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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第四章 悪質ギルドと戦闘準備
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とりあえず倒し方は見て学べ

 伯爵さんに担がれて黒竜の下まで来た私。ボスに近付いた辺りで参加するかの確認メッセージが出たので『はい』を押した。未だ状況は把握していないが、一緒に見学しに来たエースと、逃亡防止と勝手に連絡を取られないように見張る為に連れて来られた青薔薇さん、更に幻舞麦茶さんがボスフィールド内に居る状態。エース曰く「習うより慣れろ」という事らしい。

 実際、低レベルがパワーレベリングや寄生で高レベルになった時に、戦い方や立ち回り方を理解出来ていない者が多くなるとの事。そういう高レベルだけど戦法や連携が取れない人の事を、ゲーム用語で「地雷」と称されるらしい。ただOOOには【地雷】というスキルがあるので注意ね! と言われたが、何を注意すればいいんだろうか。


「ではユイさん。まずは相手の行動をよく見ておいて下さい」


 それだけを言うと、伯爵さんは真っ直ぐに黒竜(ブラックドラゴン)へと向かって行く。私を含む四人は、黒竜のボスフィールドと通常フィールドの境界ギリギリに立っている。ボスフィールドで戦闘中は通常フィールドへ出る事は出来ないが、ターゲットがこちらに向いていない時は出る事が出来る。ただ、戦闘中のボスフィールドに途中参加は出来ない為、誰かが体力を削るまで安全な場所で待機し、終わる事に一撃を入れる、なんてズルは出来ない。何だか列の順番待ちみたいだなぁ。


 伯爵さんが正面から近付くと、黒竜がそれを察知し火球を吐き出す。火球は三つで、二つが伯爵さんへ、もう一つは私達目掛けて飛んで来ている。


「ほら、アンタも傍観してないで可愛い女の子を護りなさい!」

「いや、僕は不意打ちからの一撃が得意であって、こんな正面からの攻撃はぁぁぁ、危ないな」


 エースが私を抱えて半歩後ろへ下がると、青薔薇さんへ無茶振りを要求している。青薔薇さんも反論するが、急に軌道が自身の方へ向いた為、驚きながらもスレスレで回避している。

 一方伯爵さんはと言えば──



「まず黒竜は近付くと火球を放ってきます。正面から近付けば三発、それ以外だと六発ですね。当たると炎上、火傷、毒のどれかになるので注意が必要です」


 そう言って、火球が飛んでくる方向が最初から分かっているかのように、数歩ズレるだけで躱している。


「火球が終わるとこのように突進からの噛み付きが来ますので」


 説明と同時進行で、黒竜が伯爵さんへ顎を突き出しながら物凄い速度で走って来ている。口の大きさだけでバスを飲み込めそうなぐらいだ。伯爵さんはそれを意にも介さず、片方の牙を掴んだかと思うと空中で反転。すると黒竜の身体がフワリと浮き上がり、黒竜は前転の要領で仰向けになり、そのまま地面へと叩きつけられる。


「ゲームとはいえ、相手の勢いを殺さずに威力を別ベクトルに流す事で、回避に応用する事が出来ます」


 私への解説を交えながらも、黒竜の尻尾の一凪を屈んでからのバク宙で避ける伯爵さん。範囲外に居た私達ですら当たりそうになるほどの攻撃を、もはや見る事すらせずに捌く様は、ある種そういう踊りを見ているかのように鮮やかで洗練されたものだった。

 途中、黒竜が何度かこちらに視線を向けるのだが、伯爵さんの【猫パンチ】と青薔薇さんのユニークでタゲを伯爵さんに固定している。タゲとはターゲットの略で、モンスターなどの注意の矛先や攻撃先を示す時に使われる言葉。それを固定するというのは、モンスターなどの攻撃を壁役に収束させる事で、他の打たれ弱い仲間や攻撃を通しやすくするのに大切な行動だと言う。伯爵さんの【猫パンチ】やエースの【麻痺玉】など、状態異常を有するスキルはボスには効きづらい傾向があるというが、何度も当てればその限りじゃない。現に先程からエースが毒液の海を作っている。……伯爵さん、これ渡って来れるのかな?

