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エニウェトク環礁沖海戦3

1941年12月9日エニウェトク環礁沖


第八駆逐隊の敷波が轟沈したのと同じ頃、米海軍の威信をかけたダニエルズ・プランと帝国海軍の建艦技術の粋を極めた六六艦隊計画が激突しようとしていた。


米艦隊の砲撃で始まった戦いは、距離25,000mでの同航戦に持ち込まれた。


距離30,000mからの遠距離射撃で直撃弾を得た米艦隊も、再度の測的を余儀なくされ、双方とも砲員の技倆がものを言う状況になっていた。


そして、六六艦隊計画艦12隻にとって実戦で初となる砲撃を実施した。


未だ試射の段階のため、各艦4門乃至3門での砲撃だったが、12隻の戦艦が一斉に主砲を撃つ姿はまさに圧巻だった。


同日戦艦山城射撃指揮所


前部と後部の主砲が各2門が火を吹き1.5tを超える巨弾が撃ち出される。


それとともに、発射の衝撃が艦を貫く。


「だんちゃーく!」


の報告が射撃指揮所に届くが、目標の敵戦艦の艦上に火焔が迸ることはない。


25,000mを飛翔した巨弾は、敵戦艦の周囲の海面を奔騰させて終わる。


そして、上空から敵弾の飛翔音が聞こえ、艦の後方に弾着の水柱を上げる。


「誤差修正、急げ!」


何としても敵戦艦より先に直撃弾を得てやる。


その思いを込めて命令を下す。


「旋回角修正よし!」

「仰角修正よし!」

「撃て!」


山城は、この日2度目となる射弾を放つ。


3門の主砲が巨弾を叩き出し、その衝撃が68,000tの鋼鉄の巨体を震わせる。


「だんちゃーく!」

「観測機より受信。『近弾三』」


またしても、山城の砲弾は敵艦より手前の海面を奔騰させただけに終わった。


「砲術、まだ当たらんのか?」


艦長の、焦りと苛立ちの入り混じった言葉が送られてくる。


「次こそ直撃させます」


と、返答する。


再び、頭上から飛翔音が聞こえる。


だが、敵艦の2度目の射撃も、先程より近くなったものの山城から離れた場所に落下する。


「誤差修正、頼むぞ」

「旋回角修正よし!」

「仰角修正よし!」

「撃て!」


各砲塔の一番砲が火焔を吹き出し、強装薬の炸裂に伴った轟音が艦全体を震わせる。


数十秒後、見張員が


「だんちゃーく!」


の声を上げる。


今度もだめか...そう諦めかけた時、敵艦の艦上に砲弾の直撃による火柱が上がる。


「観測機より受信。『命中一、近弾一、遠弾一』」

「やった!」


高橋は嬉しさのあまり、子供じみた声をあげ拳を振り上げた。


「砲術より艦橋、次より斉射に移行します」

「了解!」


山城は、他の六六艦隊計画艦11隻に先駆けて敵艦に直撃弾を得た。


この調子で、いち早く敵艦を行動不能に陥れてやる。


血湧き肉躍る瞬間に、否が応でも射撃指揮所内の士気が高まっていく。


「全砲門、再装填完了。主砲射撃用意よし!」

「撃ち方始め!」


主砲が火を噴いた瞬間、今までの交互撃ち方とは比べ物にならない巨大な砲声が艦全体に響き渡り、「濡れ雑巾」と形容される衝撃が身体を貫く。


「次発装填急げ!」


距離25,000mならば、斉射弾が敵艦に到達するまで約50秒。


それまでに山城は再度、斉射を行えるはずだ。


そう考えていると、頭上から風切り音が聞こえてくる。


しかし、頭上から聞こえてきた敵弾の飛翔音は先程のよりも大きい。


山城の後方に上がった水柱は、先程までの4本ではなく、それより多い12本だった。


敵艦は、未だ夾叉弾を得ていないにもかかわらず、斉射に踏み切ったのである。


そして帝国海軍も、いつまでも無事というわけにはいかなかった。


「次発装填完了!」

「撃て!」


再び艦全体から満遍なく火焔が噴き出し、巨弾が叩き出される。


そして、その轟音がまだ収まり切らない内に、山城の後方から主砲射撃とはまた別の轟音が聞こえてきた。


「駿河、近江被弾!」

「播磨、夾叉されました!」

「敵弾、来ます!」


今までのなかで一際大きな飛翔音が聞こえ、飛来した敵弾が目の前の第一砲塔に吸い込まれるように消えた。


そう思った瞬間、眼前が巨大な火焔で朱に染まる。


「とうとう喰らったか...」

「何としても先に敵艦を行動不能にせねばならんな」


それに合わせたように見張り員からの報告が届く。


「だんちゃーく!」

「命中三、近弾二、遠弾四」


第一斉射で敵艦に3発の直撃弾を得たことは、砲員の努力の結晶であろう。


「この調子で一気に押し切るぞ」

「応!」


だが、戦場の女神は気まぐれだった。


米艦隊との同航戦に持ち込み、いち早く直撃弾を得たことで優勢になったかに見えた帝国海軍だったが、敵戦艦五番艦アイオワの放った一弾がその戦局を覆すことになる。


先頭から五番目を突き進んでいた駿河型戦艦の三番艦は、突如投げ込まれた一撃によって僅か5年の生涯を閉じた。


被弾時の音とは比べ物にならない轟音があたりの海面一帯に響き渡り、後からやってきた衝撃波が強靭な艦体を震わせる。


「何が起こった?」

「き、紀伊、轟沈しました」

「くそっ!」


戦場では何が起こるかは全く予想がつかない、それを身を以って知らされた。


だが、それを知るにはあまりに高い代償だったかも知れないが。


そして、戦いはまだ続く。


さらに多くの鋼鉄と血を流しながら。














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