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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第三章 ギルドと解明
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とりあえず理不尽の解明

 酒場の部屋の椅子に腰掛け、頭を抱えウンウンと唸り声をあげる伯爵さんと、それを見つめる私。そこにエースが買い出しから帰ってくる。


「やっほーい。【修復剤】買ってきたよー」

「お帰りー」

「どう? どんなものか解った?」

「エース」


 伯爵さんの声が絞り出すように呟く。それを聞いたエースは何かを察した。


「伯爵、何かヤバイ感じ?」

「ああ。これはまた凄い効果かも知れん」

「ほほう。詳しく聞こう」

「それなら【修練所】で説明するんがいいじゃろう」


 そうして【修練所】に向かう途中、もはや恒例となった口調弄りをするエース。しかし伯爵さんが反応せず、エースは私に耳打ちする。


「そんなヤバイ効果なの? いつもならドラゴンブレスを喰らいながらでも突っ込んでくれるのに」

「それどんな状況なの? うーん、私には凄さが良く分からなくて」


 そう言う間に【修練所】に着くと、伯爵さんはエースに装備欄を開くように指示する。


「いいかエース。装備の耐久値をよう見とけ」

「おっけー」

「ではユイさん、悪いのですがエースに軽く殴って貰えますか?」

「は、はい!」


 出来るだけゆっくりと、エースに攻撃する私。私の拳が防具に当たった瞬間、エースの防具が灰色に変色する。


「んん?」

「解ったか?」

「これ……なるほど」


 二人は理解し合ったような顔をして議論を始めるが、肝心の私が良く分かっていない。しばらく蚊帳の外にされていると、二人は私に説明をしてくれる。


「あー、ごめんごめん。なかなか面白かったもんでつい」

「もう少しでワキワキの刑を発動するとこだったよ」

「おおっと、それは怖い」

「んで、結局どういう効果なの?」

「それは私から説明しましょう」


 そう言って伯爵さんが話をしている間、エースは【修復剤】を使い耐久値を回復している。


「まず私は、あなたの攻撃は装備破壊の類いだと思い、【破壊耐性】付きの防具を装備して検証に臨みましたね」

「はい」

「そもそも装備破壊とは、装備の耐久値を大きく削る事を指す言葉です。従って、【破壊耐性】が付いていると耐久値を削られにくくなります」

「なるほど」

「しかし、結果は耐久値が無くなり灰色になりました。つまり、この事から破壊の可能性は無くなりました。ここまでは大丈夫ですか?」

「はい、何とか」

「本題はここからです。では何故、装備は灰色に変色したと思いますか?」

「うーん」


 分からないとばかりにチラリとエースの方を見る。伯爵さんもそれに合わせ、エースに答えを促す。


「エース、どうしてじゃと思う?」

「ふふふ。答えは簡単、最大耐久値を0にする、って効果だからだよ」

「?」


 言われた言葉がよく分からず困惑している私に、更に噛み砕いて説明する二人。


「つまり、じゃ。例えば耐久値1000の防具があったとしよう。最大耐久値とは、この耐久値が万全の状態の時の数値じゃな」

「ユイのHPで言えば、今最大150あるでしょ? それの装備バージョンみたいな感じ。150/150の右側が最大で、左側が現在って感じで」

「あー、なるなる」

「ユイの【理不尽の肯定】の効果は、端的に言えばその最大耐久値を0にしちゃうって能力なのさ」

「それってどう凄いの?」

「まだ分からないか、流石嫁」

「お前さんはもう少し真面目に説明せんか」

「にゃはは。要は最大が0なら強制的に耐久値が0になっちゃうって事なのさ。どんなに耐久値が大きい防具だろうが、どんなに伝説的な武器だろうが、最大耐久値を0にされた途端、耐久値も0になる。150/0は0だからね。結果、どんなに【破壊耐性】を積もうがユイの攻撃を喰らっただけで、装備はお釈迦になっちゃう訳さ」

