とりあえず類は友を呼ぶ
ギルドへと帰ると、そこにはエースと複数人の見知らぬ人達が居た。またあのJACKとかいう人関係かと警戒していたが、エースがこちらに気付くと待ってましたと言わんばかりに飛び付いてくる。
「あーユイー! 寂しかったよー!」
「ちょっ、エース。人が沢山見てるよぉ」
「逆に見せ付ける!」
「やめい」
抱きつかれ困る私にキリッとした表情で言うエース。それを首根っこ掴まえて引き剥がす伯爵さん。私達にとってはもはやテンプレになりつつあるが、見知らぬ人達からは「えぇ……」という声が漏れる。ごめんなさい、ウチではいつもこうなんです。
「ははは、つい出来心で」
「毎回毎回飽きんもんじゃな。で、そちらさんは?」
「うん、紹介するね。昔”悪食”ことZXが居たギルド【救世主ファミリア】。ZXが抜けた事で色々あって解散したんだけど、その中で打倒【ゲリラ豪雨】を掲げた六人の勇者! 新たに結成した【義憤ファミリア】で正義の鉄槌を──あたっ!」
「恥ずかしい紹介止めて下さい!」
エースのドヤ顔とヨイショを交えた紹介を、短髪の男の子が頭目掛けてチョップして止めた。見た目は小学生ぐらいかな? あんまりキャラの体型が違いすぎると、動かすのが大変だって聞いてるし、多分現実でも同じぐらいのはずだけど……。ジッと見ていた私に、男の子は指を指しながら言う。
「ちょっと今、『この子小学生かな?』とか思わなかったか?」
ギクリ。何で分かったの? と思って必死に隠そうとするも、その様子で更に察した男の子が憤慨する。
「クソッ、クソぉぉぉぉ! 何で皆俺の事をそんな風に見るんだよ!」
地団駄を踏む男の子に謝ろうとするも、横から油を注ぐ女の子が……。
「だって、ねえ? たくや、その身長じゃあねえ?」
「うるさいうるさいうるさい! 好きでこんな身長してるんじゃないんだからな!」
たくやと呼ばれた男の子は、クスクスと笑う女の子に指を指しながら怒っている。身長が少しだけ高い女の子は、男の子をよしよしと愛でながら、「ぷぷっ」と耳元で笑う為、頭に置いた手を振り払われている。
「カップリングで言えば、たくや君は『年上のお姉さんに素直になりたい、けどつい本音を隠しちゃうツンデレ受け』だと私は思うのですが!」
「たくやぐらいの男の子なら俺行けるわ」
「…………」
「皆さん少し落ち着いて下さい。相手方のギルドの皆様が微妙な表情になっておられますよ」
少し離れた位置に居る人達は、特に手を出す事はせずに見守っている。怪しい発言をしている人も居るが。
「ど? 面白い人達でしょ?」
「何とも言えない人達だね」
「とりあえず落ち着かせてから話じゃな」
──数分後
私達と眼鏡を掛けた如何にも真面目そうな人が頑張って鎮圧(主にエースのスキル)し、何とか椅子に座らせる事に成功した。そして状態異常が解けたところで、先程の女の子が笑いながら謝罪する。
「ぷぷっ、いやぁごめんごめん。ウチのリーダーがとんだご無礼を」
「おまっ……ちっ。本当に悪かった。だけどちょっと見た目の事にはあまり触れないでくれないか? この身長ってだけで小学生に見られてて」
小声で「大学生なのに」と聞こえた。苦労しているんだなと思ったすぐ後、それを実感させられる言葉が投げ掛けられる。
「たくや君はむしろそのままでいいと私は思います!」
「うるさいなあ翡翠! 今日は話しに来たんだろ! そろそろ俺を弄るのをやめろよ!」
「ぐへへ、可愛くてつい」
何だろう。対象が違うだけで同じ空気を感じる。私が若干失礼な事を思っていると、彼は真面目な顔を向けてきた。
「えっと、初めまして。さっきも紹介があったと思うけど改めて。【義憤ファミリア】のギルマスをやっているたくやと言います。こんなナリしてますが大学生なので!」
身長は私が156cmなんだけど、さっき止めた時に見た感じ150cmぐらいだった。髪は短髪で小柄な上、キャラも可愛い路線なので間違われても仕方ない気もするんだけど。
「ぷぷっ、あ、私の番よね? 同じく【義憤ファミリア】で副マスやってるあやかでーす。たくやと同い年で大学生でーす」
