狼少年、妹と眠る。
巣穴に戻ると、深夜パーティが行われていた。
俺とシローが巣穴を離れている間に、父さんたちが狩りから帰って来ていたのだ。巣穴の前には、いつものように、大量の肉が並んでいる。いつもならば、シローは喜んで肉に噛り付きに行くし、俺も喜んで肉を切り分けに行く。
しかし、今はとにかく、体がだるい。体の中の「熱」を使いすぎたせいだ。シローの方もあまり元気がないようだ。それでも、肉に噛り付きに行くあたり流石ではあるけど……
俺は肉よりも何よりも、やることがある。背負っていた籠はその辺りに放って置いて、さっさと工房へ向かう。
俺の工房は以前よりも更に立派になった。
藁葺き屋根の三角小屋が、土壁を備えた藁葺き屋根の立派な家に変わっていた。立った状態で入れるほどに屋根が高く、暖炉だって備えているのだ。
俺はそんな家の中に入ると、並べていた小さな土器の一つを手に取り、中に入れておいた粉末を摘んで口の中に入れる。
苦い。とても苦い。しかし、良薬口に苦しだ。そう、これは薬である。原料は、一見すると毒がありそうな、吐き気を催すほどに気持ち悪い虫である。まあ、実際に毒虫なんだけど……
一人で出歩けるようになってからしばらくは、餓死しないために何でも食べていた。この毒虫もそうだった。
父さんや兄さんたちも、狩りへ行っては獲物を獲って戻ってくるけれど、戻ってくるまでが長いのだ。フタミ姉さんは、弱っていく俺を心配したのか、巣の近くで狩りをしては食べさせてくれたけれど、その頃はフタミ姉さんもまだ狩りが下手だったし、何かを獲って来られる日の方が珍しかった。
だから、明らかに毒がありそうなものでも、手に入るものは何でも食べた。一度食べて腹を下しても、毒のないところを探して食べたのだ。
しかし、怪我の功名。実はこの毒虫、なかなかに滋養がある。更に、特定の虫や草と一緒に食べると、効果を実感できるほどに効く。
毎日、一回は服用しているためか、栄養状態が悪いにもかかわらず風邪知らずだ。そして、今日のように体調の悪い日は多めに摂取することしている。
『ふぅ……』
即効性のある薬ではないけど、これで大丈夫。
一晩寝ればだるさもある程度は良くなっているはずだ。
体を温めておこうと、暖炉に火をつけていると、何かが家の中に入ってきた。ミミだった。何かつまみ食いしに来たのだろうかとも思ったけど、先ほどまで父さん達が捕ってきた肉を食べていたのだからそれはないだろう。
ミミは俺の顔を覗き込むと、隣に腰を下ろして、擦り寄ってきた。
体調が悪そうなのを見て心配してくれたのかもしれない。可愛いやつだ。
冬になってからは、水浴びが面倒になったので、煙の臭いをさせたままで巣穴に戻ることが多くなったのだけれど、そのせいか、家族の皆も煙の臭いに慣れてきていた。
特にミミは、燻製したものをたまにつまみ食いしていたせいか、煙の臭いにはすっかり慣れたようだ。そして、火も怖がらないため、こうして暖炉で火をおこしても問題ない。
ちょうど良い。今日は暖まって寝ようと思っていたのだ。ミミを布団代わりにして寝てやろう。
ミミを抱き寄せると、ミミも眠そうにしているのが分かった。俺は夜目を身に着けた二日前から生活サイクルを夜型に矯正したけれど、ミミもまた夜型に合わせようとしてくれているのかもしれない。合わせてくれるのは嬉しいけど、無理をさせてしまっているのは可愛そうに思う。
籠を巣穴の前に放り出してきてしまったけど、明日の朝になっても中身が残っていたらミミに食べさせてやろう。無くなってたら、燻製肉でもやろう。
そんなことを考えながら、眠りについた。