第二次マレー半島沖海戦2
1942年2月28日マレー半島沖南遣艦隊司令部
「敵艦発砲!目標は本艦らしい!」
敵戦艦の主砲弾を喰らい轟沈した伊勢の姿が井上の脳内をよぎる。
しかし、着弾した敵弾は見当はずれではないものの、離れた海域に落下する。
その時、吊光弾に照らされる敵戦艦の全甲板で爆発が起きた。
「敵艦、夾叉!」
「次より斉射。弾種は、三式弾だ」
「三式弾...ですか?」
砲術長が何を考えているんだと言わんばかりに聞き返す。
「そうだ。敵艦を暗闇の中で照らし出してやれ」
「...なるほど。了解しました」
「次発装填完了!」
「撃て!」
*
同日マレー半島沖東洋艦隊司令部
「くっ!まだか、まだ当たらんのか」
「次こそ当てます!」
「頼むぞ」
「ファイア!」
「やはり、ジャップの奴らは夜間砲戦の腕が良いようだな」
「はい。まるでレーダーを持っているかのように正確ですからな」
現在、東洋艦隊は敵の一方的な砲撃を受けていた。
敵は、2番艦以外が直撃弾を得ているのに対し、東洋艦隊はレーダーを使用しているにもかかわらず敵に直撃を与えることができていなかった。
そして遂に———
「命中!命中!敵戦艦の後部にて火災発生!」
「敵艦発砲!されど後部は沈黙した模様!」
「よし!続けて撃て!」
そして、この日初めてインヴィンシブルは斉射を行った。
衝撃が艦を揺るがし、9発の16インチ砲弾が敵艦を破壊すべく飛翔する。
後方からも轟音が響いてくる。
「ロドニー、斉射に移行しました!」
「これで勝てるぞ、一気に押し切れ!」
「参謀長、そう熱くなるな」
「申し訳ありません」
敵2番艦の艦上にも爆炎が踊り、何かの部品が宙に吹き飛ばされる。
こうして第二次マレー半島沖海戦は、戦局が傾き始めたのである。
数に劣るものの、より強力な砲を搭載し、レーダーというこの時代の最先端兵器を使用する側に。
そう、英東洋艦隊が戦いの主導権を握ったのである。
*
「右舷中央に被弾!第二、第三管室に浸水!」
「右舷第二高角砲、応答なし!」
各所から悲痛な報告があげられてくる。
それはあたかも艦がの悲鳴のようであった。
そして、さらに嫌な報告が榛名の夜戦艦橋に届けられた。
「第3水雷戦隊より入電!『敵駆逐艦数隻、貴隊ヘ向カウ。注意サレタシ』以上です」
「見張り員より報告!左舷50度、敵駆逐艦6隻。約30ノットで突入してきます!」
「左舷高角砲、目標敵駆逐艦。打ち方始め!」
左舷に多数配置された高角砲と機銃が轟然と火を噴き、敵駆逐艦に鉄の雨を降らせる。
先頭を進んでいる敵駆逐艦の艦橋に、甲板に銃弾が降り注ぎ、艦橋を一瞬でただの鉄屑に変える。
それでも敵駆逐艦は突撃してくる。
その敢闘精神は大したものだが、そこまでだった。
魚雷発射管を直撃した高角砲弾が搭載する魚雷の誘爆を巻き起こし、戦艦を攻撃するための自身の兵器によって轟沈という憂き目を見たのである。
それでも半数の3隻が砲煙弾雨の中を突破し、第5戦隊に肉薄してきた。
「敵駆逐艦、魚雷発射!」
「面舵一杯、急げ!」
「おもぉーかぁーじ!いっぱい!」
「雷跡、距離三五...三〇...二五...」
「全て、回避しました!」
艦橋に安堵のため息がもれる。
だが、後方から響いてきた爆発音が彼らを現実に引き戻した。
「日向、被雷!」
「日向より信号。『我、被雷。サレド戦闘航行ニ支障ナシ』」
再び安堵の雰囲気が漂うが、さらなる凶報が南遣艦隊司令部を待ち受けていた。
「霧島より信号。『我、被弾多数ニヨリ戦闘オヨビ通信不能。戦闘航行可能ナレド最高速力二ノット低下セリ』」
「井上中将。このままだと南遣艦隊は壊滅しますぞ」
「まだか、松田少将。今どこにいるんだ」
松田少将とは戦艦瑞穂艦長のことである。
彼は、この海戦が終わり次第、六六艦隊の各艦の修理完了をもって、第1戦隊司令官に任命される予定であった。
その為、一足先に階級が少将となっていたのである。
そして———
「敵戦艦に砲撃!これは...瑞穂です!瑞穂の砲撃です!」
「戦艦瑞穂より入電!『我、瑞穂。オクレテスマヌ』以上です!」