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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第二章 イベント参加
25/87

とりあえずイベント終了と惨劇の後

『タイムアーップ!』


 イベント終了を告げる声が会場内に響き渡る。それと同時に参加者達は最初に説明を聞いた場所へと飛ばされる。私も急に景色が変わった事に驚いていたけれど、エースが手を握り続けてくれたお陰で安心する事が……ちょっと微妙だけど、まあ、うん。


 続々と集められる参加者を前に、あの公式キャラの女の子達がUFOみたいなのに乗って挨拶する。


『は〜い! 皆様お疲れ様でした! これにてイベントは終了になります!』

『まぁまぁ頑張ったなテメェ等。次は表彰式だ』


 相変わらず口が凄く悪い。ついでに完全に寝転んで足を掻いている。だが女の子に参加者は突っ込む様子も無い。これ毎回こうなの?あれでいいのだろうか。


『では表彰者は名前を呼ばれると壇上に強制転移されますので、その後一言お願いします!』


 そうして女の子達の後ろには、トップ30までのランキングが表示され、名前を呼ばれる度にリストが埋まっていく。そして6位。


『第6位! レッドサーバーのエースさん! ポイントは813万9600でした!』


 なんとエースが壇上に呼ばれる。いや、ランキング載っていたのは知ってたけど、あの時9位じゃなかったっけ。転移したエースは女の子にマイクを向けられると、今日の感想を語る。


『今回いかがでしたか?』

「いや〜。皆さん強くなってて、正直焦りました。ハニーもピンチだし。でも、いっぱいいっぱい倒せて楽しかったです! また戦いましょう!」


 そう言って皆に手を振るエース。だが、その様子を見て顔色がどんどん落ち込んでいく人達が居る。そりゃあ、あんな事が起きたら誰だって──





 ──中央区・台座前


 台座前に一人の男がやってくる。遺跡の氷の雨を掻い潜り、ようやく台座前まで来れたのだ。あの台座に触れれば、ランキング入りに期待が持てる。


「やった、10万ポイント有れば僕も」

「ほらよ」

「ぐあぁぁ!」


 そして触れた瞬間、遠距離からの攻撃に耐えられず即死してしまう。ドドンガ★はこうやって養殖しながらポイントを貯めていた。


「あの”マッドヒーラー”、ホントどこ行きがったんだ? 全く。ランカーは全員どっか逃げるわ、遺跡から来る奴は皆手負いだわ。はぁ、ミツルギじゃないがたまには熱い殴り合いとかやりたいぜ」


 溜息混じりにふと空を見上げる。すると遠くの空に黄色い何かが浮かぶのが見える。一瞬太陽か何かかと思ったが、先程戦っていた相手のスキルにあんなものがあった事を思い出す。


「おいおい、あのデカさ……ここまで届くんじゃねぇか?」


 地形の関係上火口と同じ為、中央に行くほど凹みがある。あのスキルは確か多量の水を生む【水塊】。そこに【麻痺玉】を融合した【痺海】とか名付けてたやつだったか。そこまで見抜いた上でドドンガ★はげっそりとした表情になる。


「あー、あれか……。流石に【麻痺無効】でも耐えられなさそうだな。よし、ギルマスに匿ってもらおう」


 方針を決め、すぐさまその場から避難を開始する。その様子を見て、氷の雨から逃げてきた者が大いに喜び居座る。彼等はどうなったのか。イベント後、死んだ魚の目をしていた、とだけ言っておこう。





 ──外周部・森


 アキラと翔は死亡後、運良く近くからスタートする事が出来ていた。お陰様でポイントも順調に貯まり、次はどうする? リタイアはまだ早いだろ、などと相談している。そこに何かが近付く足音が聞こえ、二人は構えるも、姿を現したのはよく知る人物だった。


