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ちょっと家出してみようか  作者: 霜雪 雨多
7/17

家出の理由は

「おぼえておきなさい。この借りは必ず…」

ぐったりとした様子で野々崎が言った。乗車時間20分でもこれか…

「ほら、立ち止まってないで行くぞ」

「ねえ、これからも移動には乗り物を使うのかしら」

「そうなるだろうな」

運動不足の現代っ子には徒歩にも限界があるからな。

「ちょっとそこのコンビニに寄ってくるわ。酔い止めを買ってくる」

このレベルだと酔い止めの効果があるのか正直疑問だが、ないよりはマシだろう。乗り物を利用するたびにグロッキーになられては敵わない。

「葉波は先に市役所に行ってて。後で追いつくから」

僕の返事を待たず、妙に急いだ様子で野々崎はコンビニへ走っていった。

一緒に行こうかと思ったが、ま、それでいいなら先に行くか。無駄な時間がないのはいいことだ。無駄を省く。甘美な響きだ。


市役所はそこそこ混んでいた。人が多いせいか少し冷房が効いていない気がする。

待合室は老若男女、実に多様だ。職員はみな忙しそうに対応に追われていた。

その中でもちらほら中高生と思われる、おそらく同じ境遇であろう子もいた。

いや、同じ境遇というのは正確ではない。

この暑い日に、マスクを着け長袖を着用している者、不安そうに周囲をオドオドと見渡している者。

現状の一端を垣間見た気がした。

単なる家族や友人との不仲で家出した者がいれば、彼らのような複雑な背景をもって家出した者はいるのもまた事実。

そういうことに対して、他人である僕ができることといえば、せいぜい児童相談所か警察の介入によって問題が解消されるようただ祈ってやるだけだ。

数十分すると、僕の番になり、手続きを済ませた。待ち時間がいやに長く感じられた。


市役所を出て、さてどうしようかと思っていると、ちょうど野々崎がこちらへ向かってきた。

「結構時間がかかったな。酔い止めは買えたか?」

「さっきのコンビニには売ってなかったのよ。いくつかお店をまわってたら時間がかかっちゃった」

「そうか。外で待ってても暑いだけだし、さっきのコンビニで買い物してるよ」

「わかった。行ってくるわね」

どこかほっとした様子で歩いていく。

と、黒髪をたなびかせ、くるりと振り向いた。

「先に行っちゃダメだから。逃げても無駄だからね!」

と言い残し、スタスタと市役所に入っていった。

別に念を押さなくてもいいのに。僕は約束は守る主義だ。


大抵のコンビニは国の公認店舗となっているので便利である。

なんだかんだでもうすぐお昼なので、昼ごはんを買おうか。

そういえば朝ごはんを食べていなかった。

朝ごはんは昼食と統合されることになりそうだ。

買うのは弁当よりも、片手で食べられるおにぎりやパンがいいだろう。

ということで梅おにぎりとクリームパンを買う。

大豆の予備も欲しかったが、残念ながらこのコンビニではポテチやじゃがりこの類いしか売っていなかった。

やっぱりシーズンじゃないとコンビニでは売ってないか。少しがっかりしてコンビニを出た。


「お待たせ」

手続き早っ。神速じゃないか。

「僕の時よりだいぶ早かったな。それじゃあ行くか。ホラースポットに」

「楽しみね」

ウキウキした気分を隠しきれていない。

野々崎はホラーの類いがが好きなのか。女性は『お化け怖い〜』とか言ってるイメージだったので少し驚いた。見直したかも。

「葉波くんの顔が恐怖と涙でぐちゃぐちゃになるのがね」

前言撤回。こいつ人間観察したいだけだ。

しかも怪奇現象に遭遇することが前提なんですが。

「野々崎は実際のところ、幽霊とか怖くないのか?」

野々崎はバカにしたようにフッと笑った。

「いいえ全然。お饅頭と熱々のお茶の方がよほど怖いわ」

それはいいことを聞いた。野々崎にひと泡吹かせるために準備しようか。

「そういうものか」

「むしろ私は幽霊なんてのが実在するなら会ってみたいわ。どういう原理で、死してなお存在しているのか興味深いもの」

探究心がお強いようで。研究者向きの考え方だ。

「あ、そういえば野々崎は昼食買ったか?」

「ええ。ついでだし」

レジ袋を取り出し、こちらに見せてくれる。その中に金の梅おにぎりが3個あった。なぜに1種類だけ。


食パンやハンバーグなど、様々な種類がある「金の」シリーズ。

金の梅おにぎりは、じっくり漬けこまれた梅干しと厳選された国産米、あとは食品添加物不使用、とかがウリだったはずだ。一度食べてみたことがあるが、正直通常のものと違いが分からなかった。

わざわざ金の梅おにぎりを買うとは、意外とおにぎりにこだわりがあるようだ。あなどれん。

「あ、ちゃんと酔い止め飲んだか?」

「ええ」

野々崎は力強く頷いた。

それはよかったんだけど、そんなバンジージャンプをするかような強い意志を持った顔しないでほしい。うっかり徒歩で目的地を目指してしまいそうになる。


なんにせよ、こうして僕たちはホラースポットに向かうこととなった。

酔い止めに期待しよう。

大豆、おいしいよね。

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