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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第四章 悪質ギルドと戦闘準備
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とりあえず情報交換と対策会議

 ようやく皆(主にエースと翡翠さん)が落ち着いたので、私達は情報交換と対策会議をする事になった。


「んじゃまずは色々な意味で初心者の嫁が居るから、ざっくりと説明するね」

「色々な意味で初心者(意味深)──あだっ」

「初心者に手取り足取り教えても──いたっ」

「ウチのアホ共がすまん、続けてくれ」


 エースの言葉に、翡翠さんとALLさんが反応したけど、即座に立ち上がったたくやさんが拳骨を落とす。悶絶する二人を無視するよう促すたくやさんに、少しだけギルマスらしさを感じられた。


「まずは今回戦いに指定された【フェイエンヤード】って場所は、【湖都:アクゼリシア】から真っ直ぐ進んだ先にある街、【城郭都市:ミル】内部にある施設の名前だね」

「【フェイエンヤード】とは別名『貸切闘技場』と呼ばれる施設で、簡単に言うなら自分達で戦闘フィールドを自由に設定出来るってやつだな」


 エースが説明に補足をつけてくれるたくやさん。更に伯爵さんが黒板を取り出し、図付きで説明してくれる。


「向こうからの話では、『俺達が全て手配しといてやるよ』と『手紙』を寄越して来ています。なので十中八九、罠が仕掛けられていると見るべきでしょう」

「それについてなんだが、どうして相手に場所を指定させたんだ? 別に【フェイエンヤード】以外でも出来ない訳じゃないし、そもそも罠があるのは分かりきった事だろ?」


 訝しむたくやさんが手を上げて質問する。どうやら他のメンバーも同じようで、少し難しい顔になっていた。


「そりゃあね、でも考えてもみなよ。あいつらは丹精込めて張った罠できっと慢心しているでしょうよ。『俺様達が出るまでも無い』って感じで。それに相手の得意なフィールドで叩きのめした方が、より楽しくなるでしょ?」


 含み笑いでそう言うエースに、一瞬キョトンとなる【義憤(ネメシス)ファミリア】の面々。しかし次の瞬間には一斉に大笑いが巻き起こる。


「アッハハ! そうだな、あまりにも初歩的な事なのに忘れていたよ。そうだよな、アイツらのフィールドで勝ってこそだよな」

「ZXも言ってたわね、同じ土俵に立ってこそだって。あの時は意味が分からなかったけれど、今ならそれが一番だって分かるわ」


 たくやさんに続き、あやかさんも同じ思いを持っているようだ。見れば皆にもそれが伝播しているみたいだったが、一人疑問に思う者もいた。


「確かに相手の土俵で勝負するのが、ZXへの手向けになる事でしょう」

「いやいや伊達やん、別に死んだ訳じゃないから」

「しかし、JACKの能力はご存知のはずです。再び挑もうと奴への対抗スキルや戦術は幾度と無く話し合いましたが、それでも我々では届かないでしょう」

「だな。元々俺らはユニークも無い訳だし、それが勝敗に依存するかって言われりゃ違うと思いたいが、奴のアレは脅威だからな」

「あれ? 皆さんもユニーク持っているんじゃないの?」


 伊達さんが謙遜するように自分達の事を語り、それに同意するようにALLさんが合わせる。だがその発言の中に、ユニークを持ってない、みたいな言葉があって、私は思わず口に出してしまう。


「にゃはは。まあユイの周りがユニーク保有者(ホルダー)ばかりだから、そう思っちゃうのも無理は無いか」

「あ、ごめんなさい。皆さんも持っているものだと思って」

「うふふ、別にいいのよ。ユニークは名前の通り、オンリーワンであり、変わったスキルの事だけど、だからと言ってそれを持っている事イコール強いって訳じゃないわ」

「ZXも【悪食】っていうスキルを持ってはいたけど、それはユニークでは無かったし。どちらかと言えばPS(プレイヤースキル)で戦闘していたからね」


 周りの人が皆ユニークを持っていて、私自身もそれを手にしていたので、高レベルの人は誰でも持っていると思っているものだと勘違いしていた。そうだよね、鯖内に一つしか無いんだもんね。やだなぁ、恥ずかしいなぁ。

 私が顔を赤くしていると、エースは私に集中している視線を払うように、別の話題を振る。


「PSとは個々の技量って感じだね。例えば伯爵が黒竜相手に、火球をギリギリで避けたり、攻撃に合わせて投げ飛ばしてたりしてたけど、あれって誰でも出来る訳じゃないからね。斯く言う私も出来ないし」

「え? 黒竜ってあのレイドボスの事じゃないよな?」とか「いやいやまさか」とか「……あれ投げ飛ばすとか相当おかしい」とか散々言われている。伯爵さんに今度は視線が集中するが、エースが顔の前で手刀を切ると、観念したように首を振り、「まあ、皆さんもやれば出来ますよ」と返す。歓声が上がる中、伯爵さんは脱線した話題を軌道修正する。


「それで奴の、JACKの能力ですが、皆さんは体験されたのですよね?」


 先程の歓声が嘘のように、一気に静寂が広がる部屋。最初に口を開いたのはたくやさんだった。


「俺達も掲示板で知った知識だったんだけど、最初はそんな凄い能力だとは思っても無かった」

「ええ、我々も警戒はしていたのですが」


 深刻に話すたくやさんと思い出すように語る伊達さん。けれど能力も何も知らない私にはちんぷんかんぷんで、全然着いていく事が出来ない。見かねたエースが教えてくれた。


「JACKのユニーク【天乞(あまご)い】は天候を自在に変えられる効果があってね。更に称号【祈祷師】の、『天候によって効果を付与する』効果と合わせる事で、広範囲攻撃が可能になるのさ」

「ギルド名【ゲリラ豪雨】の由来にもなってる【集中豪雨】は、まるで雨粒を弾丸のように降らせるスキルで、ZXの【悪食】でも対処し切れない密度で攻撃してきやがった」


 よほど悔しかったのか、たくやさんは机を握り拳で叩きつける。「たくや……」とあやかさんが声を掛けると、ハッとなり謝罪の言葉を口にする。少し居心地が悪そうなしていながらも、続きを話すたくやさんの顔色は何とも言えない。


「オマケにJACKと協力関係にある『先生』と呼んでいる奴が居て、そいつがやたら強い。最終的にZXと一騎打ちに持ち込まれたけど、アイツが膝を付いている姿なんか初めて見たよ」

「ZXもユニークこそ無いが、PSはギルド1だったしランカー常連とも言われていた。にも関わらず、ZXは名前を確認する事すら出来ずに敗北したと言っていた。正直、僕達では勝ち目すら無いでしょう。敵はJACKだけじゃない。始まる前から負けるつもりで居たくはないが、現実は見なければならない。今回の戦いはそういう意味でも、僥倖だったと言わざるを得ない。こんな素晴らしい機会に巡り会わせてくれた事、深く感謝する」


 椅子から立ち上がったと思って見ていたら、急に土下座をし出す伊達さん。メンバーも同じように土下座しようとするので、エースは「いやいや、偶然だから! そこまで重く捉えなくていいから!」と、普段あまり見られないオロオロとした姿を見せている。普段がアレなので、こういう風に感謝されるのには耐性が無いんだろう。伯爵さんの方を見れば、落ち着いて皆の気持ちを正面から受け取るように、微動だにせず座っている。

 何ていうか、皆ちゃんとマスターしているんだなあ。私も見習わないと。


 そして話し合いはまだまだ続く。

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