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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第二章 イベント参加
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とりあえず痛みと恐怖を知る

「よし、これで三つ目かな」


 私は外周の岩山に沿って台座を順調に見つけていた。途中、何人かの人とすれ違ったりしたけれど、いきなり戦闘! って展開にはならなかった。

 そもそもポイントの半分奪えるって言っても、低レベル帯だと大して初期ポイントが大きくない上に、台座からのポイントは別途扱いされている。これが多分肝なんだと思う。

 戦闘で勝てばポイントは増えるけれど、台座からだけだと初期値のままだ。つまり、戦闘は自分の死亡回数を増やせるという意味の方が強い。そして低レベル帯だと死ぬ回数に限りがある。逆に高レベル帯、特にランカーであれば初期値でも五回までなら死んでも問題無い。

 皆そういう考えなのか、プレイヤーに出会っても皆回避するか逃げる。若干名、私の腕のリストバンドを見ている人も居るけれど何故だろう?


 そしてこの【争奪戦】は、別にプレイヤーと出会ったら絶対戦わなきゃいけない、って訳じゃない。確かに戦闘している場面に遭遇した事もあったけど、私は【ダッシュ】と岩陰からの【気配感知Ⅰ】でやり過ごしている。【気配感知Ⅰ】短距離なのが難点だけど、岩の反対側に居る人や角で待ち伏せしている人とかは見つけやすい。Ⅰって事はⅡとかに上げると範囲が広くなるのかな?


 そう思っている間に私は四つ目の台座に手をかざす。既にポイントは900、そのうち台座分だけで400溜まっている。


「そろそろ内側の方に行ってみようかな?」


 台座は中央に近づくに連れポイントが高くなる、というのはヘルプの情報だ。プレイヤー同士があまり戦闘しない、という状況に慣れてきた私は、多分大丈夫だろうと好奇心と少しの欲から外周部の森の方へと歩き出す。

 しばらく歩いていると、地面が今まで岩場のゴツゴツとした感じから草が生い茂るものへと変わる。それに伴って木々がポツポツと増え、日を覆い薄暗くなっていく。


「何か嫌な雰囲気だなー。あっ!」


 段々視覚が木々や草に阻まれ狭くなっていく中で、淡い光が遠くに見える。岩場とは違い真っ青な台座だ。私はやったと思って飛び出したのだが、同じ考えで行動していたのか、茂みからプレイヤーが飛び出してきた。それと同時に後ろに引いて様子を伺う。

 岩場だと出会っても直ぐに戦闘が始まる訳じゃなかった。今回もどうやら様子見のまま互いに膠着状態になる、そう思っていると相手の後ろの方から声が聞こえてきた。


「おーい、あったかー?」

「あったにはあったが、プレイヤーが居る」

「えっ、マジかよ」


 相手の背後から出てきたのはレベル19、名前はアキラ。最初の遭遇した方が12で名前は翔。両者とも男でどうやら二人は敵対関係にあるようには見えない。男達はなおも会話を続ける。


「なあ、確かレベル10差からだよな。あの子9だし二人なら行けるんじゃね?」

 翔が私を見てそう言うと、アキラは「やめとけやめとけ」と促している。その視線は私の腕に向いている。だが翔は構えたままこちらを見て、そして言う。


「悪いな可愛い子ちゃん、このイベントじゃ共闘は禁止されてないんでな、お命頂戴!」

「どこの時代劇だよ、やれやれ。MP少ないから戦いたくないんだよな」


 そう言って飛び出してきたのは翔。武器は長剣で私目掛けて勢いよく振り下ろされる。無言で襲われた訳では無いが、私は腰が引けてしまいうまく頭が回らない。反射的に【ダッシュ】を使って横に回避するが、その先でハンマーが横薙ぎに振るわれる。


