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狼少年、家族と眠る。

 森の中で会った、あの変なヤツ。

 遭遇したのは3度目になるけれど、その正体はよく分からない。


 アイツに初めて遭遇したのは1年くらい前になる。

 当時はサブロー兄さんがまだ巣穴にいて、俺とシローに狩りの仕方を教えてくれていた。とは言え、狼の狩りの仕方なんて俺には何の参考にもならないので狩りの成功率は非常に低く、俺は常に飢えていた。少しでも食料を確保しようと焦り、一人で巣穴から離れて森の中を探索していた。

 そこで、運悪く遭遇したのだ。そのとき見えたのは黒い靄と、靄に包まれた大きな四足歩行の動物のようなシルエットだった。

 ただ、その正体を確かめる前に、慌てて飛んできたサブロー兄さんに回収されて、命拾いしたのだ。自分が命拾いしたと分かったのは、サブロー兄さんの怯えたような様子と、逃げる最中に見た巨大の熊の肉片からだ。

 アイツは怪物とかモンスターと呼ばれる類のものだと思う。サブロー兄さんが来てくれなければ、俺は熊の肉片と混ざり合っていたことだろう。

 

 それからは、巣穴から離れるときは、シローを連れて行くようになった。サブロー兄さんもシローもそうであるように、うちの家族はアイツの存在を感じ取ることができるようだ。少なくとも、今の俺では感知できない何かでアイツの存在を察知している。

 時間に余裕ができたら、俺も身に着けておきたいスキルだ。


 目を覚ましたは良いものの、体のだるさは抜け切っていない。起き上がる気にもなれずに、俺は寝転びながら思案に耽っていた。

 あの毒虫薬は即効性のあるものではない。早く、廃村の先の道を確認したかったのだけれど、それは明日以降になりそうだ。

 まあ、良いか。折角、父さんたちも帰ってきているのだし、たまには家族みんなでのんびりするのも良いだろう。

 巣穴に戻ると、籠の中身も含めて肉は全部なくなっていたので、仕方なく沼に仕掛けた罠を回収して、ミミと一緒に食事とする。ミミは魚でもモリモリ食べる。うちの家族は、一度お腹いっぱいまで食べれば、2,3日は何も食べない。昨日の今日でモリモリ食べるミミが変わっているのだ。


 今、家族はみんな、巣穴の近くで体を横たえている。父さん、ヒトミ姉さん、ジロー兄さん、サブロー兄さんはずっと遠征に出ていたのだから、次の遠征までゆっくりと体を休める必要がある。

 特に、サブロー兄さんは疲れがたまっているように見える。それはそうだ。サブロー兄さんが父さんたちの狩りに同行するようになったのは半年くらい前からだ。イチロー兄さんが巣立って行ったのと同時期に、その穴を埋めるように狩りに参加するようになったのだ。イチロー兄さんは体格も大きく、賢かった。慣れない遠征で、その穴を埋めなければいけないのはさぞ、辛かろう。


『頑張れ、サブロー兄さん』


 激励をしてみたけど、無視されてしまった。しかし、これは仕方がない。俺が適当に名前をつけて、勝手に呼んでいるだけなのだから。俺が名前を呼んで反応してくれるのは、母さんと、フタミ姉さんと、シローと、ミミ、つまり居残り組だけだ。

 居残り組とは、毎日顔を合わせて毎日名前を呼んでいたので名前を呼べば反応してくれるようになったけど、遠征組はその機会が少ないので、反応がなくても仕方がない。それに、昼は俺とシローにとっては活動時間でも、他の家族にとってはそうではない。お疲れのサブロー兄さんにちょっかいをかけるのも気が引けるので、そっとしておこうと思う。


 母さんの方に近づいていくと、足音に反応したのか、首を上げた母さんと目が合う。

 母さんのお腹もずいぶんと大きくなってきた。お腹の大きくなるペースは、ミミを妊娠したときと同じくらいだろうか。それならば、出産はミミのときと同じで春頃になるだろう。人の妊娠期間は十月十日と言うけれど、母さんの場合はもっと長い。妊娠から出産まで1年くらいだろうか。やはり、体の大きい動物ほど、妊娠期間も長くなるのかもしれない。


 そのまま、母さんの後ろに回りこんで、その背中にもたれかかるようにして座る。特に何をするでもないし、何かをされるでもない。

 やはり、これが一番落ち着く。これほど落ち着ける場所は、生前でもほとんどなかったように思える。

 母さんにもたれかかったまま、ぼんやりとしていると、ミミが寄ってきて、そのまま俺にもたれかかっくる。甘えてくれるのは嬉しいけれど、俺よりもずっと大きいミミにもたれかかられると、とても重い。


『ミミももう直ぐ、お姉さんだな』


 ミミはまだ3歳だ。だから、こんなにもベタベタと甘えてくるけれど、お姉さんになればそれも収まるかもしれない。


 母さんとミミにサンドイッチにされると、真っ白なベッドに入っているような気分になる。

 ミミは母さんによく似て、毛色が真っ白だ。他の色が混ざっていない白色なので、とても綺麗だ。ちなみに、父さんの毛色は黒。こちらも、混じりっけなしの黒色なので、これはこれで綺麗である。そう言えば、イチロー兄さんも真っ黒だったな。ヒトミ姉さんも白い所が混ざっているけど、全体的に黒っぽい。ジロー兄さんとサブロー兄さんは、茶色が混ざっている。正直、ジロー兄さんとサブロー兄さんは、色合いが似すぎていて、大きさ以外では見分け辛い。フタミ姉さんは黒い所が混ざっているけど、全体的に白っぽい。シローは灰色だ。


 ……しかし、あれだな。

 遠征組の父さん、ヒトミ姉さん、ジロー兄さん、サブロー兄さんとは関わり合いが少なすぎて、距離感がいまいち掴めない。これが、全くの他人であればビジネスライクな関係で行けるので問題ないのだけれど……年が離れすぎた兄弟とは、どこの家もこのような感じなのだろうか。

 俺も遠征組に組み込まれれば、関係も少しは変わるのかもしれないけど、俺が遠征に加わる頃には、ヒトミ姉さんもジロー兄さんも、もういないだろうし。


 ぼんやりと家族を見渡しながら、考えていると、ミミの寝息が聞こえてきた。さっき起きたばかりなのに、よく眠るヤツだ。ミミにつられて俺まで眠くなってきた。まあ、俺も体は5歳児だしな。今日はのんびり過ごすと決めたのだ。一日中寝て過ごすのも悪くはない。

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