村娘、弟を叱る。
ノンノ視点は今回で終わりです。
ムゥもかなり言葉を覚えた。
まだ村に来てから10日も経っていないのに。
今はわたしの知る限りで昔話を聞かせて復唱させたり、一緒にお喋りしたりしている。
でも、言葉を覚えるには、色んな人と会って実際にお喋りするのが一番だと思う。
わたしは、ムゥを連れて村の中を歩いて、お喋りできそうな人をつかまえて回る。
毎日のようにマキリの所に通っていたら迷惑そうな顔をしていたので、マキリの所に行くのは一日おきにすることにした。マキリは、もう12歳だからお仕事もある。それに、マキリの家にはお母さんもいないし、色々と大変そうだから。
でも、マキリじゃなくてもムゥとお喋りしてくれる人はいっぱいいる。
もう、村にはムゥを警戒している人なんていない。……クンネは別として。
わたしも頑張ったけど、お母さんがずいぶんと頑張っていたみたい。
井戸の端とか、誰かと会うたびに、ムゥのお話をしてくれていたんだって。
そのせいか、ムゥはおばさんたちを中心に人気者になってきている。
「ムゥちゃん。今日も狩りをいっぱい頑張ったんだって?いつもありがとうね。助かるわ」
「うん」
「いつでもうちに遊びに来ていいからね。また泊まっていってちょうだい」
「うん」
うちの隣のカラキナおばさんには特に可愛がられている。
おばさんの家のワッカ君、今年の秋に亡くなってしまった子だけど、あの子はちょうどムゥと同じくらいの歳だったから。
最初は戸惑っていた様子のムゥも、今ではすっかりおばさんに懐いてしまった。
狩りで獲って来たものの一部を先生に渡さずに、こっそりカラキナおばさんにあげてるのもわたしは知ってる。
ちゃんと村のみんなで分け合わないのはあまり良くないことだけど、それでもこれは良いことだとも思う。
この調子で、村のみんなのことも家族として思ってくれるといいな。
カラキナおばさんと分かれた後も、みんなから声を掛けてもらえる。
声を掛けてくれる人は、ついでにムゥの頭も撫でていってくれる。
ムゥは頭を撫でられるのが大好きだってことは、みんなにもちゃんと教えてあげたからね。
これで、ムゥもすぐに村のみんなに懐いてくれると思う。
村の端っこまで来ると、クーおじさんがいた。
おじさんは、狩りだけでなくて、魔物に備えて村の外の見回りもしてくれている。今も、その最中なんだと思う。
わたしが声をかけると、おじさんの方から来てくれた。
でも、ムゥは繋いで手を離して少し離れてしまう。
潰されて以来、ムゥはおじさんのことが苦手みたい。
「おう。ノンノちゃん。また会ったな。ムゥとお散歩かい?」
「そうなの。今、色んな人とお話してまわってるところなの」
「そうか。ムゥも狩りから帰ったばっかなのに頑張るな。まあ、今回の仕事が上手くいきゃ、ノンノちゃんもムゥもしばらくは森に入らずにすむかもしれねぇぞ?」
「え?お仕事って?」
「ん?カントから聞いてねぇのか?隣村の畑に残ってる作物を収穫しに行くんだよ。猪なんかに荒らされてなけりゃ、収穫前のもんがごっそり残ってるはずさ」
「ああ!そういえば言ってた」
ムゥが狩りを頑張ってくれるおかげで、たくさんのお肉が手に入るようになった。
けれど、村のみんなで分けると、一人一人に行き渡る量はとても少なくなってしまう。
それに、ムゥだって毎日、大猟というわけでもないし。
そこで、先生とお父さんたちが話し合って、魔物に襲われた隣村まで行って、収穫前のお芋を採ってくることになった。
町に行く道の近くには魔物の巣があるみたいだし、獣人族の村は食べ物はあまり分けてくれないから、これが一番安全で確実なんだ、っておじさんが教えてくれる。
お父さんも、ムゥが頑張っているのを見て、自分も頑張らなきゃって張り切ってるみたい。
……大丈夫かなぁ
「いつ行くかはもう決まってるの?」
「ああ。カントが張り切ってっからな。天気が良けりゃ明日にでも出るはずだ。あんまり遅くなっと雪が降ってきちまうしな。……ムゥはずいぶんと感が鋭いみてぇだから、付いて来てくりゃあ心強いんだけどな」
「もう、何言ってるの?ムゥはあんなに小さいんだよ?それにムゥじゃ、隣村までは体力が持たないよ」
「狩人の男なら、年なんて大して関係ねぇさ。それより、そのムゥはどこに行っちまたんだ?」
「え?あれ?」
思わず、クーおじさんと長話してしまっている間に、ムゥがいなくなってしまった。
あ!いた!村を囲む十字架の近くで何かしている。何をしているんだろう?