 青薔薇さんは、ユニーク【此処に在らず(インビジブル)】の効果で姿を隠し、ついでに【気配遮断】と【隠密Ⅴ】というスキルで音と気配も消している、と何故か幻舞麦茶さんが解説している。青薔薇さんのユニークは青薔薇さんが触れている人も透明化出来るようで、両手……つまり最大二人までその効果の恩恵が受けられる。ただ使っている間MPがガンガン削られていくのと、自分一人だけの時と違い制限時間がある為、JACKのストーキング行為には転用出来なかった、とこれまた幻舞麦茶さんが解説している。

 因みにその本人は、「危ない!」と言って私を透明化してくれたのだけど、「ウチの可愛い嫁に許可なく触るな汚物がッ」と誰かさんが突き飛ばし、その先でちょうど尻尾に叩きつけられ、幻舞さんが「ホームラン! ナイショッ!」と叫んでいた。結果だけ言えば私達の後方辺りの岩山に、頭から突き刺さっている。皆扱い酷い気が……。



 そうして黒竜の行動パターンや、HPが減るとどういう変化が現れるかの解説を挟みながら伯爵さんの戦いを見学した私達。結局伯爵さんは一度もダメージを受ける事無く、大体一時間強で倒してしまった。

 ボスを倒した瞬間にパキンっと空が割れた。次の瞬間、ボスフィールドの少し外側に私達は立っていて、奥の方には先程光となって消えた黒竜が再び寝そべっている。


「いやぁ、やはりソロでこれだけ掛かってしまうとは。やはり年寄りは隠居ですね」


 伯爵さんがスクリーンに目をやり、汗を拭いながらこちらへ歩いてくる。エースの毒液を華麗に避けながら。


「うーむ、【黒竜の心臓】は無しですか。また【黒ノ顎門】、これは売却ですね」


 どうやらドロップアイテムの確認をしているようだけど、何がよくて何がダメなのかよく分からない。ただ伯爵さんの表情から察するに、期待したものは落ちなかったみたい。


「流石伯爵、ノーダメで黒竜倒すとか化物だね。ほい、飲み物」

「おお、助かる。一汗掻いた後のドリンクは身体に染み、そおい」


 すかさずエースは飲み物を差し出す。それを飲もうと口を近付けた瞬間、何故か地面へと投げつける伯爵さん。エースが舌打ちをかましていた。


「チッ。やっぱりネタが割れてる人には使えないか」

「当たり前じゃ! 変な小ネタ挟んでくるんじゃないわ!」


 不思議そうにやり取りを見ていると、またしても幻舞さんが教えてくれる。


「ユイちゃん、あれはエースの姉御のユニーク【毒薬は口に甘し】の効果で作った回復薬なんすよ」

「?」

「ありゃ、姉御。ちゃんと説明やってる?」

「うん、ニュアンス!」

「放任主義もいいが、お前さんはもう少し丁寧さをじゃな」

「ハハハ。私のユニークって毒薬に回復効果を与えるんだけど、逆に回復薬に状態異常も与えられるんだよねー。で、私が合成した毒薬は名称上【回復薬】になって、しかも強力な猛毒というオマケ付きなのさ!」

「それを黒竜帰りのご隠居に差し出す姉御のセンスに痺れんぜ」

「ドヤァ」


 もはや伯爵さんはめんどくさいとばかりにスルーを決め込んでいる。エースと幻舞さん、二人居ると確かに鬱陶しいなと伯爵さんの苦労が分かる気がした。



「さて、チュートリアルはここまでです。次は皆で戦ってみましょう。なぁに、でっかいトカゲと戯れると思えばいいのです」


 遂に黒竜との戦い(本番)がやってきた。大丈夫かなぁと不安になりつつも、震える手をエースが優しく握ってくれる。


「大丈夫! 私が付いているから、ユイは思うままにやればいいよ!」

「……うん!」


 そして私は初めてのボス戦に気合いを入れ直す。


初心者の初ボス戦(Lv差50)

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