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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
第一章 初心者
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とりあえず探索をしてみる

 朝、私は学校へ向かう。いつも通りの通学路を電車とバスを使って向かう。その途中にふと昨日の光景を思い出す。

 たった一日、本当にそれだけでVRゲームが良いものだと感じてしまっていた。一華からはよく色々と誘われては、しょうがないなと手を出してはみるけれど、今でも続いてるのは小旅行ぐらいなものだ。けれどそんな小旅行でも行ける場所には限りがあるしお金も掛かる。

 ところが昨日見た湖都や何気ない草原。あんな光景、日本じゃ…いや、まして地球上どこへ行っても見る事は出来ないだろう。空想上の世界とは分かっている。けれど偽物と本物に感動の差はあるのだろうか。例えそれが作り物でも、見る人がそれをいいなと感じられれば、それはもはや本物じゃないのだろうか。


 なんて、ちょっと詩人っぽい事を考えながらも、すっかりゲームにハマりかけてる自分に「くぅ、してやられたか」なんて独りごちながら教室に向かう。その途中、廊下でその元凶と出くわす。


「おっ、唯さんや。今日もいい天気じゃのう」

「一華さんや、今日は曇っておるよ」

「本当じゃ。流石じゃのう」

「それほどでもあるのじゃ」


 腰を少し折り、前屈みになりながら身体をプルプルと震わせる。そんないつものコントをすると、一華の周りに居た子はまたかと笑う。そうして一見挨拶に見えない二人の挨拶を終え、一華と周りに居た子が別れると、今日の放課後の話に花を咲かせる。


「今日もやるんだよね?」

「もち! でも今日は別行動かな」

「えぇ…なんで?」

「ほら、やっぱりレベルも上げたいだろうし、色々回ってスキルを集めるのも楽しいよ。それにアッシは【イベント戦】に向けて予行練習があるからね」

「【イベント戦】?」

「あーこれもか。【イベント戦】ってのは、まあ簡単に言えば限定アイテムが貰えたり、普段では出現しないモンスターが出たり、はたまた皆でかくれんぼとか、あとは季節に合わせた仮装とか色々。そういう特別なお祭りみたいなもんだよ」

「ほうほう。なんか楽しそうだね」

「楽しいよー。まあ今回のはユイには厳しいかもだけど」

「そうなの?」

「今回の【イベント戦】は【争奪戦】だからね。あ、【争奪戦】っていうのは最初に手持ちポイントが振り分けられてて、それをプレイヤー達が奪い合うっていう」

「うわぁ…なんか怖そう」

「まあ今回はどんなルールになるかわかんないけどね。とりあえず【争奪戦】でも何でもそうだけど、【イベント戦】は基本的に参加するだけでも【EP】が貰えるから、とりあえず物は試しにやってみるといいよー」

「そっか。じゃ覚えとく」

「うむうむ。あとついでにこれもあげよう」


 そう言って一華が鞄から取り出したのは小さなカードで、何となく形状がゲーム機本体に取り付けた課金用のものに似ている。


「これは?」

「フリーメモカードだね。要は現実で記録したメモをゲームの中でも見られるようになるカードだね」

「へー、こんなのがあるんだ」

「昔は掲示板とかで情報漁って来てたからね。今となっちゃ使う事も無いし唯にあげるよ」

「いいの? やったー!」


 このフリーメモカードは携帯端末にも差し込める事が出来る。その為、先程の一華のように昔は掲示板などで検証や攻略方法を見つけてはコピーして、ゲーム内で役立てる事が一般的だった。一華は実はβテストから初めており、その頃はVRゲーム界隈でもまだまだ発展途上だった為か、メモをプレイヤー達が作るというのは必須事項、という背景がある。しかし今ではゲーム内で【情報屋】や【文豪】、【製図家】などという称号がマップやモンスターの情報を文章化し、それをメニュー欄の『エリア情報』というところに情報が蓄積されていくというのがある為、もはや風化した歴史でもある。しかしその辺はまだまだ親友には早い。ならば普通にメモとして使えるだけでも充分役立てるはず。そう思って家のタンスから引っ張り出してきたのだった。


