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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第二章 イベント参加
24/87

とりあえず黄金の海で微笑む害悪

 言われるがままステータスを開いた私。途中、走っている最中に何か取っていたはずと思ってスキル欄を見た私は、見慣れない文字に困惑する。


 ユイ Lv.9

【HP 140/30(+120)】

【MP 50/30(+20)】

【STR/36】

【INT/1(5)】

【VIT/1(5)】

【AGI/1(5)】

【DEX/1(5)】

【LUC/1(5)】


 称号:【スライムイレイザー】【ハウンドイレイザー】【恐怖を知る者】

 スキル:

 《アクティブ》

【ダブルアタック】【トリプルアタック】【ダッシュ】【ハイジャンプ】【パワーコネクト】【ダッシュインパクト】【ツッコミ】

 《パッシブ》

極稀な奇跡(クリティカ・ラッキー)】【呼吸法Ⅰ】【気配感知Ⅰ】【忍耐】【根性】

 《ユニーク》

【理不尽の肯定】


 とりあえず私はスキルの効果を、隣で眺めるエースに解説をもらいながら見ていく。



【恐怖を知る者】

 恐怖とは何かを知り得た者に与えられる称号。対人戦に置いて被ダメージ-3%


【忍耐】

 HPを超過するダメージを受けても必ず1残る。再度発動させるにはHPを全回復させなければならない。


【根性】

 HPを削って攻撃力を上げる。HPの最大値が10減る。



「ほほう、なるほどね。【忍耐】はいいね。書いてないけど再使用可能時間(リキャストタイム)が30分開けなきゃいけないのが面倒だけど。【根性】もHPは減るけれど、ユイに合ってるし。で、だ。問題はこれか」



【理不尽の肯定】

 自身の理不尽を肯定する。我が歩みを止めるならば相応の覚悟を強いるだろう。


「うん、やっぱりユニークだったか。相変わらず効果の読み取れなさったら無いわ」


 一通りステータスに目を通したエースは、何かを考えながらブツブツと独り言を言っている。私にもどうしてこんなスキルを持っているのか不思議でならない。いつ取ったんだろう?


「ユイ、このスキルに見覚えは?」


 首を横に振り、続けて「ユニークって何?」と聞く。それを聞いて一度考えるのを止め、私に説明をしてくれる。


「まさかこんなに早く取るとは思って無くて説明して無かったね。まあ、あれだ。名前だけじゃ読み取れない変なスキル、って感じ」

「それ、凄いの?」

「まぁまぁかな? 持ってる人は持ってるし。私も持ってるよ」

「そうなんだ」

「ありゃ、あんまり興味なさげ?」


 エースは、ユイの反応が薄かった為、物凄くザックリとした説明だったのが気に入らなかったのかと思って聞いたが、どうやら違う様子だった。


「今はまだちょっと」

「あー、そうだね。うん、ごめんごめん」


 思えば先程、恐怖体験をしたばかりだ。落ち着かせたとはいえ、まだまだ不安なのだろう。エースの中ではそう思っている。


「でも絶叫? とかは多分赤鯖の連中だと思うよ。なんせ死ぬ瞬間の痛みなんて大した事無いもん」

「でも、私……横腹を叩かれて、上に乗られて……」

「んー。多分ユイは思い込みでそう思ったんだと思うよ」

「だって、ええっ?」

「このゲームでの痛みってのは、タンスの角に小指ぶつけたとか、静電気がバチッってなったとか、寒中水泳やるぐらいの痛みしか出ないように設定されてるんだよ。そこに精神的不安や恐怖を感じると、痛みを強く感じるように作られてるから、多分そういう事なんだと思う」

「でも、私の目の前で死んだあの人達は、」

「さっきも言ったけれど、赤鯖にはβ版時代から変な慣習があってね。昔話になるんだけど……徘徊型のレアモンスターが居てね。そのモンスターは鬼強だったんだけど、いいアイテム落とすからって皆で狩場に行ってた訳さ。でも当時はまだ【アクティブモンスター】しか居ない時代、準備を待たずにレアモンスターと戦闘する場面が多かったの。その時に、『ここはやばいぞ、皆距離を取れ!』ってチャットを打とうとした人が居たんだけど、一撃でやられてしまったの。どうしたら皆に危険を伝えられるか、そうだ! 叫ぼう! 特に死に際、光となって消えるまでに時間がある。ならばそこで大声を出そう!」


