1.異世界人がやってきた
三人称に変更しました。
少しだけ世界観について書き足しをしました。
女神達との話し合いを終えミイナをつれて自分の屋敷に戻った優奈は、
転移の間から出ると屋敷の様子がおかしいのに気づいた。
屋敷の空気がざわざわとして何か落ち着かない雰囲気を醸し出している。
執務室へ向かおうと歩き出すと、慌てた様子のリリアが廊下を走ってきた。
「ユウナ様! お戻りですか、今お呼びしようかと」
「何かあったの?」
「先程神殿から連絡があり、異世界人が召喚されたとの事です。それでユウナ様にぜひおいで頂きたいと」
リリアが何を言っているのかよくわからない優奈、ありえないことを言われ一瞬思考が止まる。
まれに異世界人がこの世界に突発的に現れることがあるが、神殿から連絡がきたということは神殿に召喚されたということだ。
しかし神殿に召喚される異世界人は必ず女神が召喚している。
もちろん優奈を召喚したのも女神ガイアだ。
頭を振り考え始める優奈、神殿に召喚されということは召喚したのは女神以外にはいない。
しかしレイファール達は何も言っていなかったし、そもそも異世界人を召喚するような事は起きていない。
そういえば今日ガイアが現れた時に何かを言っていた……。
『あと、勇者がLv1だといろいろ不都合が出ると思うから、ちゃーんと従者も用意しておいたわよ。
私ってなんて優しいのかしらぁ』
「あの馬鹿まさか異世界人召喚を行ったの!!」
「何か思い当たることがおありですか」
「ええ、女神ガイアがね」
「またあの女神ですか、どれだけユウナ様に迷惑をかければ気が済むのでしょうか」
またガイアが原因かと、ため息をつくリリア。
リリアもガイアにかなり迷惑をかけられているのだ。
「とりあえず、馬車の用意をお願いできるかしら。すぐに神殿に向かいます」
「馬車はすぐにご用意いたしますが、ユウナ様何か若返っておりませんか?
あといつの間に子持ちになられたのでしょうか」
16歳に戻っていたのをすっかり忘れていた優奈、簡単にリリアに説明をする。
「若返ったのはガイアのせい、この子は私の子供ではないけどこれから一緒に暮らしていくわ。
詳しいことは神殿から帰ってから話します。
あと、たぶん異世界人を連れて帰ってきますので部屋の用意を」
「かしこまりました、後程詳しいお話をお聞かせください」
ガイアのせいで簡単に納得するリリア、優奈に一礼すると馬車の用意をするために去っていく。
優奈はガイアの置き土産をどうしようかと頭を悩ませ、そして盛大にため息をつくと神殿に向かうために歩き始めた。
「これはユウナ様! お呼びだてして申し訳ありません」
「異世界人が召喚されたと聞きましたが詳しい話を聞かせて頂けますか」
神殿につくとやはり神殿内もざわざわとしていた。
いつもは静謐な神殿も200年ぶりの異世界人召喚に慌てているようだ。
出迎えてくれた神官に優奈は詳細を尋ねる。
「本日お昼過ぎに召喚の間から異様な力が溢れ出てるのを確認しました。
そのまま数時間何もなかったのですが、夕方に召喚陣が作動し異世界人が召喚されました」
「異世界人なのは確定したのですか?」
「はい、聞き取り調査とステータスチェックを行ったところ『異世界からの来訪者』と表示されました」
「どこの世界から来たかわかりますか」
「どうやらユウナ様と同じ日本からのようです」
それを聞いた優奈の足が止まった。
日本からの召喚……、懐かしい故郷。
久しぶりに聞いた日本という言葉に目頭が熱くなる。
「ユウナ様?」
「ああいえ、ごめんなさい。それで召喚されたのは一人ですか?」
「召喚されたのは男性で一人です、すでにここが異世界であることは説明してあります」
「それはご苦労様でした」
