。【苦無投げ】は武器を投げるスキルだが、実際に飛ばす訳では無く、武器の残像を飛ばしている。残像といっても少しの間は実体があり、今も弾かれた刀剣が地面に幾つも転がっている。

 敵はそんな光景を見て、手を叩き尻を叩いては「大丈夫でちゅか〜? ちゃんと狙えまちゅか〜?」などと煽りを入れている。それに対して伊達は一言。


「だから貴様らは半端者なのだ」


 鋭い眼光が敵全てを捉えると、一瞬の静寂が訪れる。未だ岩塊は落ちているはずなのに、まるで無音が世界を支配するような感覚。だが奴等はもうすぐ地面に叩き付けられ、岩に押し潰されて死ぬ。そんな幻想を盲信する彼らには、結界にヒビが入り小さな穴が空いている事など気にも止めて居なかっただろう。



「散れ、自我を持たぬ絡繰共よ。【招雷・爆煙】」





 カッと光が爆ぜたかと思うと、辺り一帯を埋め尽くすほどの爆発と轟音。土煙と熱風が吹き荒れ、生存者が居るかなどという些末どころか地形が大きく塗り替えられる程の威力。だがそこには二人の影があった。


「ひっでえ事しやがる。最初からこれで良かったじゃねえか」

「良くなど無い。奴にこちらの接近がバレた。これで近付くのは難しいでしょう」


 二人の全身を包む三重の透明なバリア。あの爆発にも耐えうるほどの強度を持つバリアだが、実際には五重あったものが二層分削られただけだったりする。

 最初、崖に仕掛けられたスキルは『爆発を起こして崖を崩すもの』だと思っていた伊達だが、実際には爆発は演出だけであり、同じ場所に重ねて配置されていた『岩塊を落とす』スキルによって崖が崩れてきたと錯覚させていた。だが彼はそれを『岩塊の大きさが一定である事』と『岩塊がいつまでも続く事』から看破していた。ALLほどの直感は無いにせよ、分析力ではギルド随一である彼は、ALLが持つ岩塊の大きさがあまりにも似たり寄ったりなのに目を付け、そして自身が勘違いしていた事に気付いたのだった。

 おそらく敵のシナリオでは、岩塊を回避する為に一旦退避させるか、例え岩塊を抜け出たとしてもそこで狙い撃つのが算段だったのだろう。途中で陣形を変えたのはその為だ。最初の陣形では敵は全て土壁の向こう側に退避していた。だが二人だと分かるや否や陣形を変えたのは、二人が退かない事を知っていたからだ。

 そして回避も退避も出来ない状況になった時、封印していた力を解放するのを決心した。いや、別にそういうスキルは無い訳じゃないが、その意味では無い。伊達信長は厨二病である。そして武将が大好きであり、それは装備からも分かる事である。だが、今回の戦闘の為、若干、そう本当に若干だが忍者っぽいスキル構成になったのはしょうがない事である。「あれ? ちょっとカッコイイな」などとは微塵も思っていない。いないったら無い。

 結果として刀剣を用いた【苦無投げ】という、ちょっとおかしな格好にはなったものの、それがいい方向に働いた。結界には耐久力があり、それを全て削るか貫通スキルでも無ければその奥にダメージは届かない。だが要は攻撃し続ければ壊す事は出来るのだ。【二重呪文(ダブルスペル)】、【超加速(アクセラレータ)】の効果に加え、窮地による体感時間の変動により、超高速で結界へと攻撃を加えそれを破壊、小さな穴を開ける事が出来た。そして【分身】、【変化V】を使い自身を刀剣は化け、分身体がその穴に目掛けて投げ入れる。あとは変化を解き、武器の耐久力を犠牲に爆発を起こす【招雷・爆煙】を使う。【招雷・爆煙】は残像であっても武器と判断する為、威力の上乗せに使える。その代償として、武器の耐久力はバターの如く溶けてしまうのだが。なので手に持つ刀剣が灰色に変わるのも仕方の無い事である。


「はぁ、まさか奥の手の一つをこんな場面で使う事になるとは。まだまだ修行が足りませんね」

「まあ何にせよ、無事抜けられたからいいじゃねえか。適当な場所で報告送ろうぜ」

「ですね」

「それにしても戦闘中の伊達やん、いつも思うけどノリノリだよな」

「ぐっ、それは言わない約束でしょう」

「ハハハ、悪い悪い。回復掛けとくか?」

「いえ、手持ちのアイテムが残っているので。出来るだけMPは温存するべきでしょう。……この先の為に」

「! そう、だな」


 二人が見据える先には色濃く霧がかかり、見通す事などままならない。だが必ずこの先に奴は居る。二人と奴の会敵は近い。


長らくお待たせして申し訳ございません。


仕事の他、近親者が亡くなり人生初の葬式に奔走していた為、投稿するのが遅れてしまいました。

あまり経験したい事では無いですが、葬儀をあげるだけでも準備が相当必要なんですね。

悲しむ間も無く、遺品整理や遺産争いで……人間って怖いです。


まあそれはチラシ裏にでも書いとけよって事で。

次回の投稿は早く出来たらいいなー。あっいや、頑張ります。

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