 唐突に始まった昔話は、徐々に臨場感溢れる身振り手振りを交えて語られる。何か劇みたい。


「そして世に語り継がれる赤鯖伝統『死に際の絶叫-デス・シャウト-』爆誕と言う訳さー!」


 ドヤァ、と何故か自慢げな親友を見て思う、「変なとこ連れて来られたんだなー」と。まあ、エースのような人が複数居ると思えばいいだけなので、別段驚きは無いけれど。


「あーうん。凄い凄い」

「凄い棒読みありがとう。ともかく、死に際で叫ぶほどの痛みは来ないから安心してよ。例え斬られても、穴が空いたり胴体が分かれたりはしなかったでしょ?」


 質問内容がクレイジーだが、確かに剣で貫かれてはいたが血は出ないし、身体がバラバラにもなってはいなかったと思う。なるなる、やっぱりそこはゲームなんだね。そう思って自分をようやく落ち着かせられた。


「あの、ところでなんだけどさ」

「うん?」

「さっきから頭上に浮いてるアレ何?」


 実はステータスを開いた辺りで、エースは「ああ、ついでにやっとこ」と軽い口調で頭上に球体を作り出していた。最初は先程の【麻痺玉】と同じ程度の大きさだったのに、今では気球のような大きさまで膨れ上がっている。色は黄色よりも光輝く、そう! 黄金のような感じ。聞くタイミングが無くて放置していたのだが、流石にこの大きさは突っ込まざるを得ない。エースにそれを聞くと、何の感情も無くただ学校帰りに「今日どうするー?」みたいな適当な感じで言われた。


「ああ、あれは【痺海(ひかい)】。ボクとユイの門出を祝う花火なのさ」


 HAHAHAと笑うエースだが明らかに危ない何かだと直感が告げている。


「いや、本当は何なのあれ」

「んー。まあユイのスキルを散々見まくってた事だし、うん。アッシのユニークスキル【毒薬は口に甘し】を特別に説明してあげよう」


 無駄に変な決めポーズを取りながら、「私のスタンドが叫びたがっているぜ」と変な発言をしている。面倒なのでスルーしていると、悲しい目を向けながら説明に入る。


「グスン。まずは私のユニークスキルの効果を説明しよう。【毒薬は口に甘し】というユニークだけど、効果は幾つかある。一つは状態異常スキルやアイテムに対して回復効果を付けられる。例えばここに【痺れ薬】があるとする」


 そう言って懐から瓶を取り出す。試験管の形で二本、中身は液体で黄色い。


「ユイ、ちょっと手を出してみて」

「えぇ……」

「いや、大丈夫だから! ちょっと痺れるだけだから!」


 そう言って無理矢理腕を掴むエース。振り払おうとするが、【STR】で勝っているはずのユイの腕は、セメントで固められたかのように動かない。


「ふふふ、抵抗は無駄無駄ぁ! さっき掛けた【魔力は我が力へと蘇るオール・マナ・ストレングス】ってスキル。あれは私の【MP】100に対して【STR】を10上げるスキルなのさ」


 つまり現在のエースの【STR】は71にまで上がっており、ユイのほぼ倍の数値である。もはや抵抗を諦め、静かに腕を突き出す。


「痛く、しないでね」

「グへへ、おっちゃんそんな事言われたら、って危なっ」


 私がいつものように【ツッコミ】で攻撃しようとすると、今まで見せた事の無い焦りの表情で私の裏拳を避ける。


「あー、ユイ。悪いんだけどユイのユニークスキル、イベントが終わるまでOFFにしといてくれる?」

「ん? いいけど、何か悪い事でもあるの?」

「またちゃんと話すから、今はお願い!」

「エースがそういうならそうする」

「ありがと!」


 そう言われて私はユニークスキルをOFFにする。パッシブ以外でもON/OFF出来るんだ。何か問題でもあるのかとは思ったけど、エースがそう言うのであれば従っていた方がいいのだろう。その後、話を再開する。


