5.スキル上げ
明けましておめでとうございます!
「年の始めの、ためしとて~♪」
嬉しそうに何故か一月一日を口ずさみながら、魔物を倒している優奈。
三階層の攻略が終わった時にファラから連絡があり、ミイナの容体が安定したと聞いたのだ。
四階層は分かれ道があるたびに、その通路を担当を決め別れて行ったために現在優奈、ライル、和人、ブルベル、奏の5人しかいない。
さらに進むとまた分かれ道があったため、今度は優奈が離れて行った。
「じゃぁライル頼んだわよ」
片手を上げ通路に消えていく優奈を見送ると、奏が口を開いた。
「和人さん、ライルさん、ブルベルさん。お願いです、私のスキル上げを手伝ってもらえませんか。
ずっと邪険にしてたお二人にこんなことを頼むのは筋違いだとわかってはいるのですが、優奈の役に立ちたいんです」
三人に向かって頭を下げる奏、「もちろんですよ」と快諾する和人にライルとブルベルも笑って頷いた。
「そういえば、奏さんはどういったスキルをお持ちなんですか」
「スキル名「吟遊詩人」バフとデバフに特化しています。一応攻撃系も使えますが、あまり強くはないですね」
「じゃぁ俺とカズトが近接で攻撃して、カナデにどんどんデバフをかけてもらうか」
「よろしくお願いします」
30分後かなりの数の敵を倒した4人は休憩を取ることにした。
ひたすら楽器を奏でている奏に配慮したのだ、奏はまだ大丈夫だと虚勢を張っていたが休むのも大事だと説得し休憩を取ることになった。
「吟遊詩人と初めてパーティを組んだが、とてつもなく忙しそうだな」
「スキルあげの為に余計に演奏しているのもあるんですけど、味方に経験値アップ、攻撃アップ、防御アップ。
敵に防御ダウンとスロウあと余裕があったらヘイストもかけてます」
「スロウとヘイストというのは?」
「あ、攻撃速度ダウンと攻撃速度アップのことです。使用楽曲の所にスロウとヘイストって載ってるんですよ」
「ほ~、かなりすごいな。吟遊詩人は人気だと聞くがわかる気がする」
「確か取得経験値アップは吟遊詩人の固有スキルだったはずです。なので吟遊詩人はパーティに引っ張りだこらしいですよ」
和人のその言葉にライルとブルベルが奏に尊敬の目を向ける。
「貰い物のスキルなので……」
「優奈さんが言ってましたけど、一度も楽器を触ったことがない人は吟遊詩人のスキルを取ることは出来ないらしいです。
大体一つの楽器を極めた人じゃないと取れないらしいですよ、なので奏さんも日本で何か楽器を習っていたんですよね?」
「琴を13年程習ってました」
「その13年があったからこそだと思います、だから奏さんはもっとそのスキルを持っていること誇っていいと思いますよ」
「13年か凄いな、俺は結構飽きっぽいので13年も習っていたのは素直に称賛出来るな」
過去の自分があったからこそと言ってもらえ、奏は嬉しくて泣きそうになったがぐっと我慢をする。
ライバルにこれ以上弱みを見せたくなかったのだ。でもほんの少しだけ本音が漏れる。
「優奈が和人さんとライルさんに惹かれたのが少しわかった気がします」
ほとんど囁くような声だった為、聞き取れなかった和人とライルは聞きなおしたが奏は立ち上がると笑顔で3人に向き直った。
「さぁ、休憩はもう終わり。どんどん行きましょう!」
その頃優奈は魔物をさくさくと倒していた。
この階層はなぜかゴブリンやオーガなど弱めの敵が多数いた。
それでもLv50越えのゴブリンやオーガは普通の冒険者にとっては脅威以外の何物でもない。
(奏ちゃんと付いて行ってるかしら、二人の事をもうちょっと知ってもらいたくて別行動にしたけどちょっと心配ね)
そんな事を考えながら歩いていると、前からラビィがやってきた。