「そこにはモンスターとの戦い方とか、基本的な動きとかもメモしてあるし、もし分からなくなったら見てみてよ」

「うん、ありがとう一華。こういうところが好きだよ」

「ぐはっ…今のスマイル、最高だぜ」


 胸を抑え俯きながらサムズアップを決める親友。顔には満面の笑みが溢れている。これさえ無ければ、と思うがもしこれが無かったらそれはそれで違和感アリアリなので、突っ込むに突っ込めない唯であった。



 帰宅後。

 早速フリーメモカードを本体に装着し、ベッドに寝転がる。


「──ワールドオープン」



「イラシャーイ、イラシャーイ。ヤスイ、ヤスイ」


 私が目を開けるとそこはショップの前で、あの変な喋り方の店員さんが言葉を発する度にポージングを決めていた。どうやら最後に居た場所から始まるようだ。それはさておき、メニュー画面を開くと『Only Origin Oblivion』を選択しタッチする。意識が再び遠のく──





 サァァァと草が擦れる音が聞こえる。ここは昨日の草原だ。辺りを見回すとスズメのようなモンスターが犬っぽいモンスターに追われてたり、他のプレイヤー達がよく分からない会話を楽しんでいたり。


「んー、とりあえず探索でもしてみようかな」


 そう思って私はおもむろに町の方へと歩き出した。歩いている途中にメモをサラッと読みながら向かう。メモはどうやらメニュー画面の『追加カード』という欄から選べるようで、メモの部分が光っている。他にも万歩計や教科書など色々な種類の名前も暗くなっているが確認出来た。メモは本当に殴り書きでもしたかのように、バラバラに色々な事が書いてある。そうして読むうちに橋を渡り終えていて町の中に入っていた。



 昨日はただ言われるがままエースの後ろを付いて行っただけに過ぎないが、改めて見ると本当にこれがゲームか現実か分からなくなる。いや、通り過ぎる人やお店の人の名前が表示されているところや、装備を着ている人が行き交うところはゲームそのものなのだけど。それでも、それが溶け込み自然と一体になっているようなそんな感覚がどこか楽しい。

 私は本能赴くままに観光気分で歩き回っていると、どうやら町の端まできたようで、前は一面に湖がキラキラと光っている。屈んで見ると魚が泳いでいるのが見える。

 さて、町をもう少し見ようかなと振り返った時、そこへいきなりスクリーンが表示される。


『【湖都:アクゼリシア】のマップを取得しました』


 何故? と一瞬疑問に思ったが、そう言えばメモを見た時に町を歩き回ると『エリア情報』にマップが追加されていくのだと書いてあった。その文章を探すと、『これはパーティーのパワーレベリングを避けるのと同じく、町をすっ飛ばして行くプレイヤーへのささやかな運営からの嫌がらせだ』、とも書いてある。運営ってゲーム作ってる人だよね? 嫌いなのかな?


 マップに気を取られていた私は、この時自分が手すりも何も無い場所に居たのをすっかり忘れていた。なんでそんな事を言うのかと言えば──


「おー、こんなにこの町は広かっ──あっ」


 先程、そう言えば湖を見る為に手すりの無い場所へ自分が移動していた事に気付く。だがそれはもう遅い。私は足を滑らせ背中から湖の中に落ちてしまった。結果──


「あ、誰かっ、私泳げなっ…」


 水底に沈んでいく私を見つける者は居らず、そこにはただいつもと変わらぬ水面だけがキラキラと輝いていた。


【攻略メモ】

チュチュン

出現場所:【始まりの町:ルクセンダーラ】から【湖都:アクゼリシア】までの近辺。

レベル帯:1-6

スライム同様、空中から体当たりを仕掛けてくる。森の中ではなかなか強いが動きはそれほどでは無い為、躱すのは難しい訳では無い。

草原では遮蔽物が無い分、動きが読み易い代わりに少し早くなっている。

レアドロップに【チュチュンのくちばし】を落とす他、倒し続ければ【チュチュンキラー】も取得出来る。しかし湧く数が少ないのとチュチュン系モンスターがあまりいない為、それほど躍起になって取得するプレイヤーは珍しい方である。

また、何故か草原に出現するチュチュンだけ、同じ出現場所のハウンドに追いかけ回された挙句、チュチュンの体当たりを食らってハウンドが死ぬ、という謎行動が見られる。

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