「お前成人して子供も居──げふっ」
「同い年でーす」
黒髪ストレートで身長もたくやさんより少しだけ高いが私より低いあやかさん。けど殴った。今思い切り殴ったよあの人!? 今も膝を折り、倒れたたくやさんの頬をツンツンしながら、「ねえ、さっきのお返しなのかな? 歳の話はしないって言わなかったか? ええ?」と睨み見下す顔は……夢に出そうだ。
そんな二人を居ない者のようにスルーして、自己紹介を続ける【義憤ファミリア】の方々。
「……kurara。よろしく」
このギルドの人はちっちゃい人中心なのかと思うほど、全体的に小柄なキャラばかりが揃っている。kuraraさんもその中の一人だ。緑髪のツインテールが印象的だが、挨拶を終えるとすぐに机の上で腕を組むと、そのまま眠りに堕ちてしまった。
「ハァハァ、kuraraたんの寝顔カワユス。いやしかーし! 私にはたくや君の怒った表情も好物であります!」
「だからお前らは俺を弄るんじゃねえ!」
「ぐへへ。どうもこんにちは。私は翡翠。趣味は男の子を愛でる事です! このギルドに入ったキッカケも、ギルマスと副マスが乳繰りあってる姿が大好きだからです!」
「クッソ! 遠回しに俺を可愛いって言うんじゃねえ!」
「そのスマイル、プライスレェス」
「笑ってねえよ!」
サムズアップしながら鼻血を吹き出している女性。この中ではキャラはお姉さんっぽいが、言動が少し怪しい気がする。隣でエースもサムズアップしているのはどういう事かな?
「まあ小学生なら男の子もストライクゾーンに入るもんな」
「入るもんな、ってさも普通の人がそうみたいに言うんじゃねえ! お前らちょっとは真面目に自己紹介しろよ! 初対面だろ!?」
凄くこちらの言いたい事を代弁してくれているたくやさん。何だかいいお友達になれそうな気がする。
「俺はALL。名前の由来は、アリアちゃんラブラブだ。アリアちゃんってのは俺のリアルの嫁で」
「ゲームの中でゲームの嫁を語ってんじゃねえ」
「ゲームの中でゲームの嫁を語るんじゃないわよ」
「ゲームの中の嫁もそれはそれで萌える、但し男に限る!」
「…………」
「その話長くなります?」
総突っ込みが入ったALLさん。由来が由来なだけに、少し呼ぶのを躊躇ってしまいそうな名前だけど。見た目は金髪でライオンみたいな髪型をしている。黙っていればヤンキーっぽいのに、中身が凄く表現しにくい。
そして最後、話の尺を気にしていた男の人が、眼鏡をクイッと上げて話し出す。
「ギルメン失礼しました。僕は伊達信長。呼び方はお好きに。今回、このような機会を頂き誠に感謝しております。我々では奴を引き出すほどの力も名声も無く」
「伊達やん硬いぞ。それに力が無いなんて言うな。ZXが聞いたら笑われる」
「はっ、そうでした。すみません、たくやさんの言う通りですね」
一人だけ委員長とかしてそう。一番普通なはずなのに、周りの人達が濃いせいで逆に浮いている。……まあ人の事は言えないけれど。
「そういう訳で俺達六人も【対抗戦】に参加させてほしい。勿論追加で出された金の件は」
「わーわー」
たくやさんが話している最中、エースが大声で叫ぶ。たくやさんがそれに気付いて「内緒なのか?」「ごめん、迷惑掛けたくなくて」と小声で話しているがバレバレだ。なので──
「ちょっ、ははは。いや待って、待ってぇぇぇ!」
「今何を隠した? んん?」
「あっ、んんっ。こんな、こと、されても、うひっ。言わないッ」
ありゃ? 普段ならここで既に吐いているはずなのに、今日はめちゃくちゃ耐える。うーん。て事は本当に言いたくない事なのかな? 私にはあんまり隠し事しない方だけど、少しぐらいプライベートな部分がある方がいいよね。
ワキワキロックを解除した私はエースから離れつつ、「分かったよ、エースが話してくれるまで待つ」と言った、その直後。
『【スキル:くすぐり】を取得しました』
