とりあえずイベント終了と惨劇の後
『タイムアーップ!』
イベント終了を告げる声が会場内に響き渡る。それと同時に参加者達は最初に説明を聞いた場所へと飛ばされる。私も急に景色が変わった事に驚いていたけれど、エースが手を握り続けてくれたお陰で安心する事が……ちょっと微妙だけど、まあ、うん。
続々と集められる参加者を前に、あの公式キャラの女の子達がUFOみたいなのに乗って挨拶する。
『は〜い! 皆様お疲れ様でした! これにてイベントは終了になります!』
『まぁまぁ頑張ったなテメェ等。次は表彰式だ』
相変わらず口が凄く悪い。ついでに完全に寝転んで足を掻いている。だが女の子に参加者は突っ込む様子も無い。これ毎回こうなの?あれでいいのだろうか。
『では表彰者は名前を呼ばれると壇上に強制転移されますので、その後一言お願いします!』
そうして女の子達の後ろには、トップ30までのランキングが表示され、名前を呼ばれる度にリストが埋まっていく。そして6位。
『第6位! レッドサーバーのエースさん! ポイントは813万9600でした!』
なんとエースが壇上に呼ばれる。いや、ランキング載っていたのは知ってたけど、あの時9位じゃなかったっけ。転移したエースは女の子にマイクを向けられると、今日の感想を語る。
『今回いかがでしたか?』
「いや〜。皆さん強くなってて、正直焦りました。ハニーもピンチだし。でも、いっぱいいっぱい倒せて楽しかったです! また戦いましょう!」
そう言って皆に手を振るエース。だが、その様子を見て顔色がどんどん落ち込んでいく人達が居る。そりゃあ、あんな事が起きたら誰だって──
──中央区・台座前
台座前に一人の男がやってくる。遺跡の氷の雨を掻い潜り、ようやく台座前まで来れたのだ。あの台座に触れれば、ランキング入りに期待が持てる。
「やった、10万ポイント有れば僕も」
「ほらよ」
「ぐあぁぁ!」
そして触れた瞬間、遠距離からの攻撃に耐えられず即死してしまう。ドドンガ★はこうやって養殖しながらポイントを貯めていた。
「あの”マッドヒーラー”、ホントどこ行きがったんだ? 全く。ランカーは全員どっか逃げるわ、遺跡から来る奴は皆手負いだわ。はぁ、ミツルギじゃないがたまには熱い殴り合いとかやりたいぜ」
溜息混じりにふと空を見上げる。すると遠くの空に黄色い何かが浮かぶのが見える。一瞬太陽か何かかと思ったが、先程戦っていた相手のスキルにあんなものがあった事を思い出す。
「おいおい、あのデカさ……ここまで届くんじゃねぇか?」
地形の関係上火口と同じ為、中央に行くほど凹みがある。あのスキルは確か多量の水を生む【水塊】。そこに【麻痺玉】を融合した【痺海】とか名付けてたやつだったか。そこまで見抜いた上でドドンガ★はげっそりとした表情になる。
「あー、あれか……。流石に【麻痺無効】でも耐えられなさそうだな。よし、ギルマスに匿ってもらおう」
方針を決め、すぐさまその場から避難を開始する。その様子を見て、氷の雨から逃げてきた者が大いに喜び居座る。彼等はどうなったのか。イベント後、死んだ魚の目をしていた、とだけ言っておこう。
──外周部・森
アキラと翔は死亡後、運良く近くからスタートする事が出来ていた。お陰様でポイントも順調に貯まり、次はどうする? リタイアはまだ早いだろ、などと相談している。そこに何かが近付く足音が聞こえ、二人は構えるも、姿を現したのはよく知る人物だった。
「おー、ご隠居。どうしたんすか?」
「ホントだ。ギルマスどうしてこんな外周部まで?」
それはこのイベントを最後に、ギルドを次の者に託し隠居する予定のギルドマスター。その巨大な猫は息を切らしながら言うが
