13. 初めてのボス戦
20階層の草原エリアを抜けると細い通路があり、通路の先には清水の湧き出る小部屋がある。
この大迷宮で貴重な水が汲めるセーフティルームである、この部屋には魔物が沸かないため一息つける憩いの場だ。
このセーフティルームで優奈達は遅めの昼食を取っていた。
「ユウナおかわり!」
「私はもうお腹いっぱい、でもこれ美味しいわね。今度神界に戻るときに持って行こうかしら」
優奈は手渡された紙皿にご飯とカレールーをよそっていく。
セーフティルームの真ん中にドンッと置かれたおひつとカレー鍋、アイテムボックス持ちだからこそ出来るダンジョン内での贅沢だ。
ちなみにこのご飯とカレールーは以前試作した時に多めに作ったやつだ。
「ふう、私もお腹一杯。ダンジョンで食べるカレーもなかなか味があっていいわね」
「そうですね、でも匂いが凄いので他の冒険者がいる時に食べると迷惑ですよね」
「あーそうね、食べるなら分けてあげないとさすがに可哀想かしら」
優奈と和人がしゃべっていると、紙皿を燃やし後片付けをしていたライルが話に混ざってきた。
汚れたお皿をアイテムボックスに入れるのは嫌だが、ダンジョン内で洗い物をしたくない優奈が用意したものだ。
「さっき食べたカレーだったか? これはこの世界で再現できないのか」
「今うちの料理長に再現をお願いしてるから、そのうち出来るとは思うんだけど……」
「問題は固形に出来るかですよね、固形状にできれば冒険者に売れそうな気がするんですけど」
「固形より粉末状のがいいんじゃないかしら? 持ち運びやすいしいろいろな料理のアクセントになるわ」
しばらく料理談議に花を咲かせる優奈達、意外とライルが料理に詳しくその知識で和人とブルベルを驚かせていた。
アイテムボックスを手に入れる人が増えてくるのだから、ダンジョン内で手軽に食べられる暖かい料理キットや料理本などいろいろなアイデアが出てくる。
ひとしきり喋った後ボスに挑戦するため後片付けを始めた。
「ゴミよーし、装備よーし。それじゃボスに突撃っ!」
「「「おー!」」」
左手に盾を持ちボス部屋の扉を優奈が開けた瞬間ライルが飛び出し、ボスの顔に盾を叩き付ける!
続いて優奈も走り出しボスの横っ面に盾を叩き付ける、全力で叩き付けると倒してしまうので軽めに叩いている。
20階層のボスは『キング・ゼルトザームリント』ゼルトザームリントより一回り大きく、HPが減ってくると体に生えているキノコから毒の胞子を飛ばしてくる。
ボス部屋の扉を開けて部屋に入った瞬間に突進してくるため、避けるか止めるかしないといけない。
無事にキング・ゼルトザームリントの突進を阻止できた二人は、部屋の奥に向かってすぐさま移動する。
怒り狂ったキング・ゼルトザームリントがライルに向かって突進をするが、それひょいひょいと避けていく。
和人とブルベルの魔法準備が整ったのを確認すると突進後の硬直中に盾を顔に叩き付けてキング・ゼルトザームリントの動きを止める二人。
軽い脳震盪を起こし動きが止まったキング・ゼルトザームリントに和人とブルベルが手のひらに貯めた光魔法を解放する。
「「セラフィック・レイ!」」
直後キング・ゼルトザームリントのお尻から頭に向かって黄色い光線が横殴りの雨にように無数に貫いていく!
体を光線に貫かれた巨体がドォォォンと地響きをたてながら地面に倒れた。
巨体が大迷宮に吸収されると、角と皮と肉がドロップする。
「タイミングばっちりだったわよ! お疲れ様!」
ボス初討伐に喜ぶ和人とブルベル。
興奮冷めやらぬ感じで先程の戦闘について話していると、部屋の中央に宝箱が現れた。
優奈が宝箱に近づき箱の中身を確認する。
箱の中から指輪を取り出し鑑定をする優奈、鑑定結果が出た瞬間爆笑する。
「なにこれ、あははははは!! ひーひーお腹痛い」
お腹を抱えひたすら笑う優奈、そして和人に指輪を放り投げる。
「そ、それ鑑定してみて」
息も絶え絶えという感じで和人に伝える優奈。
受け取った指輪を鑑定し、効果を確認した和人も爆笑した!
「あはははは!! またこれですか! しかも効果がすごいことになってる!」
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魔法少女の指輪
魔法少女に5分間変身できる、変身中は魔法威力2倍
変身呪文:コンパクトフルオープン
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鑑定結果をみたブルベルは黒歴史を思い出したのか、顔がひきつっている。
ライルは指輪を持ち呆れた声で一言。
「創造神は暇なのか? どんな顔してコンパクトフルオープンとか変身呪文を考えたんだろうな」
ライルが変身呪文を唱えた瞬間指輪が光りライルの指に強制的に嵌まる。
そしてライルが光に包まれ変身が始まる。
右の指先から変身が始まり徐々に姿形が変わっていくライル。
右手と左手に白い手袋が嵌まり、胸からお尻へ薄い衣装に変わっていく、
最後にふりっふりのスカートが出来上がりウインクしながら右手を顔横に持ってきてポーズを作る。
先端が星形になった魔法スティックを持った、魔法少女ライルの完成である。
見た目も目の大きな可愛い少女になっている。
光が収まり中から魔法少女ライルが出てくると3人の笑いが止まり、え、誰?という顔になる。
きょろきょろと周りを見るライル、自分の服と手に持っているスティックを見てフリーズする。
(魔法少女ライルちゃん誕生です☆キラッ)
レイファールの声が響き、一瞬の沈黙のあと優奈が大爆笑した。
「あははは、ライル可愛い!! やめて笑い死んじゃう!!」
「ぶ、ライルさん可愛い」
「く……、笑っちゃだめだとわかっているんだけど……」
ぷるぷると肩を震わせて和人とブルベルが笑いをこらえている。
優奈はもう床をバンバンと叩きながら笑い転げている、息が出来ず苦しそうだ。
フリーズがとけたライルが、なぜか目の前に置かれた姿見を見て絶叫する!
「なんじゃこりゃぁぁぁ!!」
その日可愛い声の少女の叫びが20階層にいつまでも木霊していたという。
10階層のボスは優奈がさくっと倒してるので、和人とブルベルの初ボス戦闘になります。
魔法少女ライルちゃんはリクエストがあったので書いてみました。
ノリで作ったこの指輪どうしよう……?