「しかもじゃ。これは耐久値が設定されとるものなら何にでも対応しとる。先程備え付けの椅子を攻撃してもらったのじゃが、見事に木っ端微塵じゃ」

「おお、マジか」

「マジじゃ。ただ装備のように『破壊不可』に設定されとるものは、耐久値が消されて灰色になるだけのようじゃな」

「それでも充分強いじゃん! 流石ユイ、愛してるぜー!」


 そう言って抱きしめるエースだが、後ろではまだ何か言いたげな伯爵さんの姿が映る。それに気付いたのか、エースもまた伯爵さんの方を向く。


「何かまだあるの?」

「ユイさんの話を最初から聞いてな、色々考察しとったんじゃが。ワシのVIT値、100は確実に超えとるじゃろ?」

「そりゃあ何たって赤鯖の”ネコタンク”と言えば……あ」

「気付いたじゃろ?」

「V極じゃないとは言え、かなりVITに振ってる伯爵にダメージが通るのかって話か」

「そうじゃ。結論から言えば、おそらく相手のDEFを無視してダメージ計算が入っとる」

「げっ、貫通じゃん」

「しかも耐久値の判定の後に貫通の判定が入るのか、ユイさんの攻撃をモロに受ける事になる」

「ヤバたん」

「しかも、話を聞く限りエースよ。お前さん、一度【ツッコミ】を耐えとるじゃろ?」

「ん? そういやそだね。てっきり防具が一瞬だけ守ってくれたと思っていたけど、今の話聞くと確かに変だね」

「ワシもそう思って装備を色々変えて試したんじゃが……」

「何なに? もしかしてVITに多く振ってるほどダメージ伸びるとか?」


 少し逡巡した後、無言で頷く伯爵にドン引きするエース。今まで口を出せずに聞いていたけど、どうやらかなり危ない能力らしい。


「多分ユイの思ってる50倍はヤバイ」

「微妙にリアルな数字じゃな。ユイさん、このスキルは普段はOFFにしといた方がいい」

「そんなヤバイんだ……」

「スキルもそうですが、服にはセット効果やスキルを付与するものもあります。それらは耐久値が無ければ機能しません。単純な防御力を失うだけでもかなりの損失でしょう」

「しかも武器をやられればそれだけ攻撃力を失う。例え【修復剤】や【修理】しても、ユイに攻撃されたら一撃でゴミになるし、【修理】もタダじゃないからね」


 捲し立てるように二人から怒涛の解説が入る。私のスキルのはずなのに、何故この二人はこんなに熱く語っているんだろうか。いや、エースの顔は幾度と見た事がある。あれは面白い何かを見つけた時にする表情だ。多分、伯爵さんもそうなのだろう。


「タンク絶対殺すマンだね」

「否定出来んのがまた……」

「ユイ、今後もステータスを【STR】だけに振るのも一興かも知れない」

「前に極振りは良くない、みたいな事言ってなかった?」

「あの時とは状況が違うのさ。そのスキルは当てれば一撃必殺な訳だし、素の攻撃力を上げておくに越した事は無いよ」

「そうですね。それならば武器も揃えておくといいでしょう」

「えー」


 何故かそれにイマイチ乗り気じゃないエースは口を尖らしている。伯爵さんはピクリと眉を動かすと、躊躇いがちに聞く。


「……­なんです?­」

「素手でぴょこぴょこ動き回るユイがとても可愛いので手放したくないんですがそれは」

「……ユイさん、よくこんな人とリアルで付き合ってこれましたね」

「慣れです。ウチの親友がご迷惑を」

「こらー! そこ聞こえてるぞー! ガオー!」


 エースが暴れて場が混乱するのを防ぐ為、先回りしてワキワキの刑に処す。恍惚の表情で倒れるエースを放っといて話を進める。何故か伯爵さんが悲しい目をしているけれど、きっと気の所為に違いない。


「とにかく、ユイさんにはまず戦闘の基礎知識と戦い方を学んでもらうのが大切だと思うのです。少し長くなると思いますがよろしいですか?」

「はい、お願いします」


 そして伯爵さんの授業は続く。

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