「【スイングスタンプ】」


 アキラの攻撃は吸い込まれるようにして私の横腹に直撃する。今まで喰らったどのモンスターの攻撃よりも、重く痺れるような痛みが走る。「うぅ……」と唸り声を蹲る私。必死に顔を上げると私の頭目掛けて振り下ろされる剣。私は殆ど無意識に避ける。ゴロゴロと転がり、息を切らしながらも立ち上がる間、男達の会話が聞こえてくる。


「どうやら【AGI】型じゃないっぽいな。てっきり素手だから回避型かと思ったが」

「いいじゃんいいじゃん、ここでポイントが増えるのは今後に役立つじゃん? それに金無くて装備買えなかったんだろ?」

「いや違うな。素手って事は誰かの入れ知恵だな。武器は無いのに服はある。湖都の服だし、多分【STR】型か【Luc】型だな。一撃が怖いからある程度距離を置こう」

「お前、凄いな」

「攻略サイトを読んでりゃ誰だって……おい、逃げられるぞ」


 私は男達が会話している隙を見て逃げ出す。プレイヤーからの攻撃がこんなに痛いとも、戦闘が怖いとも思っていなかった。だが【AGI】に全く振っていない私に、男達はグングン近付いてくる。足音がまるでカウントダウンかのように、どんどんと大きくなる。やがて【気配感知Ⅰ】の範囲まで追い付かれ、もう駄目かとそう思った時、背後から急に足音が消える。その代わり、刃物が当たるような甲高い音が聞こえ、思わずビクッと身体を震わせる。

 見たくない、見たくない、でも見なきゃ。そう思って私は意を決して振り向いた。そこに居たのは──


「ぐっ……ああああああああああああ!」

「くそっ、何でこんなところにこんなレベルの奴が」

「悪い悪い。ちょっと中央じゃ稼げそうに無くてな。まあ運が悪かったって事で」


 アキラは、悲鳴をあげながら背中から貫通するように剣で刺されていた。そして数秒もしないうちに光となって消え去る。


「ふむ。いい感じだな」


 そう言って感傷も無く男は翔へと視線を向ける。目が合った翔の顔は青白く染まっている。だがここで翔は叫ぶ。


「へっ。アンタ、見たところレベル42もあるじゃないか。アキラとのレベル差は23。つまり相当なデバフが掛かっているはず。なら俺にだって勝機はある!」

「かもな。やってみるといい」


 私は二人の戦闘には目もくれず岩場の方へと戻っていく。おそらくあの翔って人は負ける。そんな予感と恐怖と寒気が、私の足を動かしていた。【ダッシュ】を使い、ただひたすら逃げる私の後ろから聞こえてきたのは、ただ痛みに苦しむ絶叫だった。


【攻略メモ】

極振り

ある特定のステータスにしかポイントを振らない行為。主にユイのようなステータスがこれに当たる。メリットとしては異常な火力、有り得ない速度、脅威的な回避率など頭一つ飛び出した能力が見込める。デメリットはそれ以外の事が極端に弱くなる為、ソロでボスが倒せない、逃げる事が出来ない、特定のスキルしか取れないなど様々。しかし【譲渡】によってある程度補える為、極振りまでは行かないまでも、二極(二つのステータスにだけ振る行為)にするプレイヤーが多い。


要はプレイスタイル。例で挙げるならば、【STR】型は火力重視のステータスとスキル構成の事を差す。装備や動きでも判別する事が出来、一番判別しやすいのは【AGI】型。逆に判別しにくいのは【DEX】型と【Luc】型。

上記は極型と呼ばれる、一つにしか振らない型だが、普通の人は二つ以上振るのが常識。その場合の名前は複合型。

湖都で買える【シンプルシリーズ】の他、始まりの町で買える【防災服シリーズ】など、特定のシリーズで揃えているほど読まれやすいが、たまに変なステータスの人が居る為油断出来ない。そういう『おかしな』や『変な』が付くのは、三色あるサーバーでもある一色だけに偏りがある。

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