とりあえず服は重要
二人が【防具屋】に入ると「いらっしゃい」と声が掛かる。【露店】はプレイヤーがやっているものだから特に何とも思わなかったけど、NPCをこうして間近で見ても違和感が無いのは単純に凄いなと思う。
昔は技術不足でプログラムされた言葉しか話せなかったみたいだけど、今はある程度機械が選択肢を考えて判断している。これも一華の受け売りだけど。まあダウンロードショップのあの「オーオーオー」って言ってた人は前者の感じだけど、あれはあれで私は好きだなぁ。
人類の技術力を改めて確認している一方、エースは店の中を物色している。エース曰く【鍛冶師】という称号を持っていれば武器を、【裁縫師】の称号が有れば防具を作れるらしい。
OOOでは職業が無い代わりに称号がその役目を果たしており、称号はスキルと違って【譲渡】出来ない為、そういうものを作れる人は少数派のようだ。エースも【薬師】という回復薬などを作れる称号は持っていると言っているが、取得条件が結構厳しく戦闘向きじゃないからオススメしないよーと言われた。私、別に戦闘したい訳じゃないんだけど。
そう思いつつも店内を見渡す。意外と鎧とかゴツゴツしたイメージを持っていたけれど、普通のカジュアル系のお店みたいだなぁ、ってのが第一印象。スカートとかマフラーとか女の子向けのものから、呪いの仮面みたいなものまで様々。値段も安いものなら200palぐらいからある。その中からエースは何点か選び試着して来なよと試着室へと私を押し込む。試着室まであるんだ…。
私が試着室で防具を着ようとした時、スクリーンが表示される。一体何事なのかと防具をタッチすると──
『防具【シンプルなシャツ】を試着しますか?』と表示された。『はい』の方を押すと既に身に付けていた防具が一瞬にして試着する防具に変わっていた。なるほど、こういうところはゲームなのかと感心していると、エースが何やら店主と話をしている声が聞こえてきた。
「これとこれ、それと【修復材】をこれで」
「ありがとうございます」
何を話しているのかと思って試着した服装に身を包み終わると試着室を出た。
「おー、やっぱり女の子はオシャレしなきゃだね。ユイ自身が可愛いから何着ても可愛いんだけどさ」
「もー! そんな事無いから!」
「あ、そうそう。その服買っといたからそのままで大丈夫だぜ」
「え? だってさっきも…」
さっきも【露店】でお金を出させてしまったのに、また防具まで払ってもらうのは…! 流石にお金の貸し借りはあまり良くないからと抗議しようとしたところ、エースはあっけらかんとした態度で言った。
「最近【EP】で装備類が買えるようになったって聞いててね。まあそのついでさ、ほれ」
エースに言おうと口を開いた状態でいきなり目の前にスクリーンが現れ、思わず「ひゃっ、何?」と声をあげる私。スクリーンには『エースからオシャレ専用防具【誓いの指輪】を【譲渡】されています。受け取りますか?』と出ている。
「えっと、これは?」
「見ての通り…って言ってもユイにゃ分からないか。オシャレ専用防具ってのは、課金や【EP】を使って見た目だけを変えられる装備の事さ。まあその装備にも効果は付いてたりするし、スキル取得にも影響あるって話だから、前々から欲しいとは思っていたんだけどね。ちょうどいい機会だし、その防具はその付き合わせ料って事で」
【誓いの指輪】
オシャレ専用。二対で一つの装備で一つでは効果が無い。同じ【誓いの指輪】を装備した者がパーティー内に居た場合、全ステータス+30。
「…ありがとう。絶対お返しするからね」
「おうともよ! 期待してるぜハニー!」
こうして防具を揃えた私はステータスの装備欄を見る。
武器
右腕 【素手】
左腕 【素手】
防具
頭 【シンプルな髪留め】
体 【シンプルなシャツ】
足 【シンプルなスカート】
靴 【シンプルな靴】
装飾品 【無し】
装飾品 【無し】
オシャレ
スロット1【誓いの指輪】
スロット2【無し】
スロット3【無し】
スロット4【無し】
スロット5【無し】
オシャレ装備は課金や【EP】を必要とする為、最初のページでは見られず、防具の下をスクロールする事で表示される。あまり弄る事は無いが設定で『全てを表示』するようにすれば最初のページでも見られるようになるよ、とエースが言う。なるなる、覚えておこう…多分。
エースに買って貰った防具は【シンプルシリーズ】と呼ばれる、初心者が最初によく着る装備のようで、それぞれに効果が付いている。
頭 【シンプルな髪留め】
命中率+3
体 【シンプルなシャツ】
HP+100
足 【シンプルなスカート】
回避+3
靴 【シンプルな靴】
移動速度+5%
そしてセット効果と呼ばれる、防具の【〇〇シリーズ】を合わせる事で、防具自体とは別で追加で効果が得られるものがある。この【シンプルシリーズ】では全ステータスの最低値が5になる、という効果がある。これは5以上のステータスには全く効果が無い為、現在【STR】36ある私が41に上がる、というものでは無いらしい。なんだか難しいなぁ。
それにエースのステータスを見た時、(+500)とか付いていたのはきっと装備の効果なんだな、とようやくここで理解した。気になってはいたんだけど聞くタイミングがなぁ。
ちなみに防具の見た目は黒い髪留めに真っ白いシャツ、モノクロなスカート、白地に黒い一本線が入った靴だ。可愛いとは言い難いけど着心地は悪くない。
「うむうむ。そろそろ装備の確認も終わったようだし、少し町の外に出て戦闘してみようか」
「大丈夫かな?」
「ここもまだ二番目の町だし敵も強くないからね。それにオレもいるから安心だろ?」
そう言って低い声でキメ顔を向けるエースに「はいはい、頼りにしてますよーっだ」と茶化しながら言いつつ、本当はとても心強いなと思いながら、私達は町の近くの草原に向かった。
閲覧ありがとうございます。
まさかこんな短期間でブクマ件数300を超える事になるなんて…
作者のチキンハートがヒヨコになりそうです。
もう少し基礎編が続きます。