「ちょっとチクッてするよー」

「うっ」


 エースは試験管の蓋をキュポンと外し、私の腕にその中身を掛ける。その瞬間、ビリッとした痛みが走る。腕を動かそうにも、とても重く動きも遅い。だがエースは小さいナイフを取り出すと私に切り掛かる。痛みがビリッと走るが、その後何故か痛みと共に痺れも引いていく。


「普通の【痺れ薬】じゃピリピリした痛みが数秒走ったと思うけど」

「なんで今攻撃したの?」

「これに私のユニークを掛けると」


 私の抗議を無視しながらそう言って、もう一本の方にスキルを掛ける。掛けた瞬間、黄色い液体は輝く黄金色に変わる。それを同じ腕に掛ける。勿論痛みがピリピリと走る。そしてまた攻撃される。何回同じ事やるのかと思っていると、さっきとは違い痺れが引く様子は無い。


「あれ? さっきは切られたら痺れが引いたのに、なんで?」

「それがこのゲームの仕様だからさ」


 そう言いながら別の試験管を取り出し、腕に振り掛けると直ぐに痛みが抜ける。ついでにHP継続回復、なんて表示まで出る。しかし、言われた言葉が理解できない私は堪らず聞き返す。


「仕様?」

「そっ。例えばHP100の人が居たとしよう。その人が【麻痺】に掛かる。【麻痺】は掛かった時点でのHPが三割削れた時点で、自然に解除される仕様なのさ。この場合はHP70にまで減れば勝手に解ける。ではここに回復効果が付いたら、一体何が起こると思う?」


 そう言われて嫌な想像が頭を過ぎる。


「多分ユイが今思っている通りだよ」

「もしかして、ずっと【麻痺】したままなの?」

「ふはは! 流石我が嫁天才過ぎかよぉ」


 無駄に抱きつくエースとは裏腹に、心の中ではさっき粉まみれ液体まみれになった人達を思い出しゾッとする。


「でも、アイテムとかで回復は出来るんだよね?」

「まあね」


 その言葉を聞いて少しホッとする私だが、エースの話はそこで終わらない。


「勿論、動ければの話だけどね。さっき掛けたスキル、【薬物特攻・極】は【薬物生成】又は【薬物合成】で作ったアイテムのダメージを上げる効果。

【薬物範囲・極】は効果範囲、【薬物効能・極】は効果時間上昇、【抵抗力低下付与】は状態異常に掛かった相手の効果時間上昇、【症状強化付与】は状態異常が強く掛かるって感じかな」


 ユイは思った。あの男とは別の意味で危険な存在が身近に居た事を。しかし陽気に話すエースの説明は止まらない。


「だけど今のはあくまでも永続麻痺にするってだけで、そこまで強い訳じゃなくてね」

「いやいや」

「このスキルの真髄は、色んな状態異常を多重に掛けられる点さ。【麻痺】の状態の人に更に【毒】を叩き込む。【毒】は【麻痺】みたいに回復はしない。むしろ放っておけばどんどんダメージが上がっていく」


 聞いているだけのはずなのに、背中がゾワゾワとする感覚。ホラー系が苦手なユイは今、ホラーよりも怖いものがこの世にはある事を知る。


「そしてそれを応用したのが頭上の【痺海】。あれは巨大な【麻痺玉】な訳だけど、放つのに溜めが必要でね。その代わり、当たれば【麻痺】で動けず、【毒】を喰らう。【毒】のダメージでいずれは【麻痺】が解けるだろうけど、その時にはもう即死級のダメージにまで膨れ上がっているって寸法さ! これが私の常套戦術、Yes! ジャスティス!」


 ジャスティスどころか完全に悪役なのでは? と、半ば意識が飛びかけている私を気にした様子も無く、ひょいと抱えるエース。そして地面に【麻痺玉】を生み出し跳躍、生み出し跳躍を繰り返し、頭上にあった球体よりも上空へと登る。

 そしてユイの目の前で、悪魔の所業が繰り広げられる事になる。


「さてさて、この位置なら中央まで届くかな。じゃあ皆、イベント後に会おう!」


 その姿はとても爽やかな笑顔の周りに、謎の光がキラキラと輝いている。

 だが眼下は惨劇だった。気球大の球体が地面へと衝突したと思うと、それが爆発的な大量の液体を生み出し、地面や森、果ては中央へと流れていく。それはまるで黄金色に輝く大海の様だった。

ユイのユニークについてはイベント終了後の話で。

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