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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第四章 悪質ギルドと戦闘準備
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とりあえず武器を揃える

 次の日、私達はエースと共に【夢想夜会トロイメライアーベント】のギルドに来ていた。伯爵さんも本当なら来る予定だったんだけど、【軒下の集会】のギルドマスター幻舞麦茶さんが、私達のところへ「明日の編成を考えてきた」と言いに来ていた。他にもメンバーが何人か居たのだけど、そこで前回のイベントで遭遇したアキラさんと翔さんが偶然来ていて驚いた。どうやら【軒下の集会】のギルドメンバーだったらしい。エースが「ユイが知らない男の子といつの間に気さくに話すように……」とか言って凹んでいたけど、イベントの事を話したら「こんな可愛い子に殴りかかるなんて……男女平等パンチ!」とか訳の分からない発言をしながら殴りに行っていたけれど。

 因みにだがこの二人はレベルが低過ぎる為、今回のギルド荒らし達の【対抗戦】には出ず、イベントの方には出るようだ。「私もレベル低いんですけど」と言ったけれど、「ユイさんはギルドマスターなので」と言われた。むぅ……少しおかしいなー、と思ったのは内緒である。

 まあそんな二人だが、今回参加しても足を引っ張るだけ、ならばと作戦立案やアイテムの買い出しにと奔走しているらしい。そう言えば【軒下の集会】の人達って、よく連戦しているからほとんどギルドには居ない、みたいな話を幻舞さんが言っていたけど、当日どうやって集めるのかと伯爵さんに聞いてみたら──


「ああ、それも言ってませんでしたね。ギルドには【ギルドスキル】と呼ばれるものがあるのです。ランクによって使えるスキルは変わりますが、その中の一つ【全体通話】。これはギルドメンバー全員に対して声を飛ばす事が出来るものです。『通話』となっていますが、会話は出来ないですが、連絡事項を伝える時に便利ですね。

 それともう一つ、【全体召集】。これはギルドマスターの周りにギルドメンバーを転移させるスキルで、日に三回しか使えません。ダンジョン内や今回のような闘技場系の施設でも使えませんが、【全体通話】と合わせる事で人員を一箇所に集める事が出来るのです。勿論、【全体召集】を使うとギルドメンバーの方には応じるか応じないか選択出来るので、今回のように参加する者を選定しておくと、初心者をうっかり呼んでしまうミスを防止出来ます。まあ間違って来る人とかは居ますけどね」


 まだまだ知らない事がいっぱいあるなぁ、とメモを書き込んだ後、伯爵さんを見送った。


「じゃあ邪魔者も居なくなった事だし、今日はユイとデートだね」

「それは僕の事を言っているのかな?」


 ギロリとエースが睨みつける先には青薔薇さんが居た。結局昨日は青薔薇さんが私達と会う事は無く、今日ログインした時には既に酒場で一人座っていた。酒場へエースと一緒に入ってすぐ、伯爵さんがやって来たけれど、まるでそこに居ないかのようにエースは無視していた。時折私と伯爵さんは視線を送っていたけれど、話し合いに参加する気は無いように無言を貫くだけだった。


「昨日はどこに行ってたの? ユイの誘いも結局無視して。ギルマスの呼び掛けにも応じないなんて」

「『手紙』なら返事は返したよ。でも行くのに手間取ってしまって」

「どうせJACKのところに行ってたんでしょ? 情報を流すだけのパイプ役が」

「耳が痛いよ。だが、だからこそ会議には参加しない方が互いの為になるんじゃないのかな」

「……行こ。ちょっと行きたいところあるんだ」


 エースは私の手を取り、そのままギルドを後にする。

 二人の空気は相変わらず悪い。黒竜と戦った時は少し打ち解けていたように感じたけど、やっぱり和解するのは難しいのかな。ZXさんの件もあるし。けど、青薔薇さんはわざと会議に参加しなかったんだと思う。本人も言ってる通り、そしてたくやさんが言っていた事だけど、情報は大事だ。前にエースもスキルの内容は教えちゃいけないって言ってたぐらいだし、きっと会議の内容を聞いていたら、青薔薇さんは報告しないといけないんだよね? 一応気を使ってくれているんだろうけれど……それでも私は参加して欲しかったなって思う。私の我侭だけど。そんな事エースに言ったら「ギルマスなんだからー」とか言いそうだなあ。



