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とりあえず殴ればいいと言われたので  作者: 杜邪悠久
プロローグ
1/87

とりあえずVR始めます

 春先、教室に差し込む温かな光に心奪われ、私は机の上でふにゃりと腕枕をして眠りに落ちていた。そんな私の眠りを一瞬にして覚ましたのは親友の声だった。


「ねぇねぇ。起きてよ唯!」


 身体をガクガクと揺らされ安眠モードに入っていた私の意識は現実へと引き戻されていく。


「もー…なぁに? ふわぁ」


 ­大きな欠伸と共に伸びをしながら、勝手に前の人の席に座る親友、鳶宮一華(とびみやいちか)は満面の笑みを浮かべながらスマホを取り出し言う。


「これ! この前言ってたゲーム!」


 見るとそこに書いてあったのは『Only Origin Oblivion』の記事が書かれている。

『Only Origin Oblivion』、通称OOOと略されるこのゲームは今話題のVRMMOというジャンルで、その中でも人気を博しているとかなんとか。私、水輝唯(みずきゆい)はあまりゲームというものをやらない。嫌いな訳では無いけれど、ずっと同じ場所に居るよりも色々な場所へ行って遊ぶ方がよっぽど楽しい。そんな訳でゲームはあまりしない方だった。だが一華はそんな事お構い無しにスマホを指差しながら言う。


「これ、私も結構ハマってて結構レベルも上がったんだけど、なかなかスキルが集まらなくてさ。やっぱり一人だと限界があるのかなーって」

「ふーん。それで?」

「唯! 一緒にやろう!」

「はぁー…」


 深い、それはもう深い溜息を吐く。一華はいつもそうだ。何にでも熱中するタイプで、私が小旅行に行くほどアウトドア派になったのも、当時の一華が私を外に引っ張り出したのが原点だ。こうなったが最後、子ウサギのような瞳で四六時中無言で見つめて来るのだ。最後にこちらが折れるのを分かっているから。もう小学生からの付き合いなので今後の展開は読めている。早々に諦め白旗を振る私は、一華へと返事を返す。


「うん、いいよ」

「お? 今回は素直でござんすなぁ〜?」

「どうせまた無言で見つめて来るんでしょー?」

「おや、バレちまったか」

「もー、何年の付き合いだと思ってるの」

「あははっ、ごめんごめん。でもありがと」

「どういたしまして」


 おちゃらけた口調から一転、掌をひらひらと上下に揺らしながら謝罪した後、素直に礼を述べてくる。喜怒哀楽が激しいこの友人の顔はいつ見ても面白いものだ、などと詩的な事を思いつつ返事をした。そこでチャイムが鳴り、放課後にハードウェアを買う約束をしてそれぞれの席へと戻ったのだった。





 ──放課後


 私と一華は学校が終わったその足で近くのデパートに来ていた。


「あー! これ新作のゲームだぁ。欲しいなぁ」


 一華は物凄くはしゃいでいる。見ている分にはほっこりするのだが、自分がこう! と決めた事や興味のあるものへの食いつきは凄まじく、周りを全く気にしなくなる。お陰で今全力で新作ゲームを見ている訳だ。近くに居た子ども達を跳ね除けてまで食い入るように見つめる一華に、私はもう昔からの付き合いで習得したスルースキルを発動して両脇に指を当てると、ちょうど脇腹辺りのところまでゆっくりと這わせていく。


「はぁ、ひゃんっ」


 身体がビクンと跳ね上がったところで友人を見ると、どうやら正気に戻ったようで頬を膨らませながらこっちを見ている。


「もー、今日は私のハードウェア見てくれるんじゃなかったの?」

「だって…新作…」

「だからって小さい子を押し退けてまで見ない! 高校生でしょ!」


 この時だけは友人同士と言うより姉妹のような見た目になる。あくまでも見た目だけだ。実際このくだりはよくやっているので、一華が普通に顔の前で手を合わせてごめんと言うまでが一連の動作になっている。


「いやー、楽しくなってつい」

「もう…いつまでも変わらないんだから」

「変わらない私! 変わらない想い!」

「でも体重は…」

「ひいー! 言わないでー! 言わないでぇぇぇ」


 いつも通りの会話をしながらハードウェアを選んでいく。ゲームソフトは必要なく、ハードウェアを買った後、起動しVRワールド内で課金しダウンロードする、という事らしい。この仕組みは一世代ほど前に流行ったアプリに通ずるものがある。私もふよふよやテトラスぐらいならやった事がある。なのでハードウェアだけを買えばいいんだけど、一華が言うにはゲームの種類によって対応するものが違ってて、うっかりホラーとか買うといけないから、という訳で着いて来てくれた。新作ゲームをカゴいっぱいに詰め込んでる様子を見ると、本当に私の用事で来たのか怪しくなるけれど。



「さて、じゃハードも買い終わった事だし、早速家に帰ってプレイしよう!」

「えーっと、ゲームの名前なんだっけ」

「相変わらずキミは興味の薄い事はすーぐ忘れちまうねぇ、あたしゃ悲しいよぉ」

「じゃやめようかなー」

「わーウソウソ! ハード起動したら画面が出てきてショップを選択して。そこでOOOって言えば検索引っかかると思うよ」

「なるなる」


 私がスマホにメモしていると隣から「そこまでやらなきゃ忘れるのか!」の声が聞こえる。一華が言っている通り、私は興味の薄い事はすぐに忘れてしまう。まあ、何処かの誰かが鍛えてくれたスルースキルの副作用なのだけど。


「じゃとりあえずダウンロードしてキャラ出来たら赤鯖…レッドサーバーの始まりの町で集合ね!」

「レッドサーバー…町…っと。オッケー、じゃまた」


 そうして私達は家路についたのだった。

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