とりあえず自分に出来る事を
伯爵さんの出した黒板を使って、互いが持っている情報を書き出していくエースとあやかさん。
「まず注意しなきゃいけないのは【ゲリラ豪雨】陣営の主要人物、まあ幹部達だね。さっき言ったと思うけど、その『先生』って奴がまず一人。他には誰が居る?」
エースの問に答えたのは、ALLさん。
「そりゃあやっぱ青薔薇と✝︎フォース✝︎だろ。アイツらのスキルは面倒だ」
「あ、でも青薔薇さんは今は私達のギルドに在籍してて……」
私が言うと、【義憤ファミリア】の面々が一斉にこちらを向いた。え? 何か不味い事でも言ったの?
「おいエース」
「にゃはは。実はそういう状況でね」
「なるほどな。【デュエル】が始まったらどうするんだ? 何なら最初からFFするが」
「その必要は無い」
たくやさんの提案に間髪入れずに問題無いと言う伯爵さん。しかしたくやさんは反論する。
「俺達の時もそうだった。密偵を送り込まれていて情報が筒抜けになっていた。最後に俺達が負けた時に『無謀乙』と言われ肩を叩かれた時は、本当に悔しかったさ。そんな危険な相手が既に割れてるってんなら、普通は最初から拘束か倒しておくもんだろ? 仮にも”ネコタンク”として名を馳せている伯爵さんなら、情報の重要性には理解がある方だと思ってる」
「無論、承知の上です。だが彼には悪意が無いように見えるのです」
「人の考える事なんて外と中身は違うもんだと思うが?」
「分かっていますよ」
「いいや、分かってない。今回の戦いはバトルロイヤルなんだろ? 情報が取られるだけならまだしも、背後から気配も無く攻撃出来る危険性がある相手だ。JACKほどでは無いにせよ、去年の年間総合ランキングでは11位になってるような奴だぞ」
「もし問題を起こすのならば吾輩が止めましょう。総合ランキングならば吾輩は9位、不足は無いでしょう?」
自身の意見に真っ向から受け答えする伯爵さんの姿に、たくやさんも次第に冷静さを取り戻す。
「……どうしてそこまで庇うんだ?」
「彼は今変わろうとしている最中なのです。いや、元々その節があったように感じました。吾輩はその可能性を信じたいのです」
言い切った言葉を聞いて、ガリガリと頭を掻き溜息をつくたくやさん。どうやら折れたらしい。
「はぁ、分かったよ。けど、何かあったらその時は頼むぞ?」
「我侭を聞いて下さりありがとうございます。そう言えばユイさん」
「ひゃい?」
男の友情に花を咲かせる、素敵ッ! と、いつの間にかスケッチブックを持って何か書いてる翡翠さん。途中からそっちの方が気になり、絵を見ていた時にいきなり呼ばれた為変な声が出てしまった。
「先程、会議が始まる前に青薔薇に連絡をしていましたよね?」
「あ、はい。一応会議しますので来れるようなら〜、みたいな『手紙』は出しましたけど……。返事は来たんですが遅くなるそうです」
「ふうむ」
会議前、エースが凄く嫌そうな顔で「そんな事はしなくていい」と言っていたけど、私は『手紙』を送る事にした。伯爵さんもエースと同意見だったけれど、エースとは違って止める事まではしなかった。エースや伯爵さんから聞く彼の姿は、何だか悪役っぽい感じだけど、【ギルド本部】で優しく接してくれたあの時の姿もきっと嘘なんかじゃないと思う。だから仲間はずれになんてしたくなくて、『手紙』を送ったんだけど……。エースとは不仲だし、やっぱり顔を合わせづらいのかな。
「まあ青薔薇の件は置いとこう。伯爵さんが対処してくれるってんなら、まあ大丈夫か。それより他の幹部の対策も大事だけど、俺達のギルドと伯爵さんのギルド」
「吾輩は隠居した身故、元吾輩のギルドです」
「そりゃすまない。えっと、あとは」
「【夢想夜会】だね」