「おー、ご隠居。どうしたんすか?」

「ホントだ。ギルマスどうしてこんな外周部まで?」


 それはこのイベントを最後に、ギルドを次の者に託し隠居する予定のギルドマスター。その巨大な猫は息を切らしながら言うが


「アキ翔、無事で何より」

「その略し方やめて下さいよ、ゴロ・ニャーゴ小食」

「伯爵じゃ! いや、今こんなノリやっとる場合じゃない。今すぐここからリタイアするんじゃ」

「はい?」

「いやいや待って下さいよー。俺達結構いいとこまで行ってんですよ?」

「そうです。もう少し時間ギリギリまで粘らせてくれても」

「違う、違うんじゃ。あの空を見てみい」


 指を差した方を見ると、何やら黄色い球体が浮かんでいる。


「太陽?」

「太陽があんな黄金色してるかよ。何すかアレ?」

「お前さん等は黒竜(ブラックドラゴン)討伐に参加だけはしてたじゃろ?」

「そりゃあ、あ」

「もしかして、エースさんの」

「解ったか? 解ったら早くリタイアを──」


 しかし操作の手は止まる。メニューを開いたその瞬間、地響きが近付いてきたかと思うと、黄金色の海に呑まれてしまう。当然、彼等が動く事は出来ない。ゴロ・ニャーゴ伯爵は辛うじて【麻痺無効】のお陰で動く事は出来るが、辺り一帯がその液体に塗れており、安全地帯が存在しない。それでもアキ翔の二人の抱え、木の上でアイテムを取り出し二人を回復し続ける。結果、ゴロ・ニャーゴ伯爵は戦死し、二人は生き残る事が出来た。ただゴロ・ニャーゴ伯爵が痺れる毒の海を泳ぐところからリスタートしたのは、本当に運が悪かったとしか言い様が無い。





 ──中央区東・遺跡


「総料理長」

「何? 今いいところなの、邪魔しないで頂戴」


 氷の雨が参加者を貫く様を見て、愉悦に浸る女性。それに付き従うかのような振る舞いを見せる男は、なおも報告を続ける。


「東の空に黄金色の球体を確認」

「あら、害悪の【痺海】ね」

「はっ!」

「ここまで届きそう?」

「おそらくは」

「そう。じゃあ少し物足りないけれど、我々も安全地帯に向かいましょ。援護なさい」

「はっ!」


 ”総料理長”と呼ばれた女は、男を盾に西を目指す。





 ──中央区南・遺跡


「ああ、いい、いいわ。もっと、もっとぉ」


 艶っぽい声を出しながら身体が爆発する女性。辺りのプレイヤーにも被害が出ているが、女性は平然としている。


「こんな刺激じゃ足りない。……あれは」


 そして空に浮かぶ球体を見つめる。するとその表情は恍惚なものへと変化していく。


「お姉さま、素敵。あああ、待ち遠しいわ」


 身体をくねらせ、爆発に耐えながらもその場から動く気配の無い女性。彼女は最悪の海に沈むのを、ただひたすらに待ち続ける。





 ──中央区北・遺跡


「モジュレ! てめえ逃げるのか!」

「JACK! アンタみたいなのに付き合ってる暇は無いっての!」


 JACKと呼ばれた男は、ここで会ったが百年目と言いたげなほど、執拗にモジュレと呼ばれる女を追う。逃げるのが疲れたのか、付き纏われる事に疲れたのか、モジュレが立ち止まるとJACKもそれに合わせた。