「アキ翔、無事で何より」
「その略し方やめて下さいよ、ゴロ・ニャーゴ小食」
「伯爵じゃ! いや、今こんなノリやっとる場合じゃない。今すぐここからリタイアするんじゃ」
「はい?」
「いやいや待って下さいよー。俺達結構いいとこまで行ってんですよ?」
「そうです。もう少し時間ギリギリまで粘らせてくれても」
「違う、違うんじゃ。あの空を見てみい」
指を差した方を見ると、何やら黄色い球体が浮かんでいる。
「太陽?」
「太陽があんな黄金色してるかよ。何すかアレ?」
「お前さん等は黒竜討伐に参加だけはしてたじゃろ?」
「そりゃあ、あ」
「もしかして、エースさんの」
「解ったか? 解ったら早くリタイアを──」
しかし操作の手は止まる。メニューを開いたその瞬間、地響きが近付いてきたかと思うと、黄金色の海に呑まれてしまう。当然、彼等が動く事は出来ない。ゴロ・ニャーゴ伯爵は辛うじて【麻痺無効】のお陰で動く事は出来るが、辺り一帯がその液体に塗れており、安全地帯が存在しない。それでもアキ翔の二人の抱え、木の上でアイテムを取り出し二人を回復し続ける。結果、ゴロ・ニャーゴ伯爵は戦死し、二人は生き残る事が出来た。ただゴロ・ニャーゴ伯爵が痺れる毒の海を泳ぐところからリスタートしたのは、本当に運が悪かったとしか言い様が無い。
──中央区東・遺跡
「総料理長」
「何? 今いいところなの、邪魔しないで頂戴」
氷の雨が参加者を貫く様を見て、愉悦に浸る女性。それに付き従うかのような振る舞いを見せる男は、なおも報告を続ける。
「東の空に黄金色の球体を確認」
「あら、害悪の【痺海】ね」
「はっ!」
「ここまで届きそう?」
「おそらくは」
「そう。じゃあ少し物足りないけれど、我々も安全地帯に向かいましょ。援護なさい」
「はっ!」
”総料理長”と呼ばれた女は、男を盾に西を目指す。
──中央区南・遺跡
「ああ、いい、いいわ。もっと、もっとぉ」
艶っぽい声を出しながら身体が爆発する女性。辺りのプレイヤーにも被害が出ているが、女性は平然としている。
「こんな刺激じゃ足りない。……あれは」
そして空に浮かぶ球体を見つめる。するとその表情は恍惚なものへと変化していく。
「お姉さま、素敵。あああ、待ち遠しいわ」
身体をくねらせ、爆発に耐えながらもその場から動く気配の無い女性。彼女は最悪の海に沈むのを、ただひたすらに待ち続ける。
──中央区北・遺跡
「モジュレ! てめえ逃げるのか!」
「JACK! アンタみたいなのに付き合ってる暇は無いっての!」
JACKと呼ばれた男は、ここで会ったが百年目と言いたげなほど、執拗にモジュレと呼ばれる女を追う。逃げるのが疲れたのか、付き纏われる事に疲れたのか、モジュレが立ち止まるとJACKもそれに合わせた。
「モジュレ、俺のギルドに入れよ」
「嫌だっつんてんでしょ! そもそもギルマスしてる私にそれ言う!?」
「そんなの後続に適当に任せときゃいいんだよ、な?」
「うるさい! アンタみたいなクズのとこ、誰が」
「まあまあお嬢さん、今日もいい太ももありがとうございます」
そう言ってモジュレの両足の間から、肩車をするような体勢で、スカートをペロンと捲る。まるで「大将、今日やってる?」みたいな軽いノリで。
だが当然、いきなり女性の股下に現れた彼を許す者など居るはず無く、衝撃波を飛ばし攻撃するも、彼はスルリと姿を消す。
「くっ」
「ふふふ、いいぞ青薔薇。そのまま押し倒してしまえ」
「強要される愛は好きじゃないんだけどなあ」
「いいのか? 俺様にそんな口利いて」
険悪な空気の中、急に地響きが鳴り出す。何事かと不思議に思っていると、両陣営のギルメンが報告をしてくる。
