廃墟にて-1
ホラースポットについた二人。なんとか乗り物酔いは克服させました。
バスに乗ったが、酔い止めに加え目を閉じて寝るようにアドバイスしたおかげか、なんとか野々崎の乗り物酔いは抑えられたようだった。
グーグル先生を駆使する野々崎に追従して、道なき道を進み、やがてたどり着いたのは草木の生い茂る廃屋であった。
いつのまにか、空にはどんよりとした黒い雲が広がっている。そのうち天気が崩れそうだ。いそがなきゃな。
直射日光が当たっていないとはいえ、湿度が高い。ムンムンする。
「雲が日差しを遮っているとはいえ、さすがに暑いな」
「そうかしら。暑がりなのね」
野々崎は涼しい顔をしている。
僕は眉をひそめる。
「なんで汗ひとつかいていないんだ。君は」
「女の子は汗をかかないし、トイレにも行かないのよ」
どこのアイドルだ。
ちなみに数時間前にトイレ行ってたのは何なんでしょうかね。
「体の水分が足りてないと汗をかきにくいらしいぞ。水分補給はきちんとしろよ」
「はーい」
気のない返事だが本当に大丈夫だろうか…
この廃屋は、かつて旅館だったそうだ。
近くの川には蛍が生息しており蛍ツアーも実施していたらしい。また、避暑地としてもなかなか人気が高かったとのことだ。
だが、あるとき男が客室で首をつって死んでいるのが発見された。自殺だった。
事件性は一切なかったが、その一件をきっかけに何度も自殺騒動が起き、客の数は激減。
ついには女将さんまで首をつって死んでしまった。
いまとなっては、綺麗に手入れされていたであろう庭には雑草が生い茂り、壁面には植物のつたが巻き付いている。
「ここは自殺者の幽霊がでるかもしれないことででオカルト界隈で有名なんだ。ま、僕はオカルトとかはあまり信じてないけどね」
野々崎は驚いたように目を見開いた。
「意外ね。あなたなら悪魔降臨の儀式をするぐらいにはオカルトを信じてると思ったけれど」
「君は僕を何だと思っているんだ。オカルトは内容が好きなだけだよ。おばけに幽霊やら妖怪に怪物なんて非科学的なものが存在しているわけないだろ」
「それ、おばけと幽霊、妖怪と怪物の違いって何なのかしら」
そんなことは悠久な自然に比べれば些細なことだ。
正直違いは判らない。
「夢想家というか、ロマンチストだと思っていたのだけれど、存外リアリストなのね」
少し思案して、
「それなら宇宙人、未来人、異世界人、超能力者はいると思ってる?」
「いてもおかしくないな」
当然だろ。
「あなたのその境界線はなんなのかしらね」
そう言ってジト目を向けてくる。
「僕はホラーは信じないけどSFは十分あり得ると思ってるんだ」
「なるほどね。よくわかったわ」
なんだか野々崎が疲れた顔をしている。
あとでスナック菓子をあげよう。スナック菓子で人類は幸せになれる。
「ところで、この廃屋ではホラースポットになってから犠牲者はどのくらい出たのかしら」
「何もないよ。あの後に死んだ人も行方不明者もいないよ」
「え?」
「誰かが死んだりケガをするような危険なところに行くわけないだろ。それに幽霊が出たらどうするんだ。あくまで『幽霊が出るかもしれない』ことで有名なのに。だからこそ安心してこられるんだろ」
…なんだ。不思議なものを見るようなその目は。
「あなた幽霊を怖がってるみたいだけど、さっき『幽霊やら妖怪に怪物なんて非科学的なものが存在しているわけないだろ』とか言ってなかったかしら」
「万が一存在した時がやばいからな。安全マージンはとっておきべきだ」
「小心者ね。でもこのぶんならちゃんと葉波くんの泣き顔が見られそうでよかったわ」
野々崎はふふっと笑った。
小心者で結構。幽霊なんで出ないから僕が泣くこともない。
幽霊なんてでないよな?
「それじゃ、さっさと入ろう。日が落ちないうちにね。雨も降りそうだし」
バサバサバサッ!!
おもわず音のした方を向くと廃屋の屋根から、いつからいたのか、カラスの大群が一斉に飛び立っていた。
おいそこ、エキストラのカラスの皆さんに敬礼してるんじゃない。
どうみてもカラスは500匹を超えている。まるで廃屋に入る者を拒んでいるようだ。
…もう一度確認するが、幽霊なんて出ないよな?
正直自信がなくなってきた。
『おばけなんてないさ♪』とか歌っていれば大丈夫だ。
そう、きっと。
個人的にはエキストラのカラスの皆さんがお気に入りです。