15.女神の慈愛
あらすじを変更しました。
7,8話以外全部三人称に書き直しました。
世界観について少し書き足したりしましたが、
ほんの少しなので特に読み直しなどしなくても大丈夫だと思います。
次の日の早朝冒険者ギルドの医務室に優奈達の姿あった。
倒れてしまった和人が心配で朝食もそこそこに屋敷を出たのだ。
医務室に入ると奥の部屋に通される、ベッドと簡単な棚とテーブルと椅子があるだけの質素な部屋に和人は寝かされていた。
昨日とかわらない和人の様子に優奈が医者に説明を求めた。
「見た目的には一気にレベルを上げたことによる体への負担で熱が出ているように見えるのですが、それならすでに症状は緩和されてなければおかしいのです」
「何かの病気とかはないですか?」
優奈の質問に医者が頷き一冊の本をテーブルの上に広げた。
全員がテーブルの上の本をのぞき込む、その本は吸血鬼の事を書いてあるようだ。
「これは過去に一度だけ起きたことなのですが、吸血鬼の魔力を受けて祝福を受けてない異世界人が吸血鬼化してしまったのです」
「祝福を受けていない異世界人……」
「異世界人と聞いてこの事例を思い出したのです、ユウナ様カズトさんは祝福を受けていますか?」
「受けてないわ……」
愕然とした顔で優奈が告げる。
ライルがそっとカズトに近づき口の中を確かめる、確かに和人の犬歯が変化を始めていた。
「魔力耐性ね、ユウナの世界の人々は魔力に耐性がないのよ。この世界には魔力が溢れているので耐性がない人は様々な症状を引き起こすわ。
それを祝福を授けることによって防ぐのよ。女神の祝福を受ければ魔力耐性がこの世界の一般人より高くなるわ、もちろんある程度の病気も防ぐわね」
「普通に発している魔力では変化は起きません、高レベルの吸血鬼でもなければ無理です。
調べたのですが現在ダンジョンに潜っている黄金の小麦という金ランクパーティに吸血鬼がいるようです」
「確かに黄金の小麦がダンジョンに潜っているとギルドマスターが言っていたわ」
「これは推測なのですが、ダンジョンで吸血鬼が全力で戦いその階層に魔力が充満してしまったのではないでしょうか。
そこにユウナ様達のパーティが現れ長時間その階層にいたことによりカズトさんが吸血鬼化してしまったのではないかと」
そして本のページを捲りここを見てくださいと告げる医者。
そこには吸血鬼化してしまった異世界人の末路が書いてあった……。
「死んでしまったの……?」
「吸血による正規の方法での吸血鬼化ではないので、吸った血から精気を取り込めず衰弱して亡くなってしまったようです」
「治す方法はないの!!」
医者に詰め寄る優奈、そんな優奈を後ろからそっとブルベルが抱きしめる。
そしてゆっくりと言い聞かせるように優奈に語る。
「ユウナ落ち着いて聞きなさい、万病に効く世界樹の実なら治すことが出来るわ。
ただし以前聞いた話では現在何かの原因で世界樹は実を付けることが出来ないと聞いたわ。
世界樹は守護者の管轄よ、ガイアが手を打っていれば実を付けているけどあの様子ではたぶん何もしてないわね」
「原因を取り除いてから実を付けるまでの日数はどれくらいかかるの」
「わずか一日よ」
無意識のうちに自分を抱きしめているブルベルの腕を握りしめながら、優奈は考えをまとめる。
「前に世界樹まで行ったことがあるから移動に時間はかからないわ。
問題は原因を取り除くのにどれくらいかかるかね……」
「カズトの吸血鬼化までどれくらい猶予があるんだ」
医者ではなくブルベルに尋ねるライル。
質問を受け和人を視るブルベル、しばらく悩んだ後結果を告げた。
「そうね、このままだと吸血鬼化完了まで2.3日かしら」
「そんなに短いの!! 間に合わないわ!!」
ブルベルの腕を振りほどいた優奈は、ブルベルの肩を掴み叫ぶ。
優奈の叫びを受けブルベルは一つの決断を下した。
「ユウナ前にレイファール様より頂いたスキルを覚えてる?」
「女神の慈愛よね……、はっ!あれなら治せるの?」
「いいえ、あれは怪我や病を治す女神の力なのよ。
治せないけど発熱や体力を戻すことは出来るわ、体力が戻れば吸血鬼化を遅らせることは出来ると思うわ」
「じゃぁすぐに!!」
そう言って和人に駆け寄ろうとする優奈をブルベルが止める。
「だめよ、女神の力だと言ったでしょ。神力を使うのよ、大地などに使うなら問題はないけど人間に使うならレイファール様の許可がいるの。
今から私が神界に戻って許可を取ってくるからそれまで待ってなさい」
(その必要はありません、今許可をだしましょう。カズトさんが祝福を受けてないのはこちらの落ち度です、今回に限り許可致します)
優奈・ライル・ブルベルの3人の頭に中にレイファールの声が響いた。
「ありがとうございます!!」
レイファールに礼を言うと和人に駆け寄る優奈、医者が何事?って顔をしているが構っている暇はない。
和人の手を取り優奈がスキルを発動する。
「女神ユウナの名において、今この者に癒しを与える」
優奈が光に包まれる、神々しくそして慈愛に満ちたその姿はまさく女神。
あまりの神々しさに医者が膝を付き手を合わせ祈りを捧げる。
優奈を包んでいた光が和人に移動していく、そして和人を包んだ光が消えた。
和人の様子を確認すると、熱がさがり呼吸も楽になっている。
ほっと安堵する優奈、無事に和人を癒せたようだ。
「一週間、タイムリミットは一週間よ。それまでに世界樹の実を手に入れて戻ってこなければならないわ」
「すぐ世界樹の所へ行きましょう、申し訳ないけど和人さんをお願いします。容体が変化したらギルドマスターへ連絡して下さい。そこから私に連絡できますから」
「わかりました! 私が責任をもってお預かりさせて頂きます」
医者に礼をいい3人は医務室を出る。
その後ギルドマスターへ簡単に事情を説明すると、世界樹に転移を開始した。




