エニウェトク環礁沖海戦4
同日戦艦扶桑昼戦艦橋
「紀伊、轟沈!」
「な、なんだとっ⁈」
「バカな、紀伊が一発で轟沈だと⁈」
騒ぐ参謀達を山本長官が叱責する。
「静まれっ!今、騒いだところで紀伊が戻ってくるわけではない。ならば、目の前の敵の撃滅するほかないではないのか?」
しかし、参謀長の宇垣纏少将が紀伊沈没に伴う最大の問題点を指摘する。
「しかし、ただでさえ16対12と劣勢だったものが、さらに不利な状態に陥ってしまったのですぞ」
「何の為の46センチ砲なのかね?六六艦隊が編成されたのは何故だったかね?」
「戦艦数の劣勢を質によって覆すためであります」
「それならば、多少の数の違いなど覆せるではないか。戦艦とは何だ、戦船ではないのか?戦船ならば最後まで戦い抜くものではないのかね?」
「そうであります」
「ならば、今しなければならないことは一つだけであろう。敵の撃滅、それに勤しもうではないか」
「はっ!」
「よし、Z旗を掲げろ。同時に全艦あてに打電。『皇国ノ隆替懸リテコノ一挙ニ存ス、各員天佑ヲ確信シ、奮戦敢闘全敵ヲ必滅セヨ』」
それに合わせたかのように扶桑の主砲が火を噴く。
敵艦への弾着まで50秒。
戦場の女神が、再び帝国海軍に微笑むか否かはまだわからない。
同日戦艦山城射撃指揮所
「司令部より全艦あて、『皇国ノ隆替懸リテコノ一挙ニ存ス、各員天佑ヲ確信シ、奮戦敢闘全敵ヲ必滅セヨ』以上であります」
「扶桑のマストにZ旗!」
「やるしかない。か」
「次発装填完了!」
「撃て!」
この日3度目の斉射を放つ。
9発の46センチ砲弾が、敵戦艦の装甲を破るべく25,000mを飛翔する。
「だんちゃーく!」
敵艦の後部から噴き出した火柱は、前部の火柱よりも大きかった。
「どうだ?」
「観測機より受信。『命中二、近弾二、遠弾五。敵艦の後部に火災発生するも、損害を確認することは困難』」
「そうか」
轟沈を期待したが、どうやら急所は外れていたようだった。
敵弾の飛翔音が近付く。
またしても爆発音が聞こえるが、その音から損害を計り知ることは困難である。
「被害報告!先程の敵弾の直撃により、左舷一番及び二番高角砲損傷!」
「了解」
最初の直撃弾では損害が皆無だった山城にも、とうとう損害が生じたのだ。
「次発装填完了!」
「撃て!」
そこに、意外な報告が飛び込む。
「敵艦の発砲炎、六しか認められません!」
「何?まさか...」
そこから導き出されることは一つしかない。
先の直撃弾が敵艦の後部の主砲二基を発砲不能に追い込んだのである。
そして...