 エースに連れ出され向かった先は【始まりの町:ルクセンダーラ】。しかも何故かパーティーを組んで。何でこんな場所に? と思ったが、エースは【雑貨屋】の裏口の扉を開けて中に入っていく。あわわ、勝手に入っちゃっていいのかな、と思っていたけれど、扉の先には通路が続いているだけだった。【雑貨屋】は駅にあるキ〇スクみたいな造りで、てっきりその中のところに続いているのかと思っていたのだが、暗い通路を進み、下に続く階段を降りると水が流れる音が聞こえてくる。ついでになんか臭い。まさかここって……。


「エース」

「んー? あ、そこ足元気を付けてね」

「あ、ととっ。いや、違くて」

「暗いから手繋ぐ? そしたら両手塞がるけど私はいつでもバッチコーイだよ」

「いや、そうじゃなくて。ここってまさか」

「あれ? ユイ来た事あるの? 下水道」


 げっ、やっぱり。デートとか連れて来たい場所って言うから、きっと綺麗な場所なんだろうなって期待してたのに。一応通路もあるけど、横の水路……いや、考えないようにしよう。

 天井は低く、【ハイジャンプ】をすれば普通に届くから5m無いかなってぐらい。枝道が結構あってモンスターも出現する。普通に攻略したら、視界も悪いし臭いも酷いし、おまけにモンスターのレベルも私より上だから苦労しそう。だけど手を繋いでいる隣の親友(害悪)が、水路にさっきから毒を流しているんだよね。そのせいか、通路を進むと謎の光が消えてアイテムが入ってくる。ああ、うん。多分水路に落ちさえしなきゃ安全そうだなあ。でも時折、人間の絶叫らしき声もチラホラと聞こえるんだけど……。


 少し進むと『【下水道:ヘドロヒグロの巣】のマップを取得しました』のスクリーンも現れる。街と違ってダンジョン内だと、そこまで詳しく進まなくても取得出来るらしい。その代わり、自分が進んだ事のある部分しか反映されないようで、マップを見ると結構枝分かれしていた。うわぁ、全部回るのは大変そうだなあ。というか、ヘドロヒグロって何だろう。


 酷い臭いと遠くから聞こえてくる絶叫を我慢しながら進むと、今まで大きな通路しか通らなかったエースが、一本の狭い通路に入る。大きな通路は暗いと言ってもまだ目を凝らせば見えるレベルだったが、この狭い通路は本当に何も見えない。だがエースは手を引いてこっちだよと引っ張っていく。すると、今まで暗闇に包まれていたのが嘘のように、一件のお店が建っていた。そのお店は【居酒屋】と書かれており、お店とその周囲だけ明るく光を放っている。明らかに怪しいがエースは構わず中に入る。


「いらっしゃーい……ってエースか」

「やぁ、相変わらず酷い立地だよね、ここ」

「うるちぇー! 安かったんだよ!」


 中はカウンターテーブルが置いてあり、壁には武器や防具が並んでいる。お客さんは居ない。店主さんっぽい女の人は、エースと気さくに会話している事から、どうやら目的地に着いたらしい事を知る。