足を止めたことを詫び、異世界人がいる居住区へ向かっていると、栗色の髪を三つ編みにして前に垂らした女性が走ってきた。
優奈の肩くらいの身長に体にぴったりとした柔らかな白い服に、白くて丸い帽子をかぶっている。
「ユウナちゃーん。大変大変、異世界の人が召喚されちゃったの~」
走ってきたのはこの神殿の神官長であるリュリュ。
のんびりした性格で、口調ものんびりしているためまったく大変そうに聞こえない。
その身長とのんびりした性格からしばしば子供扱いされる。
「はいはい、リュリュこんにちは。異世界人の方はどこにいるの?」
「こっちよ~。あとユウナちゃんいつから子持ちになったの~。
旦那さんは魔王? ふふ、ユウナちゃんついに魔王と結ばれたのね~」
「違うわよ、この子はダンジョンコアのミイナ」
「あらダンジョンコアってこんなにかわいい子なのね~、うふふよろしくねミイナちゃん」
さすが神官長というべきか、ダンジョンコアを知っていた。
「リュリュ、ダンジョンコアを知っているの? 私この子に会うまで知らなかったんだけど」
「私も書物で読んだだけなんだけどね~、神官長のみ閲覧できる書物に書いてあったのよ~」
そんな話をしながら歩いていたら、リュリュが一つの扉の前で止まる。
リュリュは優奈に向かって頷く。
「ここ?」
「うん、この部屋で待ってもらってるわ~」
優奈はノックをして茶色の扉を開けると、白いソファーに半袖にジーパンを履いた20代前半くらいの男性が座っていた。
男性は優奈を見ると立ち上がろうとしたが、声をかけてそのまま座っていてもらう。
リュリュはお茶の用意だけすると部屋から出て行ってしまった。
すべて優奈に任せるらしい。
とりあえず男性の前に座り自己紹介をする優奈。
「初めまして、橘優奈といいます」
「たちばなゆうな……? もしかして日本人ですか?」
男性が驚き、そしてほっとしたような表情を浮かべた。
同じ日本人がいて安心したのだろう。
「はい、日本人です。お名前を伺っても?」
異世界に召喚された同郷の人を安心させようと微笑みながら質問をする優奈。
「あ、私は相馬和人といいます」
背を正し和人が答える。
「突然異世界に召喚されて驚いたとは思いますが、こちらへ召喚された日の同じ時間にちゃんと帰れますので安心して下さい。
ただ女神様にお願いしないといけませんので少しお時間を頂けますでしょうか」
「女神様ですか……」
「ええ、簡単にお会いはできませんが」
「そういえばなぜ私は召喚されたのでしょうか」
まっすぐに優奈を見つめ質問をぶつけてくる。
普通異世界に召喚されたら何か使命があると思うわよねと考える優奈。
しかし女神の嫌がらせで召喚されたとはさすがに言えないので、適当にごまかすことにした。
「えっとですね、それが手違いで召喚されたみたいで。申し訳ありません」
ミイナをソファーに座らせ優奈は頭を下げる。
「あ、そうなのですね。もし勇者になって世界の危機をとか言われても困りますし、気にしないでください。
それに最初は驚きましたけど、ラノベを好きで読んでいたので今は少しわくわくしています」
「そう言って頂けると助かります」
「それでですね、送還できるようになるまで私の屋敷で過ごして頂きたいのですが」
「よろしいのですか、こちらの神殿ですか? ここでお世話になるのかと思っていましたが」
「相馬さんが望まれるならこちらの神殿で過ごされても大丈夫ですが、神殿なだけあってすこし堅苦しい思いをされると思います。 私の屋敷でしたら、日本食に近い食事も出せますし」
「お断りする理由はありませんし、よろしくお願いします」
和人は膝に手を置き頭を下げる。
「何か質問がありましたら遠慮なく聞いて下さい」
「あの、日本へ帰れるのですよね?
