35.トレントの実
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95階層まで特に問題なく進む一行、95階への階段途中で優奈が立ち止まった。
「優奈さんどうしたんですか」
階段の先を見つめていた優奈がぽんと手を打つ。
「今思い出したのだけど、95階層は確か美味しいのよ!」
「そういえばアレは95階か!!」
興奮して声を荒げるライルに和人とブルベルの二人が驚く。
「アレって何かしら」
「95階層の敵はトレントなんだが、こいつの実がすごい美味いんだよ」
「あれにはびっくりしたわよね、ちょっと時間かけてもいいので多めに回収したいわ!
前みたいに実を傷つけないように気を配る必要もないしね」
「そうか、ドロップアイテムに変更されたから気兼ねなく魔法も使えるな」
うんうんと頷く優奈とライルにそんなに美味しいのかと和人とブルベルも興味津々だ。
「どうしようかしら、和人さんとライルは戦力にならないのでドロップアイテム拾ってもらっていいかしら」
「戦力外なのは優奈さんが爆走した結果だと思うんですが」
「ま、まぁいいじゃないの! 二人にはまたあとでレベルあげしてもらうからネ!」
思案顔だったライルがそこに声をはさむ。
「悪いと思っているのなら、一日ユウナとデートで手を打とうじゃないか」
その提案をブルベルが何言ってるのかしらという顔で打ち砕く。
「ユキナとカナデが二人きりにさせると思っているの?」
「95階層は長く狩りをする予定なんだろ?
だったらセーフティルームもあるしカズトと一日ずつ交代でユウナと二人きりで狩りとかどうだ」
「そんなので良ければ私は構わないわよ」
そうして和人とライルのデートが決定した。
95階層に降り立つとそこは広大な森が広がっていた、途中には小川があり魚も泳いでいる。
「もしかしてこれ全部トレントだったりします?」
「まれに普通の木もあるわよ、とりあえずセーフティルームまで行きましょうか」
そして何の前触れもなく広範囲雷魔法を撃ちだす優奈。
あっという間に目に見える範囲のトレントを殲滅してしまった。
「トレントは雷に弱いから、魔法が使えるなら楽でいいわね!」
「ユウナお前な、範囲魔法使うなら一言言ってくれ」
優奈に小言をいいつつもドロップアイテムを拾いに歩き出すライル。
セーフティルームにつくと拾ったばかりの実を取り出し全員に手渡す。
「皮は簡単に剥けるからそのままかぶりつくといいぞ」
見た目は桃みたいな淡いピンク色の丸い果実だ。
先がすこし尖っておりそこを引っ張ると簡単に皮が剥ける。
皮を剥くと白い果実が姿を現す。
「あらいい匂いね」
匂いも桃によく似ており皮を剥くといい匂いが部屋に広がった。
そのまま白い実にかぷりとかぶりつくブルベル、澄んだ甘さの果汁が口の中一杯に広がる。
「これ、世界樹の実を思い出す美味しさですね」
「気づいた? これたぶん劣化世界樹の実よ」
「ということは怪我とか治ったりするんですか」
「疲労回復もするわよ、というか怪我はおまけね。
そこまでひどいのは治せないし、かなりつらい疲労もこれ食べるとすっきり回復するわ」
「初心者講習の時に欲しかったわねこれ……」
ブルベルの言葉にぶっと噴き出す優奈、和人も「これがあれば……」と呟いている。
「中級者講習の時は持って行っていいから」
「「本当に!!」」
和人とブルベルの声がはもる、よほど講習が辛かったようだ。
そして二人の中級者講習参加が決定した、初心者講習よりさらにひどい目にあうのだがそれはまた別の話だ。
その日の夜、優奈とブルベルが寝静まったのを確認してから和人とライルがこそこそと話し合っていた。
「ライルさん何か急いでいます?」
「おう、もう少し時間をかける予定だったんだがユキナはともかくカナデがまずいと思ってな」
「あー、確かに」
「二人きりになれるチャンスがかなり減るだろうからな、俺も頑張るからカズトも頑張れよ」
「了解です」
二人の男の想いを乗せてダンジョンの夜は更けていく。
明日は甘々デートです。




