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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第二章 イベント参加
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とりあえず逃げたその先で

 ただひたすら走る中、聞こえてくるのは先程の男達の断末魔と、目の前で光となって消え去る姿が、瞼の裏にこびり付いて忘れる事が出来ない。ユイは実は今までゲーム内で死んだ事が無い。死にそうになったら休むか町へ引き返していた為である。唯一、湖都の湖底で死に掛けたが、今回のそれとはまた違う。モンスターに攻撃された時も、横腹にハンマーの一撃を受けた時もそうだが、このゲームには一時的な痛みが生じる。それでどうなる訳でも無くただの演出なのだが、擬似的ではあってもそれはまるで本物のように思える。あくまでも一時的なので、もう痛みを感じるはずが無いのだが、ユイは横腹を押さえながら【ダッシュ】を連発していた。【ダッシュ】には消費MPが無い上に、再使用までの時間も短い。反面、連発すればそれだけ疲れる。ゲームの中とはいえ無茶は出来ない。だがユイはそれでも連発し続けた。


『【スキル:忍耐】を取得しました』

『【スキル:根性】を取得しました』

『【称号:恐怖を知る者】を取得しました』


 目の前にはスクリーンが表示されるが、それを確認する余裕も無いユイ。完全に恐慌状態に陥っており、周りを気にする余裕も無い。ポイント的にも死亡回数に猶予はある、それすらも忘れて。思うのは「死にたくない」というたった一つの願い。



 ただ闇雲に逃げる事十数分。私は岩山まで到達する事が出来た。本当ならば森の中で隠れるのが最善だったと後悔したけれど、今はとにかくどうにかしてやり過ごさなければならない。幾ら【ダッシュ】をしたからと言って、私は【AGI】に振っていない。エースの話ではスキルはステータスに左右される。もし【DEX】や【AGI】だと一回で遠くまで行けたり、真っ直ぐに進んでいる時にカーブ出来たりと変化が生じる。【STR】に振っている私は、踏み込む力が強い分初速は早いものの、総合的には遅く長距離を移動する事は出来ない。だからこんなところで立ち止まってちゃ駄目だ。森を抜ける際にも何人かの叫び声が聞こえていた。


「私もこのままじゃ……」


 そう思った私は岩山を見上げる。上まで登れば──


「駄目だ。そんな事してたら直ぐに見つかっちゃう。どうしたら、どうしたらいいの? エース、私」


 助けを求めても幾ら祈っても誰かが来る事は無い。いや、後ろからはあの男が近付いて来ているだろう。悩んだ末に私は岩山を殴りつけ始めた。岩山付近の地面には無数の岩が散乱している。そして岩山の絶壁と呼べるところには、たまに亀裂の入った場所が幾つかある。私はそこに自分一人の穴を空けて、岩で蓋をすればと考えた。今思えばもっと何かあったんじゃないかって、そう思う。けれどそれが精一杯だった。岩を持てるのは知っている。【STR】の恩恵を確かめる為、岩よりも重いものを持ち上げた事もある。あとは穴を空けるだけだ。私はひたすら殴り続ける。


 もしこの光景を誰かが見ていたら何をやっているんだとバカにしていただろう。イベント会場を囲う岩山は、運営によって非破壊オブジェクトに設定されている為、絶対に壊す事など出来ない。それは公式にも載っている事だし、ゲームをやっている人なら常識中の常識だ。しかし、そんな知識など無いユイは知らない。

 それが今後のユイに大きな影響をもたらすものになる事も。



 ひたすら殴り続けていた時、急に拳が光ったかと思えば直後、小さな地響きと共に岩山の一部が崩れる。


「やった、でも何で?」


 しかし私は気にしている余裕も思考力も無かった。小柄なユイには大き過ぎるほどの奥へと続く横穴。入口は小さいが何とか入れる。そこに、自身の背丈ほどある岩を持ち上げ入る。流石に少し引きずったが、なんとか蓋をする事に成功する。光が遮られた穴の中で、耳を塞ぎ目を閉じ縮こまる。


「お願い……来ないで」


 暗闇の中、祈るように、縋るように出た言葉を、虚しく打ち破るかの如く気配が近づく。【気配感知Ⅰ】の効果で近くに人がいるのが確認出来てしまう。震えるユイは、岩で密閉したせいもあるが声が遠のく事に気付く事は無い。そして、この暗い穴の中で淡く光るスクリーンが表示されている事にも。



『【ユニークスキル:理不尽の肯定】を取得しました』

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