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龍の魔道士  作者: 蓮ノ葉
第一章 異世界召喚一日目の激動
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プロローグ 『新たな始まり』

  電気の消された暗い一室。カタカタという音と青白い液晶の光が、少年の体を包み込んでいる。

  彼は机の上にある自分専用のパソコンを起動し、ゲームで遊んでいた。せっかくの南側に置かれた机だというのに、深夜のためかその恩意はかき消される。椅子に寄りかかり、肩の力を抜きながらもゲームの手を緩めることは一切ない。己の力を最大限に発揮できるこのゲームという玩具に、手を抜くなど信念が許さないのだ。


  その少年の特徴としては、目にかかる程度の黒髪に、平均的よりほんの少しだけ高い程度の身長。体格は平均的で黒いジャージ。つまりはこれといって特徴のないという事だ。都会を歩けば一瞬で群衆に紛れ込むであろう。優しげな目も、今は退屈さ故に覇気がない。

 

  読み込んでしまったラノベたちはベッドに乱雑に投げられており、そろそろこのゲームにも飽きてきた頃だった。


  何もかもが退屈で、長いため息をつく。ゲームをログアウトし、パソコンの電源を切った。大きく伸びをして、キーボードの横にあるコーラを手に取り、その中身を一気に口内に傾ける。倒してしまったら一大事だが、何度も繰り返している故にそんな平凡なミスはしない。舌を甘い液体で濡らし、シュワシュワと音を立てて喉を潤す。この感覚だけは、何年経っても快感だ。


  はぁ、と息をついて残り少なかったコーラを空にした。キャップを閉め、ベッド脇に置かれたゴミ箱に投げ捨てる。行事の悪い行いだが、今の少年には関係のないことだ。空になったコーラは綺麗な弧を描き、音を立ててゴミ箱に入っていった。毎日こんな暮らしをしているのでそんな些細なことにさえ、小さく拳を握る。


「……腹減ったな」


  今度はポケットからスマホを起動し、今の時間について調べる。時間は深夜の二時。いつもは三時頃に腹が食べ物を要求してくるのだが、今日の腹の虫様はもう我慢出来ないようだった。


  カップ麺も切れてしまい、料理スキルも皆無な少年は重い腰を上げ、クローゼットの中にあった紺のジャージに着替えてーーいや、今回は普通に私服にしよう。少し色褪せたジーパンと無地Tシャツを着てコンビニへ向かう事にした。


「スマホと金と……後はいらねぇか」


  周りを見渡し、スマホと財布だけをポケットにしまいこむ。溜め込んだお金はそのままだ。どうせ大した場所にも行くわけでない。このままでもいいだろうという判断の元だ。


  自室は二階の一番奥。途中でトイレや親の寝る寝室があるため、音を立てずに玄関へと向かった。親にバレないようにとすっかり身についた動きだ。慎重に、それでいて迅速に、階段を降りて玄関まで辿り着き、靴を履く。

  そのままではなにか後味が悪いので、小声で「行ってきます」とだけ言ってドアに手をかけた。


  ドアを開くーー瞬間、極光が少年の目を襲った。その光に思わず目を瞑る。尚も続く激痛の光に歯を食いしばって耐え、次に目を開いた時に見た光景はーー




「は?」


  ーー目の前に広がるのは、三角屋根と大量の窓が目立つ建物ーー中世ヨーロッパ風の建物だった。その手前には行商人達が店を開き、行き交う客人に呼びかけては自身の商品の売り込みをしている。フラッグのようなものが家と家を結びつけ、それこそパレードのような景色だ。


 そんな光景を呆然と見ていたが、人々は時々こちらを見ては何やらこそこそと話を始めていた。


  そんなこともお構い無しに少年は強い日差しに手をかざし、周りを見渡す。いつの間にか握っていたはずのドアもなくなっており、代わりに後ろにあったのは龍の彫られた噴水だった。石でできたそれに座る人々も、何やらこちらを見て驚いた様子をしている。


「……えーと」


 空いてしまった手で頬を思い切りつねり、瞬時に伝わる激痛に涙目になってこれが現実だということを理解。そして理解した瞬間に、


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


  人々の視線を感じながら少年ーー狩屋龍輝カリヤ・リュウキは、この不可解な現状への無理解を叫んだ。

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