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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第二章 イベント参加
18/87

とりあえず戦いが始まる

 眩い光と共に私の周りの風景が変わり、光が消える頃には完全に辺りの様相が違っていた。周りはゴツゴツした岩場に囲まれており、真後ろには絶壁と呼べるほどの大きな岩山がそびえ立っている。どうやらここがスタート位置になるらしい。

 遠くの空には砂時計と時間がカウントされており、このイベントの制限時間を示している。


「よし、とにかく台座だっけ? それを見つければいいんだよね?」


 そうして私は、岩山を沿うようにして歩き出した。その間にも私はヘルプに目を通しておく。台座は中央部に向かうに連れて個数が減っていく事。それと同時に、獲得出来るポイントが増えていく事が書かれてあり、初心者諸君は戦闘は出来る限り避けるべきだ、とまで書かれている。外周部は人がまばらだが、中央部は人が密集するという事も記載されている。エースは確かレベル50だから遺跡に居るのだろう。


 エースは今頃どうしているのかな。そんな事を考えていると、かなり遠くの方にだが台座らしきものが見える。見た目はビリヤードの台みたいなのに、真ん中に水晶が浮かんでいる。

 私は周りを警戒しながらそこへ向かう。【気配感知Ⅰ】が役立つ時だ! などと考えていたけれど、これ範囲が5mも無いんだよね。もはや目視した方が早いレベル。そう思いながら辺りに誰も居ない事を確認すると、私は台座の前にまで一直線でやってきた。


「えっと、どこをどうすれば……」


 ポイントがどうすれば貰えるのかと思って、とりあえず一番目立つ水晶に触れる。すると淡く発光したかと思えば、スクリーンが表示される。


『ユイは台座から100ポイント獲得した』


「おおーこんな感じなんだ」と少し感動する。戦闘すれば確かにこれ以上を望めるだろうが、未だモンスターとの戦闘も危なっかしい私には時期尚早だろう。だから出来るだけプレイヤーと出会っても、戦闘は回避する方向性で動いていた。



 だが、ユイの選択は正しいようで少し間違っている。というのも、ユイのステータスは【STR】に極振りされており、回避とは程遠い構成である。各レベル帯のスタート位置は、【AGI】極振りしているプレイヤーが、十数分ほど掛けて到達出来る位置を目安にされている為、別のレベル帯とは出会わない仕組みになっている。レベルの低い相手を戦闘で倒すとデバフを食らうというルールもある為、迂闊に手を出す者も少ない。だが、それはあくまでも「デバフを無効化出来る者」や「長距離を一瞬にして移動出来る者」などが居ないという訳では無かった。





 ──中間区・川


「ふむ。やはり遺跡は危ないな」


 男は独白する。辺りに人気は無く、ただ黙々と周囲に目を向ける。その瞳はまるで、獲物を探す獣の如く、ただ静かに観察を続ける。そして周りに何者も居ない事を確かめると、男はおもむろに外周方面へと歩き出す。


「デバフと言っていたか。まあ今回も初心者達には泣いてもらうとしよう」


 誰に聞かれるでも無い、男の言葉。その目には確かな殺意が宿っていた。






 ──中央部・市街地


 最も人口密度が高く、尚且つ一つしか無い台座のある市街地。その台座は10万ポイントという破格の設置がされている他、ランカーを倒して名を上げようという輩が集まる、まさに危険地帯に相応しい場。本来ならばスキルが飛び交い、そこかしこで戦闘が行われているはずの場所。しかし、開始たった数分。辺りは死屍累々と化していた。

 市街地には建物が建っており、中には隠れる場所も沢山ある。そのはずだが、今そこに立つ影は二つしか無い。その二つの影は睨み合いながらも会話を始める。


「流石にランカー常連組となるとなかなか倒れちゃくれねえな」

「ふむふむ。でも別にアッシが先に倒れる必要は無いと思うぜ?」

「ふっ、口の減らない奴だな。それにしても今回はえらくやる気じゃねえか?」

「勿論。愛しのマイハニーにプレゼントをする為さ。だから大人しくポイントにおなり!」


 両者はスキルを構え睨み合う。緊張感が周りに伝播するほど、張り詰めた空気が支配している。そして──


「アンタの名前と同じく、黒星にしてやるわ!」

「……俺の機種じゃ白星だ」


 二人の強者は激突する。





 ──中央部・遺跡


「ひいいいいい」


 一人の男が氷の雨に撃たれまいと必死に逃げ回っている。その間にも、辺りには人の大きさほどある氷柱に貫かれ、無残なオブジェになっているプレイヤーが遺跡を彩っている。


「ふふふ、さあ私の糧になりなさい!」


 その声に応えるように、氷の雨はより一層激しさを増す。男はもう逃げられないと膝をつき、氷柱に貫かれようとした。

 その時──


 パキンっという音と共に、男に当たるはずの氷柱が見事に砕かれる。それと同時に男は、プレイヤーの倍ほどある巨大な猫に咥えられ、戦場からどんどん離脱していく。


「ギルマス! うわぁ、ありがとうございます! 正直もう駄目かと」

「安心するのはまだ早いわい。後ろの雨を叩き落とすのに専念するのじゃ」

「は、はい!」


 男と猫を追うように、雨は矛先を変えていく。まるでそこに意思があるかのように。





 イベントはまだ始まったばかり。戦いはそれぞれの場所で激化していく。 


【攻略メモ】

イベント会場2

レベル帯によってスタート位置が三つのグループに分けられている。

1-20、21-40、41-ランカー。

それぞれ外周区、中間区、中央区。

それぞれの距離がおよそ30kmずつ離れている。

中央に行くほど人口密度は高く、外周に行くほど低い。また洞窟や湖、遺跡には地下もある為、思っているよりもマップは広大。

台座の中には多く貰える特別な台座が各エリアにあり、開催される毎に場所が変わっている。但し中央区の台座だけは固定。

中央区からはダミーの台座があり、触れると周囲を巻き込む爆発を発生させる。これは運営からの「高レベルなんだから戦闘で集めろよ」という圧では無いか説が囁かれている。

外周区では台座のヒントが隠されている。これは暗に、台座の探し方のチュートリアルを兼ねている為である。また隠れる隙間や台座によってはバフが付くなど、戦闘回避や有利性を持たせる工夫もされている。

中間区はそのどちらでも無い為、自分のプレイスタイルを如何に発揮出来るかがポイントとなる。中央区に殴り込みに行くも良し、少し弱い相手を求めて外周側に向かうも良し、台座でひたすら稼ぐも良し。このレベル帯になるとスキルも充実しているので、選択肢を取捨選択するのが勝利の鍵になるだろう。


デバフ

主に移動速度低下、攻撃速度低下、視認範囲低下、防御力低下、ステータス半減が主だが、レベル差が開いていると効果も大きくなる。仮にレベル50が1の者を倒した場合、HP・MP1に固定、移動不可、攻撃速度最低、視覚暗転などといったデバフが掛かる。このデバフは十分程度で治まるが、致命傷となりやすいので低レベル帯を襲う高レベルプレイヤーや少ない。仮に周りが低レベル帯だけしか居なくとも、一つのスキルで優位になる事は充分に有り得る怖さを知ってるからである。

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