とりあえずデュエルと謝罪と
大幅に修正。また読み直してもらえると助かります。
「どうして、とは?」
青薔薇さんは冷静に、しかし先程見せていた笑顔は無く、淡々と仕事をこなすような無表情で答える。その顔からは先程笑顔で笑いかけてくれた人と同じとは思えない。
「ユイ!」
「は、はい!」
「私言ったよね? メンバーは募集を出すだけでいいって」
エースはいつもと違い、凄い剣幕で言い募る。その姿には焦燥が見える。
「でも、沢山集めなきゃ不利だって」
「確かにそうだけど。変なのを入れるのは不味いからあとで相談しようって」
「変な、とは失礼だね」
話に割って入った青薔薇さんに、エースは再度スキルを放つがヒョイと躱される。
「変なでしょうが! 私のユイに付け入って……そうまでしてギルドを乗っ取りたい!?」
「ふっ、まさか。僕個人としては今直ぐにでもやめたいところではあるんだけどね」
「嘘吐きめッ! ギルドを解体した時に、元手の半分が返ってくるシステムを利用して、ギルマスの座を降りるよう勝負仕掛けて……色んなギルドを潰して回ってるクズ共がッ」
「あまりそういう言葉は使わない方がいい。垢バンはされたくないだろう?それに両者合意の上での【デュエル】だ。別に問題は無いはずだけど?」
「その【デュエル】自体も、アンタ達が狩場を独占したりして市場にアイテムが出回らなくして、仕方なく勝負に乗った、とかじゃない! 何が合意の上よ!」
「両者が内容を理解した後、掛けたものの確認もしている。その上での勝負だ。これが正当では無いとしたら何だと言うんだ?」
互いに譲らない中、状況がイマイチ理解出来ていない私を庇うように二人の前に割って入る。エースからは敵意しか感じられず、青薔薇さんもまた好意が感じられない。エースが私に何か言おうとした時、ふいに入口の扉を叩く音がした。
「おーおー、まさか”害悪”さんのギルドとは」
現れた男は青薔薇さんよりも更に大きく色黒でガタイもいい。その男は青薔薇さんを見ながら言う。
「よう。連絡ありがとさん」
「……別に」
「なんだ連れねえ奴だな。そこの男は俺達の主力でな。勝手に引き抜くなんて行儀悪い真似しないで欲しいんだよね〜」
そう言ってニヤニヤと下卑た笑いを見せる男に、エースは反論する。
「こんな奴を引き込んだ覚えは無いわ」
「そりゃおかしいなぁ? いつも通りギルドに顔出したら、青薔薇君が居なくてな。リストを見ても名前が無い。だからフレンドリストからギルドに勧誘したら『ギルド【唯一無二】に所属しています』、なんて言われてよー」
それを聞き、エースはハッとして何かを操作しだした。そして苦虫を噛み潰したように「くっ」とうなり声を上げた。エースのスクリーンを覗くと『ギルドリスト』の表示の中に、私の名前とエース、伯爵さん、そして青薔薇さんの名前がある。
「確認してもらえて何より。流石、ギルマス初心者さんはやる事が早い」
嫌味ったらしく言うJACKに、エースは凄く嫌そうな顔で溜息をつく。
「……じゃあ今すぐ返すわ。それなら文句も無いでしょう?」
「いやいや。勝手に引き抜かれた挙句、返せば無罪放免なんて現実に無いだろう? そうだな、賠償金として5000万ぐらいで勘弁しといてやるよ」
暴利にもほどがあると言わんばかりの金額の提示に、流石のエースも声を荒げる。
「そんな額ッ! アンタらに払う義務も責任も無いわ!」
「オイオイ、俺はギルマス同士で話がしたいんだ。なあ、ユイちゃん? 言ってる事分かるよな?」
「ユイ! 聞く必要は無いわ!」
どうやらJACKはギルドマスターのようで、私がマスターというのもバレているようだ。JACKのイヤらしさと明らかに見下した視線を受けて縮こまる私を後ろに追いやるエース。やれやれと首を振りながら一つの提案を出す。
「しゃーねーなあ。じゃあ妥協案をやろう。俺達のギルドとお前らのギルドで【対抗戦】をやろうじゃねえか。ちょうどイベント前の練習にもなるしいいだろ?」
「ふざけないで。それに私達が勝ったらどう責任を取るつもり?」
「勝つ気で居るとは。流石トップランカー様は違うねぇ。簡単だよ。勝ったらソイツは好きにしていい。けど負けたら1億借金だ」
「はぁ? 話にならないわね。そんな話、飲む訳無いでしょ」
「ギルマスのユイさんに言ってんだ。なあ、勿論受けるだろ?」
そう言った後、私の目の前にスクリーンが表示される。
『ギルド【ゲリラ豪雨】のマスターJACKより、【ギルド対抗戦】の申請が有ります。許諾しますか?』
エースはユイの手を取り『いいえ』を選択し押させた後、更に何かを操作するとJACKの前にスクリーンが表示される。
「これは?」
「アンタの提示した内容じゃ勝負しようが無いじゃない。助っ人有りの場所指定有りなんて。どうせフィールドに罠を仕掛けておくんでしょう」
「そんな酷い事、するはずが無いじゃねぇか」
そうは言っているが、明らかに白々しい態度でバレバレなJACKを無視して話を進める。
「だから勝負には乗ってあげる。場所も指定していいわ」
「ほう。罠を仕掛けるかも知れないのにかぁ?」
「フンッ。貴方程度に屈するほど、ランカーは甘くないわ」
「大した自信で」