聞こえてきた風切り音は、今までより小さかった。
そして山城に直撃弾が生じることはなかった。
敵弾は、すべて山城より離れた海面を叩いて終わったのである。
「敵弾の弾着は6発です!」
「やったか!」
誰が見ても見当違いの海面に着弾したことから、山城の直撃弾による損害が、敵艦の砲撃に何らかの支障をきたしていることは間違いない。
「だんちゃーく!」
敵艦の中央部に火焔が噴き出し、高角砲が吹き飛び、黒い鉄塊が海に落ちる。
敵艦の速力がみるみるうちに落ちてゆく。
「観測機より受信。『命中三、近弾三、遠弾三。敵戦艦は、航行不能に陥った模様』」
「よし!」
山城は4度の斉射によって敵戦艦に重大な損害を与え、ついに航行不能にしたのである。
そこに、阿部艦長から電話が入る。
「艦橋より砲術、司令部から指示が来た。一旦、戦列を離脱し長門の援護に回れと言ってきた。」
「長門、ですか?」
「そうだ。どうやら陸奥とともに、数隻の敵戦艦からつるべ打ちを喰らっているらしい」
「しかし、長門といえば我が艦隊の最後尾にあたります。敵艦隊との砲戦中にそこまで移動する事は困難かと」
「だが、本艦がこの場所にいて他艦を援護したところで何の意味がある?」
「それは...」
「ならば、窮地に陥っている艦を助けるべきではないのかね」
「...了解しました。失礼します」
案の定、射撃指揮所内から反発が起きたものの、高橋はそれを説得し、訓示を行った。
「本艦はこれより、長門及び陸奥の援護に向かう。諸君らの訓練の成果を存分に発揮し、紀伊の仇を討とうではないか!諸君らの奮戦敢闘を期待する!」
我ながら芝居がかった訓示だと思いつつも、自然と熱が入る。
山城の最大速力ならば、艦隊最後尾まで約12分であった。
*
同日巡洋戦艦レキシントン昼戦艦橋
「ジャップめ、我が国に楯突いた代償を払わせてやる。インディアナを落伍沈めたからといって、調子に乗ると痛い目にあうと見せつけてやる」
レキシントン級巡洋戦艦3隻を束ねる、第一巡洋艦戦隊司令官フレッチャー少将が悔しそうに呟いた。
彼らにとって、帝国海軍は東洋の三流海軍であり、彼らの造った戦艦が、世界に冠たるアメリカ海軍の戦艦を沈めることなどありえなかった。
しかし、防御力、攻撃力ともにアメリカ海軍最強であったサウスダコタ級戦艦が、4度の斉射であっけなく沈んだ。
それは、この目で見ても信じられないことだった。
「我が方は敵戦艦1を撃沈し、後方のナガトタイプと見られる敵戦艦2隻を窮地に追いやりつつあります。所詮、ロシアを降したのは偶然です。ジャップに我々が勝利することは確実でしょう。これでも逃げ出さないのは驚異的ですな」
参謀長のグレン・デイビス大佐が、この時期のアメリカ海軍将兵の大半が持つであろう、東洋人への偏見を丸出しにした発言をする。
「確かにな。だが、同じ勝利でも圧勝と辛勝は違う。我がアメリカ海軍に大統領が求めているのは圧倒的な勝利なのだ。その為にも、これくらいの損害で撤退されては困る。少なくとも敵艦隊の半数は沈めたいな」
「なるほど、ジャップが粘れば粘るほど我々の勝利が確実なものとなるのですね」
「その通りだ」
突如、勝利を確信していた彼らの顔が凍りつく。
敵弾の被弾とは明らかに違う衝撃が艦橋の後方から襲ってきたのだ。
「な、なんだ?」
「被雷?」
「しかし、どこから?」
敵駆逐艦の接近は報告されておらず、味方の駆逐艦が全て抑えていたはずである。
それなのに何故、敵の魚雷が...
「艦長!機関停止だ、急げ!」
「はっ!機関停止!」
少し前のめりになりながらレキシントンが停止する。
「見張り員、敵駆逐艦及び敵潜水艦は確認できたか?」
「確認出来ませんでした」
「ばかな、ならばどこから魚雷が来たと言うのだ」
「雷跡も確認出来なかったのか」
「はい」
そこに新たな一報が飛び込む。
「サウスダコタ、モンタナ被雷!」
その報告を聞いた瞬間、フレッチャーの思考回路は完全に寸断された。
デイビス参謀長にしても惚けた表情を浮かべたまま固まっていた。
サウスダコタは、太平洋艦隊の旗艦であり沈むような事態だけは、絶対に避けなければならない艦である。
だが、その恐れていた事態がモンタナの被雷というオマケまでついて起こった。
彼らが固まるのも無理はなかった。
そして、彼らは知る由もないーー
現在、世界最強の雷撃力を持つ帝国海軍の敷波型駆逐艦8隻が、米戦艦部隊に雷撃を見舞うべく肉薄攻撃を試み、米第2巡洋艦戦隊の『タスカルーサ』『サンフランシスコ』『クインシー』に撃退されたこと。
そして彼女達3隻は、後に米海軍将兵から『ロングランス』や『蒼白い殺人者』などと呼ばれることになる酸素魚雷が、その潜在能力を遺憾なく発揮して仕留めた獲物だということを。