とりあえず町を案内
「おー、ここがゲームの中かぁ」
私は一華ほどでは無いがはしゃいでいた。今までゲーム自体あまりやらない方だったので、VRゲーム機が出た時も普通に旅行に行けばいいじゃん、やっぱり生で見るからいいんだよ、などと思っていたけれど。実際に体験してみると、本当にここがゲームの中なのかと疑いたくなるほどのクオリティだ。
「おーい、こっちこっちー!」
この何とも言えない感覚に浸っていると、見知った声が聞こえる。その方に振り向くと、白衣を着たスレンダーで巨乳のお姉さんが居た。
「えっと、どちらさまですか?」
「私だよ、私。もしかして私が分からんのかね〜? キミィ」
このノリ、そしてこのオヤジっぽい口調。間違い無い。
「一華?」
「せーかぁーい」
「現実とかけ離れさせたら駄目じゃなかったの?」
「ふふふ、夢は見るものじゃない。叶えるものだぜ?」
無言で脇腹をなぞる。
「ひゃっ…あひぃっ」
「なるなる。現実でもゲーム内でも弱点は一緒なのかぁ」
「ぎ、ぎぶぎぶっ、あっ。ぎぶー!」
更に速度を上げてワシャワシャすると、流石の一華も降参と白旗を振っている。
「くぬぬ、おヌシやるな!したらば私とフレンドになる権利を与えよう、ほれ」
目の前に『エースがフレンド申請しています。フレンドになりますか?』と出る。私は頭に? を浮かべる。
「エースって誰?」
「イッツミー」
「一華なの、これ」
「そりゃそうだよ。言ったっしょ? 現実の名前はなるべく避けてねーって」
「あー」
「あー、って…。唯はユイのまんまじゃん! これだから忘れんぼは!」
一華は私の頭上を見て呆れ顔になっている。ああ、頭上に名前が出るのか。下の緑のゲージは何だろう?
とりあえずフレンド登録すると一華から説明が入る。
「いい? とりあえずゲーム内では必ず頭上に出てる名前で呼んでね。色々面倒だから」
「うーん…うん」
「ちゃんと覚えてよー?」
「が、頑張る」
「で、名前の下に出てる緑のバーがHPね。対人戦とかもあるからこれだけは見えるの」
「なるなる」
「メニューって言えばメニュー画面が出るから、そこのステータスを開いてみて」
言われた通りに操作すると、私のステータスが表示された。
ユイ Lv.1
【HP 30/30】
【MP 30/30】
【STR/1】
【INT/1】
【VIT/1】
【AGI/1】
【DEX/1】
【LUC/1】
称号:無し
スキル:無し
武器
右腕 【素手】
左腕 【素手】
防具
頭 【ボロボロの兜】
体 【ヨレヨレの服】
足 【ダボダボのズボン】
靴 【ズタズタの靴】
装飾品 【無し】
装飾品 【無し】
画面左手側がステータス、右手側は装備が表示される。最初期だからなのだろうけれど、装備が何かもう! って感じである。
一華をチラリと見て見れば、白衣にスカート、そしてブーツというなんて微妙な組み合わせかと問いたくなる装備を身に付けている。これはこれで何だかなぁと思って見ていると、何を勘違いしたのか身体を反らしてドヤ顔を見せ付けてくる。
「ふっふっふっ。お姉さんのナイスバディに見惚れるのはいいけれど、そんなに見られちゃ照れちゃう──わひゃあ!」
無言で脇腹をワシャワシャしたのは言うまでも無い。そうしてしばらくしてから一華は町の案内をしてくれた。
「まずこの場所は【始まりの町:ルクセンダーラ】。見た通りだけど廃村化してるから掲示板とかだと終わりの町とか言われているね」
「ふーん」
「まあ、どうせ見ないとは思ったけどもう少し興味持って欲しいもんだぜ。まあ昔からなんだけどさー」
そう言って地面を蹴ってしょぼくれる一華…じゃなくてエースにごめんと謝るとすぐに元気になって案内を再開する。
「ここが【雑貨屋】。基本的に何でも売ってるしモンスターを倒した時に出る素材とかもここで売れるよ。あとは回復薬とか合成とか色々してくれる」
「へえー、凄いね」
「まあ普通だけどね」
何が普通なのかよく分からない、そんな顔で首を傾げたら即座に「MMOじゃ常識レベルって話さ」と言ってくれる。何だかんだ言っても質問にはちゃんと答えてくれるし、分からないと思っている時にはすぐにフォローを入れてくれる辺り、親友の仲は伊達では無い。これでもう少し女の子ぽかったら…そう思う私だった。
「んでここが【鍛冶屋】。装備はここで買えるよ。修理する時もここだけど、序盤の装備はすぐ壊れるし直すよりも買い替えた方がお得かな。まあ壊れたって言っても耐久値が無くなって攻撃力が無くなるだけだから装備自体は出来るんだけどね?」
「へえー。じゃあ今何か買えばいいの?」
「ちょい待ち。まずは戦闘してみてから決めよ。どのみちスキルも何も無い訳だし」
「そう言えばスキルってどうすれば使えるようになるの?」
「んー。よし、試しにその辺りに落ちてる石幾つか拾って」
言われた通りに石を四つほど拾い上げるとエースは町の中にある木に向かって石を投げぶつける。
「ほら、ユイもやって」
エースの行動がよく分からないが言われた通り木に石を投げる。エースほど飛ばないのはステータスが低いせいらしいのだが気にせず投げてと言われて投げる。追加で石を拾い投げるを繰り返していると目の前にスクリーンが突如として表示される。
『【スキル:投石】を取得しました』
「どう? 取れた?」
「えっ…これって」
「そう。これがOOOの魅力の一つでね。ある一定の行動を行うとスキルが取れるの。まあ中には使えないものや何に使うんだー! っていうのも混ざってるけどね」
『Only Origin Oblivion』
タイトルにもある通り、このゲームの世界は戦争によってスキルの使い手が死んでしまい、失伝。そして忘れ去られたという設定らしい。そして冒険者達は自分達の知恵と経験でそのスキルを取り戻そうと奮闘する、そんな感じだとエースは語る。
「因みに要らないスキルは破棄する事も出来て、その代わりに経験値に変える事が出来るからもし使わないなーって思うスキルがあったら経験値にしちゃうのも手だよ」
「うーん、何か難しい」
「最初はね。やってれば自然と覚えるよ、忘れんぼなユイ君でも」
「もー!」
こうして軽口を叩きながら町をぐるりと一周するまでエースの案内は続いた。
主要ポイントに【】を追加しました。
スキル表記ミスを修正しました。