「兄貴ー! 不味いっす! 害悪のスキルが来るっす!」
「チッ、仕方ねぇか。テメェ等避難するぞ!」
それだけを言い残し、立ち去るJACK。それを見送るように立つモジュレの前に、青薔薇が姿を現す。
「本当に済まない」
「ホントよ。……あなた、このままでいいの?」
「…………」
再び姿を消す青薔薇。残されたモジュレも急いでその場から撤退を決める。
──そして上空
「黄金色の太陽に焼かれて消えろ! ふはははははは!」
眼下に広がる海に呑み込まれていくプレイヤーを、ガクブルしながら見つめるユイと、高笑いしながら怒気に満ちているエース。この位置からなら、外周〜中央まで届くだろう。標的は一人だけのはずなのに。
下からは悲鳴が聞こえる。所々光が昇っては消えを繰り返している。無差別殺人を見たかのような感覚に陥るが、エースは微笑みながら「ゲームだから!」とキリッとした表情で言う。逆にゲームで良かった、本当に。そして『タイムアップ』の言葉にどれだけ救われただろうか。最初の挨拶の場所に転移した時、ここが遺跡だとエースが教えてくれた。そのエースの姿を見て、周りが一斉に身を引いたり、頭を抱える者が続出しているが。
そうして現在。
壇上に上がったエースを死んだ魚の目で拍手を送るプレイヤー達。手を振り目線をこちらに向けているが、周りのプレイヤーは完全に怯えている。しかも──
「ひいいい」
「目線を合わせるな、死ぬぞ」
「駄目だ。俺なんか手が動かなくなってきた」
「同士よ」
「お前ら悔しくないのかよ!」
「そうだ! 次こそは俺達が悪魔を倒して平和をもぎ取るんだ!」
えいえいおー、と盛り上がるプレイヤー達すら居る。本当に私の親友はここでどういう扱いなのか、逆に興味がある。
そうして表彰者の発表が終わり、【EP】が振り込まれる。参加するだけでも100pt貰え、更に取得ポイント1000で【EP】1ptに換える事が出来る。エースだと8139pt。ランカーって凄いんだなぁと感心していると、イベント終了の挨拶が行われる。
『はーい、今回もいかがでしたでしょうか? 皆さん楽しめましたかー?』
『返事しなかった奴はデバフをプレゼント』
その言葉の後、大いに沸く会場。本当にあの幼女はあれでいいのだろうか? けれども何か怖いので私も乗っておく。
『次回のイベントは二週間後だから忘れないようにね!』
『流血をサービスサービス』
妹の方が弓矢を素手で投げている。投げられた先では悲鳴と黒いモヤモヤが発生している。それを全く気にせずに進行する姉の姿が何とも印象的である。
『では次回もお楽しみに!』
『ばいばーい』
そうして姉妹は去っていく。プレイヤー達は各々散っていく中、壇上から帰ってきたエースが声を掛ける。
「いやー楽しかったぜ」
「うん、何か自分の悩みは小さかったんだなって凄く思ったよ」
「ん? まあ良かったね!」
よく分かってないのか、適当に返事するエース。そのまま外周部に向かって歩き出す。
「イベント会場はそのまま一週間ほど探索出来るから、ユイも探索する?」
「いや、何か私は凄い疲れたから今日はいいや」
「そっか、まあ夜も遅いしね。じゃあまた明日」
「うん。また明日」
そして再び目を開けるといつもの天井。現実ではほんの二時間ちょっとの出来事だと知る。
「あ〜、何か今日はいっぱいいっぱいだよ〜」
私はシャワーを浴びた後、崩れるようにベッドで眠りに堕ちていく。
申し訳ございませんが、仕事の関係上22〜29日まで感想返しの反応が鈍くなる可能性があります。
出来る限りやりたいとは思いますが、返さなくても怒らないでね。




