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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第四章 悪質ギルドと戦闘準備
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とりあえず暗躍する者達

 ボロボロに錆びれたトタン屋根から雨漏りがしている。隙間風が入りこみ、部屋の灯りも年季の入ったランプ一つのみ。歩く度にギシギシと鳴る床は、まるで来訪者を告げる音を報せるかのように響く。


「よお、遅かったじゃないか」

「別に。それよりもどうして集合場所をこんなところに?」


 青年が中へ入ると、椅子に腰掛ける一人の男の姿があった。色黒の肌は薄暗い部屋と同化するかのように、その存在を曖昧にしている。更に奥にも人の気配があるが、ちょうど男の影に隠れるように顔が見えず、壁に背を預けている。


「大した意味は無いさ、気分だよ、き・ぶ・ん。それより何か新しい情報は手に入ったのか? 青薔薇よぉ」


 呼ばれた男、青薔薇は少しだけ躊躇ってから答える。


「特には」

「ケッ、相変わらず使えない奴だなお前はよ。他の奴等からは色々と報告が上がってるってのに」

「……JACK。こんな事、もう止めにしないか?」


 青薔薇が呟くように言った言葉に対してJACKの取った行動は、腹に蹴りを思い切り入れる事だった。倒れた後も執拗に蹴り続けるJACKに、抵抗も反抗もせずにただなすがままになる青薔薇。


「てめえは! いつまで! 俺を! 怒らせれば! 気が済むんだ? ああん?」

「ぐふ……うう」


 何度も何度も蹴りを入れられ、やがて呻き声すらあげられなくなる。幾ら痛覚に制限が掛かっているとは言っても、痛みが無い訳では無い。逆に、幾ら傷付けてもくたばる事の無い身体は、JACKにとっていいサンドバッグになっていた。


「へへへ、お前も強情な奴だよ。俺の言う通りにしてりゃ甘い汁を吸えるんだぜ? 昔言ってたじゃねえか。『この世界で俺達は天下を取るんだ』ってな」


 腹を押さえながらも、必死に声を振り絞る。「こんなやり方は間違っている」と。しかしその声は届かない。


「あの”害悪”のギルドに潜入出来たと聞いた時は、思わず俺様自ら出向いてしまったが、まさかそのお陰でモジュレまで会いに来てくれるとは、俺はなんて強運なんだろうな」

「何を言って……」

「そんな便利なユニークを持っているにも関わらず、使い手がこうもゴミだと宝の持ち腐れだな。他の部下共が報告してくれたよ

。今回の【対抗戦】、参加ギルドは”ネコタンク”のとこと、”悪食”の残党、それにモジュレのギルドが参戦するそうだ。ククク、俺は本当に運がいい」


 頗る上機嫌なJACKは笑いを抑えきれずに声を漏らしている。そんな時、青薔薇に『手紙』が届く。笑いを止め視線を青薔薇へと戻したJACKは、内容を教えろと命令する。


「差出人はユイさん。内容は明後日の打ち合わせをしたいとの事だ」

「良し。じゃあ早く行ってやらないとなッ!」


 ようやくの思いで立ち上がった青薔薇を、再び背中を折らんばかりの勢いで殴りつける。殴りつけられた青薔薇は、逃げるようにしてその場から姿を消す。

 青薔薇が去り、再び椅子に深々と腰掛けたところで、無言を貫いていた奥の男が話し掛けてくる。


「酷いな」


 たった一言、ただそれだけを言っただけなのに、その場はまるで冷気に晒されていたかのように、背筋をひんやりとした空気が撫でる。


「ハッ。俺様に逆らうからだよ。それより当日は頼みますぜ? 先生」


 だがそんな空間などお構い無しに、先生と呼ぶ男に期待を寄せる。


「俺に頼っているようでは先が思いやられるな」

「所詮はカビ臭い骨董品と残飯、それに初心者にギルマスを任せるような連中だが、念には念を、ですよ」

「ハッ。ただモジュレとかいうのと遊びたいだけだろう」

「ククク、バレバレだったか……っと、もう行くんで?」


 話も適当に済ませた男は、穴だらけの扉の方へと向かう。後ろは振り向かず、取っ手に手を掛けたまま会話する。


「俺は強い奴と戦いたい、ただそれだけだ。お前との関係も、強い奴と戦わせてくれるからという薄い付き合いだ。俺の行動を縛る強制力は無いと思うが?」

「仰る通りで。まあ当日は期待してますぜ、先生」

「……」


 建て付けの悪い扉からギィィと音を響かせて、その場所を後にする男。一人残ったJACKは楽しそうにまた笑い声を響かせる。一頻り笑った後、メンバーの報告を受け取ると、自身も立ち上がり部屋を出ていく。彼が向かう先は【フェイエンヤード】。決戦の地へと繰り出す彼の横顔は、まるで玩具を与えられた子供のように微笑んでいた。

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