「モジュレ、俺のギルドに入れよ」

「嫌だっつんてんでしょ! そもそもギルマスしてる私にそれ言う!?」

「そんなの後続に適当に任せときゃいいんだよ、な?」

「うるさい! アンタみたいなクズのとこ、誰が」


「まあまあお嬢さん、今日もいい太ももありがとうございます」


 そう言ってモジュレの両足の間から、肩車をするような体勢で、スカートをペロンと捲る。まるで「大将、今日やってる?」みたいな軽いノリで。

 だが当然、いきなり女性の股下に現れた彼を許す者など居るはず無く、衝撃波を飛ばし攻撃するも、彼はスルリと姿を消す。


「くっ」

「ふふふ、いいぞ青薔薇。そのまま押し倒してしまえ」

「強要される愛は好きじゃないんだけどなあ」

「いいのか? 俺様にそんな口利いて」


 険悪な空気の中、急に地響きが鳴り出す。何事かと不思議に思っていると、両陣営のギルメンが報告をしてくる。


「兄貴ー! 不味いっす! 害悪のスキルが来るっす!」

「チッ、仕方ねぇか。テメェ等避難するぞ!」


 それだけを言い残し、立ち去るJACK。それを見送るように立つモジュレの前に、青薔薇が姿を現す。


「本当に済まない」

「ホントよ。……あなた、このままでいいの?」

「…………」


 再び姿を消す青薔薇。残されたモジュレも急いでその場から撤退を決める。





 ──そして上空


「黄金色の太陽に焼かれて消えろ! ふはははははは!」


 眼下に広がる海に呑み込まれていくプレイヤーを、ガクブルしながら見つめるユイと、高笑いしながら怒気に満ちているエース。この位置からなら、外周〜中央まで届くだろう。標的は一人だけのはずなのに。

 下からは悲鳴が聞こえる。所々光が昇っては消えを繰り返している。無差別殺人を見たかのような感覚に陥るが、エースは微笑みながら「ゲームだから!」とキリッとした表情で言う。逆にゲームで良かった、本当に。そして『タイムアップ』の言葉にどれだけ救われただろうか。最初の挨拶の場所に転移した時、ここが遺跡だとエースが教えてくれた。そのエースの姿を見て、周りが一斉に身を引いたり、頭を抱える者が続出しているが。



 そうして現在。

 壇上に上がったエースを死んだ魚の目で拍手を送るプレイヤー達。手を振り目線をこちらに向けているが、周りのプレイヤーは完全に怯えている。しかも──


「ひいいい」

「目線を合わせるな、死ぬぞ」

「駄目だ。俺なんか手が動かなくなってきた」

「同士よ」

「お前ら悔しくないのかよ!」

「そうだ! 次こそは俺達が悪魔を倒して平和をもぎ取るんだ!」


 えいえいおー、と盛り上がるプレイヤー達すら居る。本当に私の親友はここでどういう扱いなのか、逆に興味がある。


 そうして表彰者の発表が終わり、【EP】が振り込まれる。参加するだけでも100pt貰え、更に取得ポイント1000で【EP】1ptに換える事が出来る。エースだと8139pt。ランカーって凄いんだなぁと感心していると、イベント終了の挨拶が行われる。


『はーい、今回もいかがでしたでしょうか? 皆さん楽しめましたかー?』

『返事しなかった奴はデバフをプレゼント』


 その言葉の後、大いに沸く会場。本当にあの幼女はあれでいいのだろうか? けれども何か怖いので私も乗っておく。


『次回のイベントは二週間後だから忘れないようにね!』

『流血をサービスサービス』


 妹の方が弓矢を素手で投げている。投げられた先では悲鳴と黒いモヤモヤが発生している。それを全く気にせずに進行する姉の姿が何とも印象的である。


『では次回もお楽しみに!』

『ばいばーい』


 そうして姉妹は去っていく。プレイヤー達は各々散っていく中、壇上から帰ってきたエースが声を掛ける。


「いやー楽しかったぜ」

「うん、何か自分の悩みは小さかったんだなって凄く思ったよ」

「ん? まあ良かったね!」


 よく分かってないのか、適当に返事するエース。そのまま外周部に向かって歩き出す。


「イベント会場はそのまま一週間ほど探索出来るから、ユイも探索する?」

「いや、何か私は凄い疲れたから今日はいいや」

「そっか、まあ夜も遅いしね。じゃあまた明日」

「うん。また明日」



 そして再び目を開けるといつもの天井。現実ではほんの二時間ちょっとの出来事だと知る。


「あ〜、何か今日はいっぱいいっぱいだよ〜」


 私はシャワーを浴びた後、崩れるようにベッドで眠りに堕ちていく。


申し訳ございませんが、仕事の関係上22〜29日まで感想返しの反応が鈍くなる可能性があります。

出来る限りやりたいとは思いますが、返さなくても怒らないでね。

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