「ユウナ様この先の魔物はすべて倒しましたわよ」
「私の方もすべて倒してきたわ、あとはそこの道だけね」
優奈とラビィの間にT字路があるのだ、その先の通路を優奈は示す。
「ではご一緒に参りましょう」
ラビィと二人連れだって通路を進む、なぜかこの通路には魔物が一匹もいなかった。
「おかしいわね、他の通路には大量の魔物がいたのに……」
警戒しながら通路を進んでいくと目の前に大きな扉が現れた。
「この先に大物が居そうですわね」
「そのようね、そのために通路に魔物がいなかったのかもしれないわ」
武器に手をかけ扉を開ける優奈とラビィ、扉が開かれ部屋の中があらわになる。
そしてその部屋には巨大なムカデが待ち構えていた。
頭をもたげ大量の足をわさわさと動かしながら威嚇する大ムカデ。
それを見た優奈が悲鳴をあげた。
「いやー!! ムカデいやぁぁぁぁぁ!!」
ムカデが大嫌いな優奈は全身に鳥肌を立たせ、一目散に来た道を逃げ戻っていく。
「ユウナ様お待ちになって!」
優奈が逃げ出したのを見て、ラビィも優奈を追いかけるように逃げ出す。
(ユウナ様恐慌状態に陥ってますわ! でもわたくしもあれと戦うのは嫌ですわ、このまま連れて行ってリィドに押し付けてしまいましょう)
大ムカデを引き連れながら通路をひた走る優奈とラビィ。
優奈の悲鳴を聞いたのか通路の向こうから和人達とリィド、そしてアリアとライムが走って来た。
和人とライルの顔を見つけてぱぁぁと顔を綻ばせる優奈。そしてそのまま何故か奏に抱き着いた。
優奈を受け止めようと手を伸ばしていたライルがばつの悪そうな顔をする。
奏に抱き着いてふるふると震える優奈を優しく奏が抱きしめる。
「まったく優奈は本当にムカデが大嫌いね……、でもさすがに私もアレは嫌だわ」
通路の向こうから全長3mはあろうかという大ムカデが迫ってきていた。
優奈に追いついたラビィはリィドを見つけるとバトンタッチする。
「リィド任せましたわよ!」
「おう、任されたぜ!」
200年前から足が一杯ある魔物がでるとリィドとライルの二人で倒していたのだ。
もちろんその間女性陣は魔物が視界に入らないところへ避難している。
「ライル様いきますぜ」
ライルとリィドの二人が通路を駆ける。
ライルが飛び上がりそのままムカデの顔を斬り飛ばす、リィドは大ムカデの足を器用に避けながら胴体を一撃で薙ぎ払った。
顔と胴体を斬られてももぞもぞと動くムカデに、和人の魔法が追い打ちをかける。
炎に焼かれのたうちまわる大ムカデ、炎が消えると大ムカデが淡い光に包まれ消え失せる。
残ったドロップアイテムを回収しながらライルとリィドが戻って来た。
「カズト助かった」
「焼かなきゃダメかなと思ったので追い打ちをかけたのですが、合ってたようでよかったです」
そして奏に抱き着いていた優奈が恐る恐るという感じで声をかけてくる。
「奏もうムカデいない?」
「いないわよ、ライルさん達が倒してくれたわよ」
ほっと息をつき奏から離れる優奈、もう大ムカデはいないのだがなぜかそちらを頑なに見ようとしない。
そしてそのまま和人達が来た方向に歩いていく。
「何してるの、早く行くわよ!」
立ち止まり声をかける優奈に、一同どっと笑いだす。
「何笑ってるのよ」
ふてくされた声で再度声をかける優奈の頭をライルがリィドがぽんぽんと頭を叩いて追い抜いていった。
実は優奈が歌っている歌は、最初クリスマスソングでした。
投稿が一月一日になると気づいて慌てて、一月一日に変更しました。
気が付いてよかったですorz
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