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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第四章 悪質ギルドと戦闘準備
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とりあえずレベル上限解放

「ここが?」

「そっ、ここが【祠の杜】」


 私達は二手に別れて行動している。エースの話では青薔薇さんをギルドから蹴る事も出来るようなのだが、それじゃあ面白くないからと、伯爵さんのギルドの方に着いて行っている。青薔薇さんの顔色がますます悪くなっていたけれど、なんでなんだろ?

 そして私とエースは、私のレベル上限を上げる為の場所【祠の杜】に来ていた。場所は湖都の近くの草原に渡る橋の真下に、人一人が通れる小さい空洞が空いている。そこを通った先には、何故か地面と草むらと森が広がっていて、夜空に星が煌めいていた。確か通った時は昼だった気がするけど。


「レベル上限を上げるには色々と制限があってね。ユイの場合、称号が一つ以上、スキルを五つ以上取っていて、なおかつレベルが10である事、だね。レベルはさっきの草むらで適当に上げてるから、ユイなら大丈夫」


 エースの言う通り、私はここに来る途中にモンスターを倒していた。しかも私のユニークの欠点も分かった。私のユニークで敵を倒すと経験値が入らないのだ。確かに、当たれば絶対倒せるようなスキルに何もデメリットが無いのはおかしい、理不尽だ! とエースも語っていたけれど。エース曰く、耐久値=HPが0って事は元から存在していない判定になるんじゃないか、とか道中ブツブツ呟いていた。この【祠の杜】自体が薄暗く、常に草むらがガサガサいってる場所なので、出来ればそのブツブツ言うのをやめて欲しかったのは内緒である。

 エースの呪怨のような姿にビクビクしながらもやってきたこの場所は、先程とは打って変わって静寂に満ちており、大きい泉の後ろに祠が一つあるだけという、かなり殺風景な場所になっている。


「ユイ、このアイテムを泉に投げ込んでみ」


 エースから【譲渡】されたアイテム【解放の結晶】を泉に投げ入れる。このアイテムは特定のクエストをクリアすれば貰えるとの事なので、次回からは頑張ってねと言われた。

 泉に投げ入れてしばらくすると、急に水面が盛り上がり水柱が立つ。そのまま上空まで伸びたかと思うと、それはみるみる竜の形を模していく。その光景に、先程までビクついていたユイは目を輝かせる。


「すごい……」

「ね。【レベル上限解放】の時だけ見られる訳じゃないけど、この演出カッケーよね」

「うん! ちょっと顔が可愛いよね!」

「うん? 可愛い? うーむ。嫁の感性がたまに分からん」


 そんな事を言っている私の前にスクリーンが表示される。


『【レベル上限解放】の儀について』


 その説明と共に竜が口を開く。


『我との儀を取り行う者よ、然と聞くが良い。此の儀を一度行えば、其方の力は更に高みへと登る事だろう。然し、後戻りは出来ぬ。儀を取り行う者よ。自身の胸に手を当て考えよ。其方は修練足る者で在るかを』


 竜の言葉を聞いた私はイマイチピンと来ない顔をしていたのだろう。すかさずエースが要約してくれる。


「まあ簡単に言えば、【レベル上限解放】をしちゃったら後戻りは出来ないよー、って事さ。イベントでレベルで分けられるのは迂闊に上げられるものじゃないからさ。メリットとしてはわざと低レベル帯に残って戦略で戦えるところかな。まあそれは高レベがサブキャラ使う時の話だけどさ。低レベル帯だとお店とか市場の宣伝費とかも安いからね。定価の二割安く買える」

「そうなんだ、知らなかった」

「デメリットとしては、レベル上限毎に覚えられる称号、スキルの個数と、たまにスキルにⅠとか付いてるのがあったりするんだけど、それに制限が掛かってるの。レベル上限10だと称号3、スキル10。ああ、スキルは【アクティブ】の数ね。【パッシブ】は上限無いよ。それで【スキルレベル】。これはユイだと【呼吸法Ⅰ】とかあったよね? あれはⅡまで現段階覚えられる」


 エースはフリーメモカードに書き込む私に、身振り手振りを加えながらゆっくりと説明してくれる。【解放の結晶】のクエスト場所やこの水竜と戦える場所も教えてくれた。この竜、戦えるんだ……。


「まあこんな感じかな?」

「うん、ありがと。じゃあ上げちゃってもいいって事なんだよね?」

「おうともさ!」


 エースの言葉を皮切りに『【レベル上限解放】の儀を取り行いますか?』に『はい』を押す。

 すると竜はどんどんと姿を変えていく。先程までの竜とは違い、螺旋状の水柱が竜を飲み込み、そのまま天高く昇っていく。そして見上げた私が見たのは、勢いよく落ちてくる竜の顎門だった。咄嗟に腕を交差させ頭を庇う私。けれど、思っていたような衝撃は無く、咄嗟に閉じた目を開けると──



「どっ?凄いっしょ!」


 私は水中に居た。息苦しくも無く、けれど水の中にいる時の浮遊感はある不思議な状態。まるで水に包まれている、そんな表現が正しいと思えるほど。水そのものがキラキラと輝いており、とても明るい。やがて水は私に吸収されるように無くなっていくと、スクリーンが表示される。


『【レベル上限解放】の儀が終わり、ユイのレベル上限が20に上がりました』


 しばらく余韻に浸っている私に、そろそろ行こうと声を掛けるエース。


「よっしゃ! これでユイも少しは戦力として期待出来るね」

「でも大丈夫なのかな? あのJACKって人の力も未知数だし、何より青薔薇さんが連絡しちゃうんじゃ」


 不安を吐露する私にエースは、「伯爵に付いて行かせたから大丈夫っしょ」と何故か楽観的だ。そう言えば青薔薇さん、伯爵さんと話す時何故か敬語使っていたけれど、何かあるんだろうか? それに今回の一件、もし私達側が負けるような事が有れば……。


「一華」

「ん? どうしたのユイ? 周りに人が居ないからって本名は──」

「私、一華と離れ離れになるの、絶対……ぜっだいいやだがらね!」

「おおう。どうしたのユイ? まだ泣く場面じゃ……いや、ごめんね。向こうが乗り気になってくれなきゃと思ってつい。私の方こそ、勝手に自分を売るような真似してごめん」

「一華」

「唯」


 私達は静かに抱き合った。周りに人が居ないのもそうだけど、この【祠の杜】自体がとても静かだったのも相まって、まるで時がゆっくりと流れるような、そんなひと時。直ぐに泣いてしまう私を一華はそっと抱きしめる。いつもは暴走して乱暴なイメージがあるけれど、こういう時だけ何故かとても繊細で優しい手付きになる。普段の活発な一華も好きだけれど、私に優しくしてくれるそんな一華も大好きだ。


 どれくらいそうしていたのか分からない。けれど、意を決して離れる一華と、まだ物足りなそうに見つめる唯。その姿に、いつもならもう一度抱きしめるエースだが、堪え我慢し告げる。



「私、ユイとユイの居場所の為に頑張るから。だからユイも私の背中を守って欲しい」

「分かった。私、エースの背中には指一本触れさせないよ。だってそこは私の居場所だもん」


 静寂に満ちる【祠の杜】には、少女達の決意の声が反響していた。


新年明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

by 伊勢神宮参拝中の杜邪

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