「おっ、そっちの彼女はお友達かい?」

「嫁です」

「ははは、なるほど。前言ってた子か」


 キリッと普通に嫁発言するエース。慣れた感じでスルーする辺り、多分フレンドさんなんだなあ。


「ユイです。はじめまして」

「おう、はじめましてー。あたしはここで【居酒屋】を開いてるエスターってもんさ。まあ宜しく頼むよ」


 エスターさんは少し褐色の肌に赤毛で後ろ髪を縛っている。背丈はエースと同じぐらいなのに、大人のお姉さんの雰囲気がある。


「で、今日は何しに? 酒でも買いに来た?」

「いや、今日は違う用なんだけど【マッコル酒】は20ほど欲しいかな」

「あいよ、まいどありー」


 普通に買い物をするエースだが、私の方に視線を向けると手を突き出し言う。


「見ての通りなんだけど、実は装備が急遽必要になってさ」

「聞いてるよぉ? 何でもあの”ギルド荒らし”の親玉を引っ張り出せたんだって?」

「相変わらず耳が早いね」

「当たり前さ。これでも【情報屋】の一人だからね。情報を売るのも【居酒屋】の仕事ってもんさ。じゃあつまり、あたしに装備を依頼しに来た、って事だね?」

「うん、頼めるかな?」

「ははは、そりゃ勿論喜んで。エースにゃレアアイテムを恵んでくれた恩もあるからね。よっしゃ! ユイちゃん、ちょっと奥においで」


 奥の部屋に連れて行かれる私が見たのは、大きい溶解炉がある部屋だった。


「私は【鍛冶師】でもあってね、お得意さんになってくれた人にゃ手製の装備を打ってやるのさ。まあ素材を持って来てくれりゃ無償でやるが、次回からはお金取るよー」


 前の時もエースに買ってもらったので、結局払う事は無かったが、あの後【鍛冶屋】に行って値段を見た時にはこんな高価なものを……と無言になったものだ。当然オーダーメイドだと、素材も必要になるし、もしかしてまた私はとんでもないものを。固まる私にエスターさんは肩をバンバンと叩く。


「なーんて冗談冗談。可愛い顔なんだからそんな引き攣った表情しちゃダメだよー。さあて、ユイちゃんはどういうのを着けてみたい?」


 フリーズから立ち直り、エスターさんの質問に答えようとするが、今まで【素手】で戦ってきたせいか、何を着ければいいのかよく分からない。剣や槍だと【STR】が必要になるが、距離も稼げて攻撃範囲も大きくなる、とかは聞いているんだけど、どうもしっくり来ない。なので私は正直に聞いてみる事にした。


「実は私、今まで【素手】で戦ってきてて、正直武器を持つって感覚がよく分からないんです。エースは序盤は特に無くても問題無いって言ってたんですけど、ここに連れて来てくれたって事は、この先必要になるって事ですよね? だったら私に合う装備にしたいんです。我侭言ってるのは分かっているんですけど、そういう武器ってあったりするんですか?」


 無茶を承知で質問すると、うーんと考え込むエスターさん。扉の向こうでは「ユイのチャームポイントがー」と言っているが、連れて来たのはエースじゃないのかと突っ込みたい。やがて閃いたのか、エスターさんは溶解炉の前に立ち、腰に差していた小さめのハンマーを手にすると、素材を次々に出しては中に放り投げていく。そしてドロドロになった素材を型のようなものに流し入れると、スクリーンが表示されている。私には読めないが、エスターさんは納得の表情をしている。型から外すと塊状になっており、それをハンマーで数回叩くと手袋のような形のものが出来上がる。


「ふむふむ、やっぱり【黒竜の顎門】だと付与効果も凄いしいい素材だよ。エースに頼んでもう少し買い取ってもいいな」


 満足気に呟くエスターさんは私の方へ向き、出来上がった武器を差し出す。


「ほらよ、ユイちゃん。これはあたしからのささやかなエールさ。絶対勝ちなよ?」


 差し出された武器を受け取った私は、お礼を言おうと手のひらから目線を上げた時、急にエースに担がれた。


「じゃありがと! また今度はお酒大量に買いに来るから、そん時よろしく!」

「相変わらず突然来て突然帰るね。素材と物々交換って事なら用意しとくよ」

「えっ? ええっ?」

「じゃあユイ、【夢想夜会トロイメライアーベント】の人達が待ってるから急いで行くよ!【魔力は我が力へと蘇るオール・マナ・ストレングス】! 【マナ・エンチャント・ブースト】!!」

「ええええええええええ!?」


 お礼も言えずに来た道を爆走するエース。出会うモンスターを悉くなぎ倒して進み、【始まりの町:ルクセンダーラ】まで戻ると【天空都市:アエリア】まで【長旅の回想】で戻り、私が気付いた時には【夢想夜会トロイメライアーベント】のギルドの前に来ていたのだった。

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