「じゃあな、俺は行くぜ。ムゥによろしくな!」
「あ、うん。またね、おじさん」
ムゥは十字架に跪くようにして何かをしている。
ムゥはあまり熱心にお祈りなんてしないのに、何だろう。
まさか、また十字架で遊んでるのかな?もう!
慌ててムゥの方へ駆け寄ろうとする。
けれど、それよりも先に、ムゥが十字架を両手で掴んで上に引っ張り始めた。
え!?十字架を引っこ抜こうとしてる!?
「こら!ムゥ!」
ムゥがビクッと跳ねて振り返った。
十字架の周りは土が掘り返されて、ムゥの手も土で汚れていた。
「……見てたよ。ムゥ、今、十字架を掘り返して、引っこ抜こうとしてたよね?」
「お、おねえちゃ……」
「前に言ったよね?それは村にとって大事な物だって……ねえ?言ったよね?」
「あ……あう」
十字架は村を魔物から守るための大事なものなのに。
前にも、ちゃんと教えてあげたのに、全然分かっていなかったみたい。
やっぱり、甘やかすだけではダメだ。お母さんを見習わないといけない。
お姉ちゃんとして、ムゥが悪いことを悪いことをしたら、わたしがしっかりとお仕置きしなくちゃ。
そうじゃないと、ムゥのためにならないよね。
「ムゥ、お姉ちゃんのお膝の上に来なさい」
「……おねえちゃ?」
「悪い子はお尻ぺんぺんです」
とたんに、ムゥの顔が青ざめる。次の瞬間には逃げ出していた。
「こら!待ちなさい、ムゥ!」
ムゥは狩りは上手だけど、体はちっちゃいから力も弱いし足も遅い。
すぐに追いついて、無理やり膝に抱え込んで、ズボンも脱がして、お尻を叩く。
けど、お尻を叩かれたムゥは反省するどころか、暴れて逃げ出そうとする。
……ふぅん。お母さんのときは大人しくしてたのに。わたしが叩くと暴れるんだ。
これは、ちょっと厳しくしないといけないかな!
パララさんにムゥのことで相談したときに教えてくれた。お仕置きをするときは中途半端が一番良くないって。お隣のカラキナおばさんも言ってた。お仕置きしても「ごめんなさい」しないなら泣いても許しちゃダメだって。
ムゥは悪いことをしたのに、逃げて、暴れて、ごめんなさいもない。だったら、お尻が真っ赤になっても許してあげない。
「……うぐっ……」
……少し、張り切りすぎちゃった。何回叩いたか自分でも分からない。
ムゥのお尻が真っ赤になっても叩き続けたせいで、わたしも両手がひりひりする。
けれど、それでもムゥは謝らない。
「ムゥ、ちゃんと反省した?」
「ぐすっ……うん……」
「じゃあ、ごめんなさい、は?」
「……ご、ごめん、なさい!」
うん。これでよし。
もし謝ってくれなかったら、もっと叩かないといけなかった。
ムゥが掘り返したところを元に戻したら、手をつないで一緒に帰る。
家に帰って、夕食を食べて、ムゥと一緒に寝ているとき、ふと思った。
……あれ?そういえば、わたし、ムゥに「ごめんなさい」って言葉教えたっけ?
ムゥの「威厳」は、死んだんだ。いくら呼んでも帰っては来ないんだ。
もう二度と取り戻すことができないことを知ったムゥは、静かに涙を流すのでした。
次回からは、ムゥ視点に戻ります。




