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1.バレンタイン

雪菜のサイドストーリーとしてまとめました。


 「ねぇゆなちゃん、この世界ってバレンタインみたいなイベントあるかしら」

 「ああ、地球ではもうそんな季節ですか」

 

 お茶うけに和人が用意したチョコレートを食べていたら思い出したのか、雪菜が質問をしてきた。

 

 「バレンタインはないわよ、私も特に広めなかったし。

 ああでも、お世話になった人に感謝の気持ちを込めてお菓子をプレゼントとかなら広めてもいいかしら」

 

 この街限定ではあるが、雪菜が開発した魔道具のコンロやオーブンがかなり各家庭に浸透しはじめている。

 それも相まって、現在タチバナの街では空前の料理ブームが巻き起こっているのだ。

 コンロとオーブンの説明を兼ねた料理&お菓子教室は申し込みが殺到し大変な人気を誇っている。

 教室に参加しなくてもコンロとオーブンは買えるが、参加するとかなりお安く購入できるのも一因だ。

 これは出来るだけコンロとオーブンを広めたいという雪菜の希望を叶えるために、優奈が頑張った結果だ。

 購入費用の一部を街が負担することに領主代行のロジャーは難色を示したが、

 これらが広まれば料理の質があがり、街の名声もあがると必死に説得したのだ。

 止めは雪菜がオーブンで作ったショートケーキだ、今まで見たこともないふわふわで甘いケーキにロジャーはいたく感心し

 あっという間に料理ギルドを設立、新しいレシピ開発に心血を注いでいる。

 

 数日後、「お世話になってる人や好きな人にお菓子をプレゼントしよう!!」イベントが街で告知され

 急遽増設されたお菓子教室は連日満員、街のお菓子屋も最高売り上げを叩き出した。

 

 さらにある噂が街を駆け抜け、イベントの白熱具合に拍車がかかる。

 

 『ユウナランドのキャンプ場にある妖精の湖で夜お菓子を手渡しながら告白すると成功率があがる』

 

 というものだ。

 イベント期間中妖精の泉は夜ライトアップされ、さらに妖精に夜の間姿を見せてくれるように頼んである。

 そのためとても幻想的になっており、告白するのにとてもいい雰囲気を醸し出しているのだ。

 男性はユウナランドに呼び出されるのを今か今かと待ちかまえ、街中で手渡しされがっくりと落ち込む。

 そんな姿が街のあちこちで見受けられた。

 

 イベントのためにあちこち奔走していた優奈はすっかり自分の事を忘れていたため、

 後日イベントを和人から聞いたライルが「お菓子もらえなかった……」と落ち込んでいるのをライムから聞き

 慌てて雪菜に手伝ってもらいながらケーキを作って持っていくという一幕もあった。

 

 

 

 イベント最終日、雪菜の魔道具工房。

 ロジャーと新しい魔道具開発をしている雪菜は、いつお菓子を渡そうかと思い悩んでいた。

 バレンタインに参加したことがないため渡すタイミングがつかめないのだ。

 作業をしつつちらちらとチョコトルテを入れてある鞄に視線を向ける。

 なんとなくマジックボックスに入れず普通の鞄に入れあるのだ。

 

 そんな雪菜をシャナは笑みを浮かべながら見守っている。

 いつ渡してくれるのかと楽しみに、そして手元が疎かになっている雪菜のフォローをしつつ待ってるのだ。

 

 夕方やっと決心したのか雪菜がシャナにチョコトルテが入った箱を手渡した。

 

 「あ、あのシャナさんいつもお世話になってるお礼にお菓子を作ってきました!

 よかったら食べてください」

 「ありがとうユキナあとで頂くよ。でも次は妖精の泉で貰いたいな」

 

 雪菜の耳元に口を寄せそう囁いたあと、雪菜の頭を撫でてから工房から颯爽と出ていくシャナ。

 シャナが工房から出ていくと顔を真っ赤にさせた雪菜が膝から崩れ落ちていく。

 

 「シャナさん……」

 

 雪菜の大好きランキング一位から優奈が転げ落ちそうだった……。

 

 

 

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