橘さんは日本へ帰られないのですか?」
和人の質問に手がびくっと跳ねる優奈。
「私はもう帰れないのです、召喚者は元の世界と絆が結ばれています。
送還するときにはこの絆をたどって送還することになります。
ですがこの絆は数年で切れてしまうのです、切れてしまったらもう送還することは出来ません。
どこの世界のどこへ戻せばいいのかわからなくなるからです」
和人の目を見つめ、絞り出すような声で優奈は説明を続ける。
「私は勇者としてこの世界へ200年前に召喚されました。
勇者としての使命を終えた時はまだ元の世界との絆が繋がっていました。
本来なら使命を終えたあとに元の世界へ戻る予定だったのですが、
女神の気まぐれによって不老不死にされ、そしてそのままこの世界を守っています。
もう私の絆は切れていますので、戻ることは叶いません」
ふと優奈が和人の手を見るとぶるぶると震えていた。
200年とか余計事をいって怖がらせてしまっただろうかと、自分の迂闊さを責める。
「200年って! 女神の気まぐれ!?
そんな気まぐれで人ひとりの運命を変えるなんて許されるんですか」
「本来なら許されないんですけどね、でもこの世界も嫌いではないですしそれに上の方の女神様はきちんと謝罪して下さいましたから」
苦笑しつつ優奈はそう告げる、他人のために怒れる和人を優しい人なんだなと思った。
「他に何か質問はありますか?」
「あっと橘さん、何か立ち入ったことを聞いてしまったみたいで申し訳ありません」
優奈の様子からあまり聞いて欲しくない事だと察した和人が謝罪した。
「いえ、お気になさらず。あと優奈で結構ですよ」
「でも初対面の方に失礼ですし」
「私も和人さんと呼ばせて頂きますし、それにこの世界の人は下の名前で呼び合いますからお気にせず」
気にすることはないと告げる優奈に、和人は苦笑しつつ優奈さんと呼んだ。
少し抵抗はあるが、それがこの世界の普通なら仕方ないという所だろう。
「そういえば、ラノベの異世界召喚とかだとよくギフトとか言ってスキルを貰ってたりしますが……」
ポンと手を打つ優奈。
「ああ、この世界に来るときにスキルを貰っているはずですよ。
私は『勇気あるもの』というスキルを貰いました。
これは格上の敵と戦い勝利するたびにステータスがブーストされます」
「すごいスキルですね、強い敵を倒せば倒すほど強くなるとか」
「そうですねー、でも一気に戦況をひっくり返せるとかじゃないですからね。
こつこつ強くなっていくみたいな?」
「で、スキルの確認の仕方ですが。自分のスキルを確認したいって念じて下さい」
「念じるんですね、えっと。うーん、日本創造ってやつかな?」
それを聞いてお茶を吹き出しそうになった優奈、日本創造聞いて怖いことを想像したようだ。
日本列島がこの世界にぽーんと出来たらびっくりするどころじゃないよねと呟く。
「ああ、日本で手に入る物を創造出来るみたいですね」
「なかなか面白そうなスキルですね。支払うコストによっては使い勝手が悪そうではありますが。
そうそうあとあまりスキルを使うのはお勧めしません」
「何でですか?」
不思議そうな顔で優奈を見つめる和人。
「スキルを使うのに慣れてしまうと、たぶん日本に戻った時にスキルが使えないことがストレスになると思います。」
「あー、確かにありそうですね。あまり使わないように心がけます」
「せっかくの異世界ですし、少しくらいはいいと思いますよ。使いすぎにだけ注意です」
優奈はそう言うと、手に持っていたカップをテーブルに置き和人を屋敷へ案内するために立ち上がった。
ちび魔王「はっ! ライバルが出現した気がする、行かなきゃ!」
ライム「魔王様逃げちゃダメです!! まだ引継ぎが終わってません!」
ちび魔王「今行かないと手遅れになりそうな気がするんだ、行かせてぇぇぇ!」