エースの言葉に各々驚愕といったリアクションをしている【義憤ファミリア】の面々。
「待て待て、ちょっと待ってくれ」
頭を抱えて唸りだすたくやさん。皆も同じような体勢を取っている。エースからはふわっと聞いた程度だけど、まあエースの集めてくる人って変な人ばっかりだから、きっとそんな感じの人なのだろう。そう思って勝手に納得していたけれど、たくやさん達の反応から見て、伯爵さんの時と同じ流れを感じ取る。どうやらそれは正解だったようで、口々に吐き出していく。
「【夢想夜会】のモジュレって言えば、”ソロ・シンフォニア”の通り名がある超有名人じゃないかよ!」
「ルックスはボン・キュッ・ボンで美人なのに、童謡からヘビメタまで幅広く弾ける音系スキルの権化だとか言われてる人じゃねえか。うわぁ、アリアちゃんと言う嫁が居なけりゃ、直ぐにでも俺の嫁に──あひん」
「……流石ランカー常連。連れて来る人がパない」
「Kuraraたんの語彙力が死んでる姿をモジュレさんが目覚めのキスをしてハァハァ」
「翡翠さん、スケッチブックに書くのはいいですが声に出さないで下さい。あとあやかさんもALLを椅子代わりにしないであげて下さい」
「ご褒美よ」
「くっ、でも感じちゃう!」
……反応は様々だったけれど。
更に時は経ち、黒板はもはや何が書いているのか読み取れないぐらい、文字に埋め尽くされている。今回が絶好の機会とあって、皆も休憩中はふざけているものの、何処か無理をしている雰囲気があるのを、私はこの会議を通して垣間見る事が出来た。きっと本当に慕われていたんだなあ。
そうして長い会議を経て結論を話すたくやさん。
「ここまでの話をまとめるぞ。まず【軒下の集会】は伯爵さんが率いて特攻を掛ける。回復や強化などは、【夢想夜会】は後方支援で連携もこちらに合わせてくれる。俺達【義憤ファミリア】と【唯一無二】で協力し合いながら、幹部達を各個撃破しながらクソ野郎をぶん殴りに行く、で合ってるか?」
この会議が始まる時に、エースから【夢想夜会】は会議に参列しないと聞かされていた。元々支援特化系ギルドというのもあるが、急な【デュエル】に向けてアイテムの補充や当日の参加者の選定があるらしい。この中では一番人数が居るが、参加出来る人数はそれほど多くならないみたいな話を聞いている。
【義憤ファミリア】も、実際にはもっと人数は居るみたいなんだけど、ランカー常連相手に戦えるメンバーがこの六人だけだったようだ。
【軒下の集会】の皆さんは単にグロッキーでログインしている人が居ないとの事。どうやらあの後、メンバー全員で伯爵さんの記録(ほぼ私のせいな気もするけど……)を抜かそうと白熱したようで、睡眠不足でこれ以上は健康に被害が出ると判断され、強制ログアウトを食らったんだとか。そんな機能あったんだ。
「うん、それでオッケーだね! 勿論まだまだ不安や問題点はあるだろうけど、幾ら計画を練ったところで結局は出たとこ勝負になると思う。つまり当たって砕けろって事だね!」
サムズアップするエースに合わせて、同じくポーズで返す翡翠さんとALLさん、kuraraさん。いや、当たって砕けたらダメなんじゃ。
けどそうなんだよね。きっと向こうも対策はしているはずだし、エースや伯爵さん達は掲示板でスキルがばれてるみたいだから、幾ら考えてもその通り動ける保証は無い訳だし。個人の役割としては、私はエースと組んで行動する事になった訳だけど、ちゃんと戦えるか不安は拭えない。
けれど、作戦は立てた。うまく行くかは分からないけど、私は自分に出来る事をするんだ。
私は密かな目標を胸に、今日の会議はこれでお開きという事になったのだった。
多分次回辺りからvsギルド荒らし。