遅いぐらいだが、ある意味予想していたスキルを取得した。やっぱりある程度回数を重ねなきゃ取れないみたい。効果はくすぐった相手に数秒の麻痺効果だと、復活した後のエースから聞く。
気を取り直して話を再開する。エースはしばらくは昇天したままなので放置。
「じゃあ手伝ってもらえるって事で大丈夫ですか?」
「ああ。仇討ちなんてしてもアイツは喜んだりしないだろうけど。それでも俺達はまた誰かがこの世界から去っていく姿なんて見たくないんだ。むしろこちらから頭を下げて頼みたいぐらいだ」
たくやさんが頭を下げると、さっきまでふざけ合ってた面々が一斉に頭を下げた。ZXさん、慕われていたんだなあ。エースもいい人だったって言ってたし、会ってみたかったな。
「アッシはエース、って紹介しなくても分かるか。さっきも言ったしね。この可愛い方が私の嫁でギルマスのユイで、ペットの伯爵ね」
「誰がペットじゃ!」
「初対面の人にその説明は……」
サラッと適当な紹介をされ、思わず突っ込む私達。向こうの人達は「うんうん分かるよその気持ち」みたいな顔で頷いている事から、多分説明を真に受けてないんだろう。エースってそう言えば変な風評あったような。
気を取り直して伯爵さん。
「吾輩はゴロ・ニャーゴ伯爵である」
「名前はまだ無い」
「今言ったじゃろ! 横槍を入れるんじゃないわ!」
「あの」
「む?」
「ゴロ・ニャーゴ伯爵ってまさかあの”ネコタンク”の?」
「如何にも」
「うおー! スゲー本物だ! 握手して下さい!」
「はっはっは、いいですとも」
私はこのゲームを始めたばかりだからよく知らないけれど、エースも伯爵さんも有名だとは聞いている。周りが凄い人ばかりだと、基準がそれになってしまうせいか、あまり実感が湧かなかったけれど。皆凄いんだなあ。何が凄いのかは、素人目線だから分からないけど、とにかくなんか凄い!
セルフ突っ込みで妄想していると、エースがツンツンと突っついてくる。ハッとして見渡すとどうやら伯爵さんの紹介は終わったようで、皆の視線が私に集中していた。
「あっと、ごめんなさい。ちょっと考え事していて」
「いやいい。俺もよくあるから」
「きゃーたくや君ステキー」
「てめえらいい加減静かにしろよ! 本当にごめんな、こんな連中で」
「いえ。楽しそうだなって思います」
「そっか、そう思ってもらえるだけで満足だ」
「ふふ。【唯一無二】のギルドマスターをやらせてもらっているユイと言います。プレイヤー歴はまだ二週間も経ってない、レベルも低い初心者ですけど、皆さんの足を引っ張らないように頑張ります。よろしくお願いします」
頭を下げた私は、内心戦々恐々としていた。皆が一丸となっている中、一人低レベルで初心者な私が首を突っ込む事に。もしかしたらお前は要らないみたいな言葉が投げ掛けられるかも、と少し心配していたが、まあなんというか相変わらずな……。
「ぐっは、流石私の嫁。一生懸命自分に出来る事をやろうとするその心意気に、アッシのハートは不整脈」
「ぐへへ、なんて可愛い生物なんだ。腐る魂が浄化されていくようだ」
「アリアちゃんには劣るが、なかなか捨て難い人材だな。特別に俺の嫁になっても」
「「しばくぞゲーム野郎!」」
エースと翡翠さんの見事なコンビネーションで宙を舞うALLさん。kuraraさんは無言で見つめ、伊達さんは「懲りない人ですね」とどちらも助けに入ろうとはしない。その喧騒に紛れて隣にいつの間にか座っていたあやかさん。
「緊張なさらないで下さい。こちらこそ、至らぬ限りではありますがよろしくお願いします」と手を握り、微笑む姿につい見惚れてしまう。ALLさんを足蹴にしている二人からは「NTR! NTR!」と良く分からない掛け声が聞こえてくる。
その光景を見ていた伯爵とたくやが互いに慰め合う。
「お前さんのところも毎日騒がしそうじゃな」
「伯爵さんのところも飽きなさそうな人だな」
カオス空間が生まれ、もはや互いの紹介というよりも誰の嫁になるのかという、とてもくだらない話は、ユイの「落ち着いて話しない人は皆嫌いです!」の発言が出るまで沈静化しなかったという。