「けれど助っ人は……そうね。私達はギルド三つ、アンタ達は一つ分までにしましょう」
エースの提案に顔を顰めるJACKだが、何かを思い付いたのか、あっさりとその提案を受け入れる。
「ああ、いいぜ。どうせまともな戦力が期待出来る人数も居ないんだろう」
「あら、ありがとう」
礼を言うエースに笑顔は無く、単なるお世話でしかない。それを分かっててなお、JACKはニヤニヤと笑みを浮かべている。
「最後に。掛け金は青薔薇の返却と今まで潰してきたギルド、その全てに返金」
「ハッ、暴利にも程があるな」
「アンタ達に言われたくないわ」
「で、俺達が勝てば何を差し出す?」
「このギルドと私自身、それと1億だっけ? 払ってあげるわ」
「プ……ハハハハハハハハハ! とんだ大馬鹿女だな! いいぜ。受けてやるよ」
そう言ってスクリーンを操作するJACK。その後、エースとJACK両者の前に『【デュエル】の合意がなされました』の表示と共に、砂時計と時間が映し出されている。
「よっしゃ、最上ランクのギルドとは。しかも大戦力が増えるぞ。ガハハハ、でかしたぞ青薔薇」
「……ありがとうございます」
もう勝った気でいるのか、大声をあげて喜ぶJACKを何処か悲しい表情で見つめる青薔薇。
「じゃあ三日後の21時に【フェイエンヤード】だ」
「ええ、分かったわ」
「くくく。今からお前の泣き顔が見られると思うと楽しみだな」
早口にそれだけを言うと、JACKは直ぐに出ていってしまう。
「はぁ。ユイ、大丈夫?」
「ごめん、なさい」
緊張と威圧感で動けずに居た私をそっと抱きしめるエース。勝手な行動をして災難に巻き込んでしまったのに。そう思うと涙が止まらない。
「次からはちゃんと相談してからにしてね」
「うん、本当にごめんなさい」
「僕からもそれは謝ろう」
私がエースに謝罪の言葉を口にしていると、隣に並び一緒に頭を下げる青薔薇さん。だけどそれがエースには嫌味に聞こえたようだった。
「ッ! なんでアンタみたいなのに謝られなきゃいけないのよ! 自分の意思すら放棄した輩が!」
「……僕もこんな事をしたくてやっている訳じゃないんだ。本当にすまない」
二人は互いに分かったような口を聞いている。なのにエースの嫌悪感は何故だろう?
「とにかく今は状況を把握したいから、最初から包み隠さず話してもらえる?」
青薔薇さんに向けてそう言うエースの目は、未だに怒りに満ちている。王子様風でもオヤジっぽくも無く普通に怒る事自体珍しいのに。私達は椅子に座り、青薔薇さんにも座るように促す。そして事の顛末を静かに語り出す。
「僕と彼は幼馴染みでね、昔から何でも一緒にやってきた仲なんだ。このゲームも同じ頃にやり出したんだ」
語られたのは私が募集のやり方に迷い、どうすればいいか分からなくなっていた話では無く、彼の昔話だった。
「パーティーを作って一緒にレベル上げをやって。そして僕が先にユニークを取った。勿論、彼もその後取った訳だけど、問題はそこじゃなかった。彼は僕の能力の方がいいと言ってきたんだ。昔から好意を寄せている相手が居るから、と」
「ふんっ。いい話っぽく聞こえるけど、アンタのユニークって【此処に在らず】でしょ?」
「なにそれ?」
「名前通りの効果で透明化出来る能力よ。それでストーキングまがいな事をしたいって話よ」
それを聞いて一気に距離を取る私に、青薔薇さんは言う。
「僕が何かする訳じゃないよ」
「でも……」
「僕はね、あまり人付き合いが得意じゃないんだ。出来るだけ人を避けるように生きてきた。今こうやって話しているのも役作りしているだけで、本来は教室の隅っこで隠れるような奴なんだ。けれど、その隠れるのがユニーク取得に繋がったようで、彼は僕に嫉妬しイジメるようになっていった。そして──」
「ギルドに潜入して、あのゴミを呼び付けるように命令されている、でしょ? 掲示板じゃあ有名な話ね。適当にこじつけてはギルドマスターの座を掛けたりして、そして乗っ取った後に解体。本当にクズね」
「……すまない」
ただただ謝る青薔薇を慰めようとする私を制するエース。そし誰に言う訳でも無く決意の籠った言葉を放つ。
「【デュエル】を破棄するには、掛けたものとは別の代わりになるものを出さなきゃいけないから、勝負は絶対遂行される。普通なら私達が不利になる内容だけど、今回は途中棄権不可って一文をこっそり載せておいたから、絶対に逃がしはしないわ」
「本当にすまない。けれど僕は彼の命令に逆らう事が出来ない」
「謝るだけじゃなく本当にあれが友達なら、止めてやるぐらいの事をしなさいよ!」
「本当に……本当にすまない……本当に……」
ただ謝るだけの青薔薇さんに、エースも怒る気力が無いのか、腕に顎を乗せそっぽを向いている。
「とりあえず向こうの戦力の方が圧倒的だろうから、仲間を集めないとね。あと伯爵にも連絡しなきゃ」
エースの言葉に頷く私とは裏腹に、驚愕といった表情の青薔薇さん。しかしエースの言葉は冷たい。
「とにかくアンタは今は一応私達のギルメンなんだから、妨害工作とかしないよう大人しくしてなさいよ」
そして私達はそれぞれフレンドや元ギルメンに声を掛けるという事になった。
大筋は変わってない、と思いたい。




