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ちょっと家出してみようか  作者: 霜雪 雨多
5/17

おみくじで凶を引ける気がした

続き。葉波の一人旅したい気持ちが作者にはよくわかる。

そしてどんどんコメディー寄りになっていく…



「ところで、これからどこへ行くの?」

と、野々崎が聞いてきた。

教えたらついてくるだろうが。僕は一人旅がしたいのだ。

「教えなさいよ。『この人痴漢です!』って言っちゃうわよ?」

それは冗談抜きでやめていただきたい。社会的に死ぬ。

僕は野々崎の手を振り払い、少し移動して野々崎との間に一席空けた。

当然のように間を詰めてくる野々崎。

埒があかない。


と、僕の頭に名案が浮かんだ。

「それならこうしよう。僕の家出理由を当てられたら行き先を教えようじゃないか」

「行き先を教えてくれる気になったのね!」

野々崎は嬉しそうだ。

「回答は3回までな。申請書類に書いたやつが正解ってことで」

これで野々崎がおとなしくなってくれるなら万々歳だ。

チャンスを与えることで人は仕方ない、とあきらめやすくなる。たとえ無理難題だとしても。

そもそもとして、家出制度申請書類の中には、簡単なアンケートもある。アンケートから家出関連の統計がとられている。

確か去年の統計だと


『家出のきっかけ』

1位 家族

2位 学校

3位 友人


だったはずだ。

不仲とか暴力とか、本当はもう少し項目を細かく分けられるが、そこまでの必要はないだろう。

たまに順位が入れ替わることはあるが、1〜3位はずっと同じだった。

1〜3位で9割を占めていて、あとはその他に統合されていた。

よって野々崎が正解できる可能性はかなり低い。3回の回答権をあげたのも1〜3位でどうせ消費するだろうだろうと思ったからだ。


「じゃあ答えるわね」

はいはい。回答をどうぞ。

「自分探し!」

「正解。おめでとさん」

野々崎はガッツポーズだ。

ん…? あれ…?


「なんでだよ!!」

思わず叫んでしまった。周囲に申し訳ない、と頭を下げる。

すーはー。

「公共の場なんだから静かにしないとダメよ」

野々崎が何か言っているが、耳に入ってこない。

え? なんでわかったの?

ノーヒントでしかも一発正解とか普通に考えておかしい。

こいつひょっとして、相手の心が読めるのでは…

直接聞くのが手っ取り早いか。


「…どうしてわかったんだ?」

「ふっふっふ。簡単な推理なのよワトソン君」

どういうことだい。偽ホームズ。

野々崎はこほんと咳払いをした。

「さて、葉波くんは私についてきてほしくないんでしょ。私はこんな美少女と行動できるなんて泣いて喜ぶべきことだと思うんだけどね。

それでも葉波くんはクイズを出した。大方、しつこい私からの追求を終わりにしたかったのでしょう。つまり正解されない自信があった。それに3回のチャンスをくれたわ。

これらの推測からして、葉波くんの家出理由がメジャーなものでないことはすぐにわかった。ここまで考えたらあとは難しくないわ」


…なるほど。出題の時点で1〜3位を答える可能性はなかったわけだ。意外と頭が回るじゃないか。

とすると、そこからどうやって自分探しに辿りついたんだ?


「あとは己を信じて勘に頼るだけだったもの」


「おかしいだろ!」

理不尽さに耐えきれず思わず立ち上がってしまった。

周囲に頭を下げ座り直す。

平常心。冷静さを保つのだ。

深呼吸をしてとりあえず落ち着いた。

もういいや。勘で納得しておこう。


「……仕方がない。約束通り教えよう。実を言うと、はっきりと行き先は決まってない。けれど、どこかのトンネルや廃墟といったホラースポットに行ってみたいと思ってる。

あとは天体観測でもしたいかな」

「うわあ、ホラースポットと天体観測の落差がひどい」

好きなんだからいいだろ。

「行き先は教えたけれど、一緒に行動することはないからな」

野々崎は満面の笑みで答えた。

「大丈夫!勝手についていくわ」

おい。


「でもこの同行していいだのいけないだののやり取りをするのも億劫ね。きっと何度も飽きるほどこのくだりの会話をするだろうし。

そうだ。一ついいことを教えてあげる。その代わり一緒に行きましょう」

「その情報に価値があるならね。情報の価値の判断は僕の独断と偏見で行うから」

どんなことを言ったとしても、こちらが突っぱねればいいだけ。問題はない。

それでいい、と野々崎は口を開いた。

「現在、乗っているのは女性専用車両です」

ほうほう。

言われて状況を確認してみると、なるほどたしかに周囲の乗客はみな女性である。乗客たちは僕の方をチラチラ見ているようだ。

「ふーん。案外大した情報…おい、今なんて言った?」

「現在、乗っているのは女性専用車両です」

へえー。あかんやん。

神速で隣の車両に移る。もしかしたら世界記録を更新したかもしれない。

しかし野々崎の言葉は冗談じゃあなかった。実際、僕以外に男性はいないし、乗客たちの視線が向こう側が見通せそうなぐらい僕の体にグサグサと突き刺さり風穴を開けていたのだ。

「急いで移動したってことから、これはつまり、価値のある情報だったってことよね。約束は守ってもらうわよ。

それじゃ、これからよろしくね葉波くん」

野々崎はそう言って、手を差し出してきた。

人生諦めが肝心だと思いたくはないが、今回ばかりはその格言に従わざるをえないらしい。

辛い。


僕は差し出された手を仕方なく握った。

「不本意だがよろし あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

力込めて握ったのは謝るから、ニコニコしながら力込めていくのやめてね。

正直痛くて泣きそうだ。


『ゴキッ』


おい、僕の骨から鳴ってはいけない音がしたのだけど。

葉波くん不憫だなあ…

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