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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第四章 悪質ギルドと戦闘準備
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とりあえず初ボス戦に向けて

 声を掛ける者達は皆、伯爵さんへと視線を向けている。


「久しぶりというほどでもあるまい、というかさっきギルドに行ったじゃろ」

「いやいや、俺その時別のクエストしてて居なかったんで。話は【手紙】で確認したっすけど。あ、【対抗戦】の代表ギルドの方っすよね? ちーっす。幻舞麦茶(げんまいむぎちゃ)でーす」


 何かチャラそうな男の人、幻舞麦茶さんがそう言って私達を見る。そしてオーバーリアクションで驚きを口にする。


「げっ!」

「よー!」

「エースの姉貴じゃないっすか!? 超久乙乙っす!」

「超久乙乙ー!」


 何だろう、このエースが二人居る気分。ノリで会話が進んでいく感じが何ていうか……何て言うんだろ。

 そして二人がやいやい話していると、急にまたオーバーリアクションで驚いている。


「げげっ! ”俺達の紳士”じゃないっすか!? うへー、本物と初めて会ったっす」

「は、はじめまして……」


 青薔薇さんは引き気味に応えると、幻舞麦茶さんが握手を求める。青薔薇さんは躊躇していたが、お構い無しに手を取りブンブンと振り回す。


「ひゃー! 超嬉しー! 俺、イベントのモニター見ててめっちゃファンなんすよ!」

「そ、そうなのかい?」

「もーあのスカートめくりの華麗な手捌き! 幾らアバターだからって通報されかねないあの動きを、”俺達の紳士”は叶えてくれる。いやー、マジで好き。猫の十八番目ぐらいに好き」

「……あ、うん」


 エースが「あれでも伯爵のギルドを継いでギルマスになった人なんだよー」と教えてくれた間に、いつの間にかジャイアントスイングみたいにグルグルと回されている青薔薇さん。青薔薇さんが名前通りに青白くなった辺りで、伯爵さんが助けに入る。


「幻舞、もうその辺りにしておけ」

「えー、もっと話したいんすけど」

「今日の目的はそこじゃないじゃろ」

「そうっすね。あ、申し遅れました。愛猫家ギルド【軒下の集会】ギルドマスター、幻舞麦茶っす。好きな食べ物は海苔の佃煮、嫌いな食べ物は小麦全般!」


 ツッコミ所満載だが、どうやら悪い人では無いようだ。その証拠にエースと仲良くキャッチボールしている。……他の人達をボール代わりに投げている気がするけど、きっと見間違いだろう。


「幻舞以外も【軒下の集会】のメンバーばかりで、今回の騒動の協力者です。強さは吾輩が保証しますので、ユイさんはちょっと大きいトカゲと遊ぶ感覚で大丈夫ですよ」


 伯爵さんがそう言うと後ろの方から「ぷっ、伯爵が敬語」や「初めて会った時はあんな感じじゃ無かった?」とか「いや、俺が入った時は既に地が露見してたわ」など言われ、伯爵さんが「ニャー!」と言いながら追い掛け回している。あれ? 今から黒竜と戦うんだよね?

 空気がユルユルに緩みまくった辺りで、伯爵さんが皆を集合させる。


「さて、大分脱線したが大まかな動きを説明するぞ」

「はい」

「はーい!」

「うぃー」

「……あれ? やっぱり僕も戦う感じですか?」


 青薔薇さんの疑問を華麗にスルーして伯爵さんは話を進める。


「まずは黒竜(ブラックドラゴン)の動きについて……の前に、ボス初挑戦の者が居るからの。それについて少し話そう」


 幻舞さんが指笛をピューピュー鳴らしている。他のメンバー達も謎の踊りを踊っていて、エースは麻痺の粉で花火みたいな演出をし、それを吸い込んだ青薔薇さんが倒れてピクピクしている。伯爵さんがツッコミを放棄して説明に専念している為、やりたい放題の惨状である。


「まずボスモンスターはボス専用フィールドに居る。例外は居ますが基本はそこから動く事はありません。ボスに挑む場合、最大十パーティー計三十名が参加出来ます」

「えっ、でもパーティーは組まないって……」

「はい。なのでユイさん一人で入り、他のメンバーはパーティーでの参加になります。ボスモンスターのフィールドに近づくと、戦闘に参加するのかを選択する画面が出てきます。そこで『はい』を押せば同時に入った人が一緒に、『いいえ』を押した場合は更に選択肢があり、一人で戦うか止めるかが選べます。ボスフィールド内ではパーティーの申請・解散が出来ないので、組むなら事前にしておいて下さい。またボスを倒した時に経験値が分配されますが、一人とパーティーでは差があります。まあリスクは一人だと大きく、スキルの恩恵も少ないので、経験値は多く入りますね。また一度も戦闘に参加していないと経験値は入りません。まあ寄生……経験値やアイテムを働かずして得る行為ですね、それの対策でしょう」

「何だか難しいですね」

「ははっ、慣れればそう難しいものでもありませんよ。さて、では本題の戦闘の動きですが、以前お話したようにユイさんは前衛を担当して頂きます」

「はい、でも多分近付けない気が……」


 そう言って黒竜の方をチラ見する。私の能力上。学校の体育館と同じぐらいの大きさのアレに近付いて攻撃しなきゃいけない。けれど話を聞く限り、相手はレベル60あるらしい。普通に考えれば無理だと思うけど……。


「そこは問題ありません。その為の吾輩です」

「よっ! ”ネコタンク”!」

「よっ! ネコドル界のご隠居!」

「ニャオーンニャオーン!」

「ゴロ・ニャーゴ!」


 全力で無視している。伯爵さんが近くの壁で爪とぎしているが、特に突っ込む気配は無い。伯爵さんが作ったギルドの人達、いつもあんな感じなのかな。


「ゴホン、失礼。吾輩が相手の注意を引きつける壁役を担当します。そのサポートとしてエースと他のメンバーが足止め役に入りますのでご安心を。火力はユイさんの他に」

「はーいはいはい! 勿論俺っち幻舞麦茶が、部位破壊で尻尾を切り落として井戸で栄養満点に高値で売っちゃうぜい!」

「あのアホの話は八割は無視して構いませんよ。ノリだけで会話しますので」


 伯爵さんがずいっと顔を近付けて言う。その額には青筋が浮かび上がっている。一応私への説明を優先させてくれているんだろうけれど、もう普通に突っ込んだ方がいい気が……と思っていたところで、幻舞さんのメンバーの一人が「ちょっと男子ー!」と言って止めに入っている。流石にまともな人が居るのかと思って見ていたら──


「皆よく見なさいよ、あの伯爵が女の子に優しく敬語で話しているなんて。きっと好きな女の子に好かれようとカッコつけるアレよ」

「なるほど、ご隠居様は思春期な訳ですな」

「おっとすまねぇマスター。俺達はアンタの恋路を邪魔したりしねえからよ、思う存分やってくれ!」

「「「俺達一同、黙って見守ってますんで!」」」


 全員の声がハモった後に、すかさずツッコミを入れたのは伯爵さんでは無くエースだった。


「なぬ!? 私のユイに告白だと!? それならまずはアッシを倒してからにしろー!」


 中学生ぐらいの子がよくやるような、本人はカッコイイと思ってやっている的なポーズを決めて高らかに言い放つエース。他のメンバー達も「ぐっ、なんて強敵がッ」とか更にボケを重ねている。そろそろちょっとOHANASHIしないといけないかな? 本気でそう思い、足を踏み出し──


「ちょっとエース、その辺……で?」


 注意しようとしたエースを含めた全員が宙高く舞っていた。私の行こうとしていた先には、さっきまで説明の為近くに居た伯爵さんの姿があった。


「お主らいい加減にせんかっ! いつもいつも話の腰を折りおって。お主らは動きが分かっているからふざけていられるんじゃろうが、ユイさんはボスも初心者ならレベル差も相当なものじゃぞ! 万全を期して挑ませてやりたい気持ちは無いのか!」


 バタバタと次々に落ちてくるメンバー達に、怒りつつも諭すような言い方で説教する伯爵さん。皆身体を丸くしてシュンとしている。その姿はまるで猫のようだ。


「カァァァ、ペッ」


 伯爵さんが毛玉を吐き出し幻舞さんにベチャッとぶつけている。幻舞さんも拭いながら「いや、マジサーセン」と謝っている。でもその拭った毛玉の塊を青薔薇さんの服で拭くのはやめてあげて。

 伯爵さんが軽い説教をした後、空をぼーっと眺める。何を見ているのかと首を傾げると、ふいに「シャーッ」と声を荒げ私に言う。


「やはり説明だけするのは性に合わんわい。ユイさん、悪いのですが今から吾輩がソロでボスを相手にするので、一緒に入ってもらえますか?」


 唐突に言われた言葉を理解しようとする私は、伯爵さんに担がれてボスフィールドに入れられるまで、何がどういう事なのか分からないでいた。


※下記は読まなくても本編に影響はありません。


愛猫家ギルド【軒下の集会】

参加条件:現実で猫を飼っている事

イベント:月一で自分の猫が一番可愛いと力説する会議、猫の餌を語る会、利き鳴き声選手権etc…

創始者:ゴロ・ニャーゴ伯爵

現マスター